- Amazon.co.jp ・本 (656ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101001050
感想・レビュー・書評
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図書館本。
1-2ページの短編集。
オパールの指輪をする少女、レモンを絞り果汁を乳房に塗る女、夫に不自由となった身体を洗わせる妻←これは第三者目線ではあるが。
谷崎潤一郎がしっとりしたエロならば、川端康成はサラリとしたエロですな。
良き一冊。
何気ないことをサラッと描いた短編も多かったことも追記。
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短編以上に短い掌編小説が全部で122作(!)。きりの良いところでいつでも止められるので、寝る前に読む用でした。1作1作の書かれた年代が明記されてないのが残念ですが、40数年分だそうで、おそらく若い順に収録されていたのだと思います。
初期の頃のは、私小説ぽいというか10代の頃に日記に書いたようなものに始まり、そのときどきで、作者のマイブームらしきもの(やたらと踊り子が出てくるものが続いたり、伊豆ものがたくさんあったり)や、時事ネタというか時代背景を感じさせられるもの(戦中戦後など)もあり、短編として完成されているものもあれば、長編のエピソードの断片のように感じられるものもあり、ジャンルも色々で楽しめました。やはり後半になるにつれ、作家としての円熟味が増していったように思います。
いちばんのお気に入りは「屋上の金魚」。月夜に狂女が屋上庭園の水槽の前で口から金魚の赤い尻尾を垂らしながらむしゃむしゃ食べている姿がまるで眼前に浮かぶようで恐ろしくも幻想的。若い娘と老人の幽霊がさまよっている「不死」や、最後のほうの「地」「雪」「白馬」といった少し幻想性のあるものが個人的には好きでした。 -
本書は、職場近くの、チェーン店ではない、古くからやっていそうなある書店で見かけて購入した。
本書には約120篇の短編が含まれている。見開きの2ページで完結してしまうものから、10ページ弱程度続いた話もあった。巻末の解説にもあるように、著者の自伝的内容と思われるもの、著者の見た夢の内容ではないかと思われるもの、悲しかったり残酷さも垣間見られるような話もあれば、どこかほっとさせる雰囲気の掌編もあった。
予備知識がないので間違っているかもしれないが、おそらく収録は時系列順であると思われ、そうすると、初期の方が比較的短い作品が多いように感じた。また、短さもあって、どう解釈したら良いのか難しいと感じるものが多かった。
中盤の方の作品は、やや分量が多くなったが、その分、初期の作品にあったキレのようなものが少し鈍ってしまったのではないかと、個人的には感じた。情報が与えられすぎると、かえってどこか物足りなさを感じるのが不思議だった。終盤の方の作品になって、再び少し作品の長さが短くなったように感じた。
私が個人的に好みだったのは、描写の中に目に浮かぶようなきれいな視覚的イメージを扱っている作品だった。例えば、「秋の雨」など。またあるいは、厳しいなりにもほっとするような心の動きが感じられるような作品。例えば、「盲目と少女」。
それにしても、全体を通して、女性を扱った作品が多いように思う。著者は、女性というものに関心があったに違いないとは思う。ただ、この本における「踊り子」は、おそらく現代でいうと相当する職業はないのではないだろうか、イメージがつけにくかったというのが正直なところだった。
また全体を通して、散文詩的なもの、筋書きや人物像などが完全には分からなくても、どこか詩的な着想を感じさせるような作品も多く、とても良い読書体験だった。 -
夏頃から毎日「掌の小説」に収められている作品を一編づつ読んで感想をTwitterに投稿する「川端康成マラソン」という企画を立てて、ずっと読んできましたが、本日ようやく無事に完走できました。なんとか年内に読み終えて良かったです。中にはこの作品はどういう意味だろう?と理解が難しい作品もありましたが、でもそれも面白かったです。川端の老境にある人物たちの寂寞と追憶が美しいなと思いました。「硝子」や「屋上の金魚」「落日」などが印象に残ってます。
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アホの僕にはこれで終わり?となってしまうお話がちょいちょいありました。現代の刺激物みたいな物語に慣れてしまっているんですかね...?
ただそれでも不思議だったり、ドロドロしていたり、柔らかい感じだったり、凄く色々なお話があって楽しかったです。 -
人生のあっけなさ、運命の非情さを感じる作品群。
繊細で美しくも、ときに空恐ろしく感じる文章や、読む者に判断を委ねる定点観測のような視点が、なぜだか心地良く思える。 -
122の小説を、廁で毎日1つずつ。なので読了まで4ヶ月くらいか。名作を語れるような知識も言葉ももたないけれど、感情が乗り移ったしぐさにハッとしたり、おだやかな物語が急に狂気を帯びてきてゾッとしたり、読んだあとに考えこんでしまったり。
掌にのるような数ページの物語は、もくもくと膨らんで、厠での時間がこんなに充実してる人間は、この瞬間、世界で私ひとりかもしれんな、と思わせてくれる名作品集であった。 -
通勤電車の中で1日10ほどの作品を読んだだろうか。2週間ばかりかけて読み切った。夢の中の話のような気がして、自分の夢も書き留めておこうと思った。最近見て印象に残っているもの、何度も繰り返し見ているものなど10の夢。夢十夜。さて、いくつか印象に残った作品はある。「あなたが一目見てやると、死顔がこんなに安らかに変わるなんて。」本当は夫が手で顔をごしごしとこすっていた。でも、僕は思う。きっと妻はまだ完全には死んでおらず、やはり夫の声を聞いてほっとしたのではないかと(「死顔の出来事」)。足から血を出しながら馬車を追いかける少女。「少女は靴を履くと、後をも見ず白鷺のように小山の上の感化院へ飛んで帰った。」感化院ということばが突き刺さる(「夏の靴」)。親から強いられた結婚をしたくないと伯母に相談し、恋愛結婚をすすめられる。自分は道を過って三十年不幸だったからと。その伯母が生んだいとこと結婚したいと思っていた。立ち聞きしていた彼は婚約破棄の手紙を書いた。強いられた結婚をしなさいと。ただし、「そして私のように立派な子どもを生みなさい。」とは書けなかった(「子の立場」)。何人もの男に同じ手紙を書いた。そして、生まれてすぐに亡くなった子どもの骨といっしょに送った(「神の骨」)。何作か踊り子の話が続く。その中にあった。楽屋で乳首のまわりの白粉だけをふき取って赤子にお乳をあげるシーン。若いころ舞踏のワークショップに参加していた。その師匠夫妻が横浜のストリップ小屋に出るというので見に行った。そのとき、楽屋に入れてもらって、踊り子たちの疲れた表情を見て切なかったのを思い出した。そして、「ざくろ」。これが一番良かったかなあ。「母がよく父の残したものを食べていたのを、きみ子は思い出した。きみ子はせつない気持ちがこみあげて来た。泣きそうな幸福であった。」「泣きそうな幸福」ということばに心ひかれた。
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不安になったり、ドキドキしたり、ちょっと笑ったり。
そんな、長くても10ページ足らずのお話が122編。
短編以上に短編ではあるが、川端康成の文章の美しさがしっかりと堪能出来る。
川端康成と言えば、雪国とか、片腕とか、眠れる美女とか名作が沢山あるが…それにも劣らぬ名作揃いだと思う。
1日の終わり、眠る前に読むのにいいなと思った。