海の都の物語 ヴェネツィア共和国の一千年 2 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
4.09
  • (79)
  • (102)
  • (54)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 848
感想 : 55
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101181332

作品紹介・あらすじ

ヴェネツィア共和国は十字軍の熱狂に乗じて東地中海に定期航路を確立し、貿易国としての地歩固めに成功。異教徒との通商を禁じるローマ法王を出し抜き、独自の経済技術や情報網を駆使して、東方との交易市場に強烈な存在感を示した。宗教の排除と政治のプロの育成に重点をおき、強力な統治能力を発揮した内政にも裏打ちされた「ヴェネツィア株式会社」の真髄を描き出す。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 今回は元首たちがいかに安定した政治体制を築いてきたかを教えてくれる。プロローグでシェークスピアの「オセロ」「ヴェニスの商人」がありえない話とあるが、本筋と関係ないのでご愛嬌。
    宗教の排除、政治のプロ育成など強力な統治能力を発揮した内政を実現、維持できたのは、資源を持たない貧しい国だからこその危機感から生まれた。

  • 2巻は12〜14世紀について。

    マルコ•クィリーニ、バイアモンテ•ティエポロの乱の際に、反乱軍の旗手の頭の上に窓から小さな石臼を落として内乱を回天させた女性が、乱後に功績を認められ、何でも望むものを褒美として得られることとなった際に、女性が望んだものが、祭日に自分の窓からヴェネツィア共和国の国旗を掲げる権利と、家賃を据え置く権利だった、という愛国心あふれる慎ましやかさと、国がそれに応えて、その158年後でも家賃が実際に据え置かれていたことが記録として確認出来る点が素晴らしい。

  • 塩野七生によるヴェネツィア史の第2巻。本巻では、ヴェネツィアの一般的な商人の生き様と、年月が経つたびに洗練されていった共和政治について書かれている。衆議に基づく共和政治は、現代の民主主義と同じく、良くも悪くも意思決定に時間がかかるという特徴がある。ヴェネツィアでは、国家の存亡にかかわる重大事が発生したら、時限的な独裁官を立てて、国家としての意思決定をスピーディに行う仕組みが整っていた。これこそが、ヴェネツィアが1000年間存続できた理由だと著者は述べている。マキャヴェリの「政略論」では、共和国は有事に弱いとされているが、ヴェネツィアは海洋貿易国家ならではの「実利主義」が浸透していたため、ベターな政体を発達させることに成功したのであろう。

  • ヴェネチィア共和国がそのハンデ(資源がない、陸続きの強敵に囲まれている)を向こうに回して息の長い国家の礎を築くまでが描かれている。

    経済への過剰にも思える介入、徹底した英雄の排除、共同体を支える人々の立場の保証、個人能力に依存しない仕組み、商売を支えるための銀行の仕組み、政治のプロの育成、官僚組織の活用など、そのどれもが、公共の利益の最大化を目的としているという、著者の指摘(自分はそのように読んだ)に、ヴェネチィアの凄みを感じた。

    脚色はあるだろうけど、似たような立場の日本に住む者として、見習うべき点が多いと感じた。

  • 歴史書というより、ビジネス史として面白い。

  • ヴェネツィア共和国は十字軍の熱狂に乗じて東地中海に定期航路を確立し、貿易国としての地歩固めに成功。異教徒との通商を禁じるローマ法王を出し抜き、独自の経済技術や情報網を駆使して、東方との交易市場に強烈な存在感を示した。宗教の排除と政治のプロの育成に重点をおき、強力な統治能力を発揮した内政にも裏打ちされた「ヴェネツィア株式会社」の真髄を描き出す。

  • ヴェニスの商人という題でヴェツィアの経済についてクールに解説。シェークスピアの描くものとはかけ離れています。

    そしてヴェネツィアの政治。これは面白かったです。
    地形的にかなり不利なところにいるヴェネツィアは、極力独裁者を出さないでみんなで協力して頑張ってきたのです。
    水族館の鰯を思い出しました。

    ヴェネツィア共和国が経験したただ二つの反政府陰謀。「クリーニティエポロの乱」「マリーノファリエルの陰謀」後者はその後19世紀にロマン派の芸術家たちの想像力を刺激、ドラクロアが描きバイロンが書きドニゼッティとロッシーニがオペラに作曲。

    14世紀前半のこの陰謀のあと以後500年間政治的安定。それはそれで興味深いけど、21世紀の私がこうして本を読んでいるとやっぱり陰謀の部分が面白いと思ってしまいます。ごめんなさい。

  • 「ベネチア株式会社」の表現が面白い。現代のビジネスや組織論にも通じるところがある。この巻の気になったポイントは 1.海上交易で安定的に収益を得るために13世紀に初めて「定期航路(ムーダ)」を開設 2.宗教の政治への介入を防ぐために司教の権利・居住地域を制限する 3.議員層を世襲化して政治家のプロの階級を作り上げる 3.世襲化は現代からすれば疑問符がつきそうだが、政治家養成機関や公正なフィルタは当時どこにもなかったことを考えるに 親から子への教育で頼るほかなかったと著者は述べる。

  • この巻はヴェネツィアの経済と政治の考察。章構成がこうした順序になっているのは、ヴェネツィアにあっては、経済こそが政治のあり方を決定していたからだ。12世紀後半のヴェネツィアに生きた商人ロマーノ・マイラーノの生涯が紹介されているが、彼にあっては(おそらくは他の誰にとっても)国家の浮沈が、そのまま自己の浮沈に直結していた。20数年も故国に帰らず、東地中海で商売に邁進していた彼のような存在は珍しくなかったらしい。マルコ・ポーロでさえ、北京まで行ったことをのぞいては、これまた特別な存在でもなかったようなのだ。

  •  ヴェネチア商人の実態とヴェネチアの統治組織について書いてある。ヴェネチアの商人は初期は船長もこなす「コレガンツァ」という出資制度で海にでた冒険商人だったが(1155年から活躍したマイラーノ、結婚した妻の持参金も商売につぎこみ20年も家に帰らなかった)、後には複式簿記の成立や羅針盤・航海図などの発展と、定期航路の定着などもあって、本国で事務をとる生き方に代わっていくという話である(1431年には資産をもっていたバルバリーゴが例)。ガレー船のこぎ手は奴隷ではなく、給料を払う労働者であったそうだ。自分の荷物を船に積むことが認められており、船のなかの全員が自分の商売を行えたようである。
     政治技術としては、まずヴェネチアがとった共和制が如何に権力の独占をさける仕組みをつくっていたかということを書いている。ヴェネチアの貴族は政治のプロフェッショナルをつくるという点で、世襲制だったが、これは政治家になる資質が家庭教育によって形成されていたからである。ヴェネチア貴族は国政に参加できるという特権をもつ以外は平民と同じである。むしろ、国債を買わされたりして大変であった。元首の選出も人気投票にならないように、抽選と議員による投票の繰り返しである。強力な政府を求めて、「クィリーニ・ティエボロの乱」や「元首ファリエルの陰謀」などもあったが、いずれも鎮圧されている。基本的にヴェネチアの統治機構は、元老院・国会・内閣・審問委員会・総理府などがたがいに監視しあう制度で、各組織の内部でも多数決であった。戦場でも作戦は多数決、交易船でも航路が多数決できまったりした。重要事を決定する「10人委員会」などをつくったのはピエトロ・グラデニーゴ(1289年)。政教分離も巧妙に行われていて、カソリックの司教は何の権限もないまま放置され、元首の私的礼拝堂である「聖マルコ教会」が崇拝をあつめてた。ローマ教皇に「ヴェネティアでだけは私は法王ではない」といわしめたそうである。ヴェネチア貴族の親戚が法王になったりすると、国政から排除されたコントロールをさけるためである。

全55件中 1 - 10件を表示

塩野七生の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×