あとのない仮名 (新潮文庫)

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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101134277

感想・レビュー・書評

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  • 泣きながら読んだ作品、思わず笑った作品、後味が悪く感じた作品。
    どれをとっても人間味の溢れた作品でした。
    現代の人が読んでも充分に共感でき、時代は違えど、人の営みや社会性はあまり変わりがないのかもしれないと、身近に感じられる。

  • 山本周五郎の短篇小説集『あとのない仮名』を読みました。
    『日日平安―青春時代小説』、『松風の門』、『栄花物語』に続き、山本周五郎の作品です。

    -----story-------------
    腕利きの植木職人が職を捨て、妻子を捨てた理由とは? 笑って泣ける傑作8篇。

    江戸で五指に入る植木職でありながら、妻とのささいな感情の行き違いがもとで、職を捨て、妻子も捨てて遊蕩にふける男の寒々とした内面を虚無的な筆致で描いて、周五郎文学に特異な位置を占める最晩年の傑作「あとのない仮名」、夫婦の変らぬ愛情を、枯死するまで色を変えない竹柏に託した武家ものの好編「竹柏記」ほか、「主計は忙しい」「桑の木物語」「しづやしづ」など、全八編を収める。
    -----------------------

    1942年(昭和17年)から1966年(昭和41年)に発表された作品8篇が収録されています。

     ■討九郎馳走
     ■義経の女
     ■主計は忙しい
     ■桑の木物語
     ■竹柏記
     ■妻の中の女
     ■しづやしづ
     ■あとのない仮名
     ■解説 木村久邇典

    相変わらずですが、山本周五郎の短篇は、安定した面白さですね… そんな中で印象に残ったの

    原田道場の師範代で、病気がちな師に代わり道場を切り盛りし、いつも忙しがっている牧野主計の抱腹な行動を描いたユーモラスな作品『主計は忙しい』、

    その藩に伝わる『杏花亭筆記』に、生まれつきの奔放無埒で勤め方よろしからずと記載されていた土井悠二郎と、藩公の正篤の主従間の友情を描いた感動の物語『桑の木物語』、

    高安孝之助は、親友の鉄馬の妹である杉乃に、岡村八束という愛人がいるのを承知で妻に迎える、妻が八束を愛していたることを知っている孝之助は、八束の悪事を妻に話さず、妻も孝之助に心を開くことはなかった… 孝之助と杉乃が真の夫婦になるまでを描いた『竹柏記』、

    江戸藩邸に将軍家を招くために御殿を新造すべく資金を調達するために帰国した家老・信夫杏所に対し、内政ひっ迫による窮状を知る勘定奉行の若杉泰二郎は真っ向から家老に反対… 泰二郎の言動に共感するとともに老獪で放蕩者の家老が真実に気付く姿が巧く描かれている『妻の中の女』、

    仲間たちと深川の岡場所にやってきた貞吉は、しづと出会った… 貞吉としずの出会いと別れを描いたちょっと切ない『しづやしづ』、

    かなぁ… 山本周五郎の作品は読むのをやめられなく魅力がありますねー 次も読んでみようと思います。

  • 表題の「あとのない仮名」の印象が強くて他を忘れる。

    周五郎作品は主人公に辛く当たって最後に解放するというカタルシスのようなものを用意していることがわりと多いのですが、この作品はそうしたポイントがない。

    世に拗ねた主人公であることは珍しくないけれど、その拗ね方に隙がない。一定の境地に達した完成された諦観を持っていてその拗ね方に、寂しさと不安を感じる。

    この作品は周五郎の最晩年の作品らしい。
    最晩年の作品として他に「おごそかな渇き」も読んだけど、あれもざわっとする読後感の強い作品だった。

    あれだけ労働讃歌のような作品を多く残している周五郎の最晩年の作品で、そこへの諦観をこれだけ鮮やかに描くというのはどういう心境だったのだろう。

  • ままならぬ世と人生を生きる群像の時代物歴史物中編集。沁みる。

  • 再読

    ・討九郎馳走
    ・義経の女
    ・主計は忙しい
    ・桑の木物語
    ・竹柏記
    ・妻の中の女
    ・いづやしづ
    ・あとのない仮名

  • 08.11.22

  • 久々に山本周五郎でヒットしました。
    討九郎馳走、竹柏記、読んでいて温かな気になります、武家ものとしてよい話でした。前者は爽快、後者はしんみり。
    義経の女、しづやしづ、あとのない仮名、切ない。
    桑の木物語、2/3まで下克上と思わせておいて主従。萌えるにも程がある。

  • 「桑の木物語」…「生きるだけ生きよう」という正篤の考え方の変化が、彼の家系に続いた不幸を克服させたに違いない。悠二郎と正篤の友情に感動。
    「竹柏記」…孝之助の「結局俺は退屈な人間に過ぎなかった」という自分の行いを悔いている直後にある結末を読むと、なんとも言えない幸せな気分になった。
    「あとのない仮名」…「酒の好きなやつに饅頭の話をしたってわかりゃあしねえ」なにもかもが上手くいってるように見える人でも、その人ならではの苦しみがあるということだろうか。主人公の源次があまりにも達観していて、しかもそれ故に他人に対して心を開かなくなってしまっていることがなんとも切なくなった。

  • 「桑の木物語」は、武士を捨てた悠二郎と若殿・正篤の主従の愛情を描く名作。長年の悠二郎と正篤のわだかまりが解けた最後の表現がすばらしい。『正篤は摘み溜めた実を口へ入れ、すばやく指で眼を拭いた』

  • "主計は忙しい"、"妻の中の女"がお気に入り。

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著者プロフィール

山本周五郎(やまもと しゅうごろう)=1903年山梨県生まれ。1967年没。本名、清水三十六(しみず さとむ)。小学校卒業後、質店の山本周五郎商店に徒弟として住み込む(筆名はこれに由来)。雑誌記者などを経て、1926年「須磨寺付近」で文壇に登場。庶民の立場から武士の苦衷や市井人の哀感を描いた時代小説、歴史小説などを発表。1943年、『日本婦道記』が上半期の直木賞に推されたが受賞を固辞。『樅ノ木は残った』『赤ひげ診療譚』『青べか物語』など、とくに晩年多くの傑作を発表し、高く評価された。 

解説:新船海三郎(しんふね かいさぶろう)=1947年生まれ。日本民主主義文学会会員、日本文芸家協会会員。著書に『歴史の道程と文学』『史観と文学のあいだ』『作家への飛躍』『藤澤周平 志たかく情あつく』『不同調の音色 安岡章太郎私論』『戦争は殺すことから始まった 日本文学と加害の諸相』『日々是好読』、インタビュー集『わが文学の原風景』など。

「2023年 『山本周五郎 ユーモア小説集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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