- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101131023
感想・レビュー・書評
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北杜夫 処女小説「幽霊」
難しい
テーマは「死の不安の克服」と捉えた
母への追憶が、母の異質性に結びつき、母(自然)との一体性から 死の不安を克服した小説と捉えた
タイトル「幽霊」の意味
異質な存在や死んだ家族がいる世界と捉えた。幽霊は 死への不安と死の願望の両義性や 家族との一体性を象徴するのだと思う
母の異質性と父との同質性の対照性
死に選ばれ美しく死んだ母と姉、苦しみながら死んだ父との対照的に描写した意味は、病気に苦しむ自分は 母姉と違い、父のように死ぬことを受け入れたと捉えた
終盤で目立つ自然を讃歌するような描写の意味
国破れて山河あり的な自然讃歌が終盤に大量に綴られることの意味が難しいが、死の不安を克服した充実感や生への渇望と捉えた
序文(無意識の中にある心の神話としての追憶)と結文(運命そのものである原始からの大地のひびき)の関係
自分の無意識の中の母 と 自分の目の前の自然 を同一視したものと捉えた
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物語後半、主人公は少年期の記憶を思い出す。そのとき、読者も自分自身の少年期の記憶を思い出す、そんな美しい体験をもたらす、美しい小説です。
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★3.5。
作家の代表作の一つであることに疑いがないのと同時に、若さに由来する何というか密度もその特徴ですかね。故に読者を選ぶ作品かと思われ。
しかしこの作家、徹頭徹尾私小説家なんすかね、その後の作品にも現れるエピソードが既にこの作品でも描かれてます。その意味では日本を象徴する作家と考えるべきかもしれませんな。 -
やっと読めました。とても難解でほとんど理解出来なかった(泣)花田少年史をイメージしてたが、全く違った。忘却の彼方の遠い自分の心の中の記憶が「幽霊」だったのかなぁ。あー難しい。。。今まで読んだことのない本だった。
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子供のころ、家の本棚にこの本の単行本版がならんでいた。お化けや妖怪(水木しげる系ね)のお話が好きだったわたしは「あの本を読みたい」と親に訴えて、あんたがおもっているような本じゃないんだよ、難しい本なんだよと、たしなめられていた。子供心に釈然としない、あきらめきれない思いが残ったのを覚えている。
著者が20代前半の頃に書いた作品で、副題のように、幼年時の記憶だとかマザコンみたいなものが主題。言われるとたしかにセンチメンタルだし若い感じがある。でも文章がすっきりしているので、センチメンタルさも嫌味にならない。ユーモラスな語り口であるとか、昆虫の描写には後の作品にも通じる北杜生らしさがある。 -
おそらくはユング心理学を還元法に用いて
いま・ここにある私(作者)から捏造された過去の記憶の物語
トーマス・マンの影響を指摘されるが
教養小説というより、偽私小説とでも呼んだほうがしっくりくる
とはいえ、自分を大きく見せようとするでもない
性のよろこびや、人間としての生きかた
それに、死に対する畏れが、幼心に目覚めていく有様を
やや気張った文章で書いている
その手法には、いま読んでも清新さを感じるが
クソみたいなナルシズムの産物…と言われると
それもまた認めざるを得ない
北杜夫のデビュー作で、もとは自費出版だったという
13冊売れたとか -
帚木蓬生のように、セピア色の印象が漂う追憶劇。
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幼い頃のことを、幼い心が感じた通りに、しかし独特の美しい文章で綴った小説かな、と思いつつ読んで、自分の幼い頃も記憶の蓋が開いたように思い出され、いい小説だな、好きだなと読み進めるうち、思い付くままどころか、かなり巧緻に構成された完成度の高い小説だということが分かり、圧倒された。
トーマス⚫マンを読み返したくなった。 -
透き通る美しさの際立つ文章!
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再読。人はなぜ追憶を語るのだろうか。冒頭の一文から心が奮える。忘れられた幼年期の記憶がアルプス連峰の自然のざわめきと荘厳な沈黙の元に、ふと耳にする牧神の午後の旋律のなかに幽かに静かに甦る。耳を澄まして、肌に感じて、とぎ澄まされた精神の源に神話となって還元される。名著。