この世の全部を敵に回して (小学館文庫 し 12-1)

著者 :
  • 小学館
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本棚登録 : 569
感想 : 79
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  • Amazon.co.jp ・本 (157ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094087079

作品紹介・あらすじ

戦争、テロ、狂信、犯罪、飢餓、貧困、人種差別、拷問、幼児虐待、人身売買、売買春、兵器製造、兵器売買、動物虐待、環境破壊--。私たち人間は歴史の中でこれらのうちのたった一つでも克服できただろうか。答えは否だ。

かくも、残酷で無慈悲な世界に生まれ、苦痛と恐怖に満ちた人生を歩まされる「死すべき存在」としての人間。だからこそ、人間には、「愛」が必要だ。ここで注意深く伝えたい「本当の愛」は、憐憫であり、哀れみである。その愛は、死に対して為す術もなく無力であるからこそ、差し述べることのできる遍く広いものである。身の回りの特別な相手だけの幸福を祈ることから離れることができてはじめて、ひとは、貧困、暴力、戦争、差別、迫害、狂信といった諸悪を無力化することに向けて船出をすることができるのである。

感想・レビュー・書評

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  • 人間はなぜこの世に生まれるのか。そして最期には死を迎えその後はどうなるのか。宗教の教えに疑問を投げかけつつも、抗うことができない何かに人は翻弄されていると語るK氏。ものの哀れをずっと人間は感じ続けているのに、それを直視するのを避けているのかもしれない。

  • この世の全部を敵に回して
    この一冊は僕が「白石一文」という作家を好きになったきっかけの一冊です。
    以後、彼の著作を読むほどに好きになり、共感を覚えることも多くあったように思います。私は映画や本に対しては比較的、新しいもの好きなので繰り返し同じ本を読むとかって、あまりしません…
    未見未読のモノから得られる初体験未経験を好むからか…と自分では考えています。
    それでもそんな中にも幾つかの再読再鑑賞などを繰り返しているモノもあります。この本はそんな一つだと思います。
    生きるとか幸福とか愛だとか、幾ら求めても解答のない存在命題を考える上での大きな指針になる意見だと思います。
    150頁に満たない一冊ですが、ここに書かれている内容は一読の価値があると強く思います。オススメの一冊です。

    もし本書を読んで初めて作家「白石一文」に触れた方に対して、一つだけ注意して頂きたいのは白石先生の作品は沢山ありますのでこの一冊だけで評価しないで頂けると幸甚です。「私という運命について」「火口の2人」「一億円のさようなら」など映画化されているものもありますのでそちらから入ってみるほうがいいかもしれません…笑笑
    白石先生の作品殆どの読みましたが、素晴らしいもの沢山ありますよ笑笑

  • オチそのものは読めなかったけど、最後にこういうところへ降り立つだろうことは読めてしまったので、最後の数ページでワクワク感が削ぎ落とされてしまった。
    でも、本人(語り部)にとって切実であればこそ、愛すべき考え方だということも出来る。
    若い人に読んで欲しいと思って書いたそうだけど、若い人にこれは無理だろうと思う。たぶん、彼らはそれどころじゃない(笑)

  • 戦争、テロ、狂信、犯罪、飢餓、貧困、人種差別、拷問、幼児虐待、
    人身売買、売買春、兵器製造、兵器売買、動物虐待、環境破壊。

    私たち人間は歴史の中でこれらのうちの
    たった一つでも克服できただろうか。
    答えは否だ。

    これは著者である白石氏が、友人Kの死後、見つかった彼の手記を紹介したという体裁をとっており、
    ある意味でノンフィクション作品のようです。

    冒頭から読む人間を辟易させてしまう内容でありながら、
    その実は「死を否定するな、愛を過大評価するな」という強いメッセージを秘めている。
    すべての人間がこんなふうに物事を考えられはしないだろうし
    (また、この考え方を支持することはなぜか逆に俗な人間っぽくないけれど)、
    途中の例えなんかは、上手くはぐらかされているようにも思えたが、
    一応の結論を持って完成されている作品であることが強く印象に残った。
    (このテのものって結論が出されないようなことが多いように思うからだ)

  • 内容はタイトルの通りとがってて、この世の中なんて全部無意味だ、生きてることに意味なんてない、人生に何か意味を見出そうとしても、人はどうせ死ぬのだ、私は妻も子どもも愛してなどいない・・・云々かんぬん・・・と、
    くどくどくどくど、繰り返される、「ある人の手記」という形を取っている。
    でも、“手記を書いている人物”がいくら「この世界は無意味だ」と訴えても、何か微妙に矛盾があり、ひっかかる。
    読者が、その微妙な矛盾をなんとか受け入れて読み進めるために、最初に「これは小説家である私のもとに、亡くなったK氏の奥さんから託された手記です。多少おかしなところがあるけれども、そのまま載せる。」という設定をしてあるように思う。

    さて、「手記」では、この世は悪意に満ちていて、暴力も犯罪も戦争も殺人もいっこうになくならない、こんな世の中なくなればいい、みたいなことを訴え続けているのだけど、一方で、自分が幼い時飼っていた猫のこと、家族でその猫に惜しみない愛を注いだことについての思い出が語られて、すごく対照的だ。

    この世の全部を敵に回しても価値あるものを…実は訴えているのかも知れない。
    それはすごく、すごくすごくシンプルなものだ。
    家から一歩も出ることなく、ただ毎日、食べて寝て、家族に愛嬌をふりまいて撫でられて、死んでいった猫が、家族に与えたものと同じように。

  • 望みもしないのにこの世に生を受け、戦争、テロ、飢餓、貧困、差別、虐待がはびこる中で生きている意味とは。生きていること自体に辟易しながらも、いざ死ぬとなったらきっと死にたくないともがくだろう。そんな手記に共感しつつも、だからと言ってどうというものではなく、小説としては面白味に欠ける内容でした。

  • 著者の作品の根底にある考えを剥き出しにした作品ではないでしょうか。

    本書内で語られる、「死」は誰にしも共通して訪れる物であり、その中で本当の愛とは憐憫であり哀れみである。といった内容は否定したくとも、確かになと思う所もありました。

    ただ小説としての面白さは薄かったかなと。どちらかと言うと思想哲学のような内容でした。そう思って読むと評価は上がるかも知れません。

  • この世の全部を敵に回してという題にもあるが、敢えて厳しいことを一貫して書いているので、万人ウケする小説ではないと思う。あまりの冷淡さというか捻くれ具合に、そこまで言う?と反発的な気持ちになることもしばしば。
    内容がとても難解で思索的で一度読んだだけでは理解が難しい。何度もページをめくって同じ文章を読み直した。
    ただ、そうした難しさがあったとしても、声高に、そして安直に愛は素晴らしいなどと述べていないのがかえって読者を惹きつけている。(私自身がそういうありきたりな愛情論に共感できないのもある)
    第1章は小難しい文章で同じようなことをダラダラ書いている気もするので読むのが辛くなってくるが、第2章からは急に速度を上げてきて気づいたら読み終えていた。という感じ。

  • 感想を書く事をずっと悩んでいた一冊。
    今まで読んだ作者の中でも毛並みが異なっているからだと思う。小説よりも、思想の本を読んだ方が的確な気がする。

    人間というものは、連続する選択肢が続く中、その時に選んだ答えが結果的に間違いだったと自覚した場合(あるいは最低の状況を想像した上で油断した結果)、世の中には意外とそういう可能性が潜んでいる(例えば恋愛の駆け引きであったり、仕事に生じる不具合)。本書は主人公の友人の死後に見つかった手記を頼りに繰り広げられる。

     例えば、イジメられている人物の妹が殺人にあい、イジメていた人間が”「おれ、アイツのことイジメるのやめる」”と言い、それを肯定することは、殺人を結果的に肯定することになる。幼き者、あるいは自身の尊厳を保つための延長でイジメを行っていた者を肯定するという一文には驚かされた。人間という存在は、それほど大した大義名分も無くイジメを行うという解説の様な、主人公の意識を投影したり、もしくは戦争や、それによって引き起こされる被害、可能性、光と影を連想させるような物事。他にも車による事故によって生じる死と意図的に行った殺人とその違いや、行動には結論を見据えた動きが大抵あるはずだが、その逆を描いた、行動するための理由作り(大義名分)によって、これは許される、自分はこうなったのだから、仕方ないだろうという、そういった物語になっているが、あくまで本書は小説という括りで始まり締められている。

    しかし、大義名分というのは恐ろしいと個人的には思わされた。例えば、ことわざでもあるが”人のふり見て我がふり直せ”とは、特に民族性から見れば村社会とされ、集団心理に左右されやすい日本人こそ自覚するべき、多数決や場の空気といった物事に合わせやすく。赤信号でも集団でもあれば大丈夫だろう、と思ってしまう思考停止が「それってどうなの?」という問いを場面や状況で考えてよ! と作者が訴えている様にも感じてしまう。一冊だった。

  • )死とはどういうものか。本来の愛とはどういうものかを説いた思想書のような感じ。理解する為には、全て読まないとわからない。地球上の全ての人を思える小説でした。自分が躓いたり、悲しい事があったらまた読みたいです。

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著者プロフィール

1958年、福岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。文藝春秋に勤務していた2000年、『一瞬の光』を刊行。各紙誌で絶賛され、鮮烈なデビューを飾る。09年『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』で山本周五郎賞を、翌10年には『ほかならぬ人へ』で直木賞を受賞。巧みなストーリーテリングと生きる意味を真摯に問いかける思索的な作風で、現代日本文学シーンにおいて唯一無二の存在感を放っている。『不自由な心』『すぐそばの彼方』『私という運命について』など著作多数。

「2023年 『松雪先生は空を飛んだ 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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