小説・震災後 (小学館文庫 ふ 18-1)

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  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (301ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094087048

感想・レビュー・書評

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  • 小説という場で自分の言いたいことを言っているので最後のほうはひたすら聞いているだけになるが、その主張の中で「未来と将来は違う。未来を考えるべき」というのには共感。世の中は成熟しきっていて、この15年ぐらいの激しい進歩は一般人レベルでは想像することができなくなってしまっているため、現状の負の面ばかりに焦点を当てげんなりさせることしか大人はしていない。プラスの面はなにひとつなく、高齢化や原発などシビアな局面をどうやって乗り切っていくか、ということしか語られない。そんなことばかりを聞かされながら大人になっていく今の子ども達はこの先をどうやって生きていくのだろうか。
    震災がきっかけではあるが、今まで考えたこともかいような、そんなことを考えさせられる。

  •  二〇一一年三月十一日、東日本大震災発生。多くの日本人がそうであるように、東京に住む平凡なサラリーマン・野田圭介の人生もまた一変した。原発事故、錯綜するデマ、希望を失い心の闇に囚われてゆく子供たち。そして、世間を震撼させる「ある事件」が、震災後の日本に総括を迫るかのごとく野田一家に降りかかる。傷ついた魂たちに再生の道はあるか。祖父・父・息子の三世代が紡ぐ「未来」についての物語―。『亡国のイージス』『終戦のローレライ』の人気作家が描く3・11後の人間賛歌。すべての日本人に捧げる必涙の現代長編。

  •  福井晴敏 著「小説・震災後」を読みました。

     東日本大震災後、東京に住む平凡なサラリーマンの家庭が舞台。原発事故を経て、希望を失い心の闇にとらわれてしまう息子。その息子に希望を取り戻すためにあがいていく家族。そして、祖父・父・息子の三世代が紡ぐ「未来の物語」が語られていく。

     フィクションでありつつも、そこに描かれている世界はまさに現実の世界、現実の家族であり、自分の家族や子供たちのことを考えずには読めませんでした。

     あの震災後、どの家庭でも今の生活のあり方やこれからのことをそれまで以上に考えずにはいられなかったと思います。

     そこに、未来や希望を見つけることは大変なことでした。

     しかし、作者が描くように、これからの世代の子供たちに前に進むべき未来を見せていくことが、今社会を支えている私たちには必要なのだと強く感じました。

     この小説で知った明るい未来を感じさせる新技術が現実のものとなることを一人の大人として期待したいです。

     自分の子供たちにもこれからの未来が思い描けるように自分自身の生き方を見つめていこうと思います。

     作者福井晴敏の熱い思いが描かれた小説でした。

  • 不勉強なものでこの小説に書かれていることがどこまでが現実なのかはわからない。
    しかし、ページを進ませるエネルギーは半端なかった。
    野田の最後の演説は福井さんの作品だなーと思わさせられるが読み切らせるだけの力があったように思う。

    あと、いつものことながら福井さんの作品は親父がかっこいい。
    そして女が強い。

    震災から少し時間がたち少しずつ忘れかけていた3.11あたりの記憶がよみがえった。
    また、時間がたったら読みたいとおもえる小説であった。
    次は自分の子が生まれたときにでも。

  • 出版社が違うからと油断していたら、ダイスシリーズとちょっとリンクしていたー!とても嬉しい。

    小説の中の震災の話がいまいち実感できなかった。
    地震当日は情報がほとんど入ってこない状況で徹夜で仕事していたし、原発の話も理解しようとしないまま毎日過ごしていたから。
    小説を読んで、非常事態だったんだと驚いた。

    息子に未来を示す主人公。
    それに共感できないのは自分がまだお子様の立場でしか物を考えられないからだろう。

  • 福井さんの小説は好きなので、ほとんど読んでいる。震災を題材にした小説という事で気合を入れて読み始めた。
    この本をこの時期に読んでおいて良かったと思う。
    早めに購入して置いてあったので、もう少し早く読めば良かったかもしれない。

    福井さんの作品だといつも舞台はどこか自分たちとは少しかけ離れた感じの事が多かったけれど、今回はごく普通の家庭のお父さん、野田が主人公だ。自分の父の仕事が元防衛省だったのが少し特殊ではあるけれど、しっかり者の妻と難しい年頃の息子、娘が登場する。

    自分が震災後どうだったか?そんな事を省みながら読み進めた。とても辛くなるような場面もある。
    読みながら、野田の家庭の動きを追いながら、自分はどう考えているんだろうと整理できる一冊でもあった。

    福井さんの小説には父と子についての事がたくさん出てくると思う。
    今回も仕事一筋に生き、野田に語り・託す父。
    そして野田がこれから息子へ見せたい未来。

    自然と人間の関わり、未来への思いなんかについてはこの本の前に読んだガンダムUCでも描かれていたのに繋がりそうだ。

    なんにせよ、野田の父はとてつもなく格好良かった。

    それと、亡国のイージスに出てくる人物がこの作品にも登場する。
    嬉しかった。もしや!と思いながら読んでいたけど、名刺もらう場面で思わずニヤついた。

  • 最初にハードカバーでこの本を見たとき、胸が震えた。
    文庫本になって、美しい装丁を手にしたとき、充分な重みを感じた。
    でも読み終えたいま、その短さが心惜しい。
    文庫本295ページの小説が、決して短いわけはないのだが、
    従来の福井作品と比べると短編のようにすら感じる。

    (短編集の「6ステイン」と比べたら長いはずなんだけど。
    ・・・とりあえず、今度また「6ステイン」も読もう 笑)

    短編に感じるほど、この作品は大変読みやすい。
    多くの人が関心を持たざるを得ないテーマをかかげ、
    多くの人の心に伝わる正確な言葉で、
    多くの人に共感を得やすいストーリーを語り、
    多くの人へ向けたメッセージでラストシーンは埋め尽くされる。

    正統的な小説だと思う。
    解説の言葉を借りれば、
    「世代間の断絶と理解」「公と私のあり方」「個と社会のあり方」がテーマ。
    まさしく、福井作品の特徴的なテーマが並ぶが、
    決して、使い回しの表現を感じさせない点にも、驚く。

    唯一、「男とは・・・」の語りは、おなじみの話。
    「生きること、働くこと、死ぬこと……。
    なんにでも意味を見つけ出さなきゃ気が済まない。
    見つからなきゃ、自分で作ってでもなにかに自分を賭けようとする。
    その点、女は自然体だよな」
    わたしは女で、確かにいろんな意味付けはしないわね、と思う。
    でも、すべてに意味を見出そうとするサガに惚れるのは、
    わたしが女だからなのかしら、と考え、
    ま、意味なんてどうでもいいわね、とただ文字を見つめてみる。

    『他人が他人に示せる善意には限度があり、
    それを踏み越えた先には個人生活の破綻が待っている。
    まだ社会のなんたるかを知らない少年には、
    そんな不文律も大人の欺瞞としか聞こえず、
    世界をまるごと救おうと突っ走ってしまうものなのか』

    これは中学生の息子を語った、父の言葉。
    福井氏が描く、若者と中年男性の関係性は見事なバランスと形だといつも思うが、
    今回は息子と父、そして祖父の三世代である。

    如月行、フリッツ、一功と朋希・・・
    いわゆる女性読者が惚れるスター(笑)の役割が、今回はこの息子かと思いきや、
    さすがにそこは中学生。
    もっとたくさん動いてくれればいいのに、と思ったりもしたが、
    もし彼が歴代のスター並みにかっこよくて、
    わたしが惚れちゃったりしたら、それはもう年齢差から言って、
    犯罪になりかねない 笑

    もちろん、中学生の息子によって、このストーリーは動き出したこと、
    未来の象徴として、重要な人物であることは明らか。
    さらりと、若者の特徴を香らせているところも、いい。
    惚れはしなかったけど、彼のことをとても好ましく思った。

    福井作品ファンとして、祖父には、いろんな人物の面影が重なる。
    あの小説のあの人の老後は、こんな感じかしら、と
    こんな感じだといいな、と願う。

    「日本人を日本人たらしめる感性は失われ、
    欧米的な合理精神のみが人を動かすようになる。
    それはつまり、わしのようなつまらん人間が増えるということだ。
    いつでも最善の対処方法を考え、切り捨てたものには見向きもしない。
    そうしなければ生き残れないという理屈で自分を正当化して、
    誰もが孤独の穴に落ちてゆく……」

    「これを最後の任務と思っとったが、結局なにもできなかった」

    ファンにとっては、しびれる台詞。
    この言葉だけで、いろんな背景をイメージできる。

    この作品だけを読む人間には、どんなふうに映るのか想像もつかないが、
    きっと深い人間性は、誰の目にも読み取れることだろう。

    そして無辜の民の代表である父。
    リアリティあふれる無辜の民が、
    自然で驚きの変貌をする点もすばらしい。
    成長物語ともいえる作品です。

  • あっという間の文庫化に、衝動買い。
    私的にガンダムucで、イマイチな評価になった福井晴敏評が復活!というぐらいに良かった。
    震災後の2011年を舞台に、日本人が持っている地震以降の不安の原因が、この著作に表現されている。
    あの日の日本政府のバタバタ感を冷静にインテリジェンスとして分析し表現されている。フィクションとは言えないぐらいに限りなくノンフィクションに近い。

    見どころは、
    ・家族でボランティアで気仙沼に行くシーン
    ・最後の主人公の演説シーン

  • 震災とその後を実体験した者の文章には思えないほどつまらんかった。
    今の自分には何を言いたいのか理解不明。
    もう暫くしたら、読みなおしてみよう。

  • 120509

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著者プロフィール

1968年東京都墨田区生まれ。98年『Twelve Y.O.』で第44回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。99年刊行の2作目『亡国のイージス』で第2回大藪春彦賞、第18回日本冒険小説協会大賞、第53回日本推理作家協会賞長編部門を受賞。2003年『終戦のローレライ』で第24回吉川英治文学新人賞、第21回日本冒険小説協会大賞を受賞。05年には原作を手がけた映画『ローレライ(原作:終戦のローレライ)』『戦国自衛隊1549(原案:半村良氏)』 『亡国のイージス』が相次いで公開され話題になる。他著に『川の深さは』『小説・震災後』『Op.ローズダスト』『機動戦士ガンダムUC』などがある。

「2015年 『人類資金(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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