- Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101123028
感想・レビュー・書評
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・罪の価値観
「俺もお前もこんな時代のこんな医学部にいたから捕虜を解剖しただけや。──(本文より)」
世間の罪というのは、時代によって異なるとだな思った。例えば、平安時代では一夫多妻が当たり前だったが、今は不埒なこととして世間から見られている。
・本文の心情描写
さすが遠藤周作。色々な背景を持つ人物それぞれの思惑を見事に描き出されている。『沈黙』のようなダイナミックな文体ではなかったが、このような心情描写が精緻な文体も味わい深い。
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みなさんには、自分の生き方を変えた1冊はありますか?
ぼくは、子供のころから本を読むのが好きでした
高校生くらいまでは、推理もの、いわるるミステリ、というジャンルのものを手に取ることが多かったです
大学生になり、友達がこの本を勧めてくれました
今まで手にすることがなかった種類の本
読むうちに物語の中にどんどん引きずり込まれていきます
読み終わった時、自分の中の倫理観というものが根底から覆されていました
若かったのもあるのでしょう、自分の今までの考え方が全て変わってしまうほどの衝撃でした
今も時々読み返す本作はぼくにとって特別な存在です
テーマは、神なき日本人の罪の意識
遠藤周作さんは、カトリックでもあり、「日本人でありながらキリスト教徒である矛盾」をテーマに創作活動をされた作家だとぼくは思っています
晩年の作品「深い河」は、宇多田ヒカルさんもインスパイアされ、「Deep River」という楽曲を製作されています、本作もお好きだそうですね
太平洋戦争末期、九州の大学付属病院で米軍捕虜の生体解剖実験が行われた
参加者たちはなぜ解剖に参加したのか?
実際の事件をモチーフにしたフィクションです
悪いことをしてはいけません、いいことをたくさんしましょう
悪いことって何だろう、いいことって何ですか?
それは誰が決めることですか?
日本は法治国家なので、法の下に善悪は判断されるのだと思います
では、個人の倫理観というものは、どうやって形作られるのでしょうか
法ですら解釈により判断が変わるのに、倫理観とは何とあいまいなものなのか
疑うことなくそのあいまいな倫理観を全ての善悪の判断基準としていた大学生のぼくは、慄然としたのです
解剖に参加した主人公の勝呂医師を責めることができませんでした
もし自分が勝呂医師だったらそれに参加しなかったのだろうか
ぼくが勝呂医師になることなんてないのだから、そんなことを考えても無意味なのだろうか
なら、人の気持ちを想像したり慮ったりすることも無意味なのか
ぼくはこの本を読んだ後、本当にずっと考えています
読んだ後数年間は本当に苦しみました、罪を犯した人の気持ちを過度に慮る行為をやめることができずに
最近のSNSなどを見ていても、個人的には思います
切り取られた情報から、判事でもないのに自分のものさしで善悪を判断し、匿名で、不特定多数が自由に閲覧できる場で、人を批評することが恐ろしくないのかな
必ず傷つけることになるのに、知らない誰かを
本というのは、誰かの人生を変えてしまうくらいの力を持つ
それを知ってから様々な本と出会い、様々な考えに触れ、あれから数十年生きた先に自分の心が豊かになった気がしています
そんな、ぼくにとって新たな読書人生のスタートとなった大切な1冊です
実質上の続編となる「悲しみの歌」は、年を重ねて読むとまた味わいが全く異なる本です、こちらもよかったら
あの日ぼくの中に生まれた「海」と「毒薬」は、生きていくなかで少しずつ変容しています -
ヒーーーー、えぐい話
激ヤバ人体実験に関わる人たちの罪の意識を描いた作品
"闇の中で眼をあけていると、海鳴りの音が遠く聞こえてくる。その海は黒くうねりながら浜に押し寄せ、また黒くうねりながら退いていくようだ。"
動揺の感情表現の比喩やばすぎる
"恨み悲しみ、悲歎、呪詛、そうしたものをすべてこめて人々が呻いているならば、それはきっと、こんな音になるにちがいなかった。"
遠藤周作の言葉選びが凄すぎるんだけど……
色んな人の視点からオペという一つのシーンに収束していくのが面白かった
勝呂パートから戸田のアンニュイで影のある人間性を感じていたけど戸田パートでおまえ………………!!!!!!好きだ……………!!!!としか言えなくなった
こういう男が好きなんです…………………
自分に良心があるかを確かめるためにしっかりとオペに参加してしっかりと己の非人道性を感じているね!
もはや平成生まれのガキ(21歳)からすると戦争の話なんて本当にSFというか残酷な作り話のように感じてしまって、良くないなと思うんだけどもオペシーンの迫力たるや……百数十ページを息も瞬きもせずひたすら捲る時間があった
もうほんとに戦争やめようね -
おばはん、息子に会いたかったろうに。この人と米国人捕虜の死はちょっと辛かった。犬のマスもどうなったのか…
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11冊目『海と毒薬』(遠藤周作 著、1960年7月、2003年4月 改版、新潮社)
太平洋戦争中に起きた戦争犯罪「九州大学生体解剖事件」を題材にした名著。
戦争に歪められる医師の姿が描かれるが、本作が追及しているのは現代にも通じる人間の本質。出世欲や絶望、孤独、嫉妬、傲慢、恋慕、そのような欲望や感情が罪の意識を鈍らせることを示し、責任を転嫁することで罰から逃れんとすることの浅ましさを我々に突き付ける。
本作が描く悪に、無関係ではいられない。
〈夢の中で彼は黒い海に破片のように押し流される自分の姿を見た〉 -
難しすぎるしグロすぎる。戦時中の生体解剖の話。考えさせられる。
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海と毒薬。この本が課題読書だと知り合いが話していたので興味があり、読んでみたのですが、罪と罰、日本人とは何か。
戦争中はこんなにも人を変えてしまうのか。
という強い衝撃を受けました。
また、実際の事件があった場所がとても身近な場所であったため、改めて様々なことを考えさせられる1冊となりました。 -
意外と読みやすかった。初遠藤周作。