あのひとは蜘蛛を潰せない (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101200514

感想・レビュー・書評

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  • 蜘蛛とさざんかが印象的な作品。そして登場人物の心の機微がすごく共感できました。不完全な人間たちの交流がリアルだなあと感じた一冊。

  • 主人公に似ているところがあるからか、とても共感できた。
    三葉くんもバファリン女も、最初はイヤなやつかと思っていたけど、いい人で良かった。
    久々の恋愛小説で、ドキドキしながら読めた。
    途中、ブランド服などをプレゼントし始めたときには、「やばいぞ、アンハッピーエンドだったらイヤだな」と思いながら読み進めたけど、ハッピーエンドで良かった。
    一人暮らしを始めて、少しずつ親の言い付けを破っていって、他人への恐怖心にも立ち向かって成長していく主人公は格好良かった。
    何となく、自己肯定されて、前向きになれる作品だと思う。今の自分にはピッタリの作品だった。
    著者の他の作品も読んでみる。

  • なるほど、「神様のケーキをほおばるまで」も良かったけど、こっちの方がよく出来てるわ。
    綾瀬まる、味わえる小説かける人やなぁ。

    28歳女性、引っ込み思案のドラッグストア店長が、バイトで入ってきた若い男と恋仲になる。次第に距離を詰めるまではエエ展開だが、付き合いだして同棲して、入れ込み過ぎて、過干渉で、距離をおかれる。

    筋だけ書くと、どっかにあったような小説みたいだし、現実にもこんなのいっぱい転がってそうな話である。それが綾瀬のペン(じゃないやろけど)にかかると、不思議な味わいの小説になる。味付けの基本は娘依存症的な主人公母の存在。この人が主人公の人生を大きく覆う傘となっていて、雨を防ぐつもりが日光すら当たらなくさせてしまったこと。

    大切な人に徹底的に干渉したい、という欲求は誰しもが少なからず持っているものだと思う。若いうちはその欲求に振り回されて、自分も大切な人もワチャワチャになって、結果ギクシャク。そういう苦い経験を踏まえて人間は成長していくもん…

    なはずが、主人公母のように成長しきれない人はたくさんいるんだろうなぁ。我が子であれ大切な恋人であれ、過剰に関わるのは不幸の元なのだということ。子供はいずれ巣立つものだし、恋人は所有物ではない。人間は一人では生きていけないものだけど、インフラ整備状況としては一人で生きていく程度の整備はされている(現代日本)。

    大切なもの(人)との関わりに、どれだけ上手に距離を置くか。近づきすぎると見えなくなるし、近眼になって本当の姿を見えなくもなるんやで。
    若い頃なら分かっていなかった間合いの大切さが、苦い経験を経てちょっと分かる歳になったことで、この小説をしっかり味わえた。

    綾瀬まるは…中年殺しなのかもしれない

  • 通勤用の文庫本を昼休みに読み切ってしまって「帰りの電車で読む本がない!」と焦って職場近くの本屋で適当に表紙の気に入ったこれを購入。なんの予備知識もなかったけれどこれは「当たり」だった!

    28歳、実家暮らし、男性経験なし、ドラッグストアの真面目な店長・梨枝さんが主人公。タイトルにもなっている、蜘蛛を殺せないパートのおじさん柳原さんが最初に登場するので、おじさんとの不倫の話?と思ったら、おじさんは若い女と早々に退場、代わりに入ってきた二十歳の大学生アルバイト三葉くんのほうが恋のお相手でした。

    といっても、メインは年下彼氏との恋愛よりむしろ、梨枝とその母親との関係性。女手一つで兄妹を育ててくれたこのお母さん、けして客観的にみて悪い母親ではない。外で働きながらも家事は手を抜かず、料理上手でお掃除も完璧、どこへ出しても恥ずかしくない娘に育てるべく、非常にきちんと躾をしてくれた・・・にも関わらず、これがじわじわと、いわゆる一種の「毒親」であるという・・・この「じわじわ」感が、なんともいえず怖い。わかりやすい虐待、暴力や罵倒があるわけではないし、一見二人は上手くやっているように見える。自身も会社員だった母は洋服や化粧品を娘のために買ってくれたりもする理解ある母でもある。だからこそ、真綿で締め付けるように毒が染み込んでくる感じ。一人暮らしを決心した梨枝にこの母が吐いた言葉は、愛情ではなくいっそ呪い。

    そして、母親の支配から逃れたいと思いながら同時に彼女を憐れむ梨枝の、年下の恋人に対する愛情表現が、自分ではそれと意識せずにだんだん母が自分にしていたことと似てきていることに、読者のほうが気づいて不安になる。梨枝は母親のせいで自己肯定感が薄い子だけれど、とても真面目で、けして器用ではないけれど手を抜かない真摯さがあり好感が持てるだけに、アドバイスしてあげたくてそわそわしました(笑)

    最初のうちは若い子特有の残酷さが怖い気がした三葉くんも複雑なトラウマ持ちだったり、同じように母に反発しながらも可哀想な女が好きな兄、その兄と結婚した幼馴染の病弱な雪ちゃん、嫁が来て孫が生まれたことでおこる母の変化、ドラッグストアの客で薬物依存のバファリン女など、登場人物は誰しもちょっとづつ病んでる感があるけれど、基本的には支え合い向き合う努力をしようとしているところが前向きで読後感も良かった。

    はじめて読む作家さんだけど、エピソードの重ね方、キャラクター造形に過不足がなく適切で、なんというか、もうちょっと掘り下げると重くなったり嫌悪感に繋がったりする、すれすれの部分で踏みとどまっている感じが非常に上手いなと思いました。

  • 出だしと終わりが同じ蜘蛛のこと、文章の作り方が上手いから読むのが止まらない進んでいくんだ。最後は居なくなった柳原さんを疑問を持たずに心配している、これは成長なんだろうな、お母さんの呪縛から逃れて、でも膿のように蔓延っていて、恋人との楽しい日々がだんだんと無くなる様に、物語も下火になるのかなって思いました。けど自問自答して人に言われてるとか自分で決められないとかを悩む心を克服して、前に進むんだ。副店長にハッキリ言えたのが痛快でした。途中に自分が精神的にお母さんにされた事を恋人にしたのが心配だったけど

  • なんだか不思議な本だったなーというのが素直な感想。
    誰かに対して「かわいそう」と思うことって、なんか気持ちがよくないよな。
    この言葉が出てくるたびに、自分に言われてる訳でもないのにチクチクと針を刺された気分になった。
    自分の気持ちを周りにうまく伝えられてる人ってどのくらいいるのだろうか。
    自分はべらべらと話す方なので、登場人物の誰とも共感はできなかったけれども。

    三葉くんとは自然消滅みたいになるんだろうなーと思ってたけど、彼が梨枝をちゃんと好いてくれてて安心した。
    堂々としてるように見える彼にも心に傷があって、弱いところもあって、かわいかった。

    無知すぎる私はこの本が伝えたい本当の意味やたくさんの言葉を、見落としていそう。
    自分の心境が変わるたびに受け止め方が変わりそうな、面白い本だった。

  • 自分が抱いてる漠然とした不安を言語化してくれた感じがした。

    他人が強くて羨ましくなるのは、その人の不安が分からないから。今までそんなふうに考えたことがなかった。

    自分の不安も結局他人には分からないし、自分自身でも分かることはないんだろうなと思った。少し悲しいけど、それは仕方ないことだと腑に落ちた。

  • こんなに「記憶しておきたい文章」が多かった本は初めて。
    言葉のセンスがとんでもなく最高でした。
    強いていえば、全て無くした状態の主人公を見てみたかった。

    脳内が思考で溢れかえってしまう、人に優しくありたい、正しくあろうとする人にオススメしたい。
    きっと、沼にハマります。

  • 感情の絶妙な表現にグサグサと心を抉られた。手帳の端にメモを思わずしてしまうほどの好きな表現が散りばめられていた。
    たくさんの共感があって、どこか自分を見ているような気になって、だからつい最後まで猛スピードで追ってしまう。展開は辛いところももちろんあったけれど、優しく寄り添い続けてくれて好ましかった。

  • 主要人物はみんな何か心にこわいものがあり、しかし普段はそんな素振りは見せない。自分で自分を縛っている人が多く、自分が自分を一番責めている。
    人になかなか打ち明けられないことや、うまく言葉にできない現象を丁寧に描写していて、そのもどかしい気持ちがよく分かった。
    実家の同居がうまくいっていないことと、恋人との甘い時間とを行ったり来たりしている時期は、こちらの心が擦り切れそうだった。でもそこから向き合い、主張することを覚え、助け合い、人々が噛み合い始めてからはトントン拍子に物事が好転していって、実際の人間関係もきっとコミュニケーション不足から問題が起きるのだろうと思った。
    落ち着いて、自分に自信を持って周りをよく見てみれば、意外に気遣われて尊重されていることに気付けるかもしれない。認めることで感情は育つ。
    明るい話ではないけど、前向きだった。

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著者プロフィール

1986年千葉県生まれ。2010年「花に眩む」で「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞しデビュー。16年『やがて海へと届く』で野間文芸新人賞候補、17年『くちなし』で直木賞候補、19年『森があふれる』で織田作之助賞候補に。著書に『あのひとは蜘蛛を潰せない』『骨を彩る』『川のほとりで羽化するぼくら』『新しい星』『かんむり』など。

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