かくも水深き不在 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.53
  • (4)
  • (12)
  • (13)
  • (3)
  • (0)
本棚登録 : 110
感想 : 12
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (303ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101446035

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • タイトルに引かれて。最初の短編がなんとも不気味で、1篇読んできょうはやめようと思ったところを思わず最後まで一気読みしてしまった。こんな終わり方、、、虚構の世界ならアリかな。

  • オープンエンディングなのはそれでも良いんだが、割とはじめの方でネタが分かってしまったので、もうひと展開欲しかった。

  • 〇 総合評価 ★★★☆☆
     4つの短編とエピローグ的な作品である「舞台劇を成立させるのは人でなく照明である。」という作品からなる短編集
     全体を通じる大きな仕掛けがある。その仕掛けは4つの短編の主人公は,一人の人間の別の人格だった。解離性同一性障害をテーマとしたミステリは,安易に「幻想的な謎」を作りだせてしまうのであまり好きではない。とはいえ,この作品は解離性人格性障害をテーマとした天野が語り手の物語では終わらない。にはもう一つ仕掛けがある。一見,精神科医の天野不巳彦が4つの人格から主人格を残すという展開で終わると見せ掛ける。しかし,天野は最後の1人の人格まで消してしまう。そして,この作品で「天野不巳彦」として描かれた自分自身も本当の「天野不巳彦」ではなく,天野を模した一つの人格だった。4つの人格を消して,望める最良の結果になったとして,「天野」の人格も消える。そして,誰もいなくなった…として終わる。
     竹本健治らしい終わり方とも言える。すっきりした終わり方ではなく,「なんだこれは?」という終わり方。解離性同一性障害…多重人格の物語で,主人格が誰かを推理させる物語だと思わせる。実際,「舞台劇を成立させるのは人ではなく照明である。」という作品では,いくつかの人格が主人格ではないという推理をする。最後,主人格が存在しないという形で終わる。作者である竹本健治の中では,スジの通った論理があるのかもしれないが…多分ないだろう0。いつもの竹本健治作品らしく,もやっとした謎を残して終わる。これが狙ったものなのか,こういう終わり方しかできないのか。謎が残ったままの終わり方は嫌いではないが,安易すぎると単なる失敗作にも見えてしまう。この作品は個々の短編のデキがそれほどひどくないことも踏まえて★3で。

    〇 鬼ごっこ ★★★★☆
     世にも奇妙な物語的な「奇妙な味」の短編。ある館で鬼ごっこをする少年たち。その館には,鬼がいて,鬼につかまると鬼に見られると鬼になる。少年たちは次々に鬼に見つかり鬼になる。
     ミステリではないが叙述トリックがある。最後の部分で,「かっちゃん」という人物は少年ではなく少女であったと明かされる。そのように読むことで弱化の違和感が解消される。そして,この物語が夢であり,夢を語った人物は記憶をなくしているという。その記憶をなくした人物こそが,物語の最後で精神科医からこの話を聞いている人物である。
     一つの短編として,奇妙な味の短編んとしてインパクトがある。★4で。

    〇 怖い映像 ★★☆☆☆
     主人公がテレビである映像を見て恐怖を感じる。その謎を解く。この作品もミステリ的な要素はあるが,奇妙な味の作品。主人公の男が,CMの制作会社に連絡をし,テレビで映った場所に行く。そこで出会ったナオという女性と話をして,その場所で少女暴行事件が起こり,奥田惣一という男が逮捕された。しかし,冤罪の可能性もあるという。主人公は捜査を続けるが,主人公が事件の目撃者で,主人公が証言をしなかったから奥田が冤罪となり,その娘が復讐をしようとしている。ナオという女性が,奥田の娘だと思わせて,実は殺害された少女の姉だったというオチ。一読では分かりにくい考えオチのような作品。ある意味竹本健治らしくないが,苦手
    作風なのか,オチが分かりにくく,すっきりしない。★2で。

    〇 花の軛 ★★★☆☆
     男が花屋で三輪江梨香という女性と出会う。主人公の妹の紗季に婚約者がいるというが,その婚約者は天野ではなく菱崎という男だった。主人公は菱崎が江梨香のストーカーだと考えるが,真相は逆。江梨香が菱崎のストーカーだった。江梨香は,菱崎の婚約者である紗季を殺害しようとし,返り討ちにあう。主人公が仕掛けた毒で菱崎は死ぬ。
     最後に唐突に工藤が現れ,釈然としない終わり方をする。竹本健治らしいもやっとしたものが残る終わり方。江梨香がストーカーをされていると見せかけてストーカーをされているというどんでん返しと,江梨香と菱崎が死ぬというインパクトがある終わり方。まぁ,短編ミステリとしては及第点か。

    〇 零点透視の誘拐 ★★★☆☆
     大物芸能人の娘の誘拐事件が起こる。身代金奪取前に成功する寸前で犯人が消える。天野の推理は,この誘拐事件の目的は身代金受け渡しの最中で,シャッターの中にある,遺留品を回収するため。この物語の中で,天野と話していたのは,連続少女誘拐殺人犯。その人物が無に覆いつくされるという描写で終わる。
     誘拐事件はちょっとした意外な真相。それだけで終わらせるのではなく,全体を通した仕掛けに繋げている。
     誘拐テーマの短編ミステリとして見れば及第点。★3で。

    〇 舞台劇を成立させるのは人ではなく照明である
     インパクトなるタイトル。これまでの4つの短編の主人公な一同に介する。天野が全員の話を聞き,彼らは解離性同一性障害による多重人格,一人の人間の別人格だという。主人格以外を消滅させていく。まず,零点透視の誘拐の主人公を消滅させる。次に花の軛の主人公を消滅させる。三番目に、鬼ごっこの主人公を消滅させ、最後に残った怖い映像の主人公も消滅させる。天野と思われた人格も交替人格の1つ。これも消滅する。そして誰もいなくなった。

  • 再読。今作には作者の別作品にも出てくる精神科医の天野先生を一種の安楽椅子探偵として据えている。が、もちろんこの作者の事、そう簡単に推理して犯人なり事件の背景なりを暴いて終わりという訳では勿論ない。しかしこの作品は竹本先生らしくミステリアスで幻想的で、かつ推理ものでもあるという贅沢仕様。

  • 鬼ごっこと怖い映像は繋がっているのか? 明言がないため疑問を感じながら読み進めていたが、なんとなく繋がっているっぽい気がする。
    相談者の一人称が僕で統一されているため、ぼうっとしながら読み進めたせいで途中で訳が分からなくなってしまったのは、笑い話だ。
    花の軛と零点透視の誘拐は「僕」が壊れていく様は恐ろしいながらも面白かった。

  • 多重人格のお話
    ラストまではワクワクで手が止まらない
    ラストが微妙

  • 2017/04/03読了

著者プロフィール

竹本健治:
一九五四年兵庫県生れ。佐賀県在住。中井英夫の推薦を受け、大学在学中に『匣の中の失楽』を探偵小説専門誌「幻影城」上で連載。デビュー作となった同書は三大奇書になぞらえ「第四の奇書」と呼ばれた。
ミステリ・SF・ホラーと作風は幅広く、代表作には『囲碁殺人事件』『将棋殺人事件』『トランプ殺人事件』の「ゲーム三部作」をはじめとする天才囲碁棋士・牧場智久を探偵役としたシリーズや、自身を含む実在の作家たちが登場するメタ小説「ウロボロス」シリーズなどがある。近著に大作『闇に用いる力学』。

「2022年 『竹本健治・選 変格ミステリ傑作選【戦後篇Ⅰ】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

竹本健治の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×