冬にそむく (ガガガ文庫 ガい 10-2)

著者 :
  • 小学館
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (306ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094531220

作品紹介・あらすじ

終わらない冬のなか、二人はデートする。 年が明けてからもずっと「冬」が続くという異常気象。気温のあがらない夏、九月に降る雪。コメの収穫は絶望的で、原油価格は上昇し続け、消費は冷えこんでいる。もう世界は終わってしまったのかもしれないと、人々は日に日に絶望を深めていった。神奈川県の出海町にある海水浴場も一面雪で覆われ、サーファーも釣り客もヨットのオーナーも姿を消した。この町で育った高校生、天城幸久にはこれまで想像もつかなかった光景だった。降り続く雪でリモート授業も今では当たり前になっている。世界はもうすっかり変わってしまったのだ。雪かきスコップを手に幸久は近所のとある場所へとやってくる。金属製の門をくぐった先には、前面が総ガラス張りの変わったデザインの家が建つ。その敷地内で雪かきをしている女の子がいる。高校からこの町へ越してきた同級生、真瀬美波だ。彼女はこの家にひとりで住んでいる。幸久は彼女の家へと通い、雪かきを手伝うことが日課になっている。幸久と美波はすでに交際しているのだが、学校ではほとんど会話もしないため、クラスメイトたちは誰もその事実を知らない。雪に閉ざされた世界のなか、二人は秘密のデートを重ねていく。

感想・レビュー・書評

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  •  タイトルと表紙カバーに描かれた女の子に惹かれて読んでみた。

     夏でも気温が上がらず、9月に雪が降り始める。そして、大雪。この「冬」が、いつ終わるかは誰にもわからない。これまでとは違う「冬」が訪れたことにより、人々の生活に様々な影響が出始める。なぜ「冬」が続くのかは、作中では明らかにされていない。新型コロナウイルスのパンデミック下での状況にも似た描写も出てくる。

     終わらない「冬」のなか、神奈川に住む高校生の幸久と美波はデートを重ねていく。。「冬」にそむく、あるいは抗うのは、二人の「雪かき」。そして青春の謳歌か。そう「春」という字が入っている。

  • 「冬」が来て、終わらない世界。
    というものを、単純に味わいたくて読んでみた。

    幸久と美波の恋の話は、なんだか年齢不相応な感じもする、ドラマチックなものだけど。
    彼らを取り巻く親たち、大人の視線や言葉の中に、先行き不透明な「冬」の世界に対する不安が見えたような気がする。

    好きにさせてやりたいという思いと、好きにさせてしまうことの心配。
    高校生の二人は、まだ二人だけで世界を切り拓いていけない、そんなもどかしさもある。
    でも、冬にそむき、冬を楽しもうとする、そういうこともまた、二人にしか出来ないことなんだろうな。

  • ライトノベルというよりはライト文芸です。
    舞台は冬が一年中続き、四季が一切無くなってしまった世界。
    神奈川県出海町で過ごす幸久と、同じく出海町の別荘で一人住んでいる美波の甘く切ない恋のお話です。

    高校3年生であれば誰もが悩むであろう進路の問題、思春期特有の葛藤などが描かれています。
    自分もこの頃は色々と悩んだなぁと、小説を読んで懐かしく感じました。

    終わらない「冬」の描写を繊細に描いており、冬のあの綺麗だけどなんだか寂しくなるような光景を感じながら本を読み進めることができました。

    おそらくコロナ禍に巻き込まれてしまった高校生達がモチーフなのだと感じました。

  • しんしんと雪が降り積む、という静けさに満ちた雰囲気がとても刺さりました。常に雪が降り冬が終わらなくなった世界を舞台にした物語で、物理的にも精神的にも「閉塞」を感じる世界観は、いまのコロナ禍を反映したものなのでしょう。そんな世界で不条理に突きつけられた「現状」と、それでも選ばなくてはならない「未来」に戸惑う高校生の主人公とヒロインの姿にリアリティを感じます。読みながらこの標題の意味をずっと考えてました。「冬」に対して逆らうのか、「冬」に起こる何かに背くのか。答えは出ませんでしたが、二人は「冬」に向きあっていたと感じます。とても素敵な作品でした。

  • 異常気象の中とはいえ、そこまでドラマティックなことは起こらず、どちらかといえば淡々とした恋物語が綴られています。
    ガガガ文庫というラノベレーベルから出ていますが、これはもはや文学といえそうです。
    ですから、「先生とそのお布団」と同じように、ラノベとしては売れないだろうと思います。
    ただ、淡々としていながらもページをめくらせる力はあり、作者の力量を感じます。

    この設定ですと、小松左京さん辺りが書くとまた全く別の話になるのでしょうが、思い出したのは小松さんの「日本沈没」の中で、ある家庭の奥さんが結婚指輪(あるいは婚約指輪だったか)と引換えにちょっとした食料を入手し、夫と言い合いになるエピソード。
    これを何十年経っても覚えている私も、もしかすると、異常事態の中で統治機構がどうなる、みたいな話よりも、市井の人々がどんなふうに生きていくのか、という方に興味のあるタイプなのかもしれません。

  • どんなに厳しい世界でも、人は根強く生きてゆく。
    ずっと冬が終わらない異常気象の下で生活を営む、高校生の幸久と美波の日常を描いた作品。
    買い物デートなどの高校生らしい日常を過ごしながらも一歩ずつ進む2人。展開に起伏は感じられないが、暖かさが感じられる良き話でした。
    幸久と美波の家庭環境の違いと、違いに伴い訪れる、終わらない冬の強い影響。迷いながらも覚悟を決め、大きな壁を乗り越えてゆく様子はいかにもな高校生らしさがあり、非常に良かったです。

  • 唐突に終わらない“冬”がやってきた、というのがコロナ禍と似ていて作品に没入した。
    終わらない“冬”もなかなか恐ろしい事態だよね…。
    今の日本は終わらない“夏”がやってきそうではあるけども(苦笑)

    終わらない“冬”の中での青春かぁ。
    激しい話の展開ではなく、緩やかに流れていくから読みやすかった。
    幸久が働くことを選んだのが凄く納得のいく流れで良かったな。
    美波を送り出すときも大人な対応だったよね。
    高校生の男の子があんな感じで好きな子を送り出せるものなのかな?

    最後は美波が留学という形で日本に戻って来て、再会できてよかった。
    幸久は公務員になってて、幸久らしい良い選択肢だった。

  • シチュエーションはライトノベルかもだけど、内容はもう違うな。好きな文章。

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著者プロフィール

小説家。1978年生まれ。『耳刈ネルリ御入学万歳万歳万々歳』で第10回えんため大賞優秀賞を受賞しデビュー。著作『四人制姉妹百合物帳』(星海社)、「耳刈ネルリ」シリーズ、『ヴァンパイア・サマータイム』(KADOKAWA)、『後宮楽園球場』(集英社)など。

「2015年 『明日の狩りの詞の』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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