二都物語 (新潮文庫)

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (666ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102030141

作品紹介・あらすじ

フランスの暴政を嫌って渡英した亡命貴族のチャールズ・ダーネイ、人生に絶望した放蕩無頼の弁護士シドニー・カートン。二人の青年はともに、無実の罪で長年バスティーユに投獄されていたマネット医師の娘ルーシーに思いを寄せる。折りしも、パリでは革命の火が燃え上がろうとしていた。時代の荒波に翻弄される三人の運命やいかに? 壮大な歴史ロマン、永遠の名作を新訳で贈る。

感想・レビュー・書評

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  • 「負けるゲームはおれがします」って、シドニー・カートンかっこよすぎやしませんか。フランス革命前後の文学はいくつか読んだけれど、ディケンズの筆は凄味が違う。サンタントワーヌで貧しい市民たちが地面に流れたワインをすするシーンなんか、夢に出て来そう。侯爵の屋敷の石の顔や、不気味にひたすら編み物をして人の顔を記憶するドファルジュ夫人など、情景が目に浮かぶようでまるで映画を見ているような感じで読めた。後半はラ・ギヨティーヌが大活躍で民衆の狂乱が恐ろしく、この辺は映像で見たらトラウマになりそうなので遠慮したい。
    現代日本に住む私たちも当たり前のように自由、平等の恩恵を受けているけれど、それを手に入れるまでには日本でだってたくさんの血が流されたわけで。決してタダで手に入ったものではないのだと肝に命じておかなくてはなと思う。
    ディケンズ=王道で、最後はハッピーエンドになるのだろうとたかをくくって読んでいたらとんでもなかった。ディケンズにしては短めだし、なんて軽い気持ちで手に取る作品じゃなかった。内容はかなり重ためなのでこれから読む人は心の準備をしてから読んでください。

  • “あぁ”
    読み終わると同時に出てくる言葉。

    18世紀の不穏な社会情勢下でのロンドンとパリ、二人の青年と一人の女性、その周辺の人々が二つの都にまたがって繰り広げる、壮大なドラマは、CGのない全盛期のハリウッド映画のよう。

    フランス革命へ飲み込まれていくさま、一つの時代の終わりに際し、もがくようにして生きる人たちと集まり勢いを増す人たちが渦を巻く。

    19世紀イギリスの名作家ディケンズが晩年に描いた、暗く悲しく力強い物語。

    映像的で細やかな情景描写
    修辞法、比喩を効果的に用いた演出

    登場する者たちの、魂からから溢れ出る言葉が、よむほどに襲いかかる。

    フランス革命、血の粛清で荒れるパリの夜の街をひとり彷徨うカートンがつぶやく、また、断頭台に向かう名も知らぬお針子にキスをして、カートンがささやく、

    “我は復活なり、生命なり”

  • シドニー・カートンに心ぜんぶ持っていかれた。
    すべての人物が丁寧に描かれているので全員に感情移入できるのだが、カートンは別格だった。
    与えることが愛すること(byフロム)なら、これぞ究極の愛。

  • フランスの暴政を嫌ってイギリスへ亡命したフランズ人元貴族のチャールズ・ダーネイ。自暴自棄で放蕩無頼だが有能なイギリス人弁護士、シドニー・カートン。
    双子のように顔がよく似た2人が恋した相手は、フランス人のマネット医師の娘ルーシー。かつて、マネット医師は無実の罪で長年バスティーユに監禁されていた過去をもつ。折しもフランスでは革命が起きようとしていた。ロンドンとパリを舞台に彼らの運命はまわり始める長編小説。

    長いが一気に読んだ。人物たちの秘められた過去が明かされることによってつながる点と点。個々の伏線が最後に収斂するストーリーの巧さがあり全く飽きない。
    なにより市井の人々を描き出す巧さが読みどころ。道に散乱した樽ワインをすする貧しい人々の姿でフランス民衆の貧困の喘ぎを描き、街路を全力疾走する馬車にひき殺された子どもを見下ろす貴族の姿に傲慢なまなざしを描写するところも上手い。ダーネイの運命を左右するドファルジェ夫婦の秘められた過去が、革命前夜の静けさと革命後の群衆たちの血の飢えと復讐のなか浮き上がる構成も読み応えがある。ディケンズは文章で優れた視覚的表現をする作家らしく、本作が何度も映画化されている理由がよくわかる。
    共和国誕生後、旧体制への私怨を交えた陰謀と謀略によって、形だけの裁判が行われ、次々と死刑になる元貴族たち。革命という大暴動は海の向こうのダーネイやマネット父娘たちの運命にも忍び寄る。

    小説だけで歴史を語れないが、読み終えるとフランス革命に対するロマンに満ちたクリーンなイメージが変わってしまう。怨恨と復讐心は政治を変える起爆剤というが、綺麗事のみで歴史は進まないらしい。
    しかし、シドニー・カートンのかっこよさと云ったらない。「シドニー・カートン!」と読後に名を叫びたい衝動に駆れたのは私だけではあるまい。

  • 新潮文庫では、佐々木直次郎訳→中野好夫訳→加賀山卓朗訳(本書)と、3つの版が出版されてきたが、本書は非常に丁寧な良訳で感動した。

    特にカートンの言葉づかいがすごく良い。彼の話す一言一言に、彼がどんな人間かがにじみ出ている。カートンの登場場面はいつでも胸がつまった。

    あとがきを読むと、原文の構成や解釈、過去に出版された邦訳の訳文など丹念に研究した様子がうかがえ、特に最終章の”歴史的現在”をきちんと生かした訳になっているのが素晴らしい。中野訳ではこの部分が破壊され、抑制した中ににじむ感情の高まりや物語全体の余韻を全く感じることができず、佐々木訳に比べて非常な物足りなさを感じていた。

    大好きな物語を素晴らしい訳で再び読めるほど嬉しいことはない。新訳刊行を心から喜びたい。(2016.2.24)

  • ▼ディケンズって読んだことなかったんです。ご縁がなくて。ミュージカル映画になった「オリバー!」は、何故か少年時代に何度も観たんですけれど。ディケンズって1812-1870なんですよね。イギリス人。「二都物語」は1859。大まか1838-1861くらいに、ベストセラー作家だった。フランスで言うとフローベールと同時代。バルザックが、ふたりより10年くらい早いか。

    ▼つまりは、小説が「まあ、2023年現在の人が翻訳で読んでも、かろうじてエンタメだとも言えそうな感じになった」という状況の、まあ大まかに言うと第一集団、と言っていいと思います。しかもなんでだか、(まあ理由ははっきりしてるとも言えるけれど) 英、仏、米、露、なんですよね。
    (ディケンズ1812-1870。
     ブロンテ姉妹1816-1855。
     コナン・ドイル1859-1930。
     バルザック1799-1850。
     ユーゴ―1802-1885。
     フローベール1821-1880。
     ドストエフスキー1821-1881。
     トルストイ1828-1910。
     オルコット1832-1888。
     マーク・トウェイン1835-1910。
     ちなみに夏目漱石1867-1916。)



    ▼二都物語は、1789年くらいからのフランス革命が背景になっている、まあ歴史小説です。書いたのはイギリス人。書かれたのが1859なんで、70年前の出来事。
     2023年の日本で、1953年‥‥「朝鮮戦争の終戦」を背景に、日本人と韓国人が出る小説を書いた、みたいな感じでしょうか。



    ▼備忘的に言うと、

    ・ルーシー(女)ヒロイン。フランスの、医師の娘だった。けど、革命前の圧政の時代に父が冤罪で投獄され、ルーシーは縁を頼ってロンドンで育った。

    ・ダーニー(男)ロンドンで暮らす。フランスの亡命貴族。亡命貴族だけどちゃんとしてて(笑)、仏語を教えたりしてちゃんと自活してる。ルーシーに惚れて結婚する。

    ・カートン(男)ロンドンの法曹界で下っ端仕事をしている、一応インテリな若者。ひねくれた人生観と、ルーシーへの純愛と、ダーニーへの友情を持っている。

    まあこの三人の、ドリカム状態三角関係がいちばんの主題です(ほんとうか?)。



    ▼時代で言うと、

    ・フランス革命の前

     ルーシーが、フランスに行って、冤罪の父を救う。救って一緒にロンドンに逃げる。めでたしめでたし。王政の圧、残酷さが背景に描かれる。


    ・時は流れて。ザ・フランス革命の年

     (ルーシーはダーニーと結婚している。ロンドンで幸せに暮らしている)
     フランスでは革命が起こる。正義、ではなくて、カオスが描かれる。つるし上げ、テロ、糾弾。貴族とかはとにかく一律、ギロチン送りだ!・・・。さて、ダーニーは元貴族。元の領地?で家来とか?が、「革命騒ぎでえらいこっちゃで、ダーニーさんに〇〇を証言してもらわないと、俺が処刑されちゃうよ」みたいなことがあって、お坊ちゃんのダーニーは、カオスのパリにやってくる。
     当然逮捕されて、裁判にかけられて、まあともあれ死罪確定。ギロチンですね。さらに言うと、衝撃の因縁が暴かれる。

    【ルーシーの父(フランス人の父)が、革命前に、冤罪で投獄されて苦しんだ原因は、ダーニーの血族(貴族)にあった】

    というものです。金田一耕助的な過去の衝撃です。

    というわけで死刑を待つダーニー。妻ルーシーも(子供も)パリに来て、獄の外で泣いている。なんだけど、直前に親友のカートンが、やっぱりロンドンからパリにやってくる。それでもって、このカートン君が、「獄を訪れる。そして、親友を眠らせて入れ替わる」という荒業を行って、カートンがギロチンで死ぬ。ダーニーは、妻ルーシーのもとへ無事帰還。
     (カートンの動機は、大まかルーシーへの無償の純愛)


    ・・・というのがお話です。



    ▼なかなかに、ケレンに満ちてドラマチックで、(文体は19世紀前半だなあ、みたいなこてこて感が強くて古典臭満載ですが)けっこう流れを掴めるとエンタメです。さすが、です。

    あと、印象に残ったのが三つ。

    1 という物語を、イギリスの、ロンドンの銀行員のオジサンが大まかずーっと見守ります。この人の、ビジネスマンでありつつ、人間味がある、という距離感の在り方が、実にイングランド的というか、資本主義的で滋味深い。英国紳士感。

    2 と言う物語を全般、脇役で彩る、パリの貧民街の飲食店の夫婦がいる。「レミゼラブル」に出てくるずるがしこいテナルディエ夫婦みたいな。猥雑で、強烈で、下品で、強い。このふたりが、革命の暴動の先頭に立つ。そして、アンシャンレジームの、絶対王政の時代に悲しい暴虐を受けた過去を持っている。恨みはたっぷりなんです。つまり、革命のカオスと暴力を正当化する極の存在。

    3 パリ、という町が革命の時期(1790年前後とか)には「恐ろしく不潔で汚かった」ということ。これはなんだかもう、すごい匂いたつような描写・・・。一方でロンドンは、そうでもない。
     (その後、1840年代とかに、ナポレオン三世が、ロンドンで亡命暮らしをしていて。ロンドンが好きだった。パリに入って皇帝になって、「不潔でどうしようもないパリを、ロンドンみたいにしたい」という思いで、大まか1850年代、1860年代くらいにパリ大改造をした。そこで今の美都パリが作られたってことだそうで)



    ▼今年は、「ルイ14世から、第2次大戦終わりくらいまでのヨーロッパあるいは世界の歴史を、パリ、あるいはフランス・・・という切り口あるいはその周辺でできるだけ楽しむ。知る。」というお題で読書をしていまして。

    「まんが世界の歴史13 第1次世界大戦とロシアの革命」
    「太陽王ルイ14世」
    「異邦人」
    「アルセーヌ・ルパンのシリーズ」
    「ナポレオン フーシェ タレーラン」
    「イギリスの歴史が2時間でわかる本」
    「贖罪」
    そして、「二都物語」もその流れで、読もう!と決意したもの。

    恐らく来年までかかって、
    「怪帝 ナポレオン三世」
    とか
    第一次世界大戦についての本とか、
    ショパンについての本とか、
    ナチスの本とか、読みたいなあと。
    最終的には「パリは燃えているか?」でゴールしたいなあ。
    わくわく。

  • 「嘘だといってよシドニィ!」
    “ガンダム1785ポケットの中のフランス革命”より

    彼も“人生に甦った”のだろうか、嗚呼…。

  • http://dokushokai.shimohara.net/meddost/dickens.html

    ディケンズ-ドストエフスキー-フラナリーオコナー
    キリスト教を信じる人々と、神の沈黙。

    読み終えました…すごくおもしろかった。ディケンズが今までどれだけの小説家に影響を与えてきたのか、どれだけの人々におもしろく読まれてきたのか、もう一文目からそんなことがわかってしまうくらい貫禄がある。
    シェイクスピアさえ原文で読んだことがないし、ディケンズももちろん原文では読んでいません。でも、これは英語だとすごくリズムがいいのだろうなと思ってYouTubeで朗読を聞いてみたらすごく耳に心地良かったです。アーヴィングはよく車の中でディケンズをリスニングするそうです。英語独特の、それもイギリス英語ならではの語彙の多さと表現力の巧みさがあります。アメリカ英語では語彙力はあまり問われず、むしろ簡単な語彙で複雑なことを説明するイメージですが、イギリスだと単語がとっても丁寧に行き渡っている感じがある。ボンヤリしておらず、はまるところにしっかりはまる。だからこそ、直接的には批判せずとも皮肉な言葉で当時の悪政だったり暴力的な人々を、批判していることがわかる。紳士的な言葉でいかに悪口をいうか大会があったら当然イギリス人の勝利でしょう。笑

    JKローリングは、フランス留学中に休日はずっとこの『二都物語』を読んでいたらしいです。実はその話をきいて私はこれを読もうと決めました!ハリーポッターシリーズは、かなり二都物語から影響を受けていることがわかりました。シドニー・カートンのルーシーへの身をも捧げる献身的な愛は、スネイプがリリーに対して抱いていたものに似ているなと思いました。このスネイプやカートンしかり、ローリー氏やミスプロスなど、イギリスの小説には執事や家政婦さんたちなどの、仕事や主人に対する誇りを持った仕え方がよく描かれていると思います。カズオイシグロの『日の名残り』もそうだった。これは現代のイギリスでも残っているのかはよくわからない(多分ないと思う)ですが、たぶん階級制度ありきのものだったのかもしれません。いまだにイギリスには女王がいてロイヤルファミリーが残っている、そして人々の中にはそんなイギリス王室を心から誇りをもって尊敬して崇めていたりすることもあるのでしょう。そういう、なんというか、利益を求めないキリスト教的な献身の態度が物語に深みをあたえるなぁと思います。昨今超資本主義的な社会のなかでは、とにかく自分が成功すればいい、お金もちになることが大事だ、という風潮があるけど、お金じゃなくて自分が誇りに思えるような生き方をすることが大切だな…としみじみ思ったりした。

    あとはフランス革命!今までフランス側からの描かれ方しか知らなかったし、歴史の教科書で文章でこんなことがあった、王政がなくなったとかしか知らなかったけど、この小説の中での革命の描かれ方は社会が崩壊していてとても怖かった。王政にあずかった人々も汚いひどい人たちばかりだし、革命を起こした過激な人たちも殺しを無差別にしていて恐ろしかった。革命、というのは聞こえがよくかっこいいものだと思っていたけど、想像以上に血みどろで、誰もが幸せではなかった。この後にはフランスはだんだんと落ち着いて今のような民主主義が獲得されるけど、その前には本当に本当に大混乱の時代があったんだな…。今コロナで日々怖いけど、フランス革命時に比べたらまだ生きていけてる感じがある。『レミゼラブル』も読んでみたくなった。ハリウッド映画のほうはもしかして美化されすぎているんじゃないか?と思った、あれをみただけじゃ実は何もわかっていないのかも。

    こういうの子どものときに読んでいたかったなぁと思うんだけど、大人になって少しだけでも歴史を勉強したりフランス語や英語をわかるようになってから読んだからこそ楽しめたところも多かったです!

  • 『二都物語』

    18世紀(書かれたのは19世紀)、フランス革命のころの『カサブランカ』だと思う。

    読みおわった。最後は電車のなかで泣きそうになった。ほんとにちょっとしかでない貧乏な「お針子」のセリフのところだけど、ディケンズ、ずるいよと思った。
    考えさせられたのは、ある男が処刑されることになって、その前日の心理が細かく書いてあるところです。諦めと未練を行ったり来たりし、刑具のどうでもいい細部を想像したりと、いろいろあるんだけど、つぎのような心情にいたるんである。
    ----
    愛しい家族の今後の心の平和は、自分が静かで動じない態度を保てるかどうかに多分かかっている。
    Next followed the thought that much of the future peace of mind enjoyable by the dear ones, depended on his quiet fortitude.
    ----
    定型句で「泰然と死に赴く」などというけど、それはその人がただ強いのではなく、自分が亡き後、最期の自分のことで家族ができるだけ苦しまずにすむように、がんばってそうしているのかもしれないな。そういう意味で強いということなんだろう。つまり、「泰然」の底には、最後のものすごいやさしさがあるんじゃないかなと思った。
    あと、78歳の独身のジイサンがでてくるけど、なんともいい人で友人とその娘を救うためにがんばっています。

    「君子もとより窮す。小人窮すれば、ここに濫(みだ)る」(『論語』衞霊公)というのも、「君子」は「仁」(やさしさ)のゆえに、他のひとに心配をかけぬよう苦難のなかでも、泰然としているのかもしれないと思った。こういう注釈ってあるのかな。君子が立派というだけなら、なんとも薄っぺらじゃないかなと思う。その根底に「仁」があるというところにまで、届かないといかんと思います。

  • 1年以上かけて読了。感動。なぜもっと早く「ディケンズ体験」しておかなかったかと悔やんでいる。英国で人気なのがわかる。時間を見つけて読むというスタイルだったので、時には何ヶ月かたってページを開くこともあったが、どんなに時間が開いても読んだところまでのあらすじや光景が浮かんできた。不思議だったが、それが名作というものの持つ力なのだろうか。あまりにも興奮して感想を話した友人には、「そんな読書体験ができて羨ましい」と言われたほど。最後に向かっって渦巻きの中心に流れが向かうようにすべての人々が世代を経て結びついていく、素晴らしい構成。最後はこのような選択でよかったのかと悲しくもあるが、信仰、そして救済が背景にあるテーマだったかのように思う。フランス革命時をに英仏の時と国をまたいだ大河ドラマ。新潮新訳版は朗読できるかのような文章で読みやすく、登場人物たちがとても生々しく感じられた。挿絵がオリジナルのもので情景が浮かびやすいのも素晴らしい。

  • 語感がちょっとロマンチックというか、旅情を感じさせる感じがして、内容も抒情的なのかな…
    というのが事前のイメージ。ディッケンズの小説は、例えば貧しく過酷な幼少年時代が書き込まれていたにしろ、その後は、なんとなく人の優しさに包まれてゆく感じの読後感が多かった。
    そういう牧歌的で和やかな物語を想像して読み始めたのだが、フタを開けてびっくりである。
    なんとも壮絶で、凄惨とすら言える状況が描かれるのであった。

    時は1785年から92年ころ、フランス革命の時代。
    主要登場人物らはパリとロンドンを往き来する。
    チャールズ・ダーネイは貴族の身分を捨ててフランスを出国。ロンドンで職業人として自活を始めていた。
    その後パリで革命が勃発。バスチーユ監獄が陥落。貴族が次々に捕まり虐殺される。
    そんな血の海と化したパリに、ダーネイはかつて家臣だった男を救うためロンドンから一時帰国。
    しかし、ダーネイは密告者によって捕縛され監獄に投じられる。

    物語は、ダーネイの危機をめぐる、緊迫した日々を描く。ハラハラドキドキものである。

    それにしても、フランス革命下のパリの暴力と虐殺の凄まじいことよ。小説でその状況を読んだのは初めてだったこともあり、驚いた。
    云わば "人民裁判"( 革命裁判所 )によって、無茶な判決が乱暴に宣告され、即日や翌日にギロチンで断頭される。
    あるいは、市民らが貴族を捕らえては、市街でそのまま刃物でめった刺しする私刑が横行。
    文革の暴虐やポルポトの虐殺行為よりも凄惨の度が強い。

  • 革命期のロンドンとパリを舞台にした壮大な物語。
    ドラマチックな展開と、怒涛の伏線回収が凄かった。散りばめられた仕掛けがクライマックスまで作用していくさまはミステリーの域です。鳥肌。
    極限状態って良い意味でも悪い意味でも、人間性があぶり出されるのでしょうね。
    この時代に正しく生きることはどんなに難しかっただろう。憎しみで殺戮の限りをつくす人、流される多くの人、殺されても愛するのをやめない人。
    どの人の事情もわかるし、だからこそ恐ろしくもあり、感動もある。
    悲しいのに同時に幸せという、不思議な余韻です…。

  • タイトルの地味さとは裏腹に、物凄くスケールの大きな大河ドラマ。一大エンターテイメント。
    勧善懲悪なんだけど、根底に民衆の本物の苦しみがあるからこそ、その中での愛や助け合いや勇気が輝くのだと感じる。
    割とかっちりした辻褄合わせとか、現代的な感じ。漫画化したりして今の若者にも読んでほしい。

  • ミュージカルや演劇を何度も観るよりこの本一冊でその何倍もの感動を体験できると思う。
    こぼれたワインを舐めとる様子や、ゴルゴンの首に出てくる侯爵の館など、惹きつけられる描写が多く、形や色彩や音を伴って感覚に訴えてくる作品だった。

  • さすがに時代を感じさせる内容と文章ではあるものの、そのメッセージや骨格はやはり圧倒的だと思った。
    ストーリーテラーと言われるディケンズ、この作品に関しては自分にはどちらかというとストーリーよりもメッセージ性を強く感じた。

  • ストーリー展開がバラバラで、何がどう繋がるのか不明なまま数百頁を読み進めるのは辛い。後半部分になって、個別の展開が全て繋がってくるとあとは一直線。

    新訳の日本文であっても、読みにくい箇所がしばしば出てくる。特に自然描写の箇所など。多分もともとディケンズの文章自体が、修飾語や関係代名詞が長々と使われていたり、主語と述語の関係もおやっ?と思わすところがあるのかもしれない。

    やはり一度は、言語で読んでみたい。

  • 原文は知らずだが、装飾の多い文章で読みにくい。急な場面展開でわかりにくい。訳者あとがきによると「ひとつのイメージから別のイメージをどんどんつなげて息の長い文章を綴る饒舌体」が特徴のようだ。ドラマチックな話ではあるが、すごく感動するまでには至らず。

    初ディケンズ。これはそれまでの大きな特徴であったユーモアが抑え気味になった後期の作品だそうだ。ならば前期の作品も読まないとディケンズは語れない。

  • すごい小説です。語彙量、筆力、描写力が圧倒的です。全てのエピソード、シーンが印象的です。

    フランス革命の場面などには、残酷な描写がありますが、それが絵画的で美しいです。そしてそれゆえに冷たい恐ろしさを感じます。父娘の再会シーンや、カートンの告白シーンは感動的で、ロマンチックでもあります。ですがあまりにも描写がすごすぎて可笑しさもこみ上げてきます。そしてそれが過ぎるとまた感動がよみがえってくる感じです。

    お気に入りの登場人物は、ジェリーです。愉快なキャラクターです。活躍の場面があるのですが、それゆえに悪事がばれてしまい、ロリーに叱られる場面はとても面白いです。また「へぇつくばる」かかあをバカにしていたのに、最終的には自分が「へぇつくばるよ」と言っているのが面白い。

    序盤のエピソードが、終盤に絡んでくる展開も素晴らしいですが、やはり描写がすごいです。物事のそれ自体の周辺をぐるぐると描写しているうちに、その本質が徐々に浮かび上がってきます。直接そのものを描写するより、重層的に感じられて、エピソードやシーンがより印象的でした。すごい小説です。

  • 「犬と鬼」で「ドファルジュ夫人」というワードが気になったので検索して読んでみた。

    何となく「虐げられていながら何もできない哀しみと悔しさを、憎い貴族の名を編み物に織り込むことで覚えておき、革命の後、貴族がギロチンにかけられたら編み物を解いて留飲を下げる…」ような、昏く静かに冷たい女性を想像していたら大違いだった。

    文字通り「末代まで恨む」復讐の化身として一かけらの同情心も抱くことなく、淡々と冷酷かつ執拗に仇敵を追い詰める怪物。何もかもを奪われ、愛情も未来も幸福も夢見ることなく、報復だけを使命として生きる... 「かつて海辺を裸足で歩いた」可愛らしさと美しさの輝きを留めた暗黒の魂。

    アレックス・カーが「疎外された者の成れの果て」としてドファルジュ夫人を例えに出したのだとしたら、日本を覆う絶望の片鱗が少し窺えた気がする。

  • フランス革命下のパリとロンドンを舞台にした小説。
    前半は少々かったるいが、後半の息もつかせぬ目まぐるしい展開は素晴らしい。何と言ってもパリの街全体の狂気に満ち溢れた描写の物凄いこと。ブラックなジョークには思わずニヤリとしてしまう。
    全編において重く苦しい展開が続くので少々読み通すのがきついが、一冊読み通した上でのあの素晴らしいラストは胸を打つ。

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著者プロフィール

Charles Dickens 1812-70
イギリスの国民的作家。24歳のときに書いた最初の長編小説『ピクウィック・クラブ』が大成功を収め、一躍流行作家になる。月刊分冊または月刊誌・週刊誌への連載で15編の長編小説を執筆する傍ら、雑誌の経営・編集、慈善事業への参加、アマチュア演劇の上演、自作の公開朗読など多面的・精力的に活動した。代表作に『オリヴァー・トゥイスト』、『クリスマス・キャロル』、『デイヴィッド・コパフィールド』、『荒涼館』、『二都物語』、『大いなる遺産』など。

「2019年 『ドクター・マリゴールド 朗読小説傑作選』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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