仮想儀礼(下) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (601ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101484174

感想・レビュー・書評

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  • 金儲けのために宗教を始めるには、正彦は真っ当過ぎ、矢口はお人好し過ぎたんだろうな。全てを奪い尽くされてそれでも奪ってこようとするものから逃げる、教祖と幹部と信者5人が辿り着いたところとは。圧巻でした。
    作り上げられた宗教は暴走して教祖の正彦の手には負えなくなり、狂信的な信者たちとの逃避行のなかで正彦も呑み込まれてしまう。
    お人好し矢口の最期は凄かった…それを菩薩行、と錯覚してもおかしくない極限状態で正彦は真の宗教家になってしまいました。
    マスゴミか、と思ってたルポライターの安藤がずっと味方なのが唯一の救いです。ほんと、唯一の…だけれど、ジャーナリズムとはこれだ。ビジネスライク増谷も良い人だったな。
    広江がキツい……まさかこの人が一番わからないとは思いませんでした。狂信者5人の私刑は許されないけど、広江が余計な事言わなければ何もされなかったのに…と思います。家族を否定して拒否する彼女たちから、自分まで否定されているように思えたのでしょうが、静かに離れたら良かったのに。
    モリミツの元社長・森田と5人が始めたお弁当屋さんのラストも救いでした。正彦が戻ってきてももう暴走することはないだろうな…なんとなく。
    宗教とは怪物。お葬式はこの宗派で挙げるというとき以外は、薄っすらアニミズムでいるのがいいなぁ。うちは浄土宗です。

  • 何とかNHK BSドラマの最終回前に読了することが出来た、しかしドラマの方にはがっかりだ、金のかかるところは全てカットして物語も原作の皮相的な部分しか描かれていないようだ、いま昨今批判されている原作改変の脚色に原作者は批判しないのだろうか、もう諦めてしまっているのだろうか、こんな事では誰もテレビを見なくなってしまいそうだ。さて本作の後編はただひたすら落ちていく教団が最後は完全にカルトに陥り破滅してしまうと言う物語ではあるが、もっと恐ろしいのは権力を振りかざす政治家とデマに煽られる民衆と言うところだろうか。

  • 記録

  • 夢物語に終わったファンタジーゲームブックで創作した秘法が、宗教という衣をまとってまたたくまに拡がった・・・と思ったら、予想通り、本下巻は転落の道。しかも転落の道を引っ張るのは、予想外の敵ばかり。自業自得と言ってしまっては気の毒というくらいに、だんだん教祖に同情というか共感じみた感情も芽生えてくる。

    現代のモンスター、「宗教」の虚実・・・という売り文句でしたが、最近は「洗脳」というくくりでしょうかね。


    (2012/5/9)

  • ドラマ版よりもずっと俗っぽくて、生々しくて、ヘビー。
    もう逃げたい、こいつら狂ってる、と思いながら、信者を捨てられないところに慈悲ではなくプライドを感じた。「俺が作った宗教だ」は責任感だけから出た言葉じゃなさそう。心酔し、信仰する彼女たちへの嫉妬にも見える。
    ラストもゾッとしつつ腑に落ちた。「今度こそ上手くやる」ということか。地域貢献して、住民を味方につけて、もう怪しい余所者とは言わせない。桐生慧海が本物の宗教家の顔をして戻ってくるのを想像して、呆然としてしまった。

  • おっもしろかったー!

  • 202401/上下巻まとめて。面白かった!教団立ち上げスムーズにいきすぎとは思ったけど、登場人物達の描写が見事過ぎてひきこまれて一気読み。

  •  新興宗教の聖泉真法会の教祖、桐生慧海。ある意味では貧乏な教祖様である。あまり欲もない。
     宗教的なカリスマ性もない。公務員的な生活規範とカウンセラー的であるとも言える。
     桐生は教祖というものが、自分にはむいていないとも思っているが、信じたい人はやはり教祖様でないと宗教は成り立たない。信じる人によって、教祖は持ち上げられていく。
    「すべての生命を尊び、すべての生命を愛する。我は神のうちにあり、神は我のうちにあり」
     結局仏像なんていらないものであり、祈ることで自分の中に神をつくる。
    ゲームブックの『グゲ王国の秘法』という大きなシナリオで、聖泉真法会は作られていった。
    信者が、7000人になったところで、上巻は終わる。下巻は、その組み立てたものが、すざましいスピードで崩壊していく。この編集能力の凄さ。
     森田社長の弁当屋が、インドネシアに進出して稼働をしたことで大きな飛躍をするが、焼き討ちされたことで、崩壊が始まる。斎藤工場長が、インドネシアの工員たちに、聖泉真法会のルールを押し付けることによる工員たちの反乱だった。インドネシアの最大の宗教はイスラム教。そんな中で仏教的行事を押し付けることが危険なものであった。工場はほとんど全焼する。結局、インドネシアを撤退せざるを得ない状況にまで追い込まれる。森田社長は、聖泉真法会の大きな支援者。会社がうまくいかなければ、支援もしにくくなる。そして、社長は解任され、娘婿が社長になることで、聖泉真法会は、研修所から退去を通告される。
     聖泉真法会に国税庁の査察が入る。脱税の容疑であるが、もっと大きな狙いは、恵法三倫会の回向法儒の脱税と国会議員への贈賄事件だった。ネパールにおける学校建設や病院建設にも桐生慧海は協賛していた。そのことで巻き添えを食らうことになる。回向法儒は、殺人事件も起こしていた。聖泉真法会のダーティイメージが広がり、良識層の信者が離れていくことになる。
     新興宗教においても、リスク管理が必要なのだ。
     4人の女性の信者たちの家に、桐生慧海が経済的理由でころがりこむことで、ハーレムと噂されるようになり、その女信者の家族たちが取り戻そうとする運動が起こり、街から出ていけと看板まで出るようになる。それは、有力な国会議員の秘書の妹が信者なので、あらゆる形で聖泉真法会の評価を下げていく。そして、信者たちの家が放火され、ワゴンで逃げることになる。もはや転落するしかない。
     教祖である桐生慧海よりも女性たちの中には、新人が強く、独特の宗教に発展させ、桐生慧海は、実は教祖なんかではなく、詐欺だったと主張するが、女たちは全く聞き入れない。この展開がなんとも言えない。もはや、女性たちのいうことを聞くしかない状況に追いやられる。教祖を乗り越える信者たち。このなんとも言えない展開が、人間の本性と狂気を明らかにして、喜劇のような宗教が、悲劇の宗教になっていく。女たちの豹変が、宗教ゆえの狂信なのだろうねえ。サリン事件を引き起こした宗教は、追い詰められたことによる狂信だったのかと思う。宗教を信じるゆえに、人を殺すことさえ合理化する。ふーむ。ゾクゾクするほどの宗教小説だった。これも篠田節子の代表作だね。

  • スキャンダルの末、財産を失った教団。だが、残った信者たちの抱える心の傷は、ビジネスの範疇をはるかに超えていた。さまよえる現代の方舟はどこへ向かうのか-。

  • 20221023 読了

    ストーリー後半、予測通りの事が起こりまくったが
    主役&サブキャラの2人の男の展開には、最後に
    良い意味で裏切られたので、☆4つ評価。
    何かに「ハマる」にせよ、「すがる」にせよ、
    業が深いと大変~
    上下巻とも面白く読めました。

  • 長すぎやしないか…
    半分で終わらせる事もできそう。

    それにしても、詐欺師になりきれなかった祖師様。
    実は矢口以上の優男じゃないか? 

    組織が大きくなっていっても、終始良識を保とうとしている良い人にしか見えなかった。

    やるならとことん詐欺ればこんな結末にならなかったのに。

    ラスト
    『全て私が指示した』と証言しているのは、彼なりの責任の取り方とはいえ…すごく悔しいわ。

    井坂の本といい、なんかこの人やられっぱなし…
    とにかく人が良いからやられっぱなし。

    なんだかスッキリせず、モヤモヤが終始付き纏う展開で好みではなかった。

    宗教の教えは個々の解釈の仕方でどうにでも変わるから、怖いんだよね。
    イスラム教の事文中にも出てきたけど。

    結局ミイラ取りがミイラになるという…

  • 新興宗教を立ち上げた主人公が、関わる人々に翻弄されていくお話。関係者が亡くなっていき、悲しい….。人を操る力が無ければ、逆に操られて破滅してしまう、という怖いお話でした。

  • p.58
    多くのものを受容し、肥え太ってきた組織は、不純なものを排除し、先鋭化しようとする内側からの欲求に、常に対峙しなければならない。
    p.91
    「去っていかないでください、うちを」
    p.222
    「自分の人生が自分のもので、いかようにも切り開けるなどというのは、何一つ持たずに生まれてきた者の戯言だ」

    面白かったです。後半の展開がちょっとありきたりかなーと思ってしまいましたが、一気に読んでしまいました。
    SNSが発達して、リーマンショックやら東日本大震災やら人種差別やらコロナやらオリンピックやらがある現代だとどんなストーリーになるのか?そんな小説があったら読んでみたいです。

  • 軽薄な優男として描かれる矢口の、一貫して自分を差し出す死に様に仏性が見出される最後は胸にくるものがあった。

  • 社会から糾弾され、マスコミと権力の攻撃のターゲットにされた「聖泉真法会」に、信者の家族が奪還のために押しかける。行き場を失い追い詰められた信者たちがとった極端な手段。教祖・慧海のコントロールも超えて暴走する教団の行方は―。人間の心に巣くう孤独感、閉塞感、虚無感、罪悪感、あらゆる負の感情を呑み込んで、極限まで膨れ上がる現代のモンスター、「宗教」の虚実。

  • 913

  • かなりのボリュームがあるのに、面白くて一気に読み終えた。
    本当に下巻の残り少ない部分まで、(道を踏み外した)優秀な役人のままである正彦が、最後の最後に本当の教祖になるのが良かった。信者たちが彼を教祖にした、という感じかなぁ。希望が持てる最後。

  • 宗教の立ち上がりから信者の暴徒化まで。
    途中から少し飽きてしまい、個人的にはあまり得意ではない話だった。

  •  刑事事件をきっかけに次々と信者が離れ、集会場所も立ち退きにあい、大衆に責め立てられる宗教となった。マスコミ、刑事、住民と敵が増えるが一番怖いのは信者だった。どうなってしまうのかはらはらしながら読み切った

  • 2017.07.02

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著者プロフィール

篠田節子 (しのだ・せつこ)
1955年東京都生まれ。90年『絹の変容』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。97年『ゴサインタン‐神の座‐』で山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞、2009年『仮想儀礼』で柴田錬三郎賞、11年『スターバト・マーテル』で芸術選奨文部科学大臣賞、15年『インドクリスタル』で中央公論文芸賞、19年『鏡の背面』で吉川英治文学賞を受賞。ほかの著書に『夏の災厄』『弥勒』『田舎のポルシェ』『失われた岬』、エッセイ『介護のうしろから「がん」が来た!』など多数。20年紫綬褒章受章。

「2022年 『セカンドチャンス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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