銀婚式 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (391ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101484198

感想・レビュー・書評

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  • やっぱり上手いなぁ〜篠田さん‼︎
    ミステリーのような、とんでもない事件やどんでん返しはないけれど、本人にとっては『大事件』であることの繰り返し。このお話は、歳をとって中高年になってから読んでこそ、面白いと思う!
    最初はちょっと鼻持ちならないエリートに感じた高澤も、読んでいくうちに、その必死さ、真正面から頑張り、もがいていくところが、私は好感が持てました。高澤の人生を速回しで一緒に体験した気分です。
    なぜ「銀婚式」ってタイトル?と思って読んでいたけれど、ラストはしみじみ…。

    個人的には、女子大生が、とんでもないことに足を踏み入れそうになるのを、素早い英断で止めたエピソードが印象深かった。(本当に世間には酷い奴がいる)

    人生って、長いよね…。一つ解決したと思っても、また次のハードルがあり、悩みは絶えない。私の好きな言葉で『人間万事塞翁が馬』ってあるけど、本当に、良いことの後には悪いこと、辛いことの後には楽しいこと……と、繰り返しなのが人生だと思う。それでも、死ぬまでは生きていかなきゃならないものね…。

    印象に残ったところを少し…。
    ーーーーー
    自分にもこんな根拠のない自信を抱いていた時期があった、と高澤は思い出す。長すぎるほどの未来を抱えて、少しの恐れも抱かず、努力すれば道は開けると無邪気に信じこんでいた人生の夏は……

    表面的な学力で測れない知性というものが存在することを改めて知らされ、彼らの、ひょっとすると持っているかもしれない途方もない可能性に思いをはせる。

    人間、死んだら二度と生まれてこないんだから。

    身辺の年寄りたちが、季節が移り変わるように相次いであちらの世界に旅立ち、どこか観念的に捉えていた自分自身の老いと死を身近なものとして意識するようになった。

    人生、うまくいかないからおもしろい。

    何もかも筋書き通りにいくはずもない。定められたレールを踏み外すのが、必ずしも悪いこととは限らない。
    ーーーーー
    篠田節子さんの作品のなかでは、地味、ともいえる作品かもしれませんが、私は好きでした(^^)

  • 50代の元エリートサラリーマンの半生。

    エリート証券マンが、ニューヨーク在住中に離婚、その後会社は破綻し、損保会社に再就職するも、鬱を患い退職。仙台の無名私立大学の非常勤講師として再々就職。
    何とも波乱万丈な主人公高澤。
    それでも、誠実で仕事に対しても熱意があり、品行方正なため、周りからの評価は常に高く、好感が持てます。
    大学での功績は高く、やる気のなかった学生達が、きちんとした大人になることが出来るよう、下地を作ったのは彼でした。
    元妻、息子との距離感は、かなり近いもので、タイトルからもしかしてと想像しながら読み進めていました。

    浪人して国立大学に進学した息子にひと安心するも、最後までそのままでは終わらせない展開に、思わずまたか…と。(笑)

    この2人なら元サヤはありでしょう。
    我が家は来年が銀婚式です。

  •  篠田節子さんに魅せられての二冊目です。
    大いに笑わせて考えさせられた、一冊目『百年の恋』とは、対照的な物語をリアリティでグイグイ引っ張てくれる読み応えのある傑作です。
    篠田節子さんに更に惚れました。


     高澤修平の順調と思えた人生に、離婚、何度かの転職、息子の受験の失敗、新たな恋の難しさ、介護、と荒波が次々と押し寄せる。
     だが、この男性、仕事に、人に、実直でいて誠実なので、無職になっても、鬱になっても、葛藤の中、助けてくれる人が不思議と現れる。 そんなシーンに何度も涙する。
    そして、彼のような誠実なサラリーマンがこの世の中を支えているのだと、また胸が熱くなる。

     高澤たちの『男の本文は仕事だ』が価値観の時代を懐かしく読み、我が夫婦に想いを馳せる。 高澤夫婦と差して変わらず、当たり前のように色々なことがあったなと。 無我夢中で生きてきたなと。

     高澤夫婦は、離婚してしまったのは残念だが、若い頃は、互いに幼く未熟なもの、本物の夫婦になるには年季がいるのだと想う。 我が夫婦もまだまだですが。
     もしかすると、歳を重ね、枯れ始めて、初めて内面の成熟期を迎えるのかもしれない。

     最後に、題名の『銀婚式』についてだが・・・女性の台詞に効果的に登場する。 最後まで読み終えた時、その思いがじわじわと心に広がるニクイ演出である。



     

  • 読み終えたとき、高澤と共に長い人生を歩んだ気がした。
    …いやいや、それでは私が主人公と銀婚式(笑)

    確かに、NY赴任時に仕事を理由に妻の不調に寄り添わず、離婚に至ってしまったところまでは、彼を「仕事は有能だが、家庭人としては失格」というような眼で見ていた。

    しかし、会社が倒産し、次々に同僚が新しい職場探しに奔走して退職していく中、最後まで敗戦処理として会社に残る姿は、退却するしんがり武将のようであった。
    その後も、何故かめぐり会う仕事はことごとく「尻拭い」「敗戦処理」
    あ~、なんて運の悪い人なんだろうと思うと同時に、何があっても投げ出さない姿勢に感心する。
    そして水面下で…ちゃんと見ている人たちの信頼を勝ち得ているではないか。

    普通に生きていて、仕事は別としても、子供の問題、老親の問題、心配事はあとを絶たない。
    特に介護の問題の深刻さはリアルに描かれていて、自分の身にも重ねてしまう。

    一つ一つクリアした後…何が残るか、だ。
    とても良い終わり方だと思う。

著者プロフィール

篠田節子 (しのだ・せつこ)
1955年東京都生まれ。90年『絹の変容』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。97年『ゴサインタン‐神の座‐』で山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞、2009年『仮想儀礼』で柴田錬三郎賞、11年『スターバト・マーテル』で芸術選奨文部科学大臣賞、15年『インドクリスタル』で中央公論文芸賞、19年『鏡の背面』で吉川英治文学賞を受賞。ほかの著書に『夏の災厄』『弥勒』『田舎のポルシェ』『失われた岬』、エッセイ『介護のうしろから「がん」が来た!』など多数。20年紫綬褒章受章。

「2022年 『セカンドチャンス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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