落日燃ゆ (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101133188

感想・レビュー・書評

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  • 戦争のはじまる瞬間を淡々と描いているけど、こんな、事務的に進むのか、と非常に興味深い。
    これが史実というものか。。

  • いろいろ調べると、必ずしもこの作品のとおりではないようだが、広田弘毅という人物がものすごく好人物に描かれている。
    戦争に抵抗した外交官として、ということもあるが、なにより組織人としての在り方が美しく描かれている。自らはからわないという生き方、ひとつ公務員の理想像のような形で読めるなぁと思った。
    陸軍の愚かさというものがどうしても前面に出てしまうが、そして歴史の教科書でも、東京裁判の結果でもそういう結論になっているが、本当にそうだろうか。決して陸軍を賛美するわけでも正当化するつもりもないのだが、あの戦争に突き進んだ原動力は大衆、一人ひとりの国民ではなく、姿形のぼんやりとした「大衆」という生き物の意思だったのではなかったか。個人としては反対だが、世間体を気にしたときには賛成になるという「日本人」ではなかったか。
    情報が操作されていた、国民はだまされていたという意見があるかもしれない。だが、これだけ情報社会になったところで状況は変わっただろうか。賢い大衆で満ちあふれているだろうか。もう100年も前にガセットが指摘しているとおり、大衆は見たいものしか見ない。その責任を誰か数人に押しつけてしまうのは、なんともやるせない。それでチャラにはやっぱりならんのでしょう。

  • 東京裁判で軍人以外で死刑になった政治家、広田弘毅を描いた城山三郎の代表作。
    このような人物が過去に居たのかと大変興味深く、その深遠を探りたい衝動に駆られる作品である。
    東京裁判について、裁判とは名ばかりであり、政治的パフォーマンスの様相を呈していた内容に関しては、日本人として知っておくべき内容であろうと思う次第。

  •  文官で唯一、A級戦犯として東京裁判で死刑判決を受けた外相広田弘毅の伝記的小説。

     本書は「広田、哀れなり」との視点で書かれ、読破当時はそういう印象にあったが、色々なノンフィクションをあたった後となっては、東条らは勿論のこと、近衛自死後の広田に対するあの判決は止むを得なかったのでは、という気がしないではない。
     また弁解ではなく、事実が本人の口から語られなかったのも疑問が残る。

     ただ、本書は、著者の思いの詰まった小説としては「あり」なのは確か。
     なお、広田氏妻及びその家族の、軍人らとは一線を画すという矜持には感銘を受けた。


     ところで、日中戦争開始時の首相、近衛は戦後自決。当時の外相が広田だ。また、陸軍大臣杉山元も終戦一ヶ月内(降伏文書調印の時期くらい)で自決。
     なお、杉山の後の陸軍大臣板垣征四郎は東京裁判で死刑判決。

  • 東京裁判でA級戦犯として絞首刑を宣告された外相広田弘毅を主人公とする歴史小説。吉田茂と広田弘毅の対比が多く、とても対照的。自ら図らない気骨、権力に屈しないところにはとても好感が持てる。

  • 主人公たる広田弘毅が首相ということもあるけど、歴代首相が順番に登場して、ちょっとした日本史の再勉強をしている気持ちになった。それが不愉快ってことではなく、広田を軸にしつつそれとの関わり合いで語られるから、物語として自然の流れの中で登場している感じ。受験生時代、時間が無くて駆け足で流された近代史。当時は面倒なだけだったけど、やっぱりその時代を知らなきゃ始まらんでしょってことで、今は寧ろ自分の中での関心は高まっているくらい。そういう意味でも興味深く読み進められました。ただ、一番強い印象を残したのは、奥さんが死を決意した場面でした。静かな盛り上がりではあるけど、逆に痛いほど伝わってくるその心境に涙。

  • 大陸における陸軍の暴走。その中で外交関係の修復に奔走する広田弘毅の姿。本書を読むと、やはり先の戦争、広田弘毅に同調する有力者がもう少し多ければ、何とか防げたのではないか、と思ってしまう。
    同期の吉田茂が貴族的・野心的な人物で、庶民派・調整型の広田の足を引っ張っていたり、幣原喜重郎が広田を嫌い、同じく同期の佐分利を重用したりと、外務省の中で広田は冷遇されてきた。「物来順応」、「自ら計らわぬ」が信条で無欲な広田が不遇な外務官僚時代を経て、最終的に外相や首相にまで登用されたのは、やはり余人をもって替えがたい彼の外交官としての実力のなせる技なのだろう。
    東京裁判での一切自己弁護しない広田の頑なな姿には、歯痒さすら感じてしまう。それと対照的な吉田茂の権力欲の強さにちょっとガッカリ。
    そういえば、先の戦争に関わる主要人物、小説家や歴史研究者によって評価が別れる人物が多いが、本書を含め近衛文麿だけは評価(勿論ダメダメという評価)が一貫しているように思う。

  • 東京裁判で死刑判決を受けた七名のA級戦犯の中、唯一の文官だった広田弘毅について綴られた一冊。

    八月は、戦争に関する本を読むことにしている。
    その中で選んだ一冊が「落日燃ゆ」。
    不勉強なので、処刑されたA級戦犯というとまず浮かぶのは東条英機、松井石根、このふたりしか知らなかった。
    表紙写真に写る広田弘毅の顔を見ても、こんな感じのひともいたかなあという程度。

    石屋の息子として生まれた広田弘毅(改名前、丈太郎)は篤志家の援助もあり石屋を継ぐのではなく、勉学に勤しむ。外交官となり、質実剛健な広田は着実に仕事をこなし信頼を得ていく。

    広田が首相となったときもそれ以外のときも、広田が日本を憂い考えたことを妨げてきた軍部の人間と等しく戦犯とされ、処刑されることは、口にはしなくともどれだけ口惜しかっただろうと思わされる。
    権利を声高に振りかざし、責任は負わない政治家の多い中、真剣に日本のことを考える広田弘毅のような人間もいたことを知ることができた。

    松岡洋右、近衛文麿、幣原喜重郎、山本五十六など戦争を扱うときにしばしば目にする人物も多く描かれている。

    広田は『自ら計らわぬ』生き方を心がけていた。
    外交官は自分の行ったことで、後のひとに判断してもらう。それについて弁解めいたことはしないものだ。
    こういった外交官の矜恃を持つ広田のような人間が、現代の政治家に果たしているだろうか。
    広田弘毅のような人物が、今これまでにない程不安定で危険な方向へと向かいつつあるように感じる日本には、必ではないだろうか。
    広田弘毅は今の日本と世界の有り様を、どんな思いで見つめているだろう。

  • 登場人物が多くて、同作者の「毎日が日曜日」より大分時間がかかった。広田弘毅を通し戦争や東京裁判について描かれている。日本が一枚岩ではなかった、それどころか軍部も一枚岩ではなかった。それぞれが違う主義主張を持って正しいと信じる方向に突進していった。広田弘毅の「自ら計らわず」という美学は、個人個人にいたずらに「夢を持て」という今の価値観より私には馴染みやすい。

  • 広田弘毅をして、軍部の暴走を止められなかったとしたら、軍関係者以外に、誰が止められたのだろう?と感じた。
    計らず、という言葉に、共感を覚えつつも、残された家族のことを思うと、計っても良かった(=弁明しても良かった)のではないかと…。

    清々しさはなく、やるせなさが残りました。

    軍部大臣現役武官制の復活は、確かに誤った判断だったかもしれない、その以前から既に軍部は暴走しており、軍部大臣現役武官制はそれに拍車をかけてしまったのかも。

    しかし、広田弘毅の終生を通して戦争を見ることは、自分の視野を広げることにも繋がったと思います。

    伝記小説として、広田弘毅の人物像に迫り、時代背景も分かりやすかったです。広田弘毅のやったことについては、世間様で賛否両論あるようですが、僕はこの小説は素晴らしい小説だと思います。

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著者プロフィール

1927年、名古屋市生まれ。海軍特別幹部練習生として終戦を迎える。57年『輸出』で文學界新人賞、59年『総会屋錦城』で直木賞を受賞。日本における経済小説の先駆者といわれる。『落日燃ゆ』『官僚たちの夏』『小説日本銀行』など著書多数。2007年永眠。

「2021年 『辛酸 田中正造と足尾鉱毒事件 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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