蟻の棲み家 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101033419

作品紹介・あらすじ

東京都中野区で、若い女性の遺体が相次いで発見された。二人とも射殺だった。フリーの事件記者の木部美智子は、かねてから追っていた企業恐喝事件と、この連続殺人事件の間に意外なつながりがあることに気がつく。やがて、第三の殺人を予告する脅迫状が届き、事件は大きく動き出す……。貧困の連鎖と崩壊した家族、目をそむけたくなる社会の暗部を、周到な仕掛けでえぐり出す傑作ノワール。

感想・レビュー・書評

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  • 事件は、二人の売春婦の射殺と顔を撃ち抜かれた男の死体の発見。クライムノベル。
    この犯罪に関わったと思われる男女数人を女性フリーライターが、子供時代に遡って丁重に調べる。
    主犯格と思われる青年二人の対比が、面白い。
    一人は、医師の息子で恵まれた家庭生活を過ごして、意義あると思わせる大学生活を送る男。
    一人は、未婚のシングルマザーの元、貧困、虐待、家族崩壊、そして万引窃盗から犯罪に染まる男。
    社会的に守られながら、破滅的傾向に向かう大学生。蟻の棲み家のような世界から這いあがろうと、社会を見据えてきた底辺の男。共通項は、世間を欺くこと。
    ミステリーとしては、再読しても、このフリーライターがたどり着いた真犯人は、難しいかなと思う。社会問題としての貧困家庭の現状を、同情するのでも解決を探すのでもなく、現実を追うように書いている。最後の彼女の判断は、印象的です。

  • 何か、負のパワーに引き摺り込まれそうになる!

    育児放棄とか、暴力とか…
    小さい頃にそんな環境で育ったら、どうなるんやろ?…
    そういう子どもが、大人になって、常識ないって言われるのも、側から見てるとそうなんやけど、実情を知ってるとね…
    本来は、産んだ親の問題なんやろうとは思うけど、ムリなら、国とかがもっと積極的にやらなあかんのやろう!

    何か凄い環境や。
    彼曰く
    「彼女たちに権利はない。ぼくにも、ぼくの母にも。妹はまだ、生きているうちに人権というやつをもらえるかもしれない。ぼくは、妹にそいつをやりたかった。人間として扱われる世界に押し込みたい。…命には尊い命とそうでない命があって、彼女たちも、ぼくも、ぼくの母も尊くない命なんです。…」

    人殺しなどの犯罪は、絶対悪やけど、こんな人たちに掛ける言葉は見つからん…

    どんでん返しもあり、面白かったけど、暗さは半端ない!

  • 若い女性の連続殺人事件と恐喝事件の謎を追う女性フリーライターを描くクライムノベル。

    貧困、虐待、育児放棄、格差、暴力、闇金などがテーマの社会派ミステリーは嫌いではないのですが…
    残念ながら私には合わなかったみたいで、時間ばかりかかってようやく読み終えました。
    だらだらと長くてとにかく読みづらかったし、ライター、事件関係者、マスコミ関係者、刑事の誰からも魅力を感じず、物語に没入出来ませんでした。
    辛口ですみません。

  • 2人の女性の射殺遺体が発見される。
    フリーの事件記者である木部美智子は、以前から追っていた企業恐喝事件と関連するものがあるのでは…と感じて繋がりを突き詰めていく。

    育児放棄のなか妹の面倒を見るために犯罪に手を染める吉沢末男と真逆の医者のドラ息子である大学生の長谷川翼。
    この2人に共通すべきことは一切なく、会話もなく物語は進むのだが、すべては木部美智子の凄まじいほどの行動力や洞察力(刑事をも超えている)に驚く。


    新年にはキツイほどの重苦しさの残る内容ではあったが、社会の暗部を抉り出す迫力に凄味を感じた。

  • 板橋区のバラック街で売春で生活していた母と少年。少年は当てにならない母の代わりに7歳にして幼い妹を懸命に養う。少年の独白で描かれる冒頭の数ページでガツンと物語に引き込まれる。
    中野区で立て続けに起きた若い女性の殺人事件が発生。地味な大田区の弁当工場への悪質で幼稚なクレーマー事案を取材していたフリーの雑誌記者の木部美智子は、やがて独自の調査で殺人事件との関連性を見つけ出す。
    徐々に真相に近づくにつれ、モラルや正義だけでは片付けられない社会の暗部を、表に引きずり出し、読者に提示する。
    テンポ良いミステリーであり、重厚なノワールであり、そして見事なまでのどんでん返し。やられた。

  • 24年のスタートは望月諒子さん
    殺人者からの2作品目ですが共通点は犯人が捕まらずに終わるストーリーでしたー
    捕まらないけど終わる……という違和感はあるけれど犯人側にはしっかりと目的がありそれが達成されて完結する物語って言う感じ。

  • 望月諒子『蟻の棲み家』新潮文庫。

    現代の暗部をリアルに描いた読み応えのある社会派事件小説。貧困の連鎖、ネグレクトが負の連鎖を呼び、悲劇へと繋がる。努力しても負の連鎖から抜け出せない哀しさ。連続殺人事件の背後にある真実が浮き彫りになる。

    都内で若い女性の射殺死体が相次いで発見される。フリーライターの木部美智子は、この連続殺人事件を追ううちに企業恐喝事件とのつながりに気付く。やがて、企業に第三の殺人予告が届き、事件は動き出す。

    本体価格750円
    ★★★★

  • 初読の作者さんでしたが、とにかく読むのに時間がかかりました。読んでいると眠くなってしまい話が先に進まない。
    結果的に、あまり没入できずに最後は斜め読みしてなんとか読み終わりました。
    社会派な題材に期待していましたが、個人的には合わなかった感じの作品でした。

    そして全然関係ないけど、作中にたびたび出てくる「白ロム携帯」がひたすらに気になりました。「白ロム携帯」って携帯ショップの在庫にあるようなまだ契約されてないSIMの挿さってないない使えない携帯を言うのでは?もしくはもう使わなくなってSIMを抜いたそのままでは使えない携帯を言うのでは?
    作中で言ってる「白ロム携帯」とは、よく犯罪で使われる他人名義の携帯電話、いわゆる飛ばし携帯のことを言っていたのでしょうか?とにかくその言葉が、ひたすら気になって仕方がなかったです。

  • 貧困が人を規定してしまう。そう考えるととても悲しい。しかし貧困家庭の子供はやはり貧困生活をする大人になる可能性は高いんでしょう。一部裕福な家庭で育ってもクズに育った奴も出てきますが、基本的には家庭環境に沿ってその後の生き方が狭められ、その枠の中から抜け出すことが難しいと思わされる本です。
    ミステリーやヒューマンドラマを読んでいると、虐待やネグレクトばかりが出て来て暗澹たる気持ちになりますね。
    この本を最後まで読むと、ノワールものだったのかな?と頭が混乱すること間違いなしです。そういう点ではどんでん返しなのかもしれないけれど。
    本作で殺された2人の女性の命の意味というのはこの本の中では全然見いだせず、心の中で迷子になっている感じがします。これはどういう事を言いたかったんだろうと物凄く不思議に感じます。不快といってもいいんじゃないかという感情です。

    貧困をテーマにした社会派ミステリーというのは無数にあるので全く目新しくありません。本作も王道なので「大どんでん返し」なんて金看板立てなければよかったのに。ハードル上げすぎた故の低評価というのはよくある話ですが、普通によくできた小説です。

  • 著者初読み。
    他の方のレビューにもあるが、帯の「大どんでん返し」に惹かれ、読んでしまった。
    ライター・木部美智子のシリーズの一つらしいが、他の作品を読んでいなくても、問題ないと思われる。
    中野区で見つかった二人の女性の射殺された遺体。
    大田区の企業恐喝事件を追っていた木部は、二つの事件が繋がっていることに気付く。
    そんな中、テレビ局に寄せられた3件目の殺人予告と脅迫。
    果たして犯人の目的は・・・
    木部の取材の様子と、板橋区に生まれた「末男」の目線など構成は複雑。
    事件に関わる人間に纏わりつく貧困と言う問題。
    重厚な社会派ミステリーなのだろうが、殺人事件も脅迫事件も犯人の動機の部分にどうしても寄り添えなくて、個人的にはどこが面白いか分からない内容だった。
    どんでん返しの内容も、それほどでもなく・・・
    木部があまりにも淡々としているのも、読者が感情移入出来ない一つの理由かと思う。
    警察などを利用して、事件の真相に迫っていく過程は決してつまらなくはないけど、展開にドキドキ感が足りない気がした。
    子供に生まれる家庭環境を選べないことには共感出来るけど、だからと言って、犯罪者になっていいとは思えないし、貧困が全て連鎖するような描き方が個人的には好きではない。
    貧困家庭に育っても、自分の力で生きている人の方が圧倒的に多いはずだから。

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著者プロフィール

愛媛県生まれ。銀行勤務の後、学習塾を経営。デビュー作『神の手』が、電子書籍で異例の大ヒットを記録して話題となる。2011年、『大絵画展』(光文社)で、第14回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。

「2023年 『最後の記憶 〈新装版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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