弱キャラ友崎くん (Lv.11) (ガガガ文庫 ガや 2-13)

著者 :
  • 小学館
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本棚登録 : 73
感想 : 3
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  • Amazon.co.jp ・本 (424ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094531145

作品紹介・あらすじ

日南葵、その根源。 思いがけない形で終わってしまった大阪旅行。俺たちは、日南とほとんど話せないまま3年生を迎えた。日南はひとり特進クラスへ。だが、そこでも日南は驚きの姿を見せ――。覚悟を決めて日南の家を訪れた俺は、意外な人物に出会うことになる。「あの……もしかして」「は、はい」「……葵さんの妹さん、ですよね?」……思えば俺は、あいつのことをなにも知らなかったのかもしれない。仮面の下に隠された本当の日南葵を、俺は掬い上げることができるのだろうか――。人生攻略ラブコメ第11弾、いよいよ最終ステージ!!

感想・レビュー・書評

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  • 随分待たされた気がする新刊
    誕生日パーティで家族からのビデオレターなんて感動の涙が巻き起こるのが普通な場面。だというのに日南が見せた反応は拒絶に等しい反発だなんて…

    日南はパーソナルスペースに不用意に踏み込まれる事を嫌がるようなタイプだったからこそ、優鈴達がしたビデオレターはちょっと踏み込んだ行為で
    だとしても、あの日南が自分をどう思われるか考えられない程の反発をするなんて想像もしなかったなぁ…

    交友関係を壊す程の破滅的な自傷だから、その傷に触れるなんて容易い行いではなくて。あのメンバーの中では最も日南の心に近づいていた友崎ですら日南に掛ける言葉は慎重さが求められる
    ただ、「これ以上なにも、話す気はないよ」と言いつつ友崎の前から逃げようとはしなかった振る舞いからは、友崎の言葉に期待するものがあったのだろうと感じられる。それだけに日南を信じた言葉を投げてもそれが届かなかった友崎の無念も見えてしまうが

    誕生日パーティで日南が見せた空虚さは輝かしい日南を見てきた者達には理解できない領域。日南への見方を変えられた友崎ですら例外ではなかったという点は彼が思う程には日南の心踏み込めていなかった事実を示しているね


    日南を取り巻く日常は壊れてしまった。でもそれで本当に何も無くなってしまう程に日南がこれまで築いてきたものはヤワじゃなくて
    クラスが分かれてしまっても、日南の心に何が起きたか判らなくても。それでも日南の為に何か出来るのではないかと集まって話す大阪旅行メンバーは温かみに満ちているね
    ただ、それで何か突破口が見えるわけが無い辺りに、結局は彼らとて日南の事を何も知らないのだと理解させられるものになってしまうのだけど

    でも、それで諦めたりしないのが友崎なわけで
    日南に近づくため思いもしない手段だって平然と採る…と判ってはいたけど、まさか待ち伏せした上で妹さんに話しかけるとは。あれ、共通の話題でどうにかなったけど、普通に不審者の行動だよ(笑)

    それでも繋がれた日南へ通じる道。それがまさかあのような展開になるなんて……
    友崎は日南の心にどう踏み込もうかずっと考えてきた人間。でも時には友崎以上に考えていたのが風香と言えるわけで
    だとしても、遥の少ない言葉から日南の、それどころか日南家の根源にすら至ってしまう彼女の業は凄まじいものが有るね…
    風香が見出した日南の根源は確かに心を閉ざした日南の心を解きほぐす鍵となるかもしれない。でも、それが人の心に土足で踏み込む行為である点は否定しようがなくて
    自分を責める風香の様子は堪えるものがあったよ…

    それだけにその後に描かれたゲーム大会のエピソードには色々と心休まるものがあったな
    この巻は日南の謎に迫る為にメンタルを削る展開が多かったから、純粋にゲームを楽しむ様子が描かれたあの辺は気軽に読めたよ。風香の珍しいラブコメ発現も有ったしね(笑)


    日南の失った何かを探して右往左往してようやく辿り着いた暗闇。日南葵によって語られる過去はこれまでの彼女のイメージとかけ離れた要素を持つもの
    母親から全肯定される日々という点は今に通じる何かを感じさせるけど、渚の死によって崩れ去った直後の姿と現在のパーフェクトヒロインとなった姿は重ならない
    でも、その違和感がその時からどれだけの努力を彼女にさせ、今の姿を作り上げたのかという点も見えてくる。

    けれど、そうまでして手にした『何か』を信じられないなら日南は行き止まるしかない
    そこで友崎が掛けた言葉がいいね。聞き方に拠っては酷い自惚れに聞こえる発言。けれど、日南と切磋琢磨しアタファミにおいては日南を上回る強キャラとして日南に無い要素を持つ友崎だからこそ力を持つ言葉

    だというのに、あのような展開になってしまうのか……
    あの日南の勝利って本当に何の意味もないのが虚しいんだよね。完璧な対策をして友崎に勝てるようになった。だけど、それが何だというのだろう?
    nanashiに憧れて彼のように成りたいと研究を重ねたのに、それを完全に捨てて勝利だけを得て。その勝利だって、友崎を上回ったという価値は手に入らず、精々が友崎の言葉を跳ね除けるという程度の意味しかない。本当に意味の薄い勝利
    誕生日パーティ以上の拒絶がそこにあったわけだ


    友崎と日南による人生攻略が終わるに留まらず、繋がりすら途切れてしまった状態は友崎の心を今度こそ折ってしまったようで
    自分は日南の為に出来る事が有るのではないかと思えていたのに、そこにあったのは完全な拒絶と敗北

    そんな友崎を再起させるのはやっぱり風香の役目なんだねぇ……
    風香だって友崎が日南の為に心砕く様子に思う処なんて納得できないものも有るだろうに、それでも友崎が日南に関わり続けられるようにしている
    そこには友崎の望みを叶えたい彼女としての願いと日南の動機を解き明かし物語を完成させたいという小説家の業が同居しているね
    だから友崎の行動は風香の進む理由になって、だから風香の行動は友崎の進む力になる

    そうして再び始まるのは魔王日南葵を討伐する物語。人生をクソゲーと吐き捨てた彼女に「人生とは神ゲー」であると諭す為の武器となる物語を皆で探す冒険
    遂に終幕へと近づいた本作は読者にどのような物語を、そして神ゲーを見せてくれるのだろうね?

  • ラスボス日南との戦い第一ラウンドといったところかな。ラスボスだけあってさすがに勝利とはならず。原因と結果を重視する日南には文也の言葉は届かず、アタファミでも敗北。

    どんなことでも全肯定してくれる家庭は、一見自己肯定感は保たれるし理想には見えるだろうけど、流石に妹の渚の死でさえも仕方のないこととして肯定されたことで、葵の価値観は総崩れ。そこから執念のパーフェクトヒロイン物語が始まってしまう。確かに何が正しいのかの明確な答えはないよな。

    選挙の時をモチーフにした物語や、聞いた情報を頼りに日南家の秘密を暴いたことから、菊池さんの文章表現能力や物事の本質を見抜く力には驚かされるばかり。

  • 前巻のときにも思ったけど、引っ張った時間が長すぎたために日南葵の過去それ自体はもはや何でもいいみたいなところがあって(『名探偵コナン』の黒の組織の正体とか割とどうでもよくなってるでしょ? あんな感じです)、あとは物語を着地させる説得力で決まる段階に入っている。

    もともと『友崎くん』は国語の読解力試験みたいな興趣のある作品でしたけど、核心部分が観念的な話になっているうえ、葵や友崎自身の言葉、具体的な出来事、菊池さんの小説による比喩といった諸要素が多重的に入れ子になっており、問題の難易度が格段に上がってきた。

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