- Amazon.co.jp ・本 (267ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101304540
作品紹介・あらすじ
結婚して十年。夫婦関係はとうに冷めていた。夫の浮気に気づいても理津子は超然としていられるはずだった(「妻の超然」)。九州男児なのに下戸の僕は、NPO活動を強要する酒好きの彼女に罵倒される(「下戸の超然」)。腫瘍手術を控えた女性作家の胸をよぎる自らの来歴。「文学の終焉」を予兆する凶悪な問題作(「作家の超然」)。三つの都市を舞台に「超然」とは何かを問う傑作中編集。
感想・レビュー・書評
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「妻の超然」「下戸の超然」「作家の超然」から成る。前ふたつは、共感できたりと面白かったが、作家の超然は難しかった。何度か読めば理解できるのかなぁ。
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「超然」たる姿勢が、3つの立場の物語で語られる。
『作家の超然』は哲学のよう。
絲山さんは五感が鋭く、それを字に起こせるのだろう。分かりやすくなくてよい、分かってくれなくてもよい、その間を翻弄させられる。でも書く作家も、読む私も移動の過程にあるのだから、それでいい。 -
実験作?そこが目立ったのだけが少しだけ残念。
「妻」と「下戸」が良かった。 -
絲山さんの本は前にまとめ買いしたのでちょこちょこ読んでいるのだが、この手の「らしさ」というか毒が前面に出ている作品があんまり合わなくてつらい。なにかにつけ現れる不満、攻撃性が常に読書のテンションを下げてくる。
巨人戦は負けた時の悔しさが尋常じゃないから見に行きたくないとかものすごくわかるし、「他人へのむきだしの善意と、社会へのむきだしの悪意」への不安、「その全てを見ていたいと思う」とか面白いと思うところはどの短編にもあった。妻の超然が敗北するところなどはやっぱり見事だなと思うけど、物語に回っている毒に疲れてしまうのが印象として強い。 -
妻、下戸、作家の三者の「超然」のうち、二人称で書かれた「作家の超然」が壮絶だった。難解な言葉も文脈もないのに、視点はどんどん遠ざかって、やがて文学の滅亡に至る。言葉の意味や情報が失われた後に幻視する光景にただ圧倒される。ひたすらすごい本だった……。
久しぶりの絲山作品。疎遠になっていた原因でもある「生々しさを突き抜けたグロテスクさ」にやっぱり当てられたけど、どうしてかめちゃくちゃ清潔だとも感じる。不思議。
(初読やと思ってたけど単行本の登録がある……感想もつけてる……)(自分が信じられない) -
超然とは、世俗的な物事にこだわらないで、そこから抜け出ているさま(岩波国語辞典)とある。日常用語ではないし、「忖度」のように、この作品から流行語にもならなかった。
三部作からなるが、個人的には、私はあまり酒を飲まないので、「下戸の超然」を半分共感しながらおもしろく読んだ。未婚の男女が結び付き、結婚のハードルが見えてきた時の温度差が語られる。男の結婚願望はきわめて低く、女は当然結婚するものと思い込んでいる。女は国際的なボランティア組織で活動するのを生きがいとしている。ともに参加させようとするが、男は断る。男の方は女のボランティア活動を趣味の一環として考え、強要する筋合いではないと考えている。最後に破局を迎えるのだが、肉体が融合するように精神が融合することの難しさを語っている。
一方「妻の超然」は、夫が浮気をしていることを見抜き、見抜いていることに気づかない夫を軽蔑している。ところが、ある夜、眠れないといって別室で眠る妻のそばに来た夫を、つい幼子を入れるように布団をまくってしまった。それが修復へと向かうことを暗示してるところで終わる。これはどんなに修復不可能と思っている関係でも、ちょっとしたことがきっかけで修復可能となるということもありうるのだということを暗示している。
最後に「作家の超然」だが、これは明らかに作家の自画像が描かれている。ただ、ここでは、あまり見かけない形式である二人称「おまえ」で語られている。二人称だから、「おまえ」と呼ぶべき存在がいるはずだが、それは明らかにされていない。それは作者自身か、あるいは天上の神かもしれない。
腫瘍が見つかり、入院して手術をし、退院するまでの1部始終がかたられている。担当の医師が手術を楽しんでいることに気づき、それは小説を書くという行為と共通性があること連想させる。一方は肉体を、一方は精神を切開し、その患部を白日のもとにさらす。
主人公は小説を書いて、そこそこ成功し有名になった。なのに達成感も幸福感もない。むしろ通俗的な幸福に浸れないコンプレックスを抱いている。自分の鋭敏さが、交際相手のダメさ加減に嫌悪をもよおし、張り飛ばしてやりたい衝動を押さえる。
単純に結婚に幸福を夢見る歳でもなくなった。「そもそもこんな軽症では、どれだけ日常を愛しているかなんてことを語ることさえばからしい。おまえはただ、淡々とすごせばいいのだ。」ここに私は主人公の覚悟を見たのだが。
絲山文学に通底しているのは、通俗的な幸福感に対するアンチテーゼだ。 -
世評は高い作品ですが、どうも楽しめませんでした。
とても文学的。でも、私にはチョット過ぎるようです。
裏表紙に『「超然」とは何かを問う傑作中編集。』と書かれている通り、「超然」がテーマなのでしょうが、その「超然」と私の相性が悪いのでしょうね。
まあ、そういう事も有るさ、と読了。 -
楽しみ読み進めました。
読みやすいのですが、「超然」というテーマに沿って書かれた短編という挑戦をしているのに、楽しみながら読み進めることができるもので、作家としてのチャレンジ精神にも感服します。
文体がとてもリズミカルで読みやすいように感じるんですよね。毒もあるので読んでていてスッキリするんです!
しばらく絲山秋子さんの本を読み漁ろうと思っています。