あなたの親が倒れたとき (新潮文庫 の 8-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101406114

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  •  介護現場の生々しい現実を著者の経験、思想を交えて真剣にルポしている。制度とその施設についてもとてもよくまとまっており、切羽詰まっているときに読んでも、介護の分野を鳥瞰的に見渡すことが可能。著者も抑えが効かないのかところどころに感情的な言動が目立つ。

     何年も前の私事だが、介護の仕事を探したことがある。募集はどれもヘルパー二級が必須で、すぐにでも働く必要があった当時の私は躊躇せざるをえなかった。さらに「とりあえずはパート」と思っていたのだが「移動時間は給与が支払われない」その結果「八時間働いても六時間分ほどしか稼げない」ということを聞いて断念した。もちろん時給も決して高くはないし、毎日仕事があるわけでもないらしい。ここで踏ん張って「みなさんのお役に立ちたい」と歯を食いしばって食らいつけばよかったのかもしれないが、私はそこまで強くなかったようだ。さすがに現在少しは改善されているのかもしれないが「物事においては必ず誰かが犠牲になることを強いられる」という仕組みは頭に入れておくべきだろう。

     ボランティアがもてはやされる。介護のような仕事でボランティアが増えれば、ますます人件費の低下を招くだろう。そこまでいかなくても人を増やせば人件費は安くなるのは資本主義では当然。もしかして、この分野に人を増やそうとしているのはサービスの質を向上させるということよりも経済性を優先しているのではないかとすら思う。取るものはしっかりフンダクッてキレイゴトを並べる今の福祉政策。やる気がないなら取ることをやめて突き放してもらったほうが、自己防衛が働くことによって少しはマシになるのではないか。

     現場の人達に矛先を向けるべきではない。「サービス悪い」「お金払ってるのに」と言いたい利用者もいるかもしれないが、構造的に観て怒りの方向はそっちではない。一部には湯水のようにカネを使い、さらにはそれでも足りないという。その理由は「成長しなければならないから」。一方では支出を削り、さらに削減すべきという。理由は「お金ないから」。

     やらなければならないことを押し付ける。それもできればリーズナブルに。「待遇よくすると皆さんの税金上がりますよ。私たちは痛くも痒くもないですけど」我々がすでに払っているたくさんの税金はどこに消えているのか。もっと大切なことに使われているのだろう。たくさん給料もらっている偉い方々が必要だというのならばそうなのだろう。

     本書は二十年以上前に書かれたものなので、現在少しは改善されていると思いたい。しかし、友人から要介護認定の現実を聞いたり、制度改定の国会審議を聞いたりしていると・・・。なにはともあれ、介護は人と金と生き方とが交錯する現場であることは心得ておきたい。

  • タイトルを見てぎょっとした。読んだらがっくりくるんだろうな、と思いつつも、読まないでおいて後で後悔する方が嫌だったので手に取った。購入後もしばらく本棚の隅にあり、前を通るたびに気になってはいたのだがどうしても読む気になれなかった。しかし、今回、母の一ヶ月に渡る訪英を前に意を決して読んだ。

    日本の病院や老人ホームについての指摘が多かったが、その代替策として語られていた「北欧型ナーシングホーム」も万能ではないということを著者はその時は知らなかったらしい。

    英国も1970年代の「ゆりかごから墓場まで」福祉政策の名残で今でも医療費は無料。そのかわり、簡単に加療・入院させないし、退院も早い。英国の妊婦はお産が東洋人よりも軽い事もあり、第二子以降はほぼ日帰りといわれている。また、風邪位で病院に来るのは迷惑とはっきり言われる。
    日本のように「大事を取って」とか「念の為」検査したりしないので、早期発見は本人の手だけにかかっている。
    (2004.8.17)

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