雁 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101020013

感想・レビュー・書評

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  • 最近現代小説ばかりだったので、久々の近代小説であった。初、鴎外作品。
    100年も前の作品だが、とてもそうとは思えない。人の感情の機微というのは、いつの時代にも変わらないのかも知れない。

    読んでいて感心したのは、ごく普通の、言ってみれば地味なお玉の心情の微妙な心の動きを描いている点だ。
    無邪気で純粋な少女であったお玉が、世の中の苦みを知り、ドラマチックな出来事ではなくあくまで日常の生活の中で徐々に「女性」へと変化していく様子が、とても繊細に描かれている。
    鴎外は一体どれだけの女性と交際してきたのだろう、と思ってしまうほどだ。

    タイトルの「雁」に込められた意味も色々と分析されているようだ。
    中盤までは全く登場しないのだが、終盤、お玉と岡田の運命がすれ違う分岐点として「雁」がとても象徴的に現れる。この雁の意味するところは多くの解釈があるところだが、渡り鳥である雁が死んだ、ということは、洋行した岡田の運命を暗示しているような気もしてしまう…。あくまで個人的な印象であるが。
    また、お玉のその後に関しては、「僕にお玉の情人になる要約の備わっていぬことは論を須たぬ」(p128)と言いながらも、僕がお玉に好意を抱いていたことは明らかであり(p115)、「僕」が岡田に対して劣等感を抱いていることはなんとなく読み取れるから、どんな形にせよお玉とお近づきになれたことは確かだろう。
    そう考えると、本作は単なる哀愁に溢れた淡い恋愛話というだけではない、どこかひんやりしたものを感じさせる。最後のたった一段落のあるなしで、物語の印象が大きく変わり、思わずウーンと唸らされた。。

    馴染みの上野が舞台となっていたこともあり、情景を思い浮かべながら楽しめた。
    この本を手にしながら上野を歩いてみたいと思う。

    レビュー全文
    http://preciousdays20xx.blog19.fc2.com/blog-entry-473.html

  • この話からは見えない、「僕」とお玉の関係がとても気になる。

    お玉が岡田に出会うまでの引き込み方がものすごく上手くて、違う世界に行っていた所で岡田との出会いに戻され、ハッとした。

    すれ違い続ける人間模様、なんだか哀しい。

  • 高校のときに課題図書だった本。

    あのときはおもしろくないなって思ったけれど
    読みなおしてみるとけっこう違う印象。

    岡田とお玉、両者から聞いた話を照らし合わせた物語。

    お玉にとってみれば、岡田青年を想うことは
    ただの恋愛感情なんかよりもっと深いものだったんだと思う。

  • 明治時代に書かれた小説ではあるのに読み易く、登場する人物の描写から、現代の人間となんら変わらないところに驚きでした。
    いつの時代も末造のような男はやはりいるし、だからといって末造は憎むべきキャラクターでもない。
    お玉のように妾として生きていくしかないという女性は今はあまりいないとしても、密かな恋に淡い期待をして、ほんの偶然、縁というそれだけのことでそれきり結ばれることのない恋、実は私たちの周りにこのような悲しい恋は毎日のようにはかなく終わっているのだと改めて思いました。
    そう考えると、何気ない一瞬の出来事であっても、人の一生を左右していくんですよね。
    岡田には多少イライラさせられましたが、だからこそこの物語は成立するのですし、結局のところやはり岡田のような男に女は惹かれてしまう。いつの時代も変わらないです。

  • この本を読んで無縁坂を歩いてみた。
    緩やかな情緒のある小道でこんなショートストーリーがよく似合う。
    下げが名残惜しく清々しい。

  • 実は始まらなかった噺。

  • 『森鴎外を読む』

    読みやすく入りやすい作品だった。以前読んだ森鴎外は辞書とにらめっこだったが、今回はほとんど辞書を引かずに読了。言わずと知れた名作。

    静かに狂う登場人物の思考に現代文学に欠けたカオス(明治時代にすでにカオスを使っているのには驚いた)を感じた。

  • 年老いた父の暮らしを考えて、高利貸しの妾となった娘・お玉。
    本当の恋を知らないまま、お玉は身のこなしだけは大人の女性となる。
    そんな彼女が、時折窓から見かける美丈夫・岡田に恋をした。
    純情に振る舞いつつも、内心は岡田に激しく恋い焦がれる。
    岡田もまた美しいお玉を気にかけるようになった。
    長らくいま一歩が踏み出せない二人だったが、遂に運命の日が訪れる。

    ******************

    当時の湯島天神や本郷、上野などの描写が多く、「昔はそんなだったのかー」と今の景色を思い浮かべながら浸ることができました。
    個人的にはお玉の方が岡田よりずっと想いの気持ちが強かったと思います。
    岡田はどこか一線を引いて、「違う世界の人」と感じながらも憧れていたように思えました。
    純粋な片想いって可愛らしいなー(*^^*)
    気持ちだけが募っていく恋というのは沢山の人が経験していると思うので、読めばお玉に共感できるのではないでしょうか。

  • 本妻、お妾さんと女性の心情描写が見事だった。
    お玉さんが可愛らしい!
    読了後、不忍池を散歩したくなった。

  • 日常的な他愛もないとした話。
    ただ、登場人物は活き活きと描写されている。
    上野に森鴎外記念館があり、当時ここに滞在して「雁」を執筆したらしい。

著者プロフィール

森鷗外(1862~1922)
小説家、評論家、翻訳家、陸軍軍医。本名は森林太郎。明治中期から大正期にかけて活躍し、近代日本文学において、夏目漱石とともに双璧を成す。代表作は『舞姫』『雁』『阿部一族』など。『高瀬舟』は今も教科書で親しまれている後期の傑作で、そのテーマ性は現在に通じている。『最後の一句』『山椒大夫』も歴史に取材しながら、近代小説の相貌を持つ。

「2022年 『大活字本 高瀬舟』 で使われていた紹介文から引用しています。」

森鴎外の作品

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