- Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101117027
作品紹介・あらすじ
平穏な日々の内に次第に瀰漫する倦怠と無力感。そこから脱け出ようとしながら、ふと呟かれた死という言葉の奇妙な熱っぽさの中で、集団自殺を企てる少年たち。その無動機の遊戯性に裏づけられた死を、冷徹かつ即物的手法で、詩的美に昇華した太宰賞受賞の表題作。他に『鉄橋』『少女架刑』など、しなやかなロマンティシズムとそれを突き破る堅固な現実との出会いに結実した佳品全6編。
感想・レビュー・書評
-
初吉村昭。太宰賞も獲った表題作収める初期作品集。
巻末コメントの言を借りてしまうが、ロマンチシズムと冷徹な現実の合体、がとにかくしっくりくる。どの作品もラストに独特の寂しさがあり、恐ろしく完成されている。
作者はノンフィクションの調査力に定評があるが、物語の力も相当だと感じた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
死体とか自殺とか。あんまり楽しい話じゃない、なのに文章がすごく綺麗。こういう鬱々とした現実にさらっと美を入れ込めるって文章が上手じゃないとできないだろうと思う
個人的には鉄橋と石の微笑が好き
-
死後解剖される少女の視点で描かれる、「少女架刑」。
集団自殺を図ろうとする少年たちの姿を描く「星への旅」。
透明標本づくりに熱中する男性。
ありありと情景が浮かび、最後まで読み進めてしまう筆力に毎回圧倒される。
また、戦争体験をされた方の文章にも触れておかねばという気にさせられる。 -
昔読んだ漫画の中にモチーフとして登場していて、ずっと印象に残っていたが読むのが怖いような気がして保留にしたままになっていた。数十年の時を経てやっと購入。死をテーマにした中短編集で、思っていた通り暗い雰囲気に包まれた作品たちだけど、描写は素晴らしく美しい。透き通るような骨標本や暗闇に星が瞬く場面が頭の中で鮮明に映像化される感覚になる。ジャンルはかなり違うけどその感覚は宮澤賢治を読んだときに感じたものと重なる。これが戦時中を生きた人の死生観なのか。高校時代、現国の先生が太宰治の「人間失格」を評して〝精神的に参っているときに読むとヤバい〟と言ってたけど、この作品もどこかメルヘンめいた世界に引き込まれていきそうで、太宰治賞受賞なるほどと思った。
-
各作品それぞれに死が絡んでくる短編6編収録の短編集。
小説や映画、マンガをいろいろ読んだり見たりしていると、ほんとに時々「変な話だったな」「奇妙な話だったな」と思うものがあります。
この吉村さんの『星への旅』もそんな本でした。
と言っても、作品の完成度が低いわけじゃありません。いずれの作品も吉村さんらしい真摯で丁寧な描写、
そして過剰に感情を挟みすぎない冷静な文章でとても文学としての完成度は高いと思います。
中でも死体となった少女が語り手となり、自身が解剖されていく日々が描かれる「少女架刑」は語り手の異様さもさることながら、
彼女の語りで解剖に一種の美しさが、ラスト場面の荘厳とした感じも圧倒的でエンターテインメント性は皆無の作品ながらも、惹きこまれました。
表題作「星への旅」は集団自殺を企てる若者たちを、一人の大学生の視点から描いた作品ですが、
吉村さんの感情を挟みすぎない文章が、彼らが自殺に惹きこまれる理由となる倦怠感と非常にマッチしているように思いました。
語り手の圭一が星空を見上げた時の描写も美しいの一言いに尽きます。
この短編集の奇妙さは、それぞれの作品の死に対して必要以上に痛みや苦しみ、死を忌避する感情を挟まない点だと思います。
普段普通の小説を読んでいると死は避けるべきもの、忌避すべきものとして描かれるのですが、この短編集ではそういう感情があまり読み取れず、死に対して余計な感情を挟まない一種の透明感があるように思いました。それが自分の感じた奇妙さの理由のように思います。
そして改めて吉村さんの冷静な文章に惚れ直した作品でした!
第2回太宰治賞受賞作「星への旅」収録 -
人の心の動きと体の動きはどちらも不可解なんだけれど、どちらも鮮やかに描写されて息の止まるような瞬間だった。
-
戦艦武蔵とは全く異なる死をテーマにした短編小説。不思議かつ不気味な作品が多い。細かなディテールの描写や独特の視点、詩的な表現はさすが。文学的価値は高いかもしれないが、好みで言うと好きな小説ではない。完全に好き嫌いの問題。
-
標題作以外にも秀逸な短編が収められた納得の一冊。
特に「少女架刑」での死者の視点で語られる物質的な死と存在価値(霊的苦痛)、対となる「透明標本」での生きがいを持ちながらも無能となっていく人としての社会的な死への道程に立ち会うがごとき感覚に陥った。
この時代の文章(というか著者の特徴)は安心して読むことができる...。別の意味でハラハラしなくて良い。 -
往来堂書店「D坂文庫 2017夏」からの一冊。
吉村昭の作品はこれまでに何冊か読んでいたけれど、短編小説は初めて。しかも、これは昭和33年から42年にかけて書かれた作品を集めた、実質的なデビュー作ということらしい。
その筆致は、後に書かれる社会派作品群と同様、緊張感にあふれて鋭い。しかし、本書はそう評するだけでは不十分だろう。何しろ、収められた6編はいずれも生と死をテーマに書かれていて、鋭さに重さが加わっているからだ。
表題作の「星への旅」は、そのメルヘンっぽいタイトルとは裏腹に、日常の倦怠感と無力感から集団自殺を企てる若者の話であるし、「鉄橋」ではボクサーが列車に轢かれて不可解な死を遂げる。「少女架刑」では遺体となった少女が語り手で、その連作とも思える「透明標本」では、死体標本作成に取り憑かれた男の情念が重い。
冒頭で、生と死がテーマと書いたけれど、本書を読み終えてみると、生と死というのは実は紙一重の違いしかなく、死はいつでも生の隣にいて口を開けて待っているのではないか、などという妄想じみた思いにかられる。後の作品では、様々な死を描くことになるわけだが、著者はデビューした頃から既に死に対するスタンスを明確に持っていたのかもしれない。読むのに体力が要るこの短編集を読んだ今、あらためて著者の作品を読み直してみると、違う読み方ができそうに思える。