他人の顔 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101121017

作品紹介・あらすじ

液体空気の爆発で受けた顔一面の蛭のようなケロイド瘢痕によって自分の顔を喪失してしまった男…失われた妻の愛をとりもどすために"他人の顔"をプラスチック製の仮面に仕立てて、妻を誘惑する男の自己回復のあがき…。特異な着想の中に執拗なまでに精緻な科学的記載をも交えて、"顔"というものに関わって生きている人間という存在の不安定さ、あいまいさを描く長編。

感想・レビュー・書評

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  • 「素顔も、仮面もない、暗闇のなかで、もう一度よくお互いを確かめあってみたいものだ。ぼくはその闇のなかから聞えてくるに違いない、新しい旋律を信じようと思っている。」

    失くした顔の中心からうまれた宇宙に潜むブラックホールが、すべてをのみこんでゆくよう。日々の虚無感に抵抗しようと試みれば、あっというまにそこに吸いこまれていってしまう。そうして、それが実は、今に至っているのかもしれない。VTuberや、マスクをした歌い手や、SNSももちろんしかり、ひとびとは、顔 をもはや必要としていないみたい。SNS上での攻撃的なやりとりはもはや彼のいう、仮面性における「自由の消費」をそこで存分に愉しんでいるのではないか。それは、人間で在る ということから逃げているようにもおもえてしまう。あるいは、美容整形などをして、ようやく刻まれてきた年月(皺)を無にしてしまったり。そうして彼らは覆面をして徘徊し、みずからを映す鏡のような仮面を探している。
    「想像のなかでは、仮面は自分をさらすものかもしれないが、現実には、自分を隠す不透明な覆いなのだ。」

    そしてこれはきっと男と女とで途中からの印象も変わってきそう。
    ねえ、女を見くびらないでよ?全部わかっていたわ。
    独りよがりの哀れみは、じぶんじしんの仮面から逃れることはできない。愛する人を(隣人を)、その感情に寄り添うことではじめて、その境界線がとけてゆく。
    って、わたしたちが(男と女が)まったくちがう生きものなのだという、そんなことぜんぶきっとわかっているはずの男たちの御託が、なんだかとても愛おしいのだった。




    「愛想の壁でさえぎられて、ぼくはいつも、完全に孤独だった。」

    「美とは、おそらく、破壊されることを拒んでいる、その抵抗感の強さのことなのだろう。」

    「ぼくらの沈黙は、べつに会話を押し出してしまったためにおきた、真空などではなかだたのだ。もともと、どんな会話も、すでに小さくちぎって悲しみにひたした沈黙にすぎなくなってしまっていたのである。」

    「自分を愛することが出来ない者に、どうして仲間を求めたり出来るだろう。」

  • 他人の顔を借りて生きる。その本能的な喜びと悲しみこそが人間が核あるべきかを炙り出す。

  • 思弁的かつ実践的な葛藤が描かれていて難しかった。手記という体裁(読者=妻にたいし“おまえ”)で、欄外の注や末尾の追記など小説という枷からも外していくような印象をもった。顔認証やVR(顔を覆うデバイス)も登場した現在、主人公の仮面に対する懸念も現実味をおびてきた。

  • いろいろ経験してから読むのとでは、小説も顔を変えて、若い頃に読んだドキドキは感じなくて、自分が現実的に生きていることが寂しかった。
    物語も自分も視界は狭まり息苦しくて切ない。

  • 最初の方と終盤は特に面白く読めたが、主人公の手記のていなので、ずっとくどくどとひとり語りを聞かされている感じで中盤は結構つらかった。
    『箱男』よりはとっつきやすかった気もするけど、それでも面白さをちゃんと理解するのはまだ私には早かったのかもしれない。

  • 人はみな他人の顔を求めるものだと思う。 SNSで友人を作るのが当たり前になっている現代は、出版された時代と比べてもかなり「自分とは別の顔」が普及した世の中になっている。
    のみならず、コスプレやメタバース、ゲームのアバターなど「自分以外の自分」で自己表現ができる機会は多い。
    化粧や整形の普及もあって、顔がもたらすアイコン的特性自体も強くなったかなとも思う。

    本書の主人公は、他人の感情などまるで見ていない。妻・同僚の感情や思いやりに無頓着で、被害者意識で利己的な屁理屈と哲学をこねながら延々と同じ場所をぐるぐる回っている。結果として仮面と自己の同一性は歪み、現実との通気口となるはずの仮面は現実逃避の道具となってしまう。
    現実の抑圧を発散するためにSNSで認証欲求を満たすのも大概にしておけと、60年前には既に予告されていたのかもしれない。
    他者の存在なくして自己はあり得ない。他者の存在を無視した仮面もまた空疎なものに成り果ててしまう。

  • 中野スイートレイン で ベースの吉野さんとサックスませひろこさんと馬場さんが演奏した曲 映画の挿入歌ということで 原作を読んでみた。
    想像以上に面白い作品 私は奥さんは一目で見抜いていたと思った。
    附箋
    ・思考を一時中断させようと思うときには、刺戟的なジャズ、跳躍のバネを与えたいときには、思弁的なバルトーク、自在感を得たいときには、ベートーベンの弦楽四重奏曲、一点に集中させたいときには、螺旋運動的なモーツァルト、そしてバッハは、なによりも精神の均衡を必要とするときである。←これも結局聴き手本人の気持ちの持ちようなのかもしれない
    ・姉の髢 →「髪を結ったり垂らしたりする場合に地毛の足りない部分を補うための添え髪・義髪のこと。
    この主人公 何をしでかしたのだろうか まさか人を殺めたりしないよね

  • 現代(令和)におけるVtuberとかにも応用できる、予見してるなぁとか思った。

    自分の行動の動機や選びとる選択、何に起因し何に向けてるのか、日々の自分を内省せざるをえなかった。

  • 安部公房、よく分かんない。

  • ヤマザキマリさんが阿部公房を紹介してたのでよんだ。
    本当は砂の女を読む予定だったけどなかったので。
    文学的な文章は慣れてないので読みづらかったけど、とりあえず読み切ってよかった。
    人の本質は顔だけじゃないという本人だけれど、顔に対してのコンプレックスや偏見を一番感じとっているのが自分でもがいているのが読んでいて痛々しい。
    もし自分だったら、、こんなくどくどと言い訳せず
    整形技術も上がっている時代なので整形するだろう。
    ただ、仮面を作っている過程が具体的でなおかつゾワゾワするような感覚になった。
    また読んでもっと深く理解したいと思った

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著者プロフィール

安部公房
大正十三(一九二四)年、東京に生まれる。少年期を旧満州の奉天(現在の藩陽)で過ごす。昭和二十三(一九四八)年、東京大学医学部卒業。同二十六年『壁』で芥川賞受賞。『砂の女』で読売文学賞、戯曲『友達』で谷崎賞受賞。その他の主著に『燃えつきた地図』『内なる辺境』『箱男』『方舟さくら丸』など。平成五(一九九三)年没。

「2019年 『内なる辺境/都市への回路』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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