- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101181882
感想・レビュー・書評
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キリストの勝利という題目だが、まだ上巻ではその色はあまり見えない。コンスタンティヌス死後の3人の息子の権力争い。そして辻邦生の「背教者ユリアヌス」の主人公が登場する。苦労人ユリアヌスの真っ当な行動が、どんな副作用を産むのか中巻へと進みます。
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サスペンス風に始まる巻。今までとは違います。
登場人物も怪しい。
皇帝コンスタンティウス。気に入らない人を次々処分するために自分の首を絞めます。
そして去勢高官という人たち。オリエント風になって重要なポジションを得た人たちです。
そんな中で思いがけず
爽やかで健気で純粋な若者が登場。
ユリアヌス。
ここで自分がこんな気持ちになるとは夢にも思いませんでした♪☆*:
>若さは無謀を有望に変えることさえできる。
>副帝になるまでのユリアヌスは哲学を学ぶ一学徒でしかなかった。哲学は好きだから選んだ道であり、20歳から24歳までのユリアヌスは副帝になろうなどとは思ってもみなかったにちがいない。
>しかし好きだから選んだということは、自分の好みに忠実に選択をした結果であって、他者のためになると思って選んだのではない。つまり自分のためであって他者のためではない。ところがユリアヌスは副帝になって初めて自分でも他者にとって必要な存在になりうることに目覚めたのだ。人間は社会的な動物である。他者に必要とされているという自覚は非常な喜びを感じさせる。24歳で初めてユリアヌスはこの種の喜びを味わったのだった。
>高揚感は若者にそれまでやれるとは夢にも思わなかったことまでやらせる力をもっている。哲学の一学徒がやってみたら戦争まで勝ってしまったのだ。
辻邦生「背教者ユリアヌス」も読んでみたい -
ユリアヌスとても格好いいです。
長く続いて欲しい。
次巻が楽しみです。 -
久しぶりに期待できるカエサルが登場!これから先が楽しみ。
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コンスタンティヌス亡き後、帝国はその3人の息子と2人の甥に5分されて統治される。
が、直後に甥2人が暗殺され、コンスタンティヌスの息子3人の統治体制に。さらに、兄弟間の争いでコンスタンティヌス2世が死に、その後、蛮族出身の将軍により、コンスタンスが死ぬ。残ったコンスタンティウスがただ一人の皇帝となる。
反乱を起こしたマグネンティウスを倒すためにコンスタンティウスは発つが、東方に睨みを効かせるために、副帝を必要とし、自分の従兄弟に当たるガルスを選ぶ。しかし、ガルスは反抗的な態度を取り、最後は死罪となる。
代わりに立てられたのが、ガルスの弟のユリアヌス。コンスタンティウスの年の離れた従兄弟に当たるユリアヌスは、荒れ果てたガリアに送り込まれるが、そこで高い戦闘能力と統治能力を発揮し、蛮族に荒らされたガリアを再興する。
一方、コンスタンティウスは、父帝コンスタンティヌスの路線を引き継ぎ、キリスト教を優遇する政策を進める。 -
歴史上の出来事は、その時の権力者によって意味合いが異なります。紀元337年に病死したローマ皇帝コンスタンティヌスは、キリスト教を最初に公認したことで後世から「大帝」の尊称づきで呼ばれるようになりました。何せキリスト教は今に至るまで世界三大宗教の一つですから、ローマ帝国が勃興した頃からの八尾萬の神の信仰を認める大らかな宗教観を持つ国から、排他性の強い一神教の国へと変貌を遂げていったわけです。
大帝の死後間もなく、大帝の葬儀に出席していた弟、甥たち5人と高官多数が粛清されるというショッキングな事件がおこります。しかし、史料が殆ど残されていないため、詳細の判らない歴史上の闇の事件、正にヤバい時代になっていました。葬儀に出席していた中で虐殺を免れたのは次男のコンスタンティウスと少年だった甥のガルスとユリアヌスだけでした。
生前、帝国の防衛と統治を任命されていたのは、実子3人と甥の2人の5人、甥2人が殺されてしまったので、3人の息子たちが帝国を統治することになります。
3兄弟の物語は、性格の違いなどを引き合いにして古今東西数多ありますが、この場面でも筆者はまず長兄のコンスタンティヌス二世の性格を描写しています。後悔人間で被害妄想に陥り易いタイプ。帝国の三分割の統治システムになってから間もなく、彼は担当地域の分担の不満から末子と争いになり、結局殺されてしまいます。
そして、それから10年余り経ち三男のコンスタンスは、部下の陰謀により殺されます。彼は狩など自分の好きなことを優先させるタイプで気のゆるみがあったとか…
残った次男のコンスタンティウスは、副帝を父親が粛正の犠牲になった甥の兄(ガルス)の方に託します。しかし、長く幽閉生活を課せられていた彼は、性格の破綻をきたしており、周囲の高官との軋轢を生み最後は冤罪により処刑されるという悲惨な運命を辿ります。
父の葬儀の際の虐殺に関わっていたのでは?と筆者に指摘されるコンスタンティウスの性格はおっちょこちょいで苦笑するしかないとのことですから、凄惨な事件のイメージとは異なり意外です。結局、肉親を殺し過ぎて人材が不足、後々統治に苦しむ事態になる羽目に。
コンスタンティウスの下に残ったのは甥の一人、ガルスの弟、ユリアヌス。20歳になるまで幽閉生活を強いられた彼は副帝になると、誰もが予想出来なかった目覚ましい活躍をして国を統治します。戦闘も政治も全くのシロウトだったユリアヌスが何故それを成し遂げたのか。筆者はそこに才能より動機を挙げますが、私もそれにはなるほどと納得、何と言っても若い。解き放たれた高揚感は確かにあったように思います。 -
久しぶりに面白い人物が出てきた!ユリアヌス。「できないと思っていたことができ、しかもそれが人々を幸せにすることにつながるとわかったとき、その人は、これこそが自分にとっての使命、と思うのではないだろうか。」
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大帝コンスタンティヌスの後を継いだ皇帝コンスタンティウスの治世。
猜疑心が強く本質的には気弱であったというのが、コンスタンティウスの人物像に対する筆者の評だが、東西の正帝・副帝という四頭政でスタートした治世から兄弟や従兄弟である他の皇帝達を次々と粛清し、唯一の皇帝として君臨する過程は、父のコンスタンティヌスと繋がるものがある。
そして、そのプロセスで宦官が暗躍し始めるというところが、絶対君主制と呼ばれるようになったローマの帝政の状況を表していると思う。
皇帝としての彼は、軍事的には先帝ほどの才能を持っていたわけではないにしても、特に東方からドナウ川流域における防衛に十分な活躍を果たし、帝国の防衛という皇帝の役割を着実にこなしていた。
更に、キリスト教への対応という意味では、先帝が支配のための道具として公認したというこの宗教をローマ帝国の社会に定着させるという方針に「確信を持って歩みを進めた」皇帝であった。
皇帝の資産からの教会への寄進、教会への税の免除といった先帝の施策を更に進め、聖職者への税の免除・私有財産保有の容認といった支援に踏み切るとともに、偶像崇拝禁止令や神殿の閉鎖命令といった形で、ローマの多神教に対する抑圧を徐々に強めている。
特に、聖職者への税の免除は、元老院の弱体化やシビリアンとミリタリーの間の人的交流の遮断といった施策とあいまって、ローマの社会の高学歴層や富裕層をキリスト教聖職者への道に誘導していくことになる。
歴史的に見ればローマ社会のキリスト教化はすでに先帝の時代に決定づけられた方向性であり、コンスタンティウスは歴史の流れに従って、その方向性を粛々と推し進めたにすぎないのかもしれない。
本巻で採り上げられた彼の治世を通じて、ローマ帝国のあり方に対する皇帝自身の考え方というものは、今ひとつ明確な像を結ぶことがなかった。有能ではあっても、彼自身が帝国の方向性を切り開くということはなかったと言ってもよいのではないか。
この本後半で登場し、20代前半まで幽閉生活と哲学の学究生活を送りながら、副帝となり帝国の西方の防衛という課題に数少ない手勢で正面から立ち向かったユリアヌスの責任感と高揚感とは対照的な姿が浮かんでくる内容だった。 -
この書籍は、先帝「コンスタンティヌス」死亡後のローマ帝国の混迷話。