思い出トランプ (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 421
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  • Amazon.co.jp ・本 (225ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101294025

感想・レビュー・書評

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  • 感想を書くのが難しい。
    結局のところ☆5、☆1と評価する本は感情丸出しのレビューをする他はないのだけれど。僕の場合。

    読書中はだいたい「ゲロ吐いちゃいたい」ぐらいに思っていた。
    まるでセックス・浮気・離婚だけが人生の中心にあって、我々人類はそのまわりをぐるぐる回るしかないような書き方。人間ってもっと崇高なもんじゃないんスかね?と言いたくなる。
    だからある時ポッと頭に浮かんだ「典型的な腐れおま○こ」という言葉がいつまでも頭を去らない。我ながらどうかしてると思う。

    これはつまるところ、「シルバニアファミリーなんだな」と考えることにした。
    そう考えるとすとんと納得がいく点がいくらもある。

    まず人の名前を「リス」とか「クマ」としても何ら弊害がないという点。特に登場人物が4人以上になるとかえってこちらのほうが読みやすい。

    五十過ぎて出世コースを外れる、煙草を買ってから愛人に会いにいく、妻がマンションを建てろとうるさい。……これらはテレビドラマの書割、大舞台のようなものだ。本物である必要はない。だって絵なんだから。けど「本物っぽさ」は要求される。だからありきたりであればあるほど効果的だ。これが「赤い屋根のおうち」。

    これで準備が整った。読者はただくつろいで、いい歳こいた大人のままごと遊びをただ眺めていればいい。

    文章が過不足ないというのは、それがシルバニアファミリーを「本物っぽく」見せるうえで過不足ないだけだ。
    本当の人間を相手にしたらこうはいかない。脳卒中で倒れた男は、「頭のなかの地虫がじじ、じじ、」などでは済まないだろう。
    汗が噴き出すだろうし小便ちびっちゃうかもしれないし、急に神様のことなんか考えだしちゃうかもしれない。

    人間の汗…本当の臭い…が、この文章から漂ってくる必要はないのだ。だってシルバニアファミリーだから。

    逆説的になってしまうけれど、でもだからこそこの作者は唯一無二なのだろうとも思う。何故なら、紙一重なんだ。あと半歩でも踏み出せばもはや「文章ですらない」ものになりかねない。「本物っぽい」というのは、実はすごく淡い境界なのだろうとも思う。
    だからいくらこの人の文章を写生したって、絶対にこの人のようには書けないだろう。

    そういう意味で、「ゲロ吐いちゃいたい」とは思いつつも、すこし離れて眺めてみると、「だからすごいのかな?」とも思う。

    まあどちらにせよ手放しで感動できる本も、ゲロ吐いちゃいたい本も、どちらも同じくらい珍しいことは確かだ。

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著者プロフィール

向田邦子(むこうだ・くにこ)
1929年、東京生まれ。脚本家、エッセイスト、小説家。実践女子専門学校国語科卒業後、記者を経て脚本の世界へ。代表作に「七人の孫」「寺内貫太郎一家」「阿修羅のごとく」。1980年、「花の名前」などで第83回直木賞受賞。おもな著書に『父の詫び状』『思い出トランプ』『あ・うん』。1981年、飛行機事故で急逝。

「2021年 『向田邦子シナリオ集 昭和の人間ドラマ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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