- Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101205410
作品紹介・あらすじ
仕事を辞め、夫の田舎に移り住んだ私は、暑い夏の日、見たこともない黒い獣を追って、土手に空いた胸の深さの穴に落ちた。甘いお香の匂いが漂う世羅さん、庭の水撒きに励む寡黙な義祖父に、義兄を名乗る見知らぬ男。出会う人々もどこか奇妙で、見慣れた日常は静かに異界の色を帯びる。芥川賞受賞の表題作に、農村の古民家で新生活を始めた友人夫婦との不思議な時を描く2編を収録。
感想・レビュー・書評
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著者初読み。主人公あさひが夫の実家隣に住むことに。今から十年前位の物語のはずだが、名前の分からない獣や義兄と名乗る妙な出立ちの男、野放しの子供達などと遭遇し何十年か昔のような光景と入り混じる。懐かしさより異界に足を踏み入れた感覚。
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仕事を辞め、夫の実家の隣に引っ越した私。専業主婦になり、家事以外の時間をもてあます。そんなとき、見たことがない獣が掘った穴にハマる。さらに、いるはずのない義兄が登場し、不思議な物語になっていく。芥川賞受賞の表題作のほか、2作品収録。
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なんだろう・・・何とも言えない不気味な読後感。
仕事を辞め、夫の実家の隣に住み家賃はただで、嫁姑問題も無くゆったりとした時間の中で進む話。
見たことの無い黒い獣。至るところにある深い穴。
見る度に庭の水撒きをしている義祖父。
1人っ子と聞いていたはずの夫の兄だと名乗る義兄の存在。
穴に落ちたあの日から、何かが変わったような、ありふれた日常に見えて、自分だけが異世界にでも足を踏み入れてしまったかのような時間の進み方が怖い。ああ見えて、義兄が一番まともな気がしていたのに、果たして本当に存在していたのかさえわからなくて、しばらく本を閉じたまま考え込んでしまった。
初作家さんだったが、この世界観は好きなので他の作品も是非読んでみたい。 -
独特の世界観 そういう事あるよねから違和感が。
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ズボン、ヒューン、ならばアリスの穴だが、この作品ではドスッ、シーン、肩から下が埋まってしまう。
リンチを思い出す草地や土の描写を経て、現実が変異するが、それはもとからそうだっただけのこと。
「工場」の着地は変身だが、「穴」の着地は変態(もしくは成長)。
まずは義兄の存在感だが、
この作者はどこかしら子供を作るということにしこりを感じているらしい(実際はいるけど)。
そこに共感。
だからこそ、(「ディスカス忌」に続く)「いたちなく」「ゆきの宿」の夫婦にも肩入れしてしまう。 -
読み返してたら、全部読み返したくなって『工場』も『庭』も棚から出してきた。文庫も単行本も両方買っている小山田作品大好きすぎるんだけれど、他の人の感想見てたら、よくわからないとか何が言いたいのか?とか書かれてあって、そっかーそんな風に読む人もいるんだなと思ってしまう。この面白さって息するみたいなものでうまく言葉に出来にくい。あとから何回も読み返したくなってそうしたら新しい発見とかあって、小山田さんの好きなものが滲み出てるわー、うふふとかなるわけで、そういう自分だけの楽しみ方をわかち合えたりわかち合えなかったりそれもふむふむなるほどー!!って感じも面白くて、今回は『いたちなく』『ゆきの宿』が本当に面白くて『工場』の『ディスカス忌』の斉木君と同じ人物であって違うのかなとか、世界がずれてるかドッペルさんかな、とか小さな繋がりは熱帯魚だよなとか考えたらうはうはしてしまったのでした。あーほんまに、好き。小山田作品大好き(笑)
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読後が不思議な感じ。一緒に収録されてる、いたちなくと、ゆきの宿がこれまた良かった。この方の他の作品も読んでみたい。
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「穴」不気味な空気感。真夏、お盆の温度感が伝わる。
「いたちなく」何も事件は起こらない、ただ鍋を囲って話しているだけなのに怖い。
「ゆきの宿」いたちなくの続き。ゆきんこゆきこちゃん。サイレンの音。 -
一日で読めます。謎を残しなかなか怖い。非常に好きな世界観。
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おもしろい、シュール。わかりやすい怖さではなくて、なぜだか怖い感じ。もっと読みたい。
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読書開始日:2021年9月7日
読書終了日:2021年9月12日
所感
【穴】
難解だった。
「しんせかい」に似た空気感。
全く歩み寄ってくれない感じ。
あさひの未来が姑なのは予感がしていた。
田舎は日々の動きが少なく、それも専業主婦となると時間を持て余し「穴」にじっといるような感覚に陥る。
だからこそあさひは「穴」に固執していたのだと思う。
こう考えたら楽をしているようになってしまうが、義兄と穴の獣は完全に妄想だと思う。
義祖父の置き去りにされたような痴呆も不気味だ。
義祖父はもうすでに意識が朦朧としていて、穴に篭りたかったのだと思う。
あの地域の「穴」は、何も動きのない日々の恐怖からの逃げ場や、動きとして表現されていた気がする。
なんとも難しく時間がかかった。
【いたちなく+ゆきの宿】
斉木はわかっていた。
主人公が生き物に対する気持ちが希薄なことを。
妻はもちろんわかっている。
夫婦のこれまでの背景が、斉木家の出会いから吹雪の泊まりの日でかなり表現されている。
主人公の「堪能したか」の一言は、かなり危険だ。
一見違和感が無いが、こう言った事柄に悩んだことがある人物からしたら、たまったものではない。
もうしばらくないんだから、記憶に焼き付けろといっているようなもの。
それは妻も夜な夜な泣く。
もちろん主人公に悪気は無かった。
妻は托卵した。
細い腕時計がその証拠だ。
後半2篇はかなり好み。
穴
2人分を時間差で作ると必ずどちらかの方が不本意になってしまう
もし地上に出た日からしばらく雨が続いたら蝉はどうするのだろう
業務や、責任や、愚痴や苦痛は、全てアパートの中空の2dk分の価値しかなかった
調和した、土の内部から染み出たような湿り方だった
いたちなく
ゆきのやど
堪能ね
お前じゃうまくいかないよ
インテリアのようだが、やはり生き物だからな -
数年前に読んだ時、なんだか妙な気持ちになったのを覚えている。そして、なにかの拍子にまた手に取ってしまった。
この本の良し悪しを語るには時間が必要だと思う。
初めて読んだ時、意味のわからない奇妙な余韻が残った。少し怖いような、寂しいような、グロテスクなような。
ただ、記憶に残る。
記憶に残っていたからこそ、数年ぶりに手に取ったのだと思う。
穴に落ちて以来、世界が変わったのか、それとも主人公自身が変わったのか、それは誰にもわからない。ただ、なにか、ボタンのかけ間違えたような違和感だけが残る。
この本について、まだ評価ができない自分がそこにいる。良かったのか、悪かったのか。
もっと長い時間を経ることで、この本の真価を知れる気がする。
この本はそういった本であり、良い悪いではない、ただ読んだ余韻が残る、そういった本。 -
よく分からない、一体なんの話なの?って感想が多いみたいで漏れなくあたしもそうなんだけど、それがつまらないってことではないんだよな。このなんだかよく分からない、不思議、モヤっとするのが芥川賞っぽいというか笑 読みやすく、直ぐにこのなんとも言えない世界へ引き込まれた。結局、主人公以外の全員が不気味で少し怖い。田舎特有のご近所のことは何でも知ってて、いつでも見られてる感じ。ひー!何か変だなぁと思うことがあっても、葬式とかその地の風習を経験して、そこで仕事をしてそこの人達と触れ合って、受け入れて、慣れていくんだよねぇ…。隣組みたいなものが悪いってわけではないんだけどもさ。
他の作品も読んでみたい。 -
夫の転勤で引っ越した義実家の周辺で起こる非現実なエピソード、というシンプルな構成をベースに、得も言えぬ不安な不安定な違和感のある雰囲気を伝える小説。
評価の分かれる小説だろう。物語ではなく描写で伝えるタイプの小説。なのでストーリーを追っていっても、作者には近づけない。 -
つかみどころの無い話。何の問題もないように見えるが絶えず不穏な空気の漂う若夫婦が、旦那の実家の隣に越す話。最初は嫁姑のようなものがメインになるのかと思ったが、思わぬ方向に話は流れて、お盆の季節に遭遇したちょっと不思議な話になっていく。
この、穴やなぞの生き物や不思議な兄などが何のメタファーなのかはやっぱりわからないまま。ほかの短編も物語の最後のほうに和テイストの不思議体験が現れる。これは何を意味するのか。
あと、夫婦の間の不穏な空気もほかの短編でも共通している。相手の中にわからない部分があり、それをわかろうとする事を少し諦めている感じというか、認めているというのか、とにかく身近であるはずの相手に不明なところがある。これがすごく不穏な空気を生んでいるように思う。100%分かり合える事はないのだから、当たり前なはずなんだけど。 -
私は夫と都会に住んでいたが、夫の転勤で同じ県内だがかなり田舎の町に住むことになった。偶然夫の実家のある町で、義理の母の勧めで夫実家の隣にある借家に住むことになった。
実家には夫の両親と祖父が住んでいた。
数ヶ月後のある夏の日、仕事に出た義母に頼まれて離れたコンビニエンスストアに振り込みに行く。
しかし途中の川沿いの道で見慣れない黒い獣を見かけて追いかけ、河原近くにあいていた穴に落ちてしまうが、通りかかった近所の奥さんに助けられる。
コンビニエンスストアに着くと漫画を読んでいた何人もの小学生に絡まれてしまい、今度は「先生」と子供達に呼ばれる男性に助けられる。しかもその男性は、一人っ子のはずの夫の兄だった……。
著者の芥川賞受賞作。
どこまでが本当で、どこからが幻なのか。
とても文章が読みやすくてさらっと進むのだけれど、なんともいえない不穏な感じがぱらりぱらりと散見されて、妙に落ち着かない気分になっていきます。
この妙な感覚がずっと続いて落ちというか、最後の一文がある意味、ホラー。
はまり込んだ穴は、このことなのかな……人によってはホラーといは違うと感じられるかもしれないけれど。
背筋に張り付くような、この感じ、かなり好きです(^◇^;)
女性の方がこの感覚、分かりやすいかも。特に既婚者の。
やはり「工場」も読まないと、絶対に買いだわ。 -
読後、いったい何が言いたかったんだか分からなかったけれど、不思議な世界に引き込まれて、じっとりとまとわりつくような不気味な余韻がいつまでも残った。
出てくる登場人物、動物や虫たち、どれもかれも気味が悪くシュールだ。いったい彼らが何だったのか分からず腑に落ちないまま話は終わるが、主人公も分からないままその不思議ものたちが見えなくなって終わる。
仕事を辞め田舎に引っ越し、主婦となって毎日やることもなくボーッと過ごしていると、今まで見えなかったもの、見過ごしていたものが見えてくるということか。心にぽっかり空いた穴に得体の知れないものが侵入してきて、それに抗わず馴染んでしまったということか…。
あの掘っ立て小屋に住んでいた夫の兄(自称)は何者? -
芥川賞らしい作品。
表題作「穴」は、なんだか真夏の白昼夢を見させられているような気になった。
旦那さんは携帯イジってばっかりで、姑さんは謎の張り切り母さんで、義祖父はどっか壊れてんじゃないの?ってくらいニコニコと水遣りをしてる。
誰か悪い人がいるわけではなくて、でも、皆がそれぞれ正しくても噛み合わない居心地悪さってあるよなぁと思う。
不思議な獣を追って行ったら、首まで隠れるくらいの穴に嵌りましたっていう。
義兄?も嘲笑う「不思議の国のアリスかよ」って、ああなるほど、言いえて妙だな、と納得した。
でも、村上春樹みたいに身体すっぽり井戸に入って世界と交信出来るわけでもない。
首から上は、この世界から切り離されない。
所詮はそうあって欲しいと願う専業主婦の白昼夢なのかもしれない。
「いたちなく」「ゆきの宿」
「いたちなく」は、既視感のある話だった。
んー、でも、どこでこういう話を読んだかは覚えていない。
どちらとも、奥さんの呪わしげな様子がただただ怖かったのだけど、いたちのクダリはすっと引き込まれました。 -
第150回芥川賞受賞作。『穴』『いたちなく』『ゆきの宿』の3編を収録。
思ったほどの面白さは感じられず、退屈な200ページ。
表題作の『穴』は、諸星大二郎の『不安の立像』を彷彿とさせる少しサスペンスフルな短編だが、今一つ。 -
暗くて不気味で怖い
登場人物がみんな怪しく感じる描写
でも表立って何も起こらない
気味悪がりながら続きを読んでしまう -
第30回アワヒニビブリオバトル「穴」で紹介された本です。
2017.10.03 -
穴 5
いたちなく 3
ゆきの宿 4 -
書店で目に留め、小山田浩子の小説を初めて読んだ。
心地よい居心地の悪さのある場所の話。
「穴」に現れるたくさんの他者たち。
座敷童というか、地域童のような、突然現れて理不尽に振る舞い、いなくなるものたち。
「いたちなく」のいたちたちと母いたちも、「ゆきの宿」の赤ちゃんたちも、そんなふうにやってくる。
松井哲也『ロボット工学者が考える「嫌なロボット」の作り方』で言われる「他者」との邂逅について考えていたところだったので、この小説に現れる他者たちと出会い、こういうことだなと感じた。
他も読んでみる。