アントニーとクレオパトラ (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (228ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102020104

感想・レビュー・書評

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  • 福田恆存の解説が非常に勉強になる。感情的インパクトだけでなく、少しの違和感や広い視野での対比が作品理解に非常に重要であることを教えてくれる。この作品で言えば、これは純愛ではないな、なにか無様な空気を感じるな、という違和感がそれ。しかし、最後のクレオパトラの殉死で、その違和感をかき消されそうになっていた。福田恆存は「死は始めから彼等の内部にあり、やがて熟柿が落ちるように、それが外部に表れてくる。死は官能の頽廃から遣って来る。悲劇的な意思とは何の関係も無い」とまで言っている。

    一方で、ブクログ感想にある、半ば分かりきった運命に愚かながら抗おうとするからこれは悲劇なのだ、という説明もなかなか説得的。

    筋としては、敗北が決定的となるなかで、どうにか名誉だけは守ろうとする(そして、そこそこ成功する)物語と言えると思うが、その解釈が難しい。喜劇とも悲劇とも言えるような感覚がある。性に溺れた面を重く見れば同情の余地の少ない喜劇だし、運命に抗おうとした面を重く見れば悲劇の色が濃く感じられる。

  • 新潮社が出版している他のシェイクスピア作品とは異なり、注釈が無く、読みやすそうだったので借りた。事実、他の作品と違い、読んでいるうちに筋を見失うことは無かった。
    ふたりとも如何にも感動的に死んでいくが、それまでの行動があまりにお粗末なので陳腐に感じられる。それは解題、解説の通り、偉大さを描いた後に必ず卑小さを描くという手法によって、ふたりの『キャラクター』よりも『人間性』を際立たせるためだったのだろう。

  •  中年ならではの男女関係、人生観を、本作を通して味わえる。純愛ではない恋愛(というよりは不倫)、年齢を重ねた末に感じたことなど、若者の価値観と、どの点で違うのかを念頭に読むと、この話を楽しめるかもしれない。

  • 飛び飛びで読んでしまった、、
    現代の生き方にも参考となるような悲劇的な作風。
    現実的な和訳が身に染みる。

  • 2人とも割と俗っぽいキャラクター。

  • 二人は惹かれ合ってるが、ロミオとジュリエットのような一途さは無い。物語も昂りがない。二人の最期もふらふらしながら萎むように朽ちていく。年齢を経て中年になると邪念が混じるのだろう。2020.12.4

  •  『ジュリアス・シーザー』にてブルータスらに暗殺されたシーザー。彼の死後、ローマの政権は、後継者となつたオクテイヴィアス、マーク・アントニー、レピダスの三頭政治が敷かれてゐました。しかしアントニーはエジプトの女王・クレオパトラの色香に迷ひ、ローマを蔑ろにしてエジプトに入り浸りであります。オクテイヴィアスがポンペイとの戦に難儀してゐるのに、手を貸さうとさへしません。妻ファルヴィア(実際には登場しない)の死去を伝へられて、漸くローマへ帰るのでした。

     アントニーはオクテイヴィアスとの仲を強固にするため、オクテイヴィアスの姉・オクテイヴィアを妻に迎へます。政略結婚。しかしそれを聞き及んだクレオパトラは激昂し、嫉妬に狂ひます。
     一旦オクテイヴィアス側とポンペイ側で和解が成立しますが、野心を持つオクテイヴィアスはその後ポンペイを襲撃、これを亡き者にし、更に三頭政治の一角・レピダスも失脚させます。オクテイヴィアスの天下。
     これによりアントニーとオクテイヴィアスの間には確執が深まり、身を案じたオクテイヴィアは弟の許へ帰ります。同時にアントニーはクレオパトラの待つエジプトへ。

     オクテイヴィアス軍対アントニーとクレオパトラ連合軍の戦が遂に開始されますが、腹心の裏切りなどもあつて、アントニーは劣勢です。精神状態も最悪な彼はクレオパトラを散々罵倒し、クレオパトラは引き籠る。
     彼女はアントニーの愛情を確かめんと、自分の死をアントニーに伝へさせます。それを信じたアントニー、絶望して自刃に及びますが果せず、瀕死の状態。実は女王の死は虚報であることを聞き、彼女の許へ自らを運ばせます。そこで二人は、最後の対面を果たすのでした......
     
     『ジュリアス・シーザー』ではあのブルータスに引導を渡した英雄・勇猛果敢なマーク・アントニーが、ここでは情けなくも一国の女王にデレデレになる醜態が描かれます。しかも中年になつてからの色恋沙汰は何かと面倒であります。『ロミオとジュリエット』では純情な青年と少女の純愛が観客の心を打ち、すれ違ひの悲劇に涙するのですが、これはちよつと、涙は出ませんねえ。

     クレオパトラは嫉妬の塊。例へばアントニーがローマへ立つ前の駄々ッ子ぶり。分別のない若い娘でもかうは言ひますまい。一方アントニーもうんざりした様子を見せながらも、結局二人は離れられない。お互ひ愚痴つたり罵り合つたりしながら、それを愉しんでゐる風にも取れる程、二人は成熟した大人なのでした。
     沙翁作品としては若干長めですが、それを感じさせぬスピーディな展開、政争に明け暮れる男たちの陰謀ぶりを描いて、一気に読める作品であります。ま、四大悲劇に比肩しうる、との評は分かりませんが。

  • 塩野七生との我慢比べに端を発した再読(いつ以来だろう?)。
    世の評判らしいですが、確かに今一つ面白くないかもですな。登場人物全てに良いところもあるよ、みたいな感じで。
    勝手なものですが、やっぱり堕ちるなら徹底的に堕ちていく方が読む方としては面白い訳でして。

  • 解説から引用
    「アントニーとクレオパトラにとって、人生の移ろいやすさはわかりきったことであり、数多くの変化を目のあたりにしてきた彼らを今更何の変化も驚かすことはできない。人生の移ろいやすさこそ移ろいゆくことのない唯一のものなのだ。」
    というような解釈をとるもとらないも多様である
    というのが小説や演劇と違う戯曲というもの
    史劇としてはアクティウムの海戦における動機は本筋でないのが残念

  • シェイクスピアの悲劇の終わりを告げる作品。
    ジュリアス・シーザーと同様に、伝説や物語ではなく、英雄の生き様を追うという点で、他の喜劇や悲劇とはまた性格の異なったものとなっている。
    人間が生きて死ぬことを追っていくということは、その一生にどのような意味づけを見いだすかで大きくその姿を変える。しかも、今回はワールドワイドに動く世界で、ローマとアレクサンドリアという趣きの異なる世界の行き来。場所だけでなく、人間も、三頭政治の世界からクレオパトラの世界、甘い宴の世界と、激しい戦争の世界と、緩急が綴れ織りのようにやってくる。とてもじゃないけれど、ひとつの劇で収まる規模の話ではない。それをひとつの舞台の中でまとめあげるのは、とてつもない工夫や間が重要ではないのかと思う。
    こんなにひとと世界が動いているにもかかわらず、もう最初から瓦解が見えていて、そんな世界の動きもどこか冷めて見えてしまう。淡々と時間が流れて、定められた出来事が流れていくよう。
    誤解やもつれ、ズレから生じる悲劇と喜劇の世界とは異なり、黄昏に佇み、暗い夜を待つだけの人物の姿が、シェイクスピアの他の劇の登場人物にあまり感じられない、独特の人物の深みを出していると感じられる。若い溌剌としたアウグストゥスからは、アントニーやクレオパトラが持つ、絡まる思惑と利権、政治の人間模様の中で生きてきた人間から漂う哀しさと運命への抗いを願う力強さが感じられない。
    この悲劇が悲劇たるところは、ずれやもつれから本人の意図したことが意図せぬ方向へいってしまったことによるものではなく、終わりを終わりと自覚しながらも、終わりに向っていくことに耐えきれず、叫びをあげたくなる、そういうところにあるのだと思う。運命は運命で、それを捻じ曲げることは誰にもできない。すべては起こるべくして起きている。起きることだけが起きている。けれど、どういうわけか、人間には、「もしかしたら」と、考えることができてしまう。だからこそ、生きて死ぬということの不可解さが忍び寄ってくる。絶えず、可能性が人間に語りかけては揺さぶる。そうやって生きて死ぬことが悲しくも見え、また、力強い輝きを放つようにさえ見える。

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著者プロフィール

イングランドの劇作家、詩人であり、イギリス・ルネサンス演劇を代表する人物。卓越した人間観察眼からなる内面の心理描写により、最も優れた英文学の作家とも言われている。また彼ののこした膨大な著作は、初期近代英語の実態を知る上での貴重な言語学的資料ともなっている。
出生地はストラトフォード・アポン・エイヴォンで、1585年前後にロンドンに進出し、1592年には新進の劇作家として活躍した。1612年ごろに引退するまでの約20年間に、四大悲劇「ハムレット」、「マクベス」、「オセロ」、「リア王」をはじめ、「ロミオとジュリエット」、「ヴェニスの商人」、「夏の夜の夢」、「ジュリアス・シーザー」など多くの傑作を残した。「ヴィーナスとアドーニス」のような物語詩もあり、特に「ソネット集」は今日でも最高の詩編の一つと見なされている。

「2016年 『マクベス MACBETH』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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