凍える牙 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (520ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101425207

感想・レビュー・書評

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  • 事件自体はあり得なさそうな話。発火殺人とかオオカミ犬が絡んでいたりとか。
    しかし私は主人公の女性刑事・音道貴子のかっこ良さに惚れてしまった。好きな登場人物ベスト3に入るかも。音道貴子シリーズは全部読もうと決めた。

    主人公はじめ、登場人物の心情がよく描かれている。それぞれの言い分も分かる。そこが面白い。
    最初はコンビとなるベテラン刑事・滝沢の嫌味な態度、女性蔑視がとても嫌で憎たらしかった。読むのをやめようかと思った。
    しかし、次第に滝沢が音道を認めていき、距離が近づいていくのが何とも嬉しくなった。滝沢は嫌な奴なのだが、このコンビをずっと見ていたくなるのが不思議。

    クライマックスでは、探していたオオカミ犬と出会う、そしてバイクで追う(一緒に走る)。
    そのオオカミ犬の威厳さ、強烈な存在感、孤独感の描写、また他にはスピード感、夜の静けさ、景色などの描写も見事で、感じ取ることができた。

  • 日本オオカミを、見たくなった

  • 「人間が発火する事件」、「人間が獣に食い殺される事件」の二つの殺人事件を主人公である女性警察官と相方のベテランのおっさん警察官が挑んでくサスペンスミステリー。
    事件の内容も手が込んでて面白いんだけど、この小説は事件よりも男社会で奮闘する女性警察官とおっさん警察官の心理を中心にリアリティ溢れる感じで描かれています。素直に男社会で働く女性って大変だなと切に思うと共に、男もまぁやりづらいこともあるだろうなぁと。

    大どんでん返しとかそういったのはないけど(見方によっては最後に少しあるかな)、すらすらと読めて男性社会で頑張ってる女性が読んだら共感できる部分も多いのでは。

  • 人が燃えるというインパクトのある冒頭に期待感が高まったが、それ以外は割とあっさりした印象。
    犯人の心情があまり描かれていないからかな?
    事件よりは、主人公とその周りの刑事との人間模様を楽しめました。

  • 流れとしてはまぁ悪くなかった。
    犯罪系の小説によくある犯人の動機、過去を少なくする点は笑子の無垢さや疾風の高潔さに繋がっていて良かったと思う。

    負けん気強すぎる女性主人公と最悪おじさん刑事のタッグ(に自分は見えた)なので捜査中の話を読むのがまぁ辛い。
    疾風の描写が出てくるとかなり絵的に想像がしやすくなって良かった。

    乃南アサの作品は基本どこかしらの暖かさがあるが、今回はその暖かさが出てくるのが後半で前半は対人関係への辛さみたいなものが多かった印象。

  • 事件解決のために動く刑事たちが主な語り手となって話は進んでいくが、殺害される被害者たちの目線の語りも入ってくる。読者だけが事件の緊張感や臨場感を目の当たりにすることで、主人公と読者自身の温度差や優越感を感じさせられ、新鮮でよかった。

  • ファミリーレストランで客から発火という始まりは良かったけど、その後なかなか進まない状況がちょっと辛かった。

    音道と滝沢の男女のコンビが少しずつお互いを理解していく過程や音道の疾風追走のシーンは、どうなっていくかどんどん面白くなっていった。

    オオカミ犬に殺させるというのはかなり怖く、笠原が確保されたあとも小川を襲いに行くのは非現実に思ったが、ほんとにそんな能力があるのだろうか。
    疾風がかわいそうすぎる。

    ポケベルとか使ったことないけど世代だけど、十分わかるし楽しめた。

  • 刑事という男性社会に女性が入っていくって、一般人が想像する以上に厳しいことだと思う。世の男性たちよりも、オオカミ犬の疾風の姿にとても魅力を感じた。

  •  先日読んだ『しゃぼん玉』(2004年)が物語構成が巧妙でなかなか良かったので、この乃南アサさんの直木賞を受賞した本作(1996年)を手に取ってみた。
     ミステリもので、本作の女刑事音道貴子を主人公としたシリーズが何冊かあるらしい。
    『しゃぼん玉』もそうであったが、本作も読み始めてしばらくはあまり面白くもないような感想を抱いていた。探偵ものというより「警察小説」であり、警察の組織などがかなり詳しく書かれている。もの凄く綿密に取材されたのだろう。が、自分は別に警察そのものに興味があるわけではないので、この小説前半に何となく乗り切れないものを感じたわけだ。
     刑事たちという典型的に昭和風な男社会で、主人公の30歳付近の女性刑事が出くわすさまざまな軋轢。殊に、今回の事件で相棒となった40代半ばの滝沢刑事は、露骨に男尊女卑の偏見に満ちている。事件捜査の過程で、彼女はたくさんの身に覚えのない屈辱を受けながらも、おおむねクールにやり過ごす。
     一般に女性だらけの職場だと内部の人間関係がひどくこじれて苦痛に満ちた地獄に変じやすいというのをよく聞くが、本作を読んでいると、男性だらけの職場では、互いに仲はよいかも知れないが、自分たちの性欲を前提として共有しつつ女性をモノ扱いし哄笑するノリを楽しむ場合が非常に多いのではないかと考えた。だからこそ、男はすぐに「うっかり」セクハラ発言を女性に対してしてしまうのだろう。
     しかしジェンダー問題は本書の主要な主題ではない。途中から犯行に関わったらしい「オオカミ犬」の像が主人公を捉える。音道貴子の脳内でしきりに、凛として賢く強靱なオオカミ犬の疾走するイメージが反復される。リアリスティックに警察内部を記述し続ける小説内部ににわかに登場する、神話的なイメージ。
     驚いたことに、この神話へのリビドーが結局この小説を貫いて、クライマックスではオートバイに乗った音道刑事がオオカミ犬と共にひたすらランデブーする場面が、素晴らしいエクスタシーに到達する。それは神話ゾーンと主体との合一という、実は宗教的悦楽と軌を一にするものではないかと思われるような、無限の法悦なのである。
     この驚くべきクライマックスにより、謎解きなどはもはやどうでもよいような気すらして、本作品を格別なものと感じさせた。
     ちゃんと解釈するならば、信念に基づいて自由に力強く疾駆するオオカミ犬のその孤独さのイメージが、男社会との軋轢を経て傷つきながらも邁進する女性主人公の孤独なそれと合致するからこそ実現される合一=エクスタシーなのであろう。
     このように、単なるミステリではない文学的イメージがこの小説を抜きん出たものとしているのだと、私は思う。

  • すごく面白かったです。
    音道と滝沢の視点が交互に入ってくるのが良かったです。
    それぞれに言い分があってそれぞれに事情があるんだよね…。

    ただ、今読むにはやっぱりちょっと時代は感じました。
    ポケベル!?ってなった。

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著者プロフィール

1960年東京生まれ。88年『幸福な朝食』が第1回日本推理サスペンス大賞優秀作となる。96年『凍える牙』で第115回直木賞、2011年『地のはてから』で第6回中央公論文芸賞、2016年『水曜日の凱歌』で第66回芸術選奨文部科学大臣賞をそれぞれ受賞。主な著書に、『ライン』『鍵』『鎖』『不発弾』『火のみち』『風の墓碑銘(エピタフ)』『ウツボカズラの夢』『ミャンマー 失われるアジアのふるさと』『犯意』『ニサッタ、ニサッタ』『自白 刑事・土門功太朗』『すれ違う背中を』『禁猟区』『旅の闇にとける』『美麗島紀行』『ビジュアル年表 台湾統治五十年』『いちばん長い夜に』『新釈 にっぽん昔話』『それは秘密の』『六月の雪』など多数。

「2022年 『チーム・オベリベリ (下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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