人の砂漠 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 73
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  • Amazon.co.jp ・本 (524ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101235011

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  • 陽の当たらない生活を強いられた人々を描いた沢木耕太郎のノンフィクション集。昭和40年代後半という時代の出来事であり、私の生まれる数年前~直前にこのような世界が日本にあったという事実に驚かされる。いや今も存在していて、自分が目を背けているだけなのかもしれない。近づいて肌身で感じたい世界だとは決して思わない。それでも引き込まれてしまうのは、各短編に出てくる人々の生き様が強烈すぎるからだろうか。

  • 今から50年くらい前の社会を切り取ったルポルタージュが8編。隔世の感がある。
    1編目「おばあさんが死んだ」は、亡くなった老婆(といっても72歳)の家の中に転地療養で離れているはずの兄のミイラ化した死体があった。兄が死ぬまで老婆は昔とった杵柄の歯科医の仕事が続けられているふりをしていたが実はとっくに職はなく、先細りの生活を続けていたというもの。現代にあってはこういうケースをときどき見聞きするけれど、当時としてはある種、衝撃的な事件だったのだろうか。よくあることだからいいってわけではないが、やや感傷的に過ぎる気もした。
    2編目は数年前に訪ねてみようとした「かにた婦人の村」を取り上げている。虐げられた女性たちの安住の場をつくろうというのは立派だが、男たちの上から目線が気になった。
    3編目「見えない共和国」は日本の南の果てを、4編目「ロシアを望む岬」は北の果てを訪ねたもの。どちらも大変だけど、逆に現地ならではの国境がないような交流があったりとあっけらかんとした実像がうかがえたりもする。このあたり、現代はどうなんだろう。
    5編目「屑の世界」はその名のとおり屑・廃品扱いの世界に飛び込んでのもの。6編目「鼠たちの祭」は相場師たちの姿を追うもの。このあたりは50年もたてば業界の世界など様変わりして、とてもじゃないけど本書で描かれるようなある意味、牧歌的なアナログな世界は消え失せていることだろう。
    7編目「不敬列伝」は、戦後に天皇への不敬的な行為で話題になった人たちを追ったもの。一時の思想にかぶれてその後の人生にケチがついて回っている感じの人が多い気がして、世間の怖さを感じた。
    8編目「鏡の調書」はちょっとした滑稽譚。流れ者のばあさんが街の人から広く浅くお金をいただいてしまう話。
    これらを書いていた頃は沢木耕太郎も20代。自分の気の向いた話題のところへ行き、すると何らか取材を受けてくれるような糸口ができ、1編のルポルタージュができ上がるという感じだろうが、世知辛く個人情報を大切にする現代ではなかなか難しいことだろう。

  • ●「おばあさんが死んだ」

    昭和40年代

    餓死した元歯科医のバアさん
    その借家からはミイラが発見

    専門職なのになぜここまで困窮?と著者が関係者を訪ね歩いたルポ
    (現役時代から手技がポンコツで、それを心配して雇ってくれた院長のアドバイスにも従わなかった


    ●「棄てられた女たちのユートピア」
    売春婦の保護施設 かにた村 房総

    ● 「屑の世界」
    東京 ゴミ集めの曳子の話
    浮浪者すれすれ

  • 「沢木耕太郎」のルポルタージュ『人の砂漠』を読みました。

    『王の闇』に続き、「沢木耕太郎」のノンフィクション作品です。

    -----story-------------
    一体のミイラと英語まじりの奇妙なノートを残して、ひとりの老女が餓死した―老女の隠された過去を追って、人の生き方を見つめた『おばあさんが死んだ』、元売春婦たちの養護施設に取材した『棄てられた女たちのユートピア』をはじめ、ルポルタージュ全8編。
    陽の当たらない場所で人知れず生きる人々や人生の敗残者たちを、ニュージャーナリズムの若き担い手が暖かく描き出す。
    -----------------------

    20代だった「沢木耕太郎」が窮乏者、元売春婦、辺境の孤島に住む人々、鉄くずの仕切り屋、革命家、詐欺師等、社会の影と思われている位置する人々にスポットを当て、綿密な取材を行ったうえで作品化した八篇が収録されています。

     ■おばあさんが死んだ
     ■棄てられた女たちのユートピア
     ■視えない共和国
     ■ロシアを望む岬
     ■屑の世界
     ■鼠たちの祭り
     ■不敬列伝
     ■鏡の調書

    同じ日本に生きていても、人の生き方って、環境や地域、職種等の様々な要素や条件によって多様なんだなぁ… と、当たり前のことを改めて感じさせられた作品でした。


    最も印象に残ったのは、最初と最後を飾る作品で、いずれも孤独な老女を描いた『おばあさんが死んだ』と『鏡の調書』。

    ミイラ化した兄「敏勝」の遺体と供に社会から隔絶した状態で暮らしていた『おばあさんが死んだ』の「佐藤千代」、岡山市奉還町の人々を三年間もの期間≪銀座の百万長者≫として信じ込ませ、十数人もの相手から六百万円もの詐欺を働いた八十三歳の詐欺師「片桐つるえ(滝本キヨ)」。

    両者とも気位が高く、社会に頼らず自分の力で生きていこうとする姿勢や、頼る者がなく社会的に孤立しているところが共通していました。

    もっと早い段階で、周囲がなんとかできなかったのかなぁ… という思いと、自分が当事者だったら積極的に関与することは避けようとしたのかなぁ・・・ という全く逆な思いとの間で葛藤しながら読みました。

    これから高齢化社会がどんどん進展していく中で、このような不幸な事件が再発しないことを祈るばかりですね。


    そして、日本の南の果て与那国島を描いた『視えない共和国』と、北方領土を望む街、根室を描いた『ロシアを望む岬』は、実際にその地に行ってみたくなるような作品でした。

    南の島って、昔から、なんだか憧れる部分があり、『視えない共和国』の舞台となっている与那国島については、行くだけでなく、実際に住んでみたい感じがしましたね。

    『ロシアを望む岬』の舞台となっている根室は、当時(約30年前)とは状況が変わっているのかもしれませんが、北方領土返還に関する根室漁民の切実な思い(利権に関する実態)を考えると、複雑な思いになりました。


    売春婦の養護施設「かにた婦人の村」を描いた『棄てられた女たちのユートピア』と江戸川の瑞江にある仕切場(建場)の親方と曳子を描いた『屑の世界』も忘れられない作品になりそう。

    身近に存在しているはずなんだけど、自分の知らない生活(ある意味、知っているけど目を背けている世界)の一端を垣間見ることのできた作品でした。


    それらの作品に比べ、穀物相場に人生を賭ける男たちを描いた『鼠たちの祭り』や、天皇への不敬行為を働いた人物を追った『不敬列伝』については、興味の薄い分野だったので、あまり印象に残らなかったですが、登場する人々の生き方について、色々と考えさせられました。


    本当に人の生き方や考え方って多様ですよね。

    ステレオタイプな考えや観念に捕らわれず、善悪の区別はしつつ、人それぞれの生きかたや考え方を尊重したり、共感できるようになりたいなぁ。



    本作品を読むまで全く知らなかったのですが、、、

    本作品に収録されている『おばあさんが死んだ』、『棄てられた女たちのユートピア』、『屑の世界』、『鏡の調書』を原作とした映画が、現在公開中らしいです。

    この世界観を映像化するのは難しいと思うし、映像化された時点でフィクションになっているような気がするし、観たいような、観たくないような複雑な心境です。

  • 3.76/802
    内容(「BOOK」データベースより)
    『一体のミイラと英語まじりの奇妙なノートを残して、ひとりの老女が餓死した―老女の隠された過去を追って、人の生き方を見つめた「おばあさんが死んだ」、元売春婦たちの養護施設に取材した「棄てられた女たちのユートピア」をはじめ、ルポルタージュ全8編。陽の当たらない場所で人知れず生きる人々や人生の敗残者たちを、ニュージャーナリズムの若き担い手が暖かく描き出す。』

    目次
    おばあさんが死んだ/棄てられた女たちのユートピア/視えない共和国/ロシアを望む岬/屑の世界/鼠たちの祭/不敬列伝/鏡の調書


    『人の砂漠』
    著者:沢木 耕太郎(さわき こうたろう)
    出版社 ‏: ‎新潮社
    文庫 ‏: ‎524ページ
    映画化(2010年)

  • 書き手の思いが伝わる実地に基づく熱い素晴らしい作品(ルポルタージュ)。

  • あとがきにもあったけど、事実は小説よりも奇なりを表した一冊。屑と婆さんの話が良かった

  • 昭和52年に出された、著者渾身のルポルタージュ8篇。

    「おばあさんが死んだ」は偏屈な老女の死と兄のミイラ化された死体を巡るルポ、「棄てられた女たちのユートピア」はもと売春婦の養護施設の暮らし体験、「視えない共和国」は台湾と隣接する最果ての地与那国島の暮らしの変遷、「ロシアを望む岬」は北方領土を望む根室の人々の複雑な事情、「屑の世界」は廃品回収リサイクルの現場の人々(仕切場や曳子)の生きざま、「鼠たちの祭り」は相場氏達の壮絶な博奕人生、「不敬列伝」は戦後皇室に対して事件を起こした人々のその後、「鏡の調書」は老女が起こした大胆な詐欺事件のルポ。

    今から40年以上前に描かれているため、時代を感じるが、それぞれに描かれている人物は生き生きとして色褪せていない。

    事件や市井の人々を描く著者の筆致には、自分を見つめ続けた「深夜特急」とはまた違った味があって面白かった。

  • 断片的に読んだため読後の印象が散漫だが
    ・「おばあさんが死んだ」・・・元歯科医の老女
    ・「鏡の調書」・・・銀座の煙草屋と称した詐欺師の老女
    の話が特に面白かったように思う。

  • 沢木さんは私の知らない世界に案内してくれる。
    フィクションなのに小説の様に面白い。
    この本は、8つの世界について書いてある。
    孤独死、婦人保護施設、与那国、根室半島、屑の仕切場、相場師、天皇不敬罪、詐欺師。
    どれもうわっつらを拾っただけの文章ではなく、沢木さんが足で拾い集めたり体験した中での文章なのですごく伝わってくる。
    このような世界があるなんて、私はまだまだ世間知らずなんだなぁ。

著者プロフィール

1947年東京生まれ。横浜国立大学卒業。73年『若き実力者たち』で、ルポライターとしてデビュー。79年『テロルの決算』で「大宅壮一ノンフィクション賞」、82年『一瞬の夏』で「新田次郎文学賞」、85年『バーボン・ストリート』で「講談社エッセイ賞」を受賞する。86年から刊行する『深夜特急』3部作では、93年に「JTB紀行文学賞」を受賞する。2000年、初の書き下ろし長編小説『血の味』を刊行し、06年『凍』で「講談社ノンフィクション賞」、14年『キャパの十字架』で「司馬遼太郎賞」、23年『天路の旅人』で「読売文学賞」を受賞する。

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