流れる (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.75
  • (86)
  • (90)
  • (131)
  • (10)
  • (5)
本棚登録 : 1178
感想 : 114
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101116020

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ミーハー極まり無いけど『PERFECT DAYS』で作家に興味がわいて。

    登場人物たちの日常の、流れるように移ろい行く様を利発な女中の主人公の視点で柔らかく描く。
    舞台となる芸者置屋のちょうど転換期を描いてはいるけど、派手な事件が起きるでも無く、淡々と日常が過ぎていく。

    芸妓の着物や持ち物や化粧の艶やかさ、表情や声色や仕草から溢れる心情、花街の情景が主人公の目を通して鮮烈に綴られて読み手を本の世界へ引き込む。

    主人公の過去は細やかに仄めかす程度で、読み手に想像させる余白のバランスも良い。

    読み進める内に構造や雰囲気に映画と共通するものが見つかり実に興味深いと感じた。

  • 芸者置屋で働くことになった梨花という女性のお話です。華々しい世界の裏側の描写も面白かったし、梨花の心理描写も小気味良いテンポで描かれていて、読んでいて飽きなかったです。筆者の流れるような美しい文章に圧倒されました。とにかく物語の世界に没入できましたし、読んだあとの余韻が凄くて中々現実世界に帰って来れなかったです(笑)

  • 文章が独特で、調子が悪い時は頭に入って来ず苦労した。でも、面白い部分は面白かったし、今の職場に似ている場面がたくさんあった。女が集まるとどこもこうなるのかな。仕事のできる梨花さんかっこいい。

  • 池上嘉彦『日本語と日本人論』(ちくま学芸文庫)p.261に、本書の冒頭部分が引用されていた。(但し、多田道太郎『日本語の作法』に書かれている内容の紹介として書かれている。)

    「このうちに相違ないが、どこからはいっていいか、勝手口がなかった。」(本書p.5)

    この一文は、外国人には難しいようで、苦し紛れにではあるが、「相違」が文の主語であると解釈した例が紹介されていた。

    さて、私はというと、引用されていた冒頭の一文を美しいと感じ、それならば全体もそうなのだろうと思って手に取ってみた。

    期待は裏切られることなく、これを外国語に翻訳しても伝わらないであろう日本語の美しさを堪能することができた。

    「やはりオフィスへ勤めた女学校出のくせなのかと思う。書ける手を持ったのがいけないのである。」(p.221)など、どう発想すれば「書ける手を持ったのがいけない」などという日本語が書けるのであろう。

    著者自身による、あとがき的な「著者のことば」は小説には蛇足ともいえる。しかし、『流れる』という書名に込められた筆者の思いが、分かりやすくも説明し過ぎてはいない長さと密度で書かれている。これならばあっても良いと思えた。

    梨花にはしたたかな面もあり、意志を持って自ら流れている。しかし、「ためらう心」(p.291)を失ってはいないようだ。

    小説であり、人の生き方についてのエッセイのようでもある。名文にして考えさせられるところのある作品であり、時間を置いて幾度も読んでいきたい。

  • 主人公の梨花が、傾きかけた芸者の置屋に住込みの女中として働き始めるところから話は始まる。
    「くろうと」の世界に初めて入った「しろうと」なのに、右も左もろくすっぽ説明されないうちにこき使われる。
    なんと初日は晩ご飯を用意されていなかったのだ。住込みなのに!

    梨花は目端が利いて、気働きができるので、次第に主人一家からも通いの芸者たちからも信頼されてくる。
    梨花の賢いところは大事なことを見逃さず、出過ぎた振る舞いをしないこと。
    誰に対しても公平であること。

    彼女の半生については多くを語られないので、戦前は女中を持つ側の奥さんであったこと、家族とは死別したことくらいしかわからない。
    多分戦後のどさくさで財産を失くしたうえに、家族の病気治療などで没落していったのかなと想像できる。
    先日読んだ『小さいおうち』の時子がもし戦後生き抜いていたら、このような境遇にならなかったとも限らない。

    置屋の主人とその娘、姪とその娘という女所帯のうえ、通いの芸者が3人。
    元は7人いた芸者が3人に減っているのだけれど、その減らし方もよろしくない。
    どうにもお金のやりくりが苦しくて、あちらにもこちらにも不義理を働いている様子である。
    けれども「しろうと」の梨花はこの世界に身を置こうと思い決めている。

    タイトルは『流れる』。
    流されるではなく流れるなのだから、彼女たちの生き様を非難しているわけではない。
    ただどうしようもなく時代は流れていき、人は低い方に流れるものなのだ。

    物語の最後、女たちはそれぞれに身の振り方を考えていく。
    そして梨花にもそれなりの話が来るところで終わる。
    いちおうはハッピーエンドなのかもしれないけれど、梨花のこれからがハッピーである保証はない。

    タイトルは『流れる』だけれど、流されていくのでも、流されまいと気張るのでもなく、流れを見据えながらそこに根を張ろうとする梨花が主人公というところに納得した。

  •  1956(昭和31)年作。
     住み込みの女中となった女性の視点から、落ち目の芸者家の様子を描いた小説。
     文章がとても良い。ちょっとした言葉の選出などにいちいち味があり、絶えず気を配った彫琢された文体である。これに浸っているだけで充実感がある。
     一方物語内容や構成などにはさして出色のものはないと感じたが、どうだろうか。が、平凡な日常を細やかに描出した小説世界は、それはそれで価値を持つのかもしれない。

  • 言葉はきれいだけど、話はよくわからなかった
    久しぶりに眠い話だった
    自分には合わない作風なのかな
    でも、言葉の表現はきれいなので、他の作品を読んでみようと思った

  • ゆるゆると流れるような美しい文章!日本語の流麗さ。

  • 昭和31年の本。
    じっくり読みたいが図書館への返却期限などあり
    ざっくりスキャン読み。
    また思い出したら、今度は一冊だけ借りてきてゆっくり浸りたい。

    映画鑑賞。
    他の方の感想を読んだり、小説かじって内容はなんとな〜くわかるかな、程度で見たけど、楽しめた。
    時間が不可逆的なように、傾く芸者置屋は経営が持ち直すことはなく。昔の男には相手にされず。でも見栄を張らなきゃ生きていけない、かなしくしぶとい女たちの生き様。リカの強かさ、しなやかさ。

    時代を感じる女子職業安定所。
    この時代に自立していた、またはしようとしていた女性たち。その自立をするための商売の相手は男性。それは、この小説の場合、時代だからだが、いまも女性の自立の影には男性という別の性ではないとできない何かがある気がする。

  • めっちゃ面白い。
    それからすごく不思議。
    1955年に書かれた小説なのに、すごく今風っていうか、
    なんかね、すんごい面白いお姉さんのツイッター見てる感じ。
    何十年も昔の小説だなんて思えない。

    ……って考えてたら、高橋義孝先生の巻末の解説でちゃんとした文章で説明されてた笑
    「文字によって構成される文章というもののロジックではなしに、話される生きたことばのロジックに従って文章となったというのが幸田さんの文章である。」
    それそれ!!!

    多分ね、生のことばで書いてあるから、古い感じがしないの。
    すっごく新しいの。
    今も昔も、人間の思考回路なんてそう変わんないんだなって感じする。

    しろうとの主人公の目で語られる花柳界の雰囲気がすごくリアルで面白い。
    私は冒頭の「猫だわよ!」と、
    駐在さんに出す志那そばをとんでもないところから手渡しするシーンが好き。
    声上げて笑っちゃった。

    作者の分析的な視点も効いてる。
    ま~~~~~芸者衆の性格が良かったり悪かったりするんだけど、
    そのキャラクターデザインが優れてて、
    「確かにそういう人生を歩んでたらこういう性格になって、こういうことも言うだろうな」
    って納得しちゃう。

全114件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1904年東京向島生まれ。文豪幸田露伴の次女。女子学院卒。’28年結婚。10年間の結婚生活の後、娘玉を連れて離婚、幸田家に戻る。’47年父との思い出の記「雑記」「終焉」「葬送の記」を執筆。’56年『黒い裾』で読売文学賞、’57年『流れる』で日本藝術院賞、新潮社文学賞を受賞。他の作品に『おとうと』『闘』(女流文学賞)、没後刊行された『崩れ』『木』『台所のおと』(本書)『きもの』『季節のかたみ』等多数。1990年、86歳で逝去。


「2021年 『台所のおと 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

幸田文の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×