アメリカ彦蔵 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (576ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101117416

作品紹介・あらすじ

嘉永三年、十三歳の彦太郎(のちの彦蔵)は船乗りとして初航海で破船漂流する。アメリカ船に救助された彦蔵らは、鎖国政策により帰国を阻まれ、やむなく渡米する。多くの米国人の知己を得た彦蔵は、洗礼を受け米国に帰化。そして遂に通訳として九年ぶりに故国に帰還し、日米外交の前線に立つ-。ひとりの船乗りの数奇な運命から、幕末期の日米二国を照らし出す歴史小説の金字塔。

感想・レビュー・書評

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  • 嘉永三年、15歳で船乗りになり、破船漂流した彦太郎=彦蔵。
    米国による救出と援助、そして幕末日本での活動。

    めまぐるしく多くの人物が現れ、物語+データというような作品。

    しかしジョン万次郎、土佐長平につぎ読み進めるとめまぐるしいのは作品だけでなく、彼の人生で、作中度々出てくるような『漂流民はいつまでも漂流民』というような表現とそれまでの経緯に切なくなる。

  • 休みが続くときには
    どっしりした「作品」に
    手に取りたい

    随分前に
    買っておいたままの一冊
    はい積読の一冊

    読み始めたら
    これがこれが
    たまらなく面白い
    「ジョセフ彦」さんの名は
    幕末の歴史の中で出てくる
    「漂流民」「新聞の父」
    ぐらいの認識しかなかったのですが

    読み進めていくと
    その背景にある
    綿密な取材と
    濃密な資料の読み込みに
    圧倒される

    史実をベースにした
    良質のロードムービを
    見終えたようです

  • 歴史を裏・表・横から見たのではなく、歴史の証人であり、ガラスの向こう側に映る自画像とともにあった彦蔵。その視線は天賦の知性だったのではないだろうか。こういう切り口の吉村昭に脱帽するとともに歴史を照射する視点が討幕、佐幕、列強ではない漂流民という名の日本人がいたことを知った。世の中は今もまだまだ知らないことだらけ。

  • ジョン万次郎は有名だが、アメリカ彦蔵は知らなかった。吉村昭の史実の正確性を大切にする筆により激動の一生を追体験することができた。彦蔵の眼を通して、幕末維新、アメリカの南北戦争まで見渡すことができる。吉村昭の本は全て読んでみたくなった。

  • 漂流してアメリカ船に助けてられて、帰化したが
    ふるさとは日本と本人は思っているがその故郷には受け入れてもらえない。日本の為に働くが。
    日本人ともアメリカ人ともつかない気持ちは辛かったと
    思います。遭難してから亡くなるまで遭難したまま一生を終えてしまった。悲しいですね(ToT)

  • 嵐にあって漂流し、アメリカで数年過ごしたが、キリスト教に改宗していたため、日本国籍での帰国が叶わず、アメリカ国籍を取って帰国した男の話。

    英語と日本語を話す優秀な人材であったが、帰国してから、幕末、明治の時代に翻弄され、職や立場、住む場所は目まぐるしく変わる。

    自分の居場所を見つけることがてきず、仕事を辞め、病気がちになって過ごした晩年の過ごし方も印象的。
    大黒屋光太夫もそうであったが、漂流民は帰国が人生最大の目標になり、それが叶ってからは何を成し遂げるともなく過ごすということも多いのかもしれない。

  • 人生について深く考えさせられる本。

  • 嘉永4年(1851年)、炊(かしい)見習いの彦太郎(彦蔵)13歳が乗る永力丸が難破。漂流を続けるうちアメリカの商船オークランド号に何とか救助され、水主達はサンフランシスコへ。その後彦蔵は、紆余曲折あるものの、その都度親切なアメリカ人に助けられ、米国の神奈川領事館通詞として何とか日本への帰国を果たす。そして幕末動乱期に大活躍、明治維新後は徐々にその存在意義を失って、根無し草のように寂しく余生を送る。という訳で、本書は、「「アメリカ彦蔵」と呼ばれた一漂流民の壮絶な場外であると同時に、彼が見た幕末裏面史」(解説)になっている。

    ジョン万次郎と同じように壮絶な生涯だが、幕末期にこれだけ活躍した人物だったこと、今まで知らなかった。ちょっと比較はできないけれど、米国領事館で通詞をやって米英の要人と幕府役人の間を取り持ち、その後グラバー商会で薩長土肥の武器取引の仲介を担うなんて! その活躍の幅はジョン万以上かも。

    彦蔵だけでなく、彼と接点のあった他の漂流者についてもその足跡を丹念に調べた上で、淡々とした筆致で記している。著者の記録文学の傑作(の1つ)だと思う。

  • 漂流の果て、アメリカに辿り着き英語を習得して帰国した日本人はジョン万次郎が有名だが、その万次郎の帰国と入れ違うように、同じような運命を辿った播磨の漁師の子、彦蔵の物語である。永平丸という漁船で初漁に出るも台風に遭遇、運良くアメリカの捕鯨船に救助され13歳でアメリカに渡った彦蔵。当時、日本は未だ徳川幕府が支配しており、外国船が頻繁に現れはじめ攘夷の機運が高まった時期と重なり、海外渡航者の帰国は認められていなかった時代である。絶望の中、彦蔵は同時に救助された13人の水主たちを離れ、2人の仲間とアメリカ本土に向かう。そこで出会うアメリカ人たちは皆優しく、丁重に彼を取り扱ってくれている。当時は、すでに中国がイギリスとのアヘン戦争で敗北し、植民地状態にある中、欧米人の間でひどい扱いを受けていた状況である。日本が単なる極東の植民地の対象としてではなく、独自の文化や教養に対して一定の尊敬を受けていたということが影響しているのではなかろうか。そして、ジョセフ・ヒコとしてアメリカ人に帰化する。驚いたのは、米国に滞在中の間、3名のアメリカ大統領と謁見したことであろう。ピアーズ、ブキャナン、そしてなんといってもリンカーンと会った日本人がいたとはあまり知られていないであろう事実である。

    波濤に揉まれ、そして幕末、開国という大きな時代のうねりに翻弄されながらも生きていく彦蔵が、故郷だと思っていた地元にも馴染めず、日本人にもアメリカ人にも成りきれないことを悟りあることを悟り、最後に自分の居場所がどこなのかを求めて各地を彷徨う姿は哀れであった。

    吉村昭の筆力そして、圧倒的な調査に基づく歴史的事実の積み上げには相変わらず感嘆する。

  • 吉村昭の小説はそんなに買った覚えも無いが、いつの間にか本棚に多く並んでいる。特にファンというわけでなく、また、失望した記憶も多いのだが(逆に感動することもある)、不思議である。
    丁寧な下調べがこの人の持ち味のようだが、この本も小説というより史書を目指しているのではないかと言うほど細かい事実が書き連ねられる。たとえば、彦蔵がサンフランシスコで出会う他の漂流民についてxx月xx日船頭YYYYが死に・・・というように一々人名/日付を挙げつつ説明するが、この人名など物語のこの部分にしか出てこない。個人的には物語を冗長にするばかりで不要な記述にしか思えない。途中で放り出したくなったが何とか気を取り直して読了

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著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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