闇の穴 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (260ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101247144

感想・レビュー・書評

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  • 著者らしい武家ものと市井もの、それに『今昔物語』や『雨月物語』を思わせるような趣の異なる作品が混在している短編集。
    武家もの2作品のうち『木綿触れ』は、初期作品の特徴でもある暗く悲劇の結末を迎える。
    『小川の辺』は、藩主への上書が問題となり脱藩する妹婿の討手を命じられ苦悩する主人公の物語で、結末にかすかな救いがある。

  • ☆3.3

    ひっそりと寄る辺なき世界の片隅で、自分の今を生きている。
    何も特別なことなどないはずの、そんな普通の人々のお話。
    七編収録。

    「木綿触れ」
    二年前に赤子を亡くしてからずっと鬱いでいた妻が、実家の法要のために特別に新しい絹の着物を仕立てるとなってやっと明るさを取り戻してきたのだが…
    うわぁ辛い!
    平和に幸せに暮らしたいだけの只人なのに。
    でもこれが特別の悲劇でもないのだろうことが、また遣る瀬ない思いをもたらす。

    「小川の辺」
    朔之助は家老に脱藩した男の上意討ちを命じられる。
    その男は妹の夫でもあった。
    妹の田鶴も脱藩に同行しており、剣の腕が立つため立ち向かってくると思われたが…
    田鶴とはどんな女だったのだろう。
    "もしかこれはそういうことでは……"と思わずにいられない。
    ち、違うよね?大丈夫だよね?
    そういう怖い話じゃないよね?

    「闇の穴」
    三歳の娘をもつおなみは、夫の喜七の大工独立を目指して裏店でつましく暮らしている。
    そこに行方不明だった元夫の峰吉が突然に姿を現し、その後も度々訪れるようになり…
    まあ峰吉の怪しげなことったら。
    いつの間にか戻れないことに巻き込まれているのかもしれないって、本当に昨今のニュースを思い出す。

    「閉ざされた口」
    殺人を目撃し口をきかなくなった子がいるおすまは、夫を亡くしたため、体を売りつつ一人で育てている。
    やっと自分を思ってくれる人と出会い、まともな所帯を持てると思ったが…
    あたしほど、不幸な女はいない。
    そう何度も思うおすまの気持ちも分からなくはない。
    幸せとは何か、それを彼女がちゃんと分かって良かった。

    「狂気」
    この狂気はあかん。
    渡ってはいけない橋を渡ってしまった男の話。

    「荒れ野」
    師の僧に命じられ修行に出された若い僧は、修行先の寺に向かうべく旅をしていた。
    途中百姓の女に声をかけられ泊めてもらうことにしたのだが…
    今までの短編とは少し色合いが異なる一編。
    なかなかの生臭坊主な若い僧、少しは懲りたかな?

    「夜が軋む」
    流れ流れて塚原宿に行き着いた飯盛り女郎の身の上話を彼女の語りで。
    深い雪降りしきる村で起こった一夜の凶事。
    その夜、裂けると思えるほどに家を軋ませたのは何だったのか。
    その真実は闇の中。

    好きだったのは「木綿触れ」ですかね。
    やりきれなさの胸の痛みも含めて。

  • 不条理な武家社会に生きる下級武士の悲哀を、薄幸に喘ぐ市井の庶民の行末を、固唾を飲みながら読み耽ける藤沢周平氏の短編時代小説7篇です。『小川の辺』『木綿触れ』『闇の奥』『閉ざされた口』などは、非情な世のことわりにあがらうように、海坂藩の城下や江戸下町の長閑な情景描写が精悍な彩りを添え、哀切の物語をいっそう際立たせた作品揃えです。

  • 川は我々日本人にとって、無常観の象徴なのである

  • 1985(昭和60)年発行、2008(平成20)年改版、新潮社の新潮文庫。7編。比較的家族の関係が重要な話が多いかな。武家物とも市井物とも違う感じの作品もある。最後の2編のホラー風な作品を含めてなんか統一されてない感じ。私は後半の方が好きかな。前半の作品は性愛的な要素が絡んできて、もちろんこれは家族や人の関係では重要なのだが、武家物のようにそれを乗り越えるような話でもないので、なんか乗り切れなかった。

    収録作:『木綿触れ』、『小川の辺』、『闇の穴』、『閉ざされた口』、『狂気』、『荒れ野』、『夜が軋む』、他:「あとがき」、「解説」藤田昌司(昭和60年7月、時事通信社文化部長)

    昭和52年(1977年)立風書房刊行された作品集

  • 2021.12.26読了
     武家ものと市井もの、民話調ものが収められた珍しい短編集。妻の仇を撃つ「木綿触れ」、上意討ちで義弟と実妹を相手にする映画化作品「小川の辺」が印象に残る。

  • 藤沢周平作品は大好きですが、この短編集はとても暗い内容です。

    妹夫婦を討ち取りに行く兄、殺しの現場を目撃して話せなくなった子ども、幼女趣味のオヤジ、色欲に溺れた坊主…残念な人や可哀想な人たちがたくさん出てきます。

    家が鳴る女の話は、正直よくわかりませんでした。

  •  藤沢周平「闇の穴」、1985.9発行、7話。「木綿触れ」、切ない。「小川の辺(ほとり)」、エンドに夢が残りグッド。タイトルの「闇の穴」は意味不明! 「閉ざされた口」はハッピーエンドで嬉しかったw。「狂気」は幼女に対する老人のいたずら、気持ち悪いだけの話。「荒れ野」は怖さとエロスのミックス、楽しめました。「夜が軋む」は、飯盛り女の身の上話、冗長過ぎました。私にとって、藤沢周平さんの作品、だいたい、いい悪いが半々です。半々というのは、相性がいいのか悪いのか?! まさに半々なんでしょうね。

  • ハズレの短編七作

  • 時代物?は普段読まないけど、すすめられて。なかなか面白かった。暗いけど。

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著者プロフィール

1927-1997。山形県生まれ。山形師範学校卒業後、教員となる。結核を発病、闘病生活の後、業界紙記者を経て、71年『溟い海』で「オール讀物新人賞」を受賞し、73年『暗殺の年輪』で「直木賞」を受賞する。時代小説作家として幅広く活躍し、今なお多くの読者を集める。主な著書に、『用心棒日月抄』シリーズ、『密謀』『白き瓶』『市塵』等がある。

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