「線」の思考 (新潮文庫 は 50-3)

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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101345826

作品紹介・あらすじ

なぜ小田急江ノ島線沿線にはカトリック教会や女学校が多いのか。JR阪和線沿線にはなぜ古代から現代までの歴代天皇の足跡が豊かに残るのか。JR山陽本線沿線の内陸部に多くの新宗教が発生したのはなぜなのか――。鉄路という「線」に沿い、地を這うように移動し、考えることで、歴史の死角に隠された地下水脈が発掘される。旅情をそそり、知的興奮のとまらない歴史紀行ミステリー・ツアー。

感想・レビュー・書評

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  • 内容というより、「線」の思考そのものに面白さを感じる。

    電車が走る「路線」に、どんな歴史的な意味があるのかを辿りながら、景色や食事に踏み込んでいくのだけど、知らない土地だと、描写だけを追い続けるのはやや厳しいかもしれない。

    始点と終点をつなぐ働き。

    そして境界のように面を隔てる働き。

    線そのものの持つ魅力をもっと知りたいなと思わされた。

  •  鉄道、皇室について数々の著作を持つ著者。原さんの著作はみなそうだが、「どうしてこんなところに注目したのだろう」という驚きが本書にもたくさん詰まっている。それは文献や史跡等に当たりつつも、実際に現場を歩いて(本書では鉄道に乗って)、自分の目で見、自分の頭で考えているからこそなのだろう。

     取り上げられる路線は8つ。
    1 小田急江ノ島線 ~沿線にカトリック女学校が多い
      (神奈川県に仕事で住んでいたことがあるが、全く知らないことだった。)
    2 常磐線 ~「ときわ」と「じょうばん」
      「ときわ」は「とこいわ」を語源とする古代にまで遡れる言葉。「じょうばん」 は常陸と明治に設置された磐城の二つの国名を組み合わせた「常磐」。
    3 軍都旭川の市街軌道 ~第七師団を中心に、3路線25キロ
    4 JR阪和線 ~沿線が古代の天皇の行幸ルートに重なる、百舌鳥、鳳、熊取、日根野など駅名が六国史に由来
    5 房総三浦環状線(著者名付け)~日蓮宗と明治宮中女性との関わり
      久里浜ー(JR横須賀線)-東京ー(JR総武本線)ー千葉ー(JR外房線)ー上総一ノ宮(同)ー安房鴨川ー(JR内房線)ー浜金谷=金谷港ー(東京湾フェリー)ー久里浜港=久里浜
    6 山陽本線 ~新宗教本部が所在(黒住教、今光教、神道天行居、天照皇大神宮)
    7 北陸本線 ~神功皇后、継体天皇との関わり
    8 JR筑肥線・松浦鉄道 ~聖母=ショウモ=神功皇后/聖母=セイボ=マリア

  • 地図や路線図に興味があり購入し読了。駅弁や食べ物の記載が美味しそうでそちらに興味がいった。

  • 原さんの発想がおもしろい。
    結果的にizm的になりうるものが「鉄道」に絡んで作られているという。まさに筆者のいうところの「作為」(する/される)。さもありなん。

    ある程度、読みながら、予想がついたのは、「旭川」と「常磐」。現代から見れば「近代の残滓」だが、鉄道敷設が国家の一大事であり、「近代の花形」だとすればそうなる。
    予想外というか、”へ~”と思ったのは「江ノ電」の話。それから「JR阪和線」。「山陽本線」もおもしろかった。

    「JR阪和線」は関空特急くらいしか乗ったことがない。でも、「大和物語」の、宇多天皇が譲位して、出家したあとあちこち歩きまわった話を知って、「日根」と「日根野」がつながったり、文楽の「蘆屋道満大内鑑(葛の葉)」が頭に浮かんだり。自分の知っている範囲のことでも、時代が古代・中古・中世と渡っている点に気づけたのは儲け物だった。取り上げられていた茅渟宮のことは知らなかった。大きな古墳群のことなどを考えれば、天皇制につながる力のある集団が存在した場所だろうし、熊野に続く場所でもあり、おもしろい。

  • 所謂“紀行”というような分野の文章になるのであろうか?本書はなかなかに面白い!
    副題のように「鉄道と宗教と天皇と」というように掲げられている。鉄道沿線を動き回り、古いような新しいような、日本の歴史の中の様々な事柄を考えようという内容である。
    古い時代の出来事や、伝えられている話しに想いを巡らせながら、何処かを訪ねるということが在るであろう。特定の地点を取上げる「点」という考え方も、そういう「点」を幾つも含む「面」という捉え方も在る。これらに対して「線」という考え方を打ち出すのが本書の各篇である。
    「線」と言う場合、古くからの街道に沿った地域というようなことも在れば、それに概ね沿うように敷設された鉄道というモノ、古くからの街道と無関係に敷設された鉄道、かなり古い街道が廃れた後に敷設された鉄道が廃れた街道に概ね沿っているというようなモノ等、色々な事例が在り得る。本書は、そういう事例を拾い、沿線の様々な旧跡や現存する史跡を訪ねてみるという内容だ。
    雑誌連載に供するべく、著者と雑誌編集者との小グループで各地を旅するという様子で、或る程度はその旅の雰囲気を伝える様子も織り込みながら綴られている。通読して「マダマダ、国内には少し思い付いて巡ってみる、興味深いコースが色々と在る」というように思った。
    近くに行った経過が在る場所も、近くに行っていながら全然知らないという場所も、全く知らない場所も色々と在る紀行を大変に愉しく読んだ。鉄道沿線が基礎では在るが、タクシーやレンタカーで辺りを動くという展開も少し目立つ感では在った…
    8つの篇が収められているが、旭川を巡る篇は秀逸だ。市内線、郊外線というかつての鉄道が廃されてしまった後、その跡を訪ねるというような主旨と、旭川周辺に皇室の離宮を設けるような構想も在ったということ等、豊富な話題が溢れている。これは殊更に面白かった。
    恐らく、本書で取上げられた場所以外にも、色々な面白い「線」は各地に在るのだと思う。そういうモノを見出したいという気にさせてくれる一冊だ。

  • 忘れてた…。
    鉄道という文字につられて
    手に取ってしまったけれど
    この著者さん、鉄道からひっぱってって
    他をメインで語る人だった。

    まぁ、鉄道による輸送が
    地域の盛衰に関係しているのは確かで
    沿線に宗教施設が林立した経緯も
    興味深く読みましたが。

    テツ的におもしろかったのは
    「裏山陽線」の章かな。
    新幹線でピューっと行き来しちゃうけど
    それぞれの土地の歴史を知ると
    また印象が違ってきますね。

  • いろいろな沿線の歴史を主に天皇家との関係という視点から俯瞰する興味深く珍しい論考。

  • 20230726

  •  歴史ある面を鉄道という線で結んでいるところが新鮮で勉強になった。天皇の記述が多いが、所詮日本の歴史は天皇の歴史になってしまうのは、文書に残っているのはそれしかないのだから仕方がない。

  • 電鉄の主な動因の1つは社寺参詣。

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著者プロフィール

1962年生まれ。早稻田大学政治経済学部卒業,東京大学大学院博士課程中退。放送大学教授,明治学院大学名誉教授。専攻は日本政治思想史。98年『「民都」大阪対「帝都」東京──思想としての関西私鉄』(講談社選書メチエ)でサントリー学芸賞、2001年『大正天皇』(朝日選書)で毎日出版文化賞、08年『滝山コミューン一九七四』(講談社)で講談社ノンフィクション賞、『昭和天皇』(岩波新書)で司馬遼太郎賞を受賞。他の著書に『皇后考』(講談社学術文庫)、『平成の終焉』(岩波新書)などがある。

「2023年 『地形の思想史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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