日本文学100年の名作 第4巻 1944-1953 木の都 (新潮文庫)

制作 : 池内紀  松田哲夫  川本三郎 
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (502ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101274355

作品紹介・あらすじ

第二次世界大戦の敗北、GHQによる支配――。日本に激震が走った10年間の15編を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 読んだことない作者さんを試し読みできるのが楽しい本シリーズ、今回特に印象深かったのは以下の作品。

    1947|トカトントン  太宰治
    何をやってもしらけてしまう若者と、その苦悩を相手にもしてくれない大人という構図の話として、若者側に共感する形で読んでいたのだけど、巻末の「読みどころ」で、若者側の「本当に苦しむことも悩むこともなしにすませる下心」への太宰の「口いっぱいにこみあげてくる嫌悪」を書いたのではないか、という解説があり、なるほどそういう読み方もあるかと思う。

    それにしても、同時代の作品の中でも太宰作品は圧倒的に読みやすく、面白くて、さすがだ(めちゃくちゃ太宰贔屓かもしれませんが)。

    1949|食慾について 大岡昇平
    「食物に対する異常な関心が、暗い未来を考える余裕を与えず」「平静な態度を与え」るというのが、新鮮な見解。
    実際に経験したことがないと出てこない目線な気がする。

    1949|朝霧 永井龍男
    ぼけちゃう老人ものに弱いので…。
    切なくもとぼけた味わいで、ラストは何とも言えぬ余韻。

  • 戦中から終戦後にかけての15編。
    個人的には太宰治、井伏鱒二、松本清張、五味康祐辺りが好きでした。どの短編も楽しく読みました。

  • オダサクの木の都はスキ。何度読み返してもいいなぁって。オダサク全集とか揃えたくなる一冊。

  • 第二次世界大戦の敗北、GHQによる支配―。日本に激震が走った10年間の15編。小説の読み巧者三名が議論を重ね厳選した名作のみを収録。

  • 1944年から1953年にかけて書かれた日本文学から15篇を収録。個人的に面白かった順に。
     
    坂口安吾「白痴」
    戦争の最中にある街の描写に始まり、主人公の持つ信念、白痴の女をめぐる色々など、安吾が持つ頽廃というものへの憧れがぎゅっと込められていた。
     
    井伏鱒二「遥拝隊長」
    一人の退役軍人を軸に据えて、悲哀に満ちたエピソードや、何となく心に残るフレーズが散りばめられた、井伏鱒二らしいユーモラスな短篇だった。
     
    小山清「落穂拾い」
    作者の考えが「誰かに贈物をするような心で書けたらなあ。」と素直に出てくるところに、単なる私小説に留まらない魅力を感じた。
     
    永井龍男「朝霧」
    痴呆というものを扱った小説はこれまであまり読んだことがなかったが、悲愴感は感じずむしろ面白く読めた。文章は静謐できめ細やかだった。
     
    太宰治「トカトントン」
    既読の作品だったが、トカトントンという音に悩まされる悲しき男の話、そしてそれに注がれる太宰自身の皮肉的な見解は、何度読んでも唸らされる。
     
    島尾敏雄「島の果て」
    南の島に駐屯している少尉と、島に暮らす少女との儚げな営みが、ドラマチックかつ優しい筆致で描かれていた。救いのあるラストもよかった。
     
    長谷川四郎「鶴」
    こちらはラストは悲惨なものの、暗さを感じさせない魅力を持った作品。鶴の自由な様子から、戦争による鬱屈からの脱出を夢見るというモチーフは面白かった。
     
    織田作之助「木の都」
    エッセイ風の語りから、少年時代の思い出の地、そこで出会った人々、と話が転々していくのが見事。大阪の街をもっと知りたくなった。
     
    大岡昇平「食慾について」
    他の著作(「野火」など)のイメージとはまた違った、エッセイ風のとぼけた雰囲気がよかった。
     
    五味康祐「喪神」
    一見普通の剣豪小説のようでいて、どこか幻想的な物語や文章で楽しめた。ラストには驚いた。
     
    室生犀星「生涯の垣根」
    作家である主人公が持つ庭へのこだわりと、民さんという職人への思いとのバランスが絶妙で面白かった。
     
    松本清張「くるま宿」
    剣術の得意な人力車夫をめぐる、時代小説でもありミステリーでもある上手い短篇。作者の他の長編にもいつか挑戦してみたい。
     
    豊島与志雄「沼のほとり」
    地味ながらも、しっとりと後に残るホラー。序盤にて、母親が抱く見知らぬ土地での不安な感じがよかった。
     
    永井荷風「羊羹」
    時代背景を知る上では興味深い内容かも知れないが、いかんせん物語が蔑ろな気がした。
     
    獅子文六「塩百姓」
    これにも同じく、時代を切り取ることに注心しすぎているように感じた。
     
    戦争を題材とした物が多いという共通項はあるが、物語性に富んだもの、文章が美しい或いはユーモラスなもの、一方で時代性という観点でのみ選ばれたであろうものなど、玉石混交の感を受けた。

  • 織田作之助『木の都』B
    口縄坂の思い出。
    いわゆる人情ものから少しだけはみ出す人情にほっとする。
    これは太宰の読み応えと少し似ていた。

    豊島与志雄『沼のほとり』A
    凄まじく暗示的な恐怖譚。
    海外幻想文学に連なっても遜色ない。これは好み。

    坂口安吾『白痴』S
    間違いない。

    太宰治『トカトントン』B
    印象は深いけど太宰なら別のものを好む。

    永井荷風『羊羹』B-
    戦争が終わってもブルジョワはまだまだ厚い。
    うーんこれはわからなかった。

    獅子文六『塩百姓』B
    製塩を始めた百姓と、それに続く村の人たち。
    寓話的。

    島尾敏雄『島の果て』S
    もっとも嬉しい出会い。早く「死の棘」も読まねば。
    またしまおまほさんが独居の祖母の死を発見したという挿話など、この一族の不思議な魅力にぼうっとなってしまう。
    「山の端の向うの青白い月夜の部落には真珠を飲んだつめたい魚がまな板の上に死んだふりをして横たわっているのだ。私は是非ともその様子を

    見届けて来なければならない」
    「お月様かと思ったの」「ごめんなさい。でも眠っていたのではありませんわ」
    「私は誰ですか」「ショハーテの注意さんです」「あなたは誰なの」「トエなのです」「お魚はトエが食べてしまいなさい」
    溜め息が出るほどコケティッシュで。

    大岡昇平『食慾について』B
    任務中に甘納豆を喰う滑稽。

    永井龍男『朝霧』B
    近年文芸誌でよく見る痴呆や介護の話の先鞭か。
    でもよくわからなかった。

    井伏鱒二『遥拝隊長』B+
    外因性の狂気でいつまでも戦争中の男、と、周囲の混乱と憐みとあざけり。
    秀逸なコミックのようだ。

    松本清張『くるま宿』B
    士族の矜持。

    小山清『落穂拾い』A
    別の本でも読んでいたが、これは内容云々ではなく文章自体が香り立つような色気。
    茶碗蒸しのように安心させてくれるのだ。

    長谷川四郎『鶴』B
    なかなか悲壮。

    五味康祐『喪神』B-
    とても端整な映画を見たかのよう。

    室生犀星『生涯の垣根』A
    「密のあわれ」でも思ったが、ぎょっとするような性的なモチーフを持ってくる人だが、それがどぎつくない。
    むしろからっとしていてユーモラス。
    何せ「君のきんたまは白いね」だもの。

  • 日本文学の100年の歴史を選び抜かれた中短編小説で綴るシリーズの第4巻。第二次世界対戦敗北後の1944年から1953年に書かれた15編を収録。松本清張と五味康祐の短編が良かった。

    さすがにこの時代になると馴染みの作家が名を連ねる。織田作之助、坂口安吾、太宰治、永井荷風、獅子文六、大岡昇平、井伏鱒二、松本清張、小山清、五味康祐、室生犀星は、一度は読んだ事のある作家である。

    織田作之助『木の都』。純然たる私小説である。最後の一文に作品全編に漂う喪失感を集約されている。

    豊島与志雄『沼のほとり』。戦時を舞台に描かれたホラー短編小説。恐怖とともに静謐さを覚える。あの時代は列車の切符が朝一番で売り切れたのか。

    坂口安吾『白痴』。敗戦が濃厚な戦時の混沌とした日本の下町を舞台に描いた純粋な物への憧憬か。登場する奇妙な人びと…

    太宰治『トカトントン』。奇妙な手紙に綴られた主人公の悩み。あまりにも卑屈で、暗く、読み進むうちに不安を感じるような太宰治晩年の作品。

    永井荷風『羊羹』。寓話的な短編の中にも、権力とか体制への抵抗が窺える。林檎と羊羹は、あの時代の贅沢の象徴なのだろうか。

    獅子文六『塩百姓』。どこかユーモラスな寓話的な短編。貧しい漁村に突撃訪れたゴールドラッシュ。まるでバブル時代の日本を見るかのようだ。

    島尾敏雄『島の果て』。南海の楽園を襲う戦火の中での恋物語。

    大岡昇平『食慾について』。戦時中の食への欲求が綴られる。

    永井龍男『朝霧』。叙事詩のような物語の中に見えてくるのは…


    井伏鱒二『遥拝隊長』。アイロニカルでどうかユーモラスな短編。

    松本清張『くるま宿』。士族の矜持を感じるような逸品。こういう短編は好みだ。

    小山清『落穂拾い』。静謐さを感じるような短編。

    長谷川四郎『鶴』。これも戦争がベースの短編。

    五味康祐『喪神』。所謂、剣豪物の逸品。松本清張の短編とこの短編が良かった。

    室生犀星『生涯の垣根』。庭作りを描いた短編。どこかユーモラス。

  • 時代を見せたいというのもあるだろうし、もちろん実際に書かれたものもそういうものが多かったのだろうとは思うけれど、やはり戦争文学に偏りすぎな気がする。
    テーマを揃えることで時代の色がよく見えるようになるという長所もあるが、それは逆に言うと、話のバリエーションが少なくなるということでもあり、それはさらに、作品ごとの差がはっきり出てしまうということでもあるように思う。
    そして、最上のもの以外を忘れ去った結果、心に残るのは『島の果て』だけということになってしまうのだ。(非戦争ものの『喪神』は別として)

  • 第4巻。表題作『木の都』は織田作之助の短編。
    その『木の都』は、大阪・天王寺周辺を描いている。土地勘があるので楽しく読んだ。ジャンルは違うが有栖川有栖もこの周辺を舞台にしたホラーを書いていて、こちらも面白い。
    1944年〜1953年に発表された短編を集めているせいか、戦争と戦後を舞台にしたものが多い。と、なると外せないのが坂口安吾『白痴』だろう。若い頃からずっと好きだった短編。
    戦争を描いたと言えば大岡昇平が有名ではあるが、このアンソロジーに収録されているものの中では井伏鱒二の『遙拝隊長』が良かった。滑稽でありつつも悲哀漂う一品。
    松本清張は家にけっこう文庫本があったので長編は読んでいたのだが、『くるま宿』は初めて読んだ。子供の頃はただ面白くて読んでいたが、この歳になって改めて読むと違った発見があって味わい深い。
    味わい深いといえば室生犀星もそうだ。幻想文学好きには『蜜のあはれ』が有名なのだが、『生涯の垣根』は日常の一コマを切り取った、余韻の残る作品だった。

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