神の火(下) (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 1409
感想 : 101
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  • Amazon.co.jp ・本 (409ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101347134

感想・レビュー・書評

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  • (上巻の感想からの続き)
    髙村氏は書きながらストーリーやプロットを考えるという。この小説はそういう作者の癖が如実に表れているように思った。詳細な日常な描写が続くし、各国スパイの島田への接触が断続的だし、次々と出てくる登場人物の使い方が使い捨てすぎるのが気になった。

    特筆すべきはこの作家の脳みその構造の凄さである。
    まず専門家が素人の発言に驚かされるという描写。この小説では「世界の原子力発電所は戦争・破壊活動を想定して作られていない」、「原子炉の蓋を開けて見てみたい」という発想の斬新さを述べているが、こういう描写は専門家の頭を持っていないとまず思い浮かばない。
    この作家の経歴には商社勤務の経験しか書かれていず、技術者としての経験はないはずだが、何ゆえこのような発想が思いつくのか、想像を絶する。

    それともう一つは隠遁中の江口が島田と行う暇つぶしの方法について。
    ホテルに篭ってマッサージをしてもらい、お酒をちびりちびりやりながら読書をする、このだらしなさこそが男の至福の寛ぎなのだとのたまうが正にその通り。これを女性作家に述べられるともう敵わない。作者は男ではないかと疑うのも解る気がする。

    あと原子炉の温度制御の数値入力において不適当な数値を入れたとしても1つ1つ綿密に潰していけばシステムは機能するという話は現在問題になっている建屋の構造計算書偽造問題を想起させ、興味深かった。

    しかしこれほど緻密な説明や描写、血肉の通ったキャラクターを用意してもその内容はというと、首を傾げざるを得ない。
    結局原発襲撃は男二人の我侭による壮大な悪戯に過ぎないし、そのために犠牲になった各機関や人生を破滅させられるであろう登場人物が出る事を考えると簡単にこの小説に同意できないのだ。
    しかも島田や日野の最期は前作『黄金を抱いて飛べ』の主人公らと似通っているしで、同じストーリーを設定と手順と情報量を多くしたに過ぎないのでは?と勘繰ってしまう。世にその名が知られる前の作品だからこの辺の浅はかさは目をつぶるべきなのかもしれないが。

  • 2010年5月10日読了。2010年93冊目。

    面白かった。
    良と対面した島田のシーンが印象的。

  • 面白かったんだか、つまらなかったんだか、よくわからない。ものすごく緻密で、メチャクチャ乱暴な話なのだわ。狙っているのかもしれないけれど、筆致も、これでもかというくらいの書き込みと、ナゾで終わらせていいの?と思うほど省かれた部分があって、最後までその省かれた部分に「何かある」と思ってしまった私。でもまあ、凄い書きっぷり。

  • 原発襲撃の話らしい。高村薫ってつまんなくはないんだけどさっぱり記憶に残らない作家って感じ。

  • どれを読んでも高村薫の本ははまる。ただ今回は終わり方に余韻を残すいつものインパクトが少し弱かった。

  • 面白いけれど、高村様にしてはまだまだまだ。
    高村様の中では★3つ。
    でも、他と比べると、★4.5個分。

  • ソ連からのスパイに親近感を持ち、彼の思い描いた原発への攻撃へと動き出す。

  • これ読んで、凄くチェルノブイリに興味を持った。あとロシア語ね。喋りてー島田さんみたいにロシア語操りてー。「神の火」の江口のイメージは「リヴィエラ」のM・Gに似ている

  • 二重、三重のスパイ島田。彼は優しく父母の愛にも飢えている。スパイ活動のやりとりは手に汗握るが、さすがに原発の用語は、よくわからない。最後は日野ともどもかなしい。

  • 良が身柄を北朝鮮に捕らえられしまったことから、島田はみずからが北へわたることを条件に良を解放することを求めます。こうした彼の申し出により、アメリカ、ソ連、北朝鮮、日本の駆け引きが慌ただしくなっていきます。

    そしていよいよ海上で良の身柄が引き渡されることになりますが、すでに彼の命はうしなわれていました。チェルノブイリから逃げ出した彼の身体は、放射能によってむしばまれていたのです。島田と日野は、良の計画していた原発襲撃のプランを彼に代わって実行するため、計画を練りはじめます。

    ディテールの描写は精密ですが、リアリティのあるストーリーを求める向きには不満を感じるのではないかという気がします。時間の流れを追いながらクライマックスへと突き進んでいく最後のシーンは、美しいアニメ映画のようなイメージで思い描きながら読みました。

著者プロフィール

●高村薫……1953年、大阪に生まれ。国際基督教大学を卒業。商社勤務をへて、1990年『黄金を抱いて翔べ』で第3回日本推理サスペンス大賞を受賞。93年『リヴィエラを撃て』(新潮文庫)で日本推理作家協会賞、『マークスの山』(講談社文庫)で直木賞を受賞。著書に『レディ・ジョーカー』『神の火』『照柿』(以上、新潮文庫)などがある。

「2014年 『日本人の度量 3・11で「生まれ直す」ための覚悟』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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