蟹工船・党生活者 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101084015

感想・レビュー・書評

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  • 『蟹工船』と『党生活者』はある意味で対照的な小説だったが、どちらも興味深く読んだ。理解が間違っているかもしれないが前者は社会主義的・共産主義的運動が組織化する前の原初的な労働争議の発生段階を描写したとも言えるような小説で、後者は、ずっと後になって工場内のストを策動させる為に潜伏している共産党員たちの物語であった。
    私個人的には共産主義的思想自体にはあまり共感はしないしこれらの小説を読んだからといってそれは変わらなかったが、「蟹工船」は、労働争議というよりもむしろ人間の最低限守られないといけない部分が危機に瀕した時に、弱い立場にある者がいわば自然発生的に反抗する、反抗すべくして反抗する様を具体的に描いていて面白かった(全く、立場を背景にいうことをひたすら聞かないといけないというのは不快なものである)。
    「党生活者」は、もっと時代が後になって、共産党の党員である「私」が、官憲の手から逃れながら、ある軍需工場内に秘密裏に潜入し思想的扇動を図ろうという話であった。これもリアルな小説で面白かったが、この時点ではすでにあるイデオロギーが確立(先行)されていて行動が後になっているので、例えばもしかするとこれが新興宗教の勧誘員の話であっても、また全く逆の立場の右翼団体の構成員であってもやはりおおよその筋書きは同じようなものになるような気がした。
    また主人公が心配する母を捨ててでも、あるいはヒモのようになってでも活動に邁進しようとする様は冷静に描かれているだけに狂気じみていると思った。作者自身の辿った運命を考えた時、作者自身が家族のことあるいは恋人のことなどと、社会全体を救いたいという信念とで、もっと深く懊悩することがあったのではないかとは思う。それをおそらく、寓意的な意味で小説に盛り込んだのではないかと思った。

  • プロレタリア文学の傑作、と評されるイメージとだいぶ違った。なんかマガジンとかに連載されてそうな漫画っぽい印象(ただしスプラッタ系)。海の波の描写が多いが、表現が独特でそこは面白かった。

  • 今の時代じゃ犯罪になる内容だけど本質は今のブラック企業と変わりないと思いました。
    漁のノルマを課して達成できたものには褒美与えを出来なかったものはキツイ罰を与えるシーンは去年問題になった某保険会社と重なりました。
    この本が出版されて100年近く経ちますがほとんど変わらない日本の労働環境に恐怖を感じました。

  • 初プロレタリア文学。労働階級の最下層の描写がなかなかリアルで衝撃を受けた。監督の浅川の異常なまでの厳しさも、社会の中で日本帝国のため、という大義名分を背負っていった結果生まれてしまったものなのかと感じた。ただ、その浅川でさえも、結局は一部の人間の歯車でしかないところに考えさせられた。
    文章自体は読みやすく、たまに入ってくるコメディー要素が全体の雰囲気を明るくしてくれている。

  • 文学にしては読みやすいから入口になるかも。
    ラスボスの他に裏ボスがいました的な話。

  • 汗と油の臭いが伝わってくるよう。

  • 『党生活者』の方は少し難しく感じました。
    『蟹工船』の過酷な労働環境は共感できるところもありました^^;
    プロレタリア文学って、言葉は知っていましたが、共産主義と深く関わっているのを初めて知って驚きました。そういう面でちょっとドキッとさせられるところもあります。

  • 遙か昔に読んだ。うっすらとしか覚えてないが、最後の一文は強烈だったこたは確か。

  • 初めて手に取ってから約10年。ようやく読むに至った。ずいぶん長いこと寝かせてしまった本。

    約10年前にブームになった際に母から買い与えられたのが初対面。今では珍しくもない「ブラック企業」という概念、単語が初めて取り沙汰されるようになった頃にそれに伴うブームだったとか。
    当時中学生だった私は結局は仕舞い込む結果となり、次に「小林多喜二」の名前と対面したのは日本史の教科書。その後も変わらず積読のまま。今になって手に取った理由は知り合いなら半笑いになること間違いなし。

    それでも、今、このタイミングでこの本を読んだことには意味があったと思う。本には読むべきタイミングがある、というのをどこかで見たような気がするが、私にとっての『蟹工船』を読むべきタイミングは今だったと心の底から思う。

    『蟹工船』で描かれるような劣悪な環境で働いているわけではないが、環境改善の為には団結して戦わねばならないと、そう思う自分の状況がある。
    本来ならば重なるところなど何もない筈なのに不思議と共感出来てしまい、さくさく読み進められた。
    ここしばらくは北原白秋の詩集を読み耽り、夢のような酩酊感に浸りながら綺麗なものばかり見てきたせいか、鈍器で頭を殴られるような感覚に陥りながら読み進めた。
    太宰以来、久しぶりに好みのど真ん中ストライクと言えるような文章を読んだ気がする。

    『党生活者』はとにかく結末が気になって、ページをめくる手が止まらなかった。

    とても楽しい読書が出来たと思う。他の作品も手に取ってみたい。

  • 「蟹工船」は露骨な表現が結構あって読むの苦痛だったりもしたけど、その点「党生活者」は読みやすかった。両作品ともエッセンスとエンタメ性は感じ取れた気がする。
    端的な感想は「すごく面白いけど私の感覚とは合わない」で、最後の解説を読んだら納得がいった。使命感に酔った極端な思想に基づいた生活に思えるものも、当時の過酷な状況を生き抜くためには必要だったのかもしれない。

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著者プロフィール

1903年秋田県生まれ。小樽高商を卒業後、拓銀に勤務。志賀直哉に傾倒してリアリズムの手法を学び、28年『一九二八年三月一五日』を、29年『蟹工船』を発表してプロレタリア文学の旗手として注目される。1933年2月20日、特高警察に逮捕され、築地警察署内で拷問により獄中死。

「2008年 『蟹工船・党生活者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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