終りに見た街 (小学館文庫 や 22-3)

著者 :
  • 小学館
3.62
  • (7)
  • (14)
  • (15)
  • (2)
  • (1)
本棚登録 : 114
感想 : 20
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094088328

作品紹介・あらすじ

戦時下にタイムスリップしてしまった家族

東京近郊に住む平凡な家族は、ある朝、戦時中(昭和19年)の日本にタイムスリップしていた――信じられないようなSF的設定で始まる問題作。家族が投げ込まれた世界は、戦時下の「食糧不足」「言論統制」「強制疎開」「大空襲」の時代だった。憎むべき〈戦争〉の時代に、〈飽食した〉現代人はどう立ち向かうのか。太平洋戦争末期、敗戦へと向かう日本を鮮烈に描きながら、驚くべき結末が待ちうける戦慄の寓話。
解説、奥田英朗

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 読んで良かった。他に戦争の小説をそんなに読んだわけではないが、なんだろう、地味なのにこれは凄い。

    出征や特攻や原爆などの詳細な記述があるわけでも、涙を誘うような場面があるわけでもない。
    それなのに、戦争の本当の怖さがヒシヒシと伝わってくる。

    現代から突如昭和19年にタイムスリップしてしまう話。
    と言っても、この本が書かれた元々の年は昭和56年である。
    つまり、現代=昭和56年に47歳である主人公は昭和9年生まれなので、タイムスリップした先の戦時中の状況にも何とか対応できる。
    それは著者の山田太一氏の年齢である。

    著者のあとがきも、奥田英朗氏の解説もとても重要に思う。
    著者は私の親世代。そして奥田英朗氏はおおよそ私世代。奥田氏のように私も親から戦争の体験談を聞かされた世代だ。
    しかし親の話ではわからなかった《当時の日本の「空気」》(←奥田氏の解説による)をここまでよくわかるように伝えてくれた本書は本当に意義深い。

  • 近い将来こうなるかもしれないという、過去を繰り返さないよう戦争の恐ろしさと普遍性を伝えて警鐘を鳴らしてくれる作品。こわい。SFって壮大すぎると少し苦手なんだけど、これは突飛もなくて非現実的なのにかなり現実味を帯びていてすっと話が入ってきた。感受性の扉を急いで閉めて逃げ続けなければ発狂してしまうような惨たらしいリアル。
    世代を隔てる見えない溝が、あり得ない有事に晒されることによって浮き彫りになる。国に従い周りに合わせて鼓舞することによって、置かれた状況に抗わず溶け込みたいという願望。過去を変えようと非国民のように行動することで、責務を放棄して放蕩しているかのような肩身の狭い思いをする。
    突如天地がひっくり返り、時代、世代がないまぜになり全てが引き込まれて近未来の風景が重く低くのしかかってくる。
    途中引用された荷風の日記"およそ、このたびの開戦以来、民衆の心情ほど解しがたきはなし。多年生活せし職業をうばはれ、徴集せらるるもさして悲しまず、空襲近しといはれても、また、さらに驚き騒はがず"という記述の様子が過去現在未来においてありありと想像できる。

  • 「戦時下にタイムスリップしてしまった家族!!
    東京近郊に住む平凡な家族は、ある朝、戦時中(昭和19年)の日本にタイムスリップしていた――信じられないようなSF的設定で始まる問題作。家族が投げ込まれた世界は、戦時下の「食糧不足」「言論統制」「強制疎開」「大空襲」の時代だった。憎むべき〈戦争〉の時代に、〈飽食した〉現代人はどう立ち向かうのか。太平洋戦争末期、敗戦へと向かう日本を鮮烈に描きながら、驚くべき結末が待ちうける戦慄の寓話。」
    「戦争の本質と人間の愚かさを見つめた小説。国や世間、周囲の人々にあらがって生きることは難しい。平和な時代を生きる私達のあやうやさや弱さがうきぼりになっていく。」
    (『いつか君に出会ってほしい本』田村文著 の紹介より)

  • もしも、今タイムスリップしたら?
    今の記憶を持って過去に戻ったら、自分ならどうするだろうか?
    誰しもが一度ならずとも思ったこと、想像したことあるだろう、もしもの話

    この先の未来を知っていて、それでも自分は自分でいられるのか?
    そして、これは本当に過去なのか?
    それともーーー

    SFと恐怖が見事に重なっている
    ラストまで見逃せない

    本閉じた後、自分ならどうするだろう?どうなるだろう?
    と、考えたくなる余韻をくれる一冊です

  • 奥田英朗が好きな作家にあげていたので初めて山田太一の本を読んでみた
    80年代初期の昔の作品だし読みにくいかなーって思ってたけど読みやすかった

    家族4人とその昔の友達と息子が昭和56年から太平洋戦争末期の昭和19年にタイムスリップするっていうSFなストーリーだけど、内容はリアル
    戦争の辛さが伝わってきた

    最後解説を奥田英朗がかいてた

  • 戦時中にタイムスリップした家族。
    ラストは現代に戻るのかと思いきや、、
    実はタイムスリップでもないような、
    知った顔や、知り合いがいっぱい出てきたらもっと違う物語だったかな。

    親も戦後生まれという時代に生まれ、
    戦争は昔の話
    な、自分たちにも比較的読みやすい。
    本自体は作り話だけど、
    戦争は本当にあったこと。怖い本。

  • なんとなく再読。 ラストは良いし、文章は読みやすくそれなりに楽しめる。 ただ、全体としてはモヤモヤして仕方がない。 最初にしても最後にしても、せめてキッカケのようなものがあればなぁなどと思ったり。

  • 戦時中にタイムスリップしていたのは、すべて終わりの間際に見た夢なんじゃないかなと思った。
    若い人から染まってゆくところはリアルで恐ろしい。
    後味わるいけど、戦争はそれ以外なにもないでしょう。

  • この評価ですが。
    正直に、面白いというより興味といったらわからないですが
    戦時中の市民の生活はどうなのだろうと...
    TVやドラマでは何となくみていたが。
    戦後の家族が、戦時中にタイムスリップ?して
    生活を始めるのだが...
    淡々と読んでいき、淡々と親と子供の心理の変化は、考えずに入られなかった。特に子供達の心の変化は...心苦しい。

    最後の解説には、巧くこの本の意義を表していて脱帽。
    そして、世界的に平和な日本に感謝。

  • 容赦ないですね。
    いや、『戦争中にタイムスリップした』物語とは言え、
    どこかで何となくな平和的オチを期待してしまっていたんだと思います。
    それこそ悲惨さを舐めている平和ボケだったのかもしれませんけど。どーせ小説だし・・・ってね。
    まぁとは言え爆撃された未来が終幕になると予想できた人は少なかったんじゃなかろうかと思いますが。

    うーん・・・面白かったんですけどね。
    メッセージ性がそもそも重い題材に加え、ラストがまさかの結末である事から
    どう受け止めていいのか自分の中でも理解できていない感じかな。今は。

    ちょっと疑問点は残りますけどね。クリーニング屋の兄ちゃんっぽい将官とかさ。
    あの人も歴史を跨いでしまって、新也君のように良くも悪くも順応したって事・・・
    だとしても将官まで出世しているのには違和感があるし。
    あ、現世は現世で生きつつ、もっと昔から過去でも生きていたと捉えると何とかなるかもしれませんね。

    こういうSF的な要素と、平和ボケに対する題材的な警告がどう噛み合うのか、そこら辺に理解が及ばないですね。

    主人公夫妻と敏夫の行動については、自分はちょっと同意できない。あくまでも性格の部分にもよるかもしれないけどね。
    戦争を知っているからこそ少しでも被害を減らそうとするか、
    知っているからこそ自分達だけでも必死に生き延びようとするか。
    自分だったら間違いなく後者だと思うんですよね。
    守るべき子供達も居るなら、尚更。
    とにもかくにも目立つ事を避け続けるんじゃないかな、と。

    逃げた先に何があるかは分からないですけど、
    一度飛んだって事は戻る可能性だって頭にない訳ではないでしょうから。

全20件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1934年、東京生まれ。大学卒業後、松竹入社、助監督を務める。独立後、数々のTVドラマ脚本を執筆。作品に「岸辺のアルバム」「ふぞろいの林檎たち」他。88年、小説『異人たちとの夏』で山本周五郎賞を受賞。

「2019年 『絶望書店』 で使われていた紹介文から引用しています。」

山田太一の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×