危機の読書 (小学館新書 436)

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  • Amazon.co.jp ・本 (268ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784098254361

作品紹介・あらすじ

危機の時代を生き抜くためのブックガイド コロナ禍にウクライナ侵攻、安倍元首相暗殺。さらには物価高に温暖化。遠い地で起こった出来事が、あなたの暮らしを突如襲う。世界は複雑に絡まり合い、一寸先の予測さえ不可能である。ではどうするか。<時代の危機を認識するためには、読書に裏付けられた学知の力が不可欠なのである>―まえがき◎内村鑑三『代表的日本人』◎ヨゼフ・ルクル・フロマートカ『なぜ私は生きているか』◎宮本顕治「鉄の規律によって武装せよ!」◎アーネスト・ゲルナー『民族とナショナリズム』◎手嶋龍一『鳴かずのカッコウ』巻末に慶應義塾大学法学部教授・片山杜秀氏との特別対談「ウクライナ危機を読む」も収録!◎斎藤幸平『人新世の「資本論」』いずれも、階級格差、民族的アイデンティティー、国家の暴力性、革命、インテリジェンス、環境について危機を真摯に受け止め、その克服に取り組んだ(取り組んでいる)知識人の著作である。著者の案内を入り口にして、これらの作品を読み進めれば、現代を生き抜くヒントを得られるはずだ。

感想・レビュー・書評

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  • 大病以降の佐藤優の顔写真がシリアスで危機感を煽る。その表情が暗示するかのような世界情勢ね危機的な現況においては、読書のような活字媒体からどんなオシントをすべきか。アーネスト・ゲルナーやユルゲン・ハーバーマス、斎藤幸平を手掛かりに。佐藤優によくある論説のため慣れている人にはまたか、という感じもあるが、それはそれで復習になるため有難い。しかし初見なら難易度が高いかもしれない。

    佐藤優といえばロシア情勢。先ずはそこから味わう。

    ー 他の地域より破壊を免れているウクライナ西部には、驚くほど多くのポーランド人がいる。東部、南部と中部、及びこの西部エリアにウクライナ3分割される可能性がある。ゼレンスキー政権は西部のガリチアに拠点を移す。東部南部のドンバスはロシアに併合される。中部ウクライナは中立国家となる。

    ー ウクライナ戦争に対する日本の政策は、アメリカやG7諸国と共同歩調をとっているようで、独自の行動をとっている部分もある。日本はロシアに唯一G7の中で領空を解放している国である。シベリア上空を通ってヨーロッパに移動する自国の利益を見出しているからだ。また石油と天然ガス採掘プログラムであるサハリン1.2の権益を日本は維持する方針。また入漁料を支払って、魚を取る仕組みも維持されている。防衛装備輸出三原則によって、ウクライナに対する軍事的な貢献をそれほどできていない。

    話は民族論にも展開される。

    ー 現代社会において、公務員、弁護士、医師などの職業は去勢化されている。ここでのを去勢とは、世襲性の否定という意味だ。

    ー ゲルナーは、民族のナショナリズム理論の誤りについて主張している。①自然に自己発生的なものであるとすること。しかしこれは、近代より前の共同体において民族と言う意識を持っていなかった事は、学術的には定説であり、誤り。②民族はエリート集団によって作り出されたものであると言う見方も誤り。中国はウイグル、チベット、モンゴルを包摂した。中華民族を形成しようとしているが、うまくいっていない。道具主義によって民族は説明できない。③宛先違いの理論。これはマルクス主義が好む。例えばシーア派ムスリムの過激派が大天使ガブリエルが間違いを犯して、アリーに届けるはずの神のメッセージをムハンマドに届けてしまったと主張する。これと同じようにマルクス主義者は本来階級に届けられるはずであった「目覚めよ」と言うメッセージを階級ではなく民族に配達してしまったと主張する。

    ー ユルゲン・ハーバーマスの「順応の気構え」。高度な教育を受け、たくさんの情報を持つと、その情報の全てを精査し検証することに疲れてしまう。それを避けようと、誰かが説得して自分を納得させてくれるはずだと考えるようになる。ハーバーマスは、そうした重要な気構えは教育水準が上がり、情報量が増えると出てくると指摘している。

    ー 皇国史観の基礎は江戸時代の水戸学にある。鎖国体制をするための動員のプロパガンダ術。それはその後、国家総動員体制を完遂するためのイデオロギーとして利用される。神話の無謬性を信じることで士気を高める。ウクライナにおいても、ガリツィア史観により、動員。

    斎藤幸平と佐藤優の対談が見てみたいな、と思った。ネットで検索すると、簡単に見つかった。

  • 〈ウクライナ戦争に関しては雨後の筍のように多くの本が出版されたが、書評に値するような作品がほとんどない〉

    この本は「STORY BOX」連載を書籍化
    侵攻以降の世界を俯瞰して捉えられると佐藤さんが思う片山杜秀さんとの対談を新たに収録、書籍紹介をしています。

    相変わらず神学の話は難しい。
    創価学会に対して肯定的。
    共産党にはかなり否定的。

    この辺りは今まで読んできた本と同様なんですが、
    今回初めて知って驚いたことがあります。
    佐藤優さんはソ連崩壊後モスクワ国立大学哲学部の客員講師をつとめていました。それは知っていました。
    今回それについての真相を知りました。

    〈筆者の場合、モスクワで何となくしていたことが結果しとして身分偽装になった。1つはソ連科学アカデミー民族学研究所(現ロシア科学アカデミー民俗学人類学研究所)の特別研究生として大学院に在学したことだ。
    ロシア人のインテリたちの間では、筆者は外交官としてよりも、民族問題に関心を持つ研究者として受け入れられた。その結果、他の外交官が閲覧できないような100~150部しか作成されていない部内使用の民族問題に関する機微に触れた情報を扱った資料を入手することができた。ここでアカデミズムの人脈を確立することができた。それがソ連崩壊後、モスクワ国立大学哲学部の客員講師をつとめることにつながっていく。
    モスクワ国立大学では、現代プロテスタント神学を教えた。筆者はモスクワ国立大学客員講師(神学修士)という名刺を作った。この名刺に嘘は記されていない。この名刺を持っていると学者ということで、通常は大使しか会えないようなクレムリン(大統領府)の高官と会えるようになった〉

    佐藤優さんの知的好奇心から生じたことでしたが
    意図せず偽装となったそうです。
    やはりロシア関係は佐藤優さん。
    そう思った瞬間でした。

  • 1012

    佐藤優
    元外交官で文筆家。ロシア情報収集・解析のエキスパート。魚住昭/ジャーナリスト。ノンフィクションに著作多数。青木理/ジャーナリスト。元共同通信記者。『日本の公安警察』『絞首刑』など著作多数。植草一秀/経済学者。日本経済、金融論が専門。(「BOOK著者紹介情報」より:本データは『 誰が日本を支配するのか!?政治とメディアの巻

    こういうときに重要なのは、歴史に学ぶことだ。日本は過去に何度か存亡の危機に直面した。このときわれわれの先人が危機から脱することを試み、それに成功した。この事実から学ぶのだ。

    世界との交通が比較的開けていたインドは、やすやすとヨーロッパの欲望の 餌食 にされました。インカ帝国とモンテスマの平和な国が、世界からどんな目にあわされたか、おわかりでしょう。私どもの鎖国が非難されていますが、もし門を開けたなら、大勢のクライヴとコルテスが、勝手に押し寄せてくるでしょう。凶器を持った強盗どもは、戸締まり厳重な家に押し入ろうとしたときには同じ非難をするに違いありません〉(前掲書)

    トーマシュ・ガリッグ・マサリク(1850~1937年) は、チェコの社会学者、哲学者、政治家で、チェコスロバキア共和国初代大統領になった。父親はスロバキア人で母親はチェコ人だ。  マサリク自身はチェコ人とスロバキア人の複合アイデンティティを持っていた。あえてどちらか1つを選べと言われたならば、マサリクはチェコ人を選んだであろう。  歴史的、宗教的、文化的にチェコ人とスロバキア人は背景を異にする。この2つの民族が単一の国家を形成することによって、マサリクは複合アイデンティティの問題に悩まされずに済むようになった。

    党中央が決定したことに、下部党員は無条件に従わなくてはならない。ブラック企業の論理に似ている。末端の共産党員が「しんぶん赤旗」の配達や集金で苦労している姿を見ると実に哀れになってくる。  さらに共産党員には私生活がないと宮本氏は強調する。

    一般論として、禁止事項は当該行為に及ぶ人が少なからずいるから設けられる。宮本氏が、飲酒、遊興、性的堕落、浪費、金銭上のルーズさについて指摘するのは、それが共産党員の弱点だからだろう。共産党内部に協力者を獲得する際には、金銭の提供、飲酒やギャンブル、セックスなどが有効な手段になるということだ。

    共産党のような党が「他に存在しない」というのは小池氏の指摘の通りだ。革命に命をかけた献身的な党員によって支えられる共産党は「普通の政党」ではない。

    〈④ 暗い神々。ナショナリズムは、先祖の血や土の力が再出現したものである。これは、ナショナリズムを愛する者と嫌悪する者との両方がしばしば共有する見方である。前者は、こういった暗い力を生命を躍動させるものと考え、後者は、それを野蛮だと考える。実際には、ナショナリズムの時代に生きる人間が、他の時代の人間に比べてより好ましい、あるいはより不快だなどという事実はない。おそらくより好ましいであろうという若干の証拠はある。彼の犯罪は、他の時代の犯罪と同等である。それらの犯罪が目立って見えるのは、まさに、犯罪がより衝撃的なものとなり、より強力な技術的手段によって実行されるからにすぎ

    具体的には、日本共産党が破壊活動防止法の調査対象になっている。情報の力で国民を守ることが公安調査庁の任務である。

    「仕事の性質上、公安調査庁のことを好ましく思っていない勢力が存在するのは事実ですので、自らの勤務先や仕事の内容をあまり積極的にオープンにしないようにしている職員もいます」  身分を明かすか否かは、各人の自由な意思に委ねている。そんな書きぶりだが、身の安全を 鑑みて身分は明かすべきでない──組織は 狡猾 にもそう示唆していたのである。自分が何者であるか、公にできない職業。その代償として報酬が上乗せされているの

    梶壮太は、両親を除いて、祖母にも親しい友にも公安調査官になったことを話していない。広島に赴任した同期は、公安調査庁に就職が決まったと明かすと、地元に住む祖父母の表情がこわばり、「おまえ、特高じゃの、中野学校じゃの、よう知らんが、そがぁな秘密組織入ってどうするんなら。やめとけ」と 諫 められたという。

    佐藤  私は「ニュークリア・シェアリング」という核軍拡につながりかねない議論には反対です。いまの日本には2種類の平和ボケが蔓延している。1つは憲法9条があるから大丈夫という平和ボケ。もう1つが血なまぐさい戦場の現実も知らずに、核共有や核武装などについて勇ましく語る政治家やコメンテーターの平和ボケ。 片山  対極に位置するように見えますが、戦後平和主義がもたらしたという意味では根っこは同じかもしれませんね。

    佐藤  日本の核共有の議論には、ねじれがあります。亡くなった安倍さんは、一見すると核共有の議論に前向きでした。しかし安倍さんは、核共有は不可能だと十分に分かっていた。一方で核共有や核開発は右派を引きつける強い切り札になると理解していた。だから自分たちのクライアントの支持を得るために核共有の議論を持ち出した。

    たくさんの人が貧しくなって疲弊してしまっている。その文脈で注目しているのが、臨床心理学者の東畑開人さんが書いた『なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない』(* 14) です。新自由主義の時代には、大きな船がない。みんなそれぞれ小舟に乗って進もうとするんだけど、個々の力には限界があってボロボロに疲れ果ててしまう……。彼の小舟論を読んで、これは心の逆襲だなと感じました。  心を見つめようという動きは日本では 70 年代の終わりからはじまりました。ユング心理学が広まり、文学では村上春樹が読まれた。その反動がオウム真理教です。 片山  心とは何か。突き詰めた結果、カルトに向かっていったわけですよね。ただ当初は狂気や攻撃性に気づいている人は少なかった。一般的には神秘主義的でオカルト、超能力をウリにする平和的な団体という認識だった。その影響もあり、事件の反動が大きかったとも言えますね。 佐藤  だからオウム事件後、心に代わり、脳科学が一気に優勢になっていったんです。心の動きは脳の作用で起こるという理屈です。ただソビエト心理学を想起するから、私はどうしても脳科学に対する違和感が拭えない。ソビエト心理学では、脳を操作することで、人間の行動や社会そのものを変えるでしょう?

    イギリスでは『ボブという名のストリート・キャット』(* 15) というノンフィクションがベストセラーになり、映画化されました。日本も近い状態なのではないかと思うんです。青年が路上生活に落ち、誰ともコミュニケーションがとれなくなってしまう。ある日、猫を世話しはじめたら、人とのコミュニケーションも回復し、薬物治療もうまくいくようになる。あの物語は猫を描いているようで、実はイギリスの……いえ日本も含めた先進諸国が直面した社会的な問題を突きつけてくるんです。人はホームレスは相手にしないけど、猫ならかわいがる。猫を媒介にして最低限の暮らしから這い上がる。猫を肩に乗せるだけで稼ぎが3倍になるそうです。

  • 2023年、34冊目です。

  • タイトルの書見、読書術の類か、と思ったが、まえがきにあるように、その実は
    「この本で紹介する各本は、各時代の様々な危機に直面しそれを乗り越えることに取り組んだ知識人たちの著作。
    今の時代は危機に直面している。
    だからこそこれらの本を読み解くことで、現代の危機を乗り越えるための知恵を得るのが目的となる。」
    とのことである。

    実際、読んだ感想としては逸脱しておらず、また佐藤優ならではの視点や経験、視座から、現代を生き抜くのに有益と思われる本がその推薦根拠とともに紹介されているため、読書人としては得るものが大きかった。

    本書ではとりわけ、佐藤優のインテリジェンス・オフィサーとしての視点や思考が前面に出ていてワクワクさせられた。
    また同時に、神学者としてのバックボーンも現れているため、職業と思想の関係性のようなものが把握できて面白い。

    既読のものもいくつかあったが大半は未読で、是非読もうとチェックさせていただいた。
    ありがたい。
    関係ないけど帯に写っている佐藤氏が激やせしてる点がとても気になる。体調大丈夫だろうか…。

  • 雑誌連載の読書案内の書籍化だが、掲載期間がコロナ禍と重なっているので、概ね「危機≒パンデミック」として話題が展開されている印象。尚、ウクライナ問題は最後に片山杜秀との対談として収録されているが、ここも中々面白い。
    紹介本は日蓮宗(創価学会)、キリスト教、共産主義(スターリン主義)、ナショナリズム、マスクス主義(コミュニズム)と、宗教やイデオロギー色が強いものが紹介されているが、その中で異色なのは手嶋龍一の公安小説と言えるだろう。

  • 神学の危機やチェコスロバキア、共産党の昔の幹部の話がどうタイトルにつながるか。これは難しい。知の巨人が描く世界観は、読者にも知力を要求する!?筆者の狙いはわからず、タイトルへのつながりは掴めなかった、残念!

  • ロシアに肩入れしてる感は拭えないが、一方的にしか入ってこない情報に「それでいいのか?」という問いかけができる人間は重要。

  • ウクライナとウルグアイを間違えてたという件はふいてしまいました。
    安倍元首相事件の容疑者を別の角度からみるとこう見えるのかと。多角的に物事を捉える必要性は重要ですね。

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著者プロフィール

1960年1月18日、東京都生まれ。1985年同志社大学大学院神学研究科修了 (神学修士)。1985年に外務省入省。英国、ロシアなどに勤務。2002年5月に鈴木宗男事件に連座し、2009年6月に執行猶予付き有罪確定。2013年6月に執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失った。『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて―』(新潮社)、『自壊する帝国』(新潮社)、『交渉術』(文藝春秋)などの作品がある。

「2023年 『三人の女 二〇世紀の春 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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