善人長屋 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101357744

作品紹介・あらすじ

善い人ばかりが住むと評判の長屋に、ひょんなことから錠前職人の加助が住み始めた。実は長屋の住人は、裏稼業を持つ“悪党”たち。差配の儀右衛門は盗品を捌く窩主(けいず)買い。髪結い床の半造は情報屋(ねたもと)。文吉、唐吉兄弟は美人局(つつもたせ)。根っからの善人で人助けが生き甲斐の加助が面倒を持ち込むたびに、悪党たちは裏稼業の凄腕を活かし、しぶしぶ事の解決に手を貸すが……。人情時代小説の傑作!

感想・レビュー・書評

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  • 軽快、爽快、江戸人情長屋。
    事前の情報なしで、読み始めて、善人の集合住宅と思っていたら、最初の数ページで、裏切って(まあ、そうでもないんだけど)NICEタイトル。
    裏稼業を持っている(表もちゃんとある)、住民達の長屋。そこに、正真正銘の善人が紛れ込んでしまう。設定だけでも、面白そうな感じでしょ。ドラマの時代物を見ているような気楽さとテンポの良さ。
    「犀の子守歌」は、性同一性障害について扱うのだけれど、なるほど、どんな時代にもどんなお家柄でも、現実的に起こりえた話だなって。今まで、あまり考えた事がなかったので、新鮮でちょっと衝撃を受けてしまった。

  • 心が温かくなっり、笑いが、自然と笑顔が出てきます。
    善人長屋シリーズの1作目
    2018.11発行。字の大きさは…大活字。2022.06.11~18音読で読了。★★★★☆
    世を忍ぶ悪党の巣「善人長屋」に、三州赤坂宿の錠前破りの盗人が住むはずが、間違って江戸は赤坂御門の赤坂の錠前職人の加助が住み始めた。根っからの善人で人助けが生き甲斐の加助が面倒を持ち込むたびに、悪党たちは裏稼業の凄腕を生かして解決に導くのを面白おかしく書いた物語です。
    善人長屋、泥棒簪、抜けずの刀、嘘つき紅、源平蛍、犀の子守歌、冬の蝉、夜叉坊主の代之助、野州屋の蔵、の超短編9話。

    【善人長屋】
    千七長屋(善人長屋)の大家で質屋の千鳥屋儀右衛門が世話になった三州の盗人の頭から、赤坂宿の錠前破りの盗人の世話を頼まれた。その時に赤坂の錠前職人の加助が来たので、長屋に住まわせたら加助は赤坂は赤坂でも江戸は赤坂御門の赤坂で、盗人でなく根っからの善人だった。この物語は、ここから始まります。小悪党ばかり住んでいる長屋に底抜けに明るい善人の加助がくり広げる笑いと泣の物語です。そんな中で長屋の盗人は、身元がばれないかひやひやしながら…。

    【泥棒簪】
    長屋の住人は、盗み、騙りなどの裏家業を隠すために、表向きは善人で表稼業を持っている。加助が、白昼堂々と簪を盗まれた娘を長屋に連れてきて。「この長屋の衆は、善人長屋の名に恥じねえ人たちばかりだ。きっと助けになってくれるよ」と…。

    【抜けずの刀】
    長屋で代書屋をやっている浪人の梶新九郎が、本所緑町の料理屋「桂井」の末娘、おみち殺しの疑いで番屋に連れていかれた…。

    【嘘つき紅】
    「紅一匁(もんめ)は金一匁」といわれる、紅を扱う相屋に騙された彦次を加助が長屋に連れて来る…。

    【源平蛍】
    鍛冶屋を表稼業とする源平は、裏家業の火事屋に返り咲き…。源平の火事は、人を殺さず、目的の家以外は一切焼かない見事なものです。

    【犀の子守歌】
    下野国にある一万五千石井筒藩刈田家の小姓であった三浦斎之介は、死に瀕死て旧主、刈田直矩(なおのり)に会いに行くが…。直矩は、体は男であるが心は、女であった。直矩は、斎之介を溺愛し、嫁を貰っても手放さなかった。

    【冬の蝉】
    朝晩の肌寒さがこたえる11月に、長屋の前に赤ん坊が捨てられていた。加助は大いに不憫がり、赤ん坊の世話を己で引き受けていた。

    【夜叉坊主の代之助】
    去年の二月、赤坂で起きた火事で妻と子を亡くした加助は、富岡八幡宮で妻のお多津を見かけた。お多津は、盗賊夜叉坊主の代之助一味の引き込みとして日本橋大伝馬町一丁目にある野州屋に女中として入っている。

    【野州屋の蔵】
    野州屋喜八朗の蔵は、誰にも開けられないと盗賊仲間に噂が広まっていた。夜叉坊主の代之助は、野州屋の蔵を開けて盗賊仲間の鼻を明かしたいと、お多津を女中として入れたが、どうしても開けることが出来ない。蔵にかかっている鍵は、最初から鍵でなかった。

    【読後】
    展開が早く、テンポもよく、加助のお節介がおかしくて、笑いが出てくるし、しんみりと涙も出てきます。超短編9話の中で、斎之介が、直矩を想い身を引くが。最後には一目会いたいと…の想いを書いた「犀の子守歌」がよかったです。

    【音読】
    2022年6月11日から6月18日まで、大活字本を音読で読みました。この大活字本の底本は、2012年10月に新潮文庫から発行された「善人長屋」です。本の登録は、新潮文庫で行います。社会福祉法人埼玉福祉会発行の大活字本は、上下巻の2冊からなっています。

  • 表の顔と裏の顔。二つの顔を巧い具合に使い分ける江戸は長屋の人情もの。
    すりに泥棒に美人局に文書偽造、と揃いも揃って裏稼業持ちの住人たちの中に、ひょんなことからお人好しの正真正銘"善人"が紛れ込んだことから様々な騒動を巻き起こす。

    唯一の"善人"加助は長屋にとって福の神なのか、はたまた貧乏神なのか、悪事を止めるストッパーなのか。
    根っからの"善人"ってのはほんと始末に負えない。タイミングも容量も悪く、真面目で思い込んだら一直線。巻き込まれた方は溜まったもんじゃない。また間違ってないだけに文句も言いにくい。

    悪人ぶってる住人たちも、ナンダカンダ文句を言いつつもすっかり加助のペースに振り回され、いつの間にやら善いことをする羽目に…というより、やっぱりみんな根は善人。表の人以上にしがらみや義理人情に厚い。だからこその"善人"長屋なのだ。

    江戸っ子らしいテンポの良さと胸アツの人情もの。やっぱり江戸の長屋物語は面白い。

  •  西條奈加さんの人情ものは面白い!

     逆転の視点というか、善人と呼ばれている人々が実は悪党だった。そして、そこへまっとうな善人が入ることで物語がとても面白くなる。

     加助さんのあれは行きすぎだと思うけどね。

     私、個人は『犀の子守歌』が一番好き。切なくて悲しい恋物語だったなぁ。

  • 悪党が住む善人長屋に、超お人好しの本物の善人が住んだことから厄介事の嵐!
    一つ一つのエピソードは短くて読みやすい。
    それに悪党と言っても悪人じゃないのがいい。
    それぞれの事情があり、長屋全体で助け合って暮らしてるのが優しい気持ちになる。
    本物の善人、加助さんのお話もまた苦渋も入った納得の結末だった。

  • 人情で動くか「善と悪」への選択
    人情で働く長屋の住人の裏仕事が盗人、だが「善人長屋」としての噂が。火事で妻子を亡くしたと善人の錠前の男が「他人のお世話好き」で話が展開する面白さがある。最後は生きていた妻子と会うが悪に巻き込みたくないと妻子は惜しみながら別れる。人の生き方は自分で決めてこそ後悔しない、人生様々、だが悪への道は早めに引いたほうが無難ということだ。

  • 善人長屋の差配と店子たちは、みんな裏稼業を持つ悪党たち。とはいえ、それなりの信条も情もあって、根っからの悪党というわけではない。むしろみんな良いキャラで好感が持てる。彼らが人助けをする羽目になるのだが、そのために裏稼業の特殊スキルを使うのが面白い。チームプレーも良い。
    テレビドラマ化もされたようだが、たしかにキャラが立っているのでドラマ化しやすそうだと思った。続編も出ているので読みたい。

  • お縫ちゃんをはじめ、長屋の面々のキャラが最高!
    登場人物たちの会話も小気味よいので楽しい。
    儀右衛門さんを中心に、案を練り、裏の特技で解決していく…。面白い、スカッとする、しみじみする、短編集。
    こんな長屋があったら住んでみたいなぁ(笑)。
    お縫ちゃんと文吉さんの仲がどう進むかも楽しみ。
    次巻も期待!

  • 母親がドラマを観ていたけれどわたしは観ていなかったので事前情報ほぼ無しで読み始めたけれど、相変わらず西條さんの時代物は素敵だなぁと。ちょっと加助さんが自分にはくどかったけど、そういった読者の気持ちを他の登場人物が代弁してくれるあたりよかったです。

  • 表紙の絵が、物語をいい感じに表している!
    こんな雰囲気の9つの連作短編。

    「善人長屋」と呼ばれている長屋に住むのは
    実は裏稼業を営んでいる連中ばかり。
    裏の顔を隠すため
    表ではなるべく模範的に生きているわけ。
    ところが、手違いでそこに
    本物の善人・加助が住み着いてしまい
    困った人を連れてきては
    「ここなら助けてくれる」とやるもんだから…。

    差配(大家)は盗品転売を生業とする儀右衛門。
    その娘のお縫ちゃんは、家業も長屋も嫌。
    けれど、もめごとをおさめるために力を貸す
    美人局の兄弟や詐欺師の夫婦など
    店子たちの姿を見ているうちに
    だんだん意識が変わっていくのです。

    持ち込まれるもめごとと解決のしかたに
    ちょっとミステリ要素があって
    そこもおもしろかった!

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著者プロフィール

1964年北海道生まれ。2005年『金春屋ゴメス』で第17回日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、デビュー。12年『涅槃の雪』で第18回中山義秀文学賞、15年『まるまるの毬』で第36回吉川英治文学新人賞、21年『心淋し川』で第164回直木賞を受賞。著書に『九十九藤』『ごんたくれ』『猫の傀儡』『銀杏手ならい』『無暁の鈴』『曲亭の家』『秋葉原先留交番ゆうれい付き』『隠居すごろく』など多数。

「2023年 『隠居おてだま』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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