- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101050171
感想・レビュー・書評
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生々しい内容なのに、上品に思える文章だった。分析医という視点を使うことはそういう狙いもあったのかも。すごく読みやすい作品だった。
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初、三島由紀夫作品。精神分析学の知識が全くないので、途中、専門用語がどんどんと出てくるのは結構読み辛いものがあった。
精神科医院の汐見医師のもとに、麗子という美女が患者としてやってくる。「音楽が聞こえない」という症状でもって冷感症を訴える彼女の治療経過を追いながら、麗子はじめ汐見医師本人やその周辺の人々の性を解く。人間の中の憎しみや愛情や偽善や嫉妬、他にもどす黒いものと真っ白なものが織り混ざって見えて、読んでいて気持ちいい。
看護師の明美が、麗子に対して感じた、「冷感症の女は肉体的にも精神的にも解放されて自由」という考えがいい。
明美の立場が、麗子の立場に対して思うところがいい。 -
或る日、精神分析医である汐見のもとへ繊麗な美しさを持つ弓川麗子が訪れる。彼女が「私、音楽がきこえないんです」と語るところから物語は始まる。
「婦人公論」に掲載された作品で、大衆文学を意識した娯楽性を兼ね備えつつも、三島由紀夫氏の厳格無比な芸術文学的的特色も遺憾なく発揮されている。後期の作品であり、作家として余裕が窺える作品ともいえる。
本作品の「音楽」とは、序盤においてはオルガニズムの其れの比喩であり根底原因を探ることを主とするが、徐々に汐見の私人としての主観的感情と医師としての客観的分析が丁寧に織り交ざりながら、深淵なる結末に帰結することとなる。天才文才を持つ精神科医が記したのはないかと思うほどの完成度だ。
三島由紀夫氏の作品のなかではそれほどメジャーではないようだが、そうであれば隠れた名作といえよう。 -
タイトルからは内容を全く想像できない。今回は純文学かと思って読み始めたが、どうもそうではなさそうだ。精神分析の話が続く。「音楽」が聞こえなくなったと言って治療に訪れる女性。さて、その音楽の意味することは、それは読んでのお楽しみ。解説が渋沢龍彦というのもおもしろい。その中にもあるが、中盤以降で現れる自殺願望のある青年、その後どうなったのか、結局分からずじまいで気になるところだ。そんなことあり得ないよなと思いながら読んだけれど、人間が想像してつくった小説よりも、実際にはもっと不思議なことも起こっているから、まあ小説としてはこういうこともありか、と思い直した次第です。最後の一行は電報。「オンガクオコル オンガクタユルコトナシ」はてさて、いったいどういう意味か。これも読んでのお楽しみ。
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分からなかったし面白くなかった。俗。
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「音楽」と「冷感症」を結びつける三島由紀夫の観点にびっくり。
でも、読んでいくと人の心の深いところでは、ついた傷も感じる美しさも繋がっているのだなと感慨深くなってしまう。
一回読んだだけでは、まだまだ理解知りれていない感じがするので、またいつか改めて読んでみようと思います。 -
不感症に悩む女性患者について精神分析医が書いた学術的記録という体をとった小説。比喩的表現が多く、言っていることの何が真実で何が嘘なのかが分からない女性をあくまで分析的に見つめつつ、そんな謎めく彼女に惹かれていく自分の心をも冷静に描写していて、一定の距離感をもちながら彼女の核に迫っていく様子は静かながらにスリリングだった。精神と肉体の矛盾や愛情と憎悪など、対照的なものがごく自然に同居するのが人間なのだということを強く感じる小説で面白い。
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ずいぶんと読みやすく、最後まで一気に読めてしまった。不感症の女性と精神分析医の話し。文章の骨がしっかりしているのでこういうテーマでも品があり、耽美な印象を与える。たぶん、三島の入門書としてもちょうどいい分かりやすさなのではないだろうか。
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トラウマを抱えた女性が、語り手である精神科医と共に、不感症を克服する話。
昭和の小説特有の、また、直接的ではないが官能的な文章が、美しい雰囲気。