- Amazon.co.jp ・本 (306ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101181103
感想・レビュー・書評
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小説家の塩野七生さんによる、主に映画を通じた人間考察エッセイ。
歴史ではなく映画を題材にしていても、そして、一つ一つが僅か数ページと短くとも、彼女らしい冷徹な考察力、そして骨太な文体が健在であることに、彼女の小説のファンとしては嬉しくなってしまいます。
取り上げられる映画や俳優、そして、テーマも、非常に多岐にわたっていて面白いです。
イタリアの巨匠であること疑いなしの、フェデリコ・フェリーニやルキノ・ヴィスコンティ作品を通じた美学論は当然のこと、アメリカ娯楽映画の代表とも言える、スティーブン・キング原作映画に登場する作家からみる作家論、エディ・マーフィーを通じて考える人種差別問題、黒澤明作品から考える戦争体験の伝承について等々…。
映画に全く関係のない作品が折々挟まれているのも、また面白いです。
塩野さんの過去の恋愛の一幕、最愛の息子さんの思春期時代のこと、はたまた、NBA(アメリカのプロバスケットボール)の有名選手たちそれぞれの個性や技量の美しさなど、本当に様々な話題が詰まっており、小説からでは分からない塩野さんのプライベートの一面が垣間見られます。
最愛の息子さんの影響も大きかったようですが、まさか、塩野さんがバスケットボール好きだとは予想外。
しかし、選手たちに対する観察眼と描写は、ハンニバルやカエサルなど、歴史中の幾多の名将たちを描いてきた塩野さんの視点と筆そのもので、なんとも魅力的なのです。
バスケットボールが美しいものだとは考えたことなかったですが、今度テレビ中継を観てみようかな、と、すっかり乗せられている自分がいました(かなり前に書かれたエッセイなので、文中に登場する往年の名選手はとっくの昔に皆さん引退してますが…)。
何より、やはり映画中心ということもあり、何度も名前が挙がった、塩野さんが最も愛したという名優ゲイリー・クーパーの作品を何が何でも観なければ…という切実な気持ちにさせられました。
塩野さんはとても好みがはっきりした方なので、嫌いな映画や俳優たちについては、歯に絹着せる余地なく「嫌い」と言い切っておられますので、万人ウケするエッセイではないかもしれませんが、塩野ファンなら、様々な塩野的美学に触れられるので、オススメです。 -
イタリアものでおなじみ、塩野七生さんの映画エッセイ集です。「人びとのかたち」というだけあって、映画の中でも登場人物の生きざまがはっきり描かれている作品が挙げられます。イタリア映画の名作、「山猫」など名画満載です。映画評だけではなく、内容はストロング。「おとなの純愛」や「男女の友情」、「不倫」「差別について」「言葉について」・・・といった切り口で、映画だけでなくご自身の価値観を語っておられます。このあたりの練れた感じが素敵というか、欧州の美意識を心ゆくまで吸ったかたの厚みを感じさせられます。楽しんだのは、マレーネ・ディートリッヒを扱った章です。音楽家のバート・バカラックが晩年の彼女の恋人だったことにびっくり!それに、塩野さんのお父様のご結婚されたときのお荷物が、本と、マレーネ・ディートリッヒが煙草を吸っている大型のポスターだけだったとか!基本的に登場する人物は塩野作品の例にもれず、いい男といい女ばかりです(笑)。個人的に大ファンのエヴァ・ガードナーを扱った章もあり、あまり映画を見ない私も思わず映画を見たくなってしまう1冊です。
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映画評論…ではなく、映画にまつわるエッセイ。
興味をそそられるものも有れば、
著者の感想には共感できたりできなかったりと言った具合。
映画好きは読んでみてもいいかも。 -
雑誌『フォーサイト』に連載された、著者の映画にかんするエッセイをまとめた本です。
著者の多くの歴史小説にも記されている人間観、とくに男に対する見方が、俳優たちにそくして語られていて、興味深く読みました。シドニー・ポワチエとエディ・マーフィについて論じた文章では、現在のハリウッドでくり返し論じられている差別の問題にも踏み込んで、著者の考えが率直に語られています。
ただ、多少不満に感じたのは、他の作品で示された著者の人間観の枠組みのなかに映画評がとどまっているように思われたことでしょうか。 -
映画評論ではなくそれにかこつけた随筆
作者は司馬遼太郎と同じような位置にあるので
(といってもそれをみとめないひともまた多いだろうが)
嫌うひともたくさん有るのはよくわかるが
同じ意味できらくに楽しく読める
司馬遼太郎がそうであったように
歴史小説家の随筆を国家日本の指標と真剣丹念に読まれても困るという意味で
そういうふうに思うわけだが
こういうように思うのも鏡に映して区別の付かないことでもあろう
そのことにわらえる程度に変わらずあって欲しいが
そんな風に思えるのは「歴史」にとっては長くもあり短くもある -
20180128:
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塩野女史がおそらく50代の頃に書かれたと思われる。映画についてのエッセイで興味深かった。昔の映画の紹介が多かったが、スタローンのランボーやダイ・ハード、プラトーンの紹介もあった。
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昔の映画がむしょ〜に観たくなった。舞踏会の手帖、子熊物語、トロイのヘレン、真夏の夜のジャズ、Same TIme、甘い生活などなど。フォーサイト連載エッセイの文庫化というのも驚き。
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今まで本読まず人ともしゃべらず生きてきて独断と偏見、非論理的な感覚に頼りきりだけの概念の頭の中になっちゃったのが、塩野さんの本を最近に読んでることで、人の手に扱えるものになろうとしてる感じする。
できるだけもっと読もうと思う
このエッセイは未読なので、今度読んでみます。