照柿 上 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (415ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101347219

作品紹介・あらすじ

異質さゆえ、互いから目を逸らせぬまま成長した幼馴染は、それぞれの足で大阪から東京へと辿りついた。八月二日夕刻、合田雄一郎警部補は電車から女性の飛び込みを目撃する。現場より立ち去ろうとしていた佐野美保子との一瞬の邂逅。欲望に身を熱くした。旧友野田達夫との再会は目前に迫っていた。合田、野田、美保子、三人の運命が、溶鉱炉の如き臙脂色の炎熱の中で溶け合ってゆく。

感想・レビュー・書評

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  • 『マークスの山』に続く合田雄一郎シリーズ2作目。
    魅惑的な女(佐野美保子)を軸に向かい合うこととなった同郷の幼馴染み、合田雄一郎と野田達夫。
    捜査中の雄一郎を襲う遠慮のない猛暑と、
    達夫の働く熱処理工場の暑さ、炉内の色、
    その臙脂色が象徴的に何度も描かれる。
    じっとりと追い詰めるような夏の暑さと、美保子の言い知れぬ魅力が、これまで社会と折り合いをつけながらやってきた二人の男の日常の薄皮を剥がす。
    その臙脂色と対極に使われる、美保子のワンピースや達夫の父が描いた、青色。

    それらと交差するように、殺人事件の捜査は行われるが、こちらは一向に解決の兆しが見えない。
    堀田は本当に犯人なのか?
    「堀田はどうやら〈殺す気はなかった〉と言っているらしい。」
    雄一郎が目を付けた土井は事件にどう関わっているのか?
    「さあこれで、もしこいつがホシなら逃げるか、自首するか。こいつが逃げてくれたら、膠着状態の捜査が少し動く。」

    また、もう1つの事件である線路への飛び込み。
    美保子はこの件に関わっているのか?
    「佐野美保子はあの拝島の駅で、手に血がつくような何かをやったのだ。亭主と連れの女をただ追いかけただけではない。何かをやったのだ。」

    終始息苦しい読み心地。
    真夏に読まなくて良かったな~。
    雄一郎、達夫、美保子の関係性は一定の距離を保ったままぐるぐるとしていて、
    事件の方もぼんやりと全容が見えてきた程度で、
    下巻へと続く。
    う~ん、女性で身を崩してゆく雄一郎は見たくないな…と思いながらも先が気になる。


    警視庁捜査一課の主人公、合田雄一郎シリーズは、
    『マークスの山』
    『照柿』
    『レディ・ジョーカー』
    『太陽を曳く馬』
    『冷血』
    『我らが少女A』
    の順だと思うが、私は順番を崩して読んでしまっている。
    今更だけど順番通りに読めば良かったな~。

  • 非常に重く、心に引っかかるものを残す作品。

    ストーリーはさておき、解説でも“スーパー・リアリズム”と表現されていたように描写の緻密さに脱帽すると同時に読むたびに疲れを覚える感もあり。

    野田達夫の勤める工場の描写以外にも普段目にしている空の色、登場人物の目の動きが自分の目の前にあるかのように浮かんでくる。

    野田達夫、合田雄一郎の心の動きも同じ。
    あまりにもリアルで、感想も浮かばないままぐいぐいと引き込まれていく強さが感じられる。

  • 下巻に続く

  • 上下巻読了。
    ちょっぴりエロス。
    飾り気のない文章で淡々と
    生きざま、堕ちてゆくさまを描いています。
    ぐっと入り込んでしまい
    電車の駅、降りそこねました。

  • 特に引き込まれるわけでもなく淡々と読み進んだ。
    先がすごい気になるわけでもないけどなんとなく読みたいみたいな。
    下巻でどうなるんだろうと思った。

  • 読んだ本 照柿(上) 髙村薫 20230109
     小説「海竜」を書いた時、読みやすい文章を心掛けたのですが、ある方からは、読み応えが足りないといったご指摘をいただきました。
     ちょうどその時読んでいたのが、「レディ・ジョーカー」で、みっちりと描きこまれた情景や心理描写に、こういったものが必要なのかなとも思ったのですが、情景のリアルさはともかく、ひとつの事象や行動の動機について、ここまで考え込むものかと、逆に僕が書く上でのリアルとは違うなというのが結論でした。行為が思考の結論って言うよりは、衝動の後に感情が付いて来るって方が日常の中ではリアルなんだと。
     とは言え、「レディ・ジョーカー」に描かれる警察内部や新聞・雑誌の編集現場の濃密な描写は、写生的な文章であるにも拘わらず、本当に読ませますね。そして、小説のリアル感が際立っていきます。そこに複数の登場人物のひつこいまでの心理描写が相俟って、息苦しいほどの密度を感じます。
     その後、「マークスの山」を読みましたが、物語としてはこちらの方が好きかなと思いつつ、「照柿」を読んだら、上巻だけなのに、これ面白いってなっちゃう。結局、どれが面白いってことじゃなくて、読む度に魅力に囚われるってことですかね。
     この息苦しいほどの濃密な描写はハード・バップが合うと思って、アート・ブレイキーのクラブ・サンジェルマンなんかを音量上げて聞きながら読みました。息が詰まる感じがたまらなかったです。

  • 再読

  • 恋をしてもひとり。

  • 読んでいて息苦しくなるような内容です。達夫の世界は、私のような凡人には見えない色でいっぱいなんだろうな…
    美しくもあり、苦しくもあり、先が気になります。
    下巻に続きます。

  • 下巻へまとめます

  • 購入済み。
    →10年前の作品。題名に記憶あり。既読か?
    →読み始める。やはりところどころに記憶に触る感じあり。しかし内容、結末を覚えてないので、このまま読んでみることとする(2021.09.17.)

    人間の心の中はなんと複雑極まりない感情で満たされてることだろう。
    人はその全てに意識することなく相対し、もがき、苦しみ、無理やりにでも折り合いをつけて納得し先へと進む

    高村薫は感情に妥協しない。掘って掘って掘り下げて着地点を探っていく。
    普通に取り組むと、あれ?今のどういう意味?ちょっと待って!と読んでは戻り読んでは戻りを繰り返さざるを得ない。
    で、結果、時間をかけて読むことになるこの感じが堪らない。(笑)
    確かにめんどくさい。読みにくい。サクサク行かない。でも、どうしようもなくハマってしまう私。
    本作でも人間の複雑極まりない感情が複雑極まりなく表現されていて、よくわからないまま読了。
    好きじゃないと途中で投げ出したくなる作品(笑)

  • 高村薫の本は海外小説と同じで、100ページ過ぎるまでが大変。
    感想は下巻にて

  • 2018.10.30

    下巻にて

  • 言わずもがなですの、高村文学。
    もう何度読んでもおもしろい。
    また「マークスの山」から読み返すのもいいかもしれない。
    上下巻のレビューとさせてもらいます。

  • これでもかというくらい重厚な文体。息苦しいまでの熱気。最近の小説には見かけない登場人物の圧倒的な存在感。熱処理の工程の緻密な描写。日常に違和感を抱いた暮らしから、本来の自分に戻るものの、最後には崩壊していく人たち。ミステリ小説とは呼べない、読者を選ぶ作品。レディジョーカー以降の髙村薫の作品を読みたくなった。

  • 八王子で起きた強殺の捜査をすすめていた合田は、拝島駅で目撃した人身事故の混乱の中で美穂子という女と出会う。
    東京駅では合田と子供時代を過ごした幼馴染・野田との再会が。
    野田、美穂子、そして合田。
    3人が出会い、再会し、つながっていく。真夏の太陽が、あかく溶ける夕日が、溶鉱炉の炎熱が、違和感を抱えながら、それでも人並の人生を送ってきた、否、そういう風に周囲も自分も騙ろうとした彼らのむなしい虚飾と精神を焼き切ってゆく――。

    居場所もなく、しかし行くところもなく。今ある生活を諾々と生きる人間の営みとその崩壊を書くミステリ長編。

  • 頭の中で物事を整理しながら読んでいかないと混乱するため、ゆっくりとしたスピードで読んでいる。合田さんは相変わらず、かっこいい。そして、お蘭こと森さんがマークスの山の時に比べると頼もしくなってる気がする。合田さんの関西弁を見る度にニヤニヤ。事件の話はじわりじわりと外堀からいく感じなので下巻の展開に期待。今回は男と女が濃厚に絡み合ってるという印象が非常に強い。

  • 悪くはないが下巻を買ってまで読むかは思案中。

  • 感想は下巻

  • なかなか感情移入しにくい。こういうものかと。

  • とにかく夏のうだるような湿気と暑さが身体に纏わり付いてくるかのようなじとっとした読後感。
    どろどろとした血が蠢くような溶鉱炉のような欲情の行方はどうなるんだろうか…。
    合田さんがもうなんか随分と荒んでて見てるこっちが心配になるな…。
    下巻はどうなるんだろう。
    一人の女を介することによって互いを見つめる男二人という構図が、雄一郎と達夫、また雄一郎と祐介という二つの構造が浮かび上がるんだけど、女はただ媒介するだけのもので本筋からいうと蚊帳の外なんじゃないか…と思ったりもするんだよな。
    愛憎って一言でいっても難しいなぁ。

  • 2月9日読了。図書館。

  •  さすがの描写力に圧倒。こんなに書き込んで、ちゃんと面白く進むのかと勉強になる。登場人物の心理もここまでくどくどと書くのでありなのか。ドストエフスキーは辛気くさくて読み切れなかったけど、彼女の本は読めた。問題は合田が恋に落ちるシーンが、私的にはたいした恋に思えなくて、その後の恋的行動にぴんとこなかったところ。ああ、恋だったのね、というのが後付けでわかったけど、それでは緊張感にかけてしまう。でも後半に向かって、主人公が全然寝ないまま、呆然と殺人に向かう表現は圧倒的。人殺しの心理ってこうなの、と納得しちゃうのだった。人を殺したことはないけど。
     そしてあとから青いカラスのエピソードが出できて、とってつけたようかなと思うこともなきにしもあらずだが、ちゃんと納得できる。それまでのいきさつがあったから。でももっと早めに布石を打ってもよかったような気もする。最後は殺人者を第三者的視点で徹底して描き、終章は手紙で締めくくる、そのスタイルは気持ちよく収まる。
     絵を描くことに関する描写もよいし、色の話はとても意図的に描写され続けていて、それも面白い。そういう要素が小説を作り上げているのね、と思う。

  • 感想やらなんやらは下巻にて。
    20121216読了。

  • 暑いと人は狂う。

  • 実家にあったので再読。あぁ、俺はもう合田雄一郎より年上なのか‥
    消せない焦燥と破滅感を彩る照柿色。救いが無い。

  • 全体的に重い雰囲気を醸し出しており、作品にずぶずぶと、はまり込んでしまう。

    警察小説では、主人公はカッコよく書かれているものが多い中で
    この小説では主人公がこんな事をしていいの!?と思う箇所が多々出てくる。


    ***
    主人公「合田警部補」と旧友「野田達夫」が一緒のシーンでは、
    主人公ではなく野田の視点で書かれているのが興味深い。

  • 単行本で読み損ねたので、文庫版化で初読。
    ただただ、ひたすらに暗い。マークスでは、まだ癖者ぞろいの七係の各々の話があり、警察小説として読めるが、それでも暗かったが、本作はさらに暗く、ドロドロである。

  • いわずと知れた合田雄一郎シリーズ。

    最初は複数の事件が同時多発するので、
    どういう筋の話なのかが、よくつかめなかった・・・

    ただ、次第に合田と野田、佐野美保子の関係性が浮かび上がり、
    合田と野田の感情が交錯していって・・・

  • 合田さんは鬱陶しい男ですね。

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著者プロフィール

●高村薫……1953年、大阪に生まれ。国際基督教大学を卒業。商社勤務をへて、1990年『黄金を抱いて翔べ』で第3回日本推理サスペンス大賞を受賞。93年『リヴィエラを撃て』(新潮文庫)で日本推理作家協会賞、『マークスの山』(講談社文庫)で直木賞を受賞。著書に『レディ・ジョーカー』『神の火』『照柿』(以上、新潮文庫)などがある。

「2014年 『日本人の度量 3・11で「生まれ直す」ための覚悟』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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