穴 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101205410

作品紹介・あらすじ

仕事を辞め、夫の田舎に移り住んだ私は、暑い夏の日、見たこともない黒い獣を追って、土手に空いた胸の深さの穴に落ちた。甘いお香の匂いが漂う世羅さん、庭の水撒きに励む寡黙な義祖父に、義兄を名乗る見知らぬ男。出会う人々もどこか奇妙で、見慣れた日常は静かに異界の色を帯びる。芥川賞受賞の表題作に、農村の古民家で新生活を始めた友人夫婦との不思議な時を描く2編を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 著者初読み。主人公あさひが夫の実家隣に住むことに。今から十年前位の物語のはずだが、名前の分からない獣や義兄と名乗る妙な出立ちの男、野放しの子供達などと遭遇し何十年か昔のような光景と入り混じる。懐かしさより異界に足を踏み入れた感覚。

  • 仕事を辞め、夫の実家の隣に引っ越した私。専業主婦になり、家事以外の時間をもてあます。そんなとき、見たことがない獣が掘った穴にハマる。さらに、いるはずのない義兄が登場し、不思議な物語になっていく。芥川賞受賞の表題作のほか、2作品収録。

  • なんだろう・・・何とも言えない不気味な読後感。

    仕事を辞め、夫の実家の隣に住み家賃はただで、嫁姑問題も無くゆったりとした時間の中で進む話。
    見たことの無い黒い獣。至るところにある深い穴。
    見る度に庭の水撒きをしている義祖父。
    1人っ子と聞いていたはずの夫の兄だと名乗る義兄の存在。
    穴に落ちたあの日から、何かが変わったような、ありふれた日常に見えて、自分だけが異世界にでも足を踏み入れてしまったかのような時間の進み方が怖い。ああ見えて、義兄が一番まともな気がしていたのに、果たして本当に存在していたのかさえわからなくて、しばらく本を閉じたまま考え込んでしまった。  
    初作家さんだったが、この世界観は好きなので他の作品も是非読んでみたい。

  • 独特の世界観 そういう事あるよねから違和感が。

  • ズボン、ヒューン、ならばアリスの穴だが、この作品ではドスッ、シーン、肩から下が埋まってしまう。
    リンチを思い出す草地や土の描写を経て、現実が変異するが、それはもとからそうだっただけのこと。
    「工場」の着地は変身だが、「穴」の着地は変態(もしくは成長)。
    まずは義兄の存在感だが、
    この作者はどこかしら子供を作るということにしこりを感じているらしい(実際はいるけど)。
    そこに共感。
    だからこそ、(「ディスカス忌」に続く)「いたちなく」「ゆきの宿」の夫婦にも肩入れしてしまう。

  • 見たことのない獣を追って穴に落ちる主人公の主婦・あさひ。主人公にとってはずっと問題のなかった「世界」を見る視座が、穴に落ちたあと気付きもせずにぐらりと変わっているといいますか、世界のほうがごろっと妙な角度に曲がってしまうといいますか。そこも僕には、読んでいて物理的に穴に落ちたシーンにはとくに何も感じず、そこが過ぎてしばらくしてから「ああ、穴に落ちたというのは……」と時間差で違和感が生じてきたのでした。継ぎ目を感じさせない移行の仕方を作っているのはすごい。

    それで、僕が感じたこの移行による違和感はなにかというと、まずは「混沌」という言葉が浮かんできます。主人公が驚くようなことがいろいろ起こって、その事案にたいしての理由付けがうまくいっていないために混沌が立ち現われている。これは読者もそうなんです。主人公はうまく飲みこめていないけど、読者にはわかっているという種類の小説ってありますけども、この作品はそうではありません。細部の奇妙さは奇妙さとして断定されているように読めてしまう。それはまあ、疑って読めばいくらでも疑って読めます。しかし、自ら罠にはまっていきたがるチャレンジ精神をかきたてられるようなものがこの作品にはありました。もっと洞窟の奥深くへいってやろうじゃないか、というような気にさせる。そうしてうまく転がされます。言い方を換えれば、ぞんぶんに読者を作品世界に泳がせてくれるわけです。

    で、次は「認識」という言葉から考えていきます。小山田浩子さんは認識というものの扱いが巧みなのです。主人公が自分の周囲の世界をどこまで明確に認識しているか。ある認識はべつのものを認識するときの助けになり、反対に妨げになるときもあり、ときに屈曲させてしまうものにもなる。そして、主人公は物語世界のなかで認識の解像度を上げたり上げられなかったりもする。そのようななかで集められた情報やもともともっている知識などからいろいろ考えていくのですから、地盤がゆるゆるしているなかで構築された判断ができあがっていきます。それで混沌状態を体験することになるのです。そしてこれは二重の意味でもあります。なぜなら、読者の認識についても同様に考えられていて、同様の体験をするからです。しかも、没入感をあまり持たない人でもうまく物語世界の混沌に導かれてしまうくらい、粗がない文章だと思います。

    物語の結末では、また違う世界に主人公は足を踏み入れています。このあたりも、うまく認識させずに世界を移行するワザが、作家の手法のみならずこの世間というか社会というかにはあるのです、ということを暗に示唆しているのではないかと感じました。

    あとの短編二作は連作です。情景や描写から登場人物の心象を推し量るような読みかたで接したのですが、そこもたぶん作家は計算しているのでしょう。「これはたぶん、女性同士の性愛の予感だ」だとか「エロティックな心象を表わしている」だとか「主人公の不安で落ち着かない心持ちを落ち葉の描写でトレースしているんだ」だとかありました。が、しかし、結末までいくとフェイントをかけられたみたいになったのです。まあでも、僕はまだまだ小説の読みは浅いですから、もっと鋭い読みはたくさんあると思います。これだという感想は述べられませんが、この二作もおもしろく読めました。

  • 読み返してたら、全部読み返したくなって『工場』も『庭』も棚から出してきた。文庫も単行本も両方買っている小山田作品大好きすぎるんだけれど、他の人の感想見てたら、よくわからないとか何が言いたいのか?とか書かれてあって、そっかーそんな風に読む人もいるんだなと思ってしまう。この面白さって息するみたいなものでうまく言葉に出来にくい。あとから何回も読み返したくなってそうしたら新しい発見とかあって、小山田さんの好きなものが滲み出てるわー、うふふとかなるわけで、そういう自分だけの楽しみ方をわかち合えたりわかち合えなかったりそれもふむふむなるほどー!!って感じも面白くて、今回は『いたちなく』『ゆきの宿』が本当に面白くて『工場』の『ディスカス忌』の斉木君と同じ人物であって違うのかなとか、世界がずれてるかドッペルさんかな、とか小さな繋がりは熱帯魚だよなとか考えたらうはうはしてしまったのでした。あーほんまに、好き。小山田作品大好き(笑)

  • 読後が不思議な感じ。一緒に収録されてる、いたちなくと、ゆきの宿がこれまた良かった。この方の他の作品も読んでみたい。

  • 表題作を読み終わって「ああ、土地の人になったんだ……」と腑に落ちた気がした。これまではどこかお客さんのようなぎこちなさや、生活に実感もなく暮らしてる感じだったけど、義祖父の死をきっかけに嫁としてそこに居着いたという感覚。
    田舎には田舎のルールがあるとでもいうような通夜の席は異様だったけど、あの場で自覚も出たのかな。そうと決まってからはグズグズ考える頼りなさみたいなものが消えている。役割を得て姑のような人になるんだろう。
    義兄の言う事が印象的だったし存在自体も面白かったから、現実に居なかったのはちょっとショックだなぁ。
    「いたちなく」と「ゆきの宿」は、夫目線では妻の考えが分からず不気味な人物に映った。これは夫が妻のことを何も分かっていない証拠かもしれない。洋子の前では妻は涙を見せているのである。
    「穴」の主人公も夫との意思疎通は出来ていない感じだった。義父と義母の関係もそう。家族ってそういう孤独なものかもしれない。

  • 穴しか読んでないのですが、皆さんが書いてるように節々に不穏な空気が漂っていた。

    義兄の雰囲気がドストエフスキーの罪と罰で出てくるようなめちゃくちゃ主人公に喋る男の雰囲気に近く感じた。目ぇギラギラしてニタニタしながら喋る雰囲気。

    自分が何も知らない、味方もいない状況でこれからずっとここに住むのか。。みたいなちょっとした絶望感に近いものを感じて、怖かった。

    自分はなにを求めて何が嫌なのかを考えるし、
    結局はその環境で何をするか、何もしないのか。
    どうなりたいのか、どうもなりたくないのか。

    虚無みたいな感覚が襲ってきた。

  • 「穴」不気味な空気感。真夏、お盆の温度感が伝わる。
    「いたちなく」何も事件は起こらない、ただ鍋を囲って話しているだけなのに怖い。
    「ゆきの宿」いたちなくの続き。ゆきんこゆきこちゃん。サイレンの音。

  • 一日で読めます。謎を残しなかなか怖い。非常に好きな世界観。

  • おもしろい、シュール。わかりやすい怖さではなくて、なぜだか怖い感じ。もっと読みたい。

  • 読書開始日:2021年9月7日
    読書終了日:2021年9月12日
    所感
    【穴】
    難解だった。
    「しんせかい」に似た空気感。
    全く歩み寄ってくれない感じ。
    あさひの未来が姑なのは予感がしていた。
    田舎は日々の動きが少なく、それも専業主婦となると時間を持て余し「穴」にじっといるような感覚に陥る。
    だからこそあさひは「穴」に固執していたのだと思う。
    こう考えたら楽をしているようになってしまうが、義兄と穴の獣は完全に妄想だと思う。
    義祖父の置き去りにされたような痴呆も不気味だ。
    義祖父はもうすでに意識が朦朧としていて、穴に篭りたかったのだと思う。
    あの地域の「穴」は、何も動きのない日々の恐怖からの逃げ場や、動きとして表現されていた気がする。
    なんとも難しく時間がかかった。
    【いたちなく+ゆきの宿】
    斉木はわかっていた。
    主人公が生き物に対する気持ちが希薄なことを。
    妻はもちろんわかっている。
    夫婦のこれまでの背景が、斉木家の出会いから吹雪の泊まりの日でかなり表現されている。
    主人公の「堪能したか」の一言は、かなり危険だ。
    一見違和感が無いが、こう言った事柄に悩んだことがある人物からしたら、たまったものではない。
    もうしばらくないんだから、記憶に焼き付けろといっているようなもの。
    それは妻も夜な夜な泣く。
    もちろん主人公に悪気は無かった。
    妻は托卵した。
    細い腕時計がその証拠だ。
    後半2篇はかなり好み。


    2人分を時間差で作ると必ずどちらかの方が不本意になってしまう
    もし地上に出た日からしばらく雨が続いたら蝉はどうするのだろう
    業務や、責任や、愚痴や苦痛は、全てアパートの中空の2dk分の価値しかなかった
    調和した、土の内部から染み出たような湿り方だった

    いたちなく

    ゆきのやど
    堪能ね
    お前じゃうまくいかないよ
    インテリアのようだが、やはり生き物だからな

  • 数年前に読んだ時、なんだか妙な気持ちになったのを覚えている。そして、なにかの拍子にまた手に取ってしまった。

    この本の良し悪しを語るには時間が必要だと思う。

    初めて読んだ時、意味のわからない奇妙な余韻が残った。少し怖いような、寂しいような、グロテスクなような。

    ただ、記憶に残る。
    記憶に残っていたからこそ、数年ぶりに手に取ったのだと思う。

    穴に落ちて以来、世界が変わったのか、それとも主人公自身が変わったのか、それは誰にもわからない。ただ、なにか、ボタンのかけ間違えたような違和感だけが残る。

    この本について、まだ評価ができない自分がそこにいる。良かったのか、悪かったのか。
    もっと長い時間を経ることで、この本の真価を知れる気がする。

    この本はそういった本であり、良い悪いではない、ただ読んだ余韻が残る、そういった本。

  • よく分からない、一体なんの話なの?って感想が多いみたいで漏れなくあたしもそうなんだけど、それがつまらないってことではないんだよな。このなんだかよく分からない、不思議、モヤっとするのが芥川賞っぽいというか笑 読みやすく、直ぐにこのなんとも言えない世界へ引き込まれた。結局、主人公以外の全員が不気味で少し怖い。田舎特有のご近所のことは何でも知ってて、いつでも見られてる感じ。ひー!何か変だなぁと思うことがあっても、葬式とかその地の風習を経験して、そこで仕事をしてそこの人達と触れ合って、受け入れて、慣れていくんだよねぇ…。隣組みたいなものが悪いってわけではないんだけどもさ。
    他の作品も読んでみたい。

  • 夫の転勤で引っ越した義実家の周辺で起こる非現実なエピソード、というシンプルな構成をベースに、得も言えぬ不安な不安定な違和感のある雰囲気を伝える小説。
    評価の分かれる小説だろう。物語ではなく描写で伝えるタイプの小説。なのでストーリーを追っていっても、作者には近づけない。

  • つかみどころの無い話。何の問題もないように見えるが絶えず不穏な空気の漂う若夫婦が、旦那の実家の隣に越す話。最初は嫁姑のようなものがメインになるのかと思ったが、思わぬ方向に話は流れて、お盆の季節に遭遇したちょっと不思議な話になっていく。

    この、穴やなぞの生き物や不思議な兄などが何のメタファーなのかはやっぱりわからないまま。ほかの短編も物語の最後のほうに和テイストの不思議体験が現れる。これは何を意味するのか。

    あと、夫婦の間の不穏な空気もほかの短編でも共通している。相手の中にわからない部分があり、それをわかろうとする事を少し諦めている感じというか、認めているというのか、とにかく身近であるはずの相手に不明なところがある。これがすごく不穏な空気を生んでいるように思う。100%分かり合える事はないのだから、当たり前なはずなんだけど。

  • 私は夫と都会に住んでいたが、夫の転勤で同じ県内だがかなり田舎の町に住むことになった。偶然夫の実家のある町で、義理の母の勧めで夫実家の隣にある借家に住むことになった。
    実家には夫の両親と祖父が住んでいた。
    数ヶ月後のある夏の日、仕事に出た義母に頼まれて離れたコンビニエンスストアに振り込みに行く。
    しかし途中の川沿いの道で見慣れない黒い獣を見かけて追いかけ、河原近くにあいていた穴に落ちてしまうが、通りかかった近所の奥さんに助けられる。
    コンビニエンスストアに着くと漫画を読んでいた何人もの小学生に絡まれてしまい、今度は「先生」と子供達に呼ばれる男性に助けられる。しかもその男性は、一人っ子のはずの夫の兄だった……。



    著者の芥川賞受賞作。
    どこまでが本当で、どこからが幻なのか。
    とても文章が読みやすくてさらっと進むのだけれど、なんともいえない不穏な感じがぱらりぱらりと散見されて、妙に落ち着かない気分になっていきます。
    この妙な感覚がずっと続いて落ちというか、最後の一文がある意味、ホラー。
    はまり込んだ穴は、このことなのかな……人によってはホラーといは違うと感じられるかもしれないけれど。
    背筋に張り付くような、この感じ、かなり好きです(^◇^;)
    女性の方がこの感覚、分かりやすいかも。特に既婚者の。
    やはり「工場」も読まないと、絶対に買いだわ。

  • 読後、いったい何が言いたかったんだか分からなかったけれど、不思議な世界に引き込まれて、じっとりとまとわりつくような不気味な余韻がいつまでも残った。
    出てくる登場人物、動物や虫たち、どれもかれも気味が悪くシュールだ。いったい彼らが何だったのか分からず腑に落ちないまま話は終わるが、主人公も分からないままその不思議ものたちが見えなくなって終わる。
    仕事を辞め田舎に引っ越し、主婦となって毎日やることもなくボーッと過ごしていると、今まで見えなかったもの、見過ごしていたものが見えてくるということか。心にぽっかり空いた穴に得体の知れないものが侵入してきて、それに抗わず馴染んでしまったということか…。
    あの掘っ立て小屋に住んでいた夫の兄(自称)は何者?

  • 芥川賞らしい作品。

    表題作「穴」は、なんだか真夏の白昼夢を見させられているような気になった。
    旦那さんは携帯イジってばっかりで、姑さんは謎の張り切り母さんで、義祖父はどっか壊れてんじゃないの?ってくらいニコニコと水遣りをしてる。
    誰か悪い人がいるわけではなくて、でも、皆がそれぞれ正しくても噛み合わない居心地悪さってあるよなぁと思う。

    不思議な獣を追って行ったら、首まで隠れるくらいの穴に嵌りましたっていう。
    義兄?も嘲笑う「不思議の国のアリスかよ」って、ああなるほど、言いえて妙だな、と納得した。

    でも、村上春樹みたいに身体すっぽり井戸に入って世界と交信出来るわけでもない。
    首から上は、この世界から切り離されない。
    所詮はそうあって欲しいと願う専業主婦の白昼夢なのかもしれない。

    「いたちなく」「ゆきの宿」
    「いたちなく」は、既視感のある話だった。
    んー、でも、どこでこういう話を読んだかは覚えていない。

    どちらとも、奥さんの呪わしげな様子がただただ怖かったのだけど、いたちのクダリはすっと引き込まれました。

  • 第150回芥川賞受賞作。『穴』『いたちなく』『ゆきの宿』の3編を収録。

    思ったほどの面白さは感じられず、退屈な200ページ。

    表題作の『穴』は、諸星大二郎の『不安の立像』を彷彿とさせる少しサスペンスフルな短編だが、今一つ。

  • 既婚、子なし、非正規社員で働いている女性が、夫の実家の隣に引っ越し一時的に専業主婦になるが、謎の黒い獣を追いかけて穴に落ちてから、奇妙な事象が身辺で起こり始め・・・。

    最終的にはホラーのような余韻を残すのだけど、日常のリアリティと不穏な出来事のバランスが絶妙でなんともジワジワ怖い。非正規で働く女性の不安や不満、鬱屈、専業主婦になったらなったで感じる罪悪感、サバサバしてて良い人っぽい姑との実は水面下の攻防、四六時中スマホ片手にSNS中毒な夫などはとても現実的で現代的だし、働く女性、家庭を持つ女性が普通に「あるある~」と共感できる要素がとても自然に盛り込まれているにも関わらず、同時に、不条理なことが当たり前のように起こり、そうすると普通に親切なはずの近所のご婦人なども怪しくて不気味に思えてきてしまう。虫や動物の描写の詳細さもこの不穏さに一役かっているかも。

    兎を追いかけて穴に落ちたアリスは最終的には元の世界に戻ってくるけれど、この小説の主人公は、黒い獣を追いかけて変な穴に落っこちてもぼんやりしたまま、意外にも居心地の良さまで感じているかのよう。そして慣れなかった田舎暮らしに、最終的にはすっぽり馴染んでしまい、同時に不穏だった獣や義兄や子供たちの姿は見えなくなる。表面的な整合性を求めるなら、主人公の不安定な心理の象徴として他の人には見えない獣や穴や義兄や子供たちが見えていて、それが解消された途端にそれらは消えた、ということになるのだろうけど、それだけで片づけてしまうのは勿体ない。なんともいえない読後感があってとても好きでした。

    併録の短編「いたちなく」「ゆきの宿」は連作になっていて、表面的なストーリーは二組の夫婦の普通の交流なのだけど、とにかく「いたちなく」が怖くて(やはり動物の描写が詳細なのが不穏さを煽ってくる)おかげで何も問題は起こっていない「ゆきの宿」までホラーだったような気がしてきてしまう。そんなことはどこにも書いていないのに「その赤ん坊の顔はいたちにそっくりでした」というオチを勝手に想像してギャッと叫んでしまいそうになった。怖いけど面白かった。解説が笙野頼子なのも納得。

  • 芥川賞受賞作。

    3つの短編集。

    ■穴

    夫の転勤で、義実家の隣の一軒家に住むことになった、あさひ。不便な田舎なので、非正規の仕事を辞めて、専業主婦に。子どもがいないこともあり、仕事を探そうと思うが、バスの便も悪く…ダラダラと過ごす。
    田舎の暮らしに戸惑いながら、ある日、義母に頼まれ、コンビニにお金を払い込みに行く。その途中で、変な動物を見かけ、ついていくと、草むらの中で、突然穴に落ちる。すると、義実家の反対隣りに住むという奥さんに助けられる。
    その後、全く知らされなかった夫の兄に出会い…中学のころから引きこもりなので、話題にされなかったのではないかと…。しかし、夫や姑などに、義兄の存在を聞くことができないでいた。
    ある夜、眠れないでいると、物音に気が付き、外を見ると、義祖父がどこかへ出かけようとしていた。少し認知症気味でもあるので、心配になり、後をつけた。すると、義兄もついてきた。そして、義祖父が穴に落ち、あさひも同じ穴に落ちた。兄に手伝ってもらい、自分も義祖父も穴から出て帰る。その時、寒かったからか、肺炎にかかり、義祖父はまもなく亡くなる。
    その葬儀にも、義兄は出席しない。
    その後、あさひは、コンビニで働くことになる。

    で、終わる。不思議なお話。
    義兄の存在も、実在?幽霊?
    う~ん、何を描いて、何を伝えたいのかわからない。


    ■いたちなく

    実家の友人:斉木から結婚したと年賀状が届く。40歳を過ぎて、32歳の妻をめとり、築50年の家を買いリフォームして新居にしたと。
    主人公は、不妊治療中。

    春先に、斉木から電話があり、家にいたちが出て困っていると。そんな話から、妻と一緒に、斉木の家にシシ鍋をご馳走になりに行った。妻は、田舎育ちのため、シシ鍋の美味しさを知っていた。

    斉木の家を訪問。シシ鍋をご馳走になる。
    そこで、妻が、実家で行われたいたちの退治法を伝授。
    その後、いたちは出なくなったらしい。

    いたちの退治法は、母いたちを水に沈めて溺れさせる。死ぬ間際の鳴き声が、父いたちや子供いたちに向けて、この家は危ない、このいえにいると、水に沈められて死ぬよ、近づいちゃいけないと、知らせたと。
    ここが、「いたちなく」のポイントですね。そして、ぞわっとする感じ…。


    ■ゆきの宿
    「いたちなく」の続き。
    斉木の家の赤ちゃんが生まれ、車でお祝いに行った。
    雪が降りだしたが、すぐやむだろうと思っていたが、本降りになって、帰宅困難に。結局、泊まることになった。
    赤ちゃんの名前が「ゆきこ(幸子)」。
    帰宅できなくなったと聞いて、近所に住むおばあさんが、お米の代わりにおからを入れたお稲荷さんを差し入れてくれる。母乳が良く出ると言う。
    泊めてもらった部屋には、水槽がたくさんあり、珍しい魚を飼っていた。僕は、夜中、その魚に襲われる夢を見た。
    翌朝、雪は止み、外で、近所のおばあさんに会うと…
    妻のお腹に赤ちゃんがいると、予言?される。
    まだ、わからないが、ちょっと幸せな気分になったかな。


    う~ん。やっぱり、あまりよくわからない物語でした。

    ブクログ内で、小説読了219冊。

  • 表題作の「穴」だけ読んだ。
    このホラー感は何?
    小学生の夏休みの不思議な体験の大人版という印象。
    読んでいてずっと気持ち悪さがまとわりついてくる感覚がかなり良かったですね。


    (追記)
    「いたちなく」「ゆきの宿」の二作もかなり良かった。こちらのほうがまだ怖くなくて良かったかな
    なかなか読み解けていない部分もあるが、面白かったですね

  • 暗くて不気味で怖い
    登場人物がみんな怪しく感じる描写
    でも表立って何も起こらない
    気味悪がりながら続きを読んでしまう

  • 穴は難しかったです。姑からの振込依頼のお金が足りなかったこと、水を撒き続ける義祖父、黒い獣、義兄や子供たちの存在、そして穴。
    色々考察してみたがわからないことが多い、だが一つだけわかるのはコンビニで働き始めてからは日常がもどったことだけだということ。
    いたちなくは妻の語りが不気味でラストもよかった。

  • 第30回アワヒニビブリオバトル「穴」で紹介された本です。
    2017.10.03

  • 穴 5
    いたちなく 3
    ゆきの宿 4

  • 書店で目に留め、小山田浩子の小説を初めて読んだ。

    心地よい居心地の悪さのある場所の話。

    「穴」に現れるたくさんの他者たち。
    座敷童というか、地域童のような、突然現れて理不尽に振る舞い、いなくなるものたち。

    「いたちなく」のいたちたちと母いたちも、「ゆきの宿」の赤ちゃんたちも、そんなふうにやってくる。

    松井哲也『ロボット工学者が考える「嫌なロボット」の作り方』で言われる「他者」との邂逅について考えていたところだったので、この小説に現れる他者たちと出会い、こういうことだなと感じた。

    他も読んでみる。

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著者プロフィール

1983年広島県生まれ。2010年「工場」で新潮新人賞を受賞してデビュー。2013年、同作を収録した単行本『工場』が三島由紀夫賞候補となる。同書で織田作之助賞受賞。2014年「穴」で第150回芥川龍之介賞受賞。他の著書に『庭』『小島』、エッセイ集『パイプの中のかえる』がある。

「2023年 『パイプの中のかえる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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