柩の中の猫 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (206ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101440125

感想・レビュー・書評

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  • 小池真理子さんの本は私の中で大きく二つに分かれます。
    サスペンス・ミステリー系の話と恋愛小説と。
    この本はそのどちらの要素ももっていて、小池真理子さんのあらゆる作品の要素を少しずつ散りばめた、複合的なイメージを感じる小説でした。

    人気画家でありながら世間と隔てた生活を送る老女とその家の家政婦。
    何年も同じ家で時を共にしながら会話のほとんどない二人。
    ある日、その家に一匹の猫が迷い込む。
    老女はその真っ白な猫を見て、若い頃の自分の話を家政婦に語り始めた。

    1955年。
    当時20歳の老女は画家を目指し、函館から上京し、東京の知人のもとに身を寄せる。
    その知人とは、美術大学の講師である30歳の男性とその娘の二人暮らしの金持ちの家庭。
    彼女はその家で小学生の娘の家庭教師兼家政婦をして居候させてもらう事になる。
    やがて魅力的な主の男性に恋をし、人見知りで大人びた娘に情愛を感じるようになった彼女。
    三人はお互いの感情を抱えながら、いい距離を保ち、いい関係を保っていた。
    そこにいつも一緒にいたのは娘の可愛がる「ララ」という猫。
    真っ白なその猫に娘は亡くなった母親の姿を重ね、溺愛していた。
    だが、その平穏な空気感は一人の女性の出現によって壊される。
    バービー人形のように完璧な容姿をもつその女性は主の婚約者であり、猫が苦手な彼女の出現により少しずつ全ての関係が歪み始めていく。
    そしてある意味、必然的に事件は起きた。

    これ、似たようなシチュエーションを何度もこの人の小説の中で見た、と思いました。
    世間と距離をもつ画家の老女と家政婦。
    金持ちの家に居候する女性。
    魅力的な男性とまだ幼い女性との恋。
    大人びた幼子。
    そして、猫。
    この材料がどれだけこの人の話に出てきただろう。
    読んでいてデジャブのような感覚になる本でした。

    老女は家政婦に語った事件がもとで絵に対する情熱を失ってしまう。
    所が、皮肉にもそうなってから彼女の絵は世間に評価され売れたのだと言う。
    彼女は情熱を失ったと言うけれど本当にそうだろうか?
    その替わりに得たものがあったのだと私は思う。
    芸術というのは心の表現であり、そこに表現された人間的な深み、内面に人は感銘を受けるのだと思うから。
    まして、何十年も罪の意識を背負ってきた彼女は誠意ある人柄だと私は思った。

    この作品では「小鬼」という表現がとても印象的でした。
    音もなく降る白い雪。
    そこで密かに行われた悪意。
    それを色彩的に、イメージとして、はっきりと見せてくれる言葉。
    作品全般に静けさと共に色彩を感じる本でした。

  • ララという真っ白いきれいな猫と少女と復讐。

    麦畠の風景が目に浮かぶ。
    井戸が怖い。

  • 小池真理子の本で、最初に読むことをお勧めします。

    絵描きを目指す女性
    美術大学の先生
    その娘
    娘の飼っている猫 ララ
    ララは、ママの役割を果たしていた。

    描写は丁寧で、華美にはなりすぎず、
    直木賞を取られた「恋」よりは、分かりやすいので、
    最初に読むのに適していると思われます。

    話の構成、筋書き、すれ違い、嘘、思いやり。
    人生のいろいろな構成要素を持っている。

    途中、猫好きでないと分からない描写の部分があるかもしれません。
    猫好きの人なら、きっと、自然にわかると思います。

  • あーすごい。まず語り始めが引き込まれる。愉快と不快がきれいにまざってる。読み終わったあとの動揺がきもちいい。面白いのでおすすめ。

  • この作家の作品を読んだのは初めて。とくに目新しくもなく(作品自体も古いのだが)、なんかできあいのお惣菜を無理やり食った感じだった。最後に適当に人殺しをしてつじつま合わせるやり方は食傷だ。たぶんこの作家の作品はもう読まない。

  •  表紙で買いました(苦笑)
     も、ネコ好きには、たまらん表紙です。
     ストーリーは、ある意味ステレオなんだけど、上手い!! いやあ、テクニシャンだなぁと感服いたしました。
     でも、終わり方がもうちょっと…。
     って、多分、これ以上書き込んでたらそれはそれで文句言ってたと思うんだけどね<をい

  • 不思議な感覚が残ってる小説!
    妙に、視覚的な感覚なんだよね。
    描写のイメージが…印象に残ってます。
    雪とか猫とか娘とか、
    イメージがね~すぐ思い出されます。

    私こういうお話大好きなんでツボもツボでした。
    悲しい!後味悪い!最高!!

  • ハラハラドキドキじめじめズーン

    初めて本読んで泣いた

  • 「東京郊外に暮らす美術大学の講師、川久保悟郎。その娘でララという名の猫にだけ心を開く孤独な少女、桃子。そして、家庭教師として川久保家にやってきた画家志望の雅代。微妙な緊張を抱きながらもバランスのとれた三人の生活はそれなりに平穏だった。そう、あの日、あの女が現れるまでは…丹念に描かれた心の襞と悲劇的なツイスト、直木賞作家の隠れた名作」――どうでもいいですが、うちのおばあちゃんは凄い読書家で、押入れに入りきらないほど膨大な数の本があります。というのも、うちのおばあちゃんは軽い不眠症で、それを紛らわす為に夜いつも本を読んでたんです。それが積み重なって、渡辺淳一、平岩弓枝、曽野綾子、小池真理子、三浦綾子、夏樹静子、山村美紗、松本清張などの作家の小説が山のように並んでいます。私はいつも小説を買って読みますが、最近お金が追いつかなくなってきたのと、うちの宝の山が気になってきたのとで、初めておばあちゃんの蔵書を手に取ることになりました。この小説を選んだのは、単にタイトルに惹かれたからです。軽い気持ちで読み始めましたが、最初から傑作の匂いはプンプンしてました。心理の描き出し方が凄く上手い。小池真理子さんが人間心理描写の名手だということは後で知りました。納得です。全体的に奇妙です。特に際立ってるのが、っていうかもうそのものなのが、桃子という名の少女。この子はなんだか江國香織さんの小説に出てきそうな雰囲気があります。ひとつ気付いたんですが、今まで読んできた、といっても数少ない女流作家さんの小説には、不思議で、つかみ所の無い重要な脇役が常に出てくるように思えます。この桃子はその最たるもので、愛猫にしか心を開かない、それでいて華やかな雰囲気を併せ持つ少女です。この少女を巡って物語は進みますが、読み終わって思ったのが、恐い、という事。ホラー小説だと、映像的に人を恐がらせるけど、これは人の深層心理に語りかけてくる。少女であるからこその純粋さ。それが逆の方向に向かうと、大人でもなしえないような恐ろしいことが、何のためらいもなくできてしまう。そして、それがとんでもない結末を導く。衝撃です。小池真理子さんの作風に惚れました。こういうのが読みたかった。この人独自の世界観を、もっと観てみたいです――

  • 素敵

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著者プロフィール

作家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小池真理子の作品

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