無明長夜 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (278ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101173016

感想・レビュー・書評

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  • 短篇集。どれもひたひたと暗黒が迫ってくるようで、怖い。特に『豊原』の少年が、最後に見せる諦観には、ギクリとした。児童虐待や育児放棄という重いモチーフを軽々しく取り扱って、ダラダラと長く書かれた悪趣味な現代小説のいくつかなど、軽く吹き飛ばされてしまうくらい、すごい。読みたかった『終わらない夜』の終始ずっしりと重たく暗い感じもよかった。既読作品がいくつかあったけど、やっぱり何回読んでもすごい。

  • 芥川賞を受賞した表題作、他6編。

     寓話(1966年)
     豊原(1967年)
     静かな夏(1967年)
     終りのない夜(1968年)
     生きものたち(1970年)
     わたしの恋の物語(1970年)
     無明長夜(1970年)

    巻頭、1966年のデビュー作「寓話」と、
    次の「豊原」は素晴らしく面白かったが、
    読者としてはページを捲るごとにトーンダウン。
    ともあれ、個人的に特に重要と思われる3編について。

    ■寓話
     偏屈な書家・桑木石道はカルト的な人気を誇りつつ、
     奇行で知られていた。
     年の離れた若い妻・裕子と、
     結婚前からの住み込みの家政婦・浜と共に
     静かに暮らしていたが、
     あるとき胡散臭い若者・多田が居着き……。
     *
     何の寓意なのか見当もつかないが、
     息の長い文体で奇妙な成り行きが淡々と綴られていて、
     半笑いでスルスルッと読み進めてしまった。
     最初は気難しい芸術家が周囲を振り回していたのだが、
     彼もまた運命に翻弄される一個の無力な人間だったということか。

    ■豊原
     タイトルは日本の領有下における南樺太の市で、
     現在の名称はユジノサハリンスク。
     父の仕事の都合で豊原へ移住した「僕」だったが、
     そもそも母には奇矯なところがあり、
     「僕」は母とどう接すればいいのか悩んでいた。
     *
     《毒親》という言葉が人口に膾炙した現在の方が、
     読者の理解が得やすかろうと思われる、
     うら寂しい物語だが、
     相互に愛情が感じられず、手枷足枷になる一方なら、
     子が親を捨ててもいいではないかと、私も考える。

    ■無明長夜
     語り手である30歳くらいの女性「私」は、
     御本山と呼ばれる田舎の大きな寺・千台寺を擁する
     山に焦がれていたが、
     宗教上の信仰とは違う性質の、
     名付け得ぬ畏敬の念に打たれてのことだった。
     夫の失踪後、一人暮らしを始めた「私」の中で、
     御本山への憧れが再燃したのだが……。
     *
     序盤の思い詰めた風な語り口に引き込まれたが、
     感情移入しにくいキャラクターであり、
     終盤の展開は作者が着地点を考えあぐねて
     力技に持ち込んだ感が否めない。
     この点については解説者・白川正芳も、また三島由紀夫も
     「小説とは何か」(1968~1970年:新潮社『波』連載)
     で指摘している。

    「終わりのない夜」や「わたしの恋の物語」には
    初期の倉橋由美子作品にも通じる、
    読んでいて生理的嫌悪感を催すテイストがあった。
    邪推だが、
    現代より遙かにコテコテの男社会だった文学界で、
    純文学(って最早何?)を指向する女性の作家は、
    こういう斜に構えたスタイルを
    取らざるを得なかったのだろうか。

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著者プロフィール

1934年生まれ。’70年「無明長夜」で芥川賞を受賞。’84年「満州は知らない」で女流文学賞、’92年「お供え」で川端康成文学賞、’99年『箱の夫』で泉鏡花文学賞、’00年、中日文化賞を受賞。他に、吉田知子選集(1)~(3)など。

「2018年 『変愛小説集 日本作家編』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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