サンクチュアリ (新潮文庫)

  • 新潮社
3.37
  • (21)
  • (24)
  • (84)
  • (8)
  • (3)
本棚登録 : 577
感想 : 32
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (426ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102102022

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 本を持った男と銃を持った男の出会い。

    世間知らずな若者が足を踏み入れたことにより、突如、崩壊する聖域。

    このうえなく厄介な事件に立ち向かうことになったホレス弁護士。

    真犯人を自らの口から告げることのできない不憫なグッドウィン夫妻。

    ひょんなことから運命の歯車が狂ってしまったテンプル嬢。

    そして、可哀相なやくざものポパイ。

    主軸となる人物の誰もが救われないが、

    圧倒的な描写で暴力的なストーリーを紡ぎだした見事な作品。

  • <一人の女子大生が迷い込んだ廃屋での事件。無実の罪で酒を密売していた男が逮捕される・・・>

    著:ウィリアム・フォークナー

    何か力強いものを読みたくなって頭の中に浮かんできた作家がフォークナーとスタインベック。
    以前、「八月の光」を読んでパワーを感じたので今度はこちらを手にとって見ました。

    ストーリーの主軸は女子大生テンプルとヤクザ者ポパイのパート、
    そして弁護士のホレス・ベンボウと無実の罪を着せられた男の妻ルービーのパートの二つ。

    前者のパートでは「玉蜀黍の穂軸」などの陰惨な場面が次々と描かれていく。
    それが様々な比喩を用いて表現され、アメリカ南部の影を強烈なまでにアピールしている。
    その醜悪さは「八月の光」よりさらに顕著。

    そしてそれは人間そのものの闇の部分。

    しかしフォークナーはノーベル賞の授賞式で「私は人間の終焉を信じない」と演説した人。
    一方で人間というものの正しさを信じていると思う。
    そしてその思いが後者のパートにこめられています。
    正しき人であるホレス、赤子を守りながら夫リーの無罪を信じる妻ルービーのやり取り。
    私達に人間の本当の力強さ、信念というものを教えてくれます。

    最後にあとがきに触れられていた題名の意味、「サンクチュアリ」とは何をさすのか。
    辞書を引くと「聖域」「逃げ込み場所」の意味があるとのこと。

    テンプルが迷い込んだ廃屋、酒の密造をしていた隠れ家のこと?
    それともミス・リーバの売春宿?
    ホレスが直していた昔の家?

    私はホレス、リー、ルービー、そして赤ちゃんがともにすごした監獄の一夜に「サンクチュアリ」を思いました。

  • まずは玉蜀黍の穂軸で強姦、という煽情的な場面を幾度も聞かされていたために、文中に玉蜀黍の穂のこすれる音が登場するたびにヒヤッとした。
    ただしその場面そのものは巧みに隠蔽されて、のちに聞かされる、噂、裁判で提出された黒い玉蜀黍の穂軸、などで言及される。
    それによりますます陰惨度を増している。
    時系列は巧みに行きつ戻りつするので、まるでよくできた映画のようでもある。

    テーマとしては訳者解説にあるように、ポパイーテンプルの陰惨な線だけでなく、(家族に膿み酒に溺れているが清廉な弁護士)ホレス・ベンボウー(嫌疑者リー・グッドウィンの内縁の妻で赤ん坊を守る)ルービーの線がある。
    後者は駄目になりつつある現状を、仕事に向かうことを通じて支えていこうという必死の姿勢には、人間への肯定の視線がある。
    が、それは挫折。つい最近まで密造酒を都合してもらっていたくせに、賤業と見做してリンチする町の人々には、いつでも起こりうる恐怖を感じる。
    また、野卑だが酒を飲めず勃起もできないポパイ、終盤にひ弱だった子供時代が言及されるが、決して描かれなかった彼の内面を想像すると、また別の小説が立ち上がってくる。
    重層的で重みがあって、美味しい、小説。読後疲れたけど。

  • フォークナーの誕生日に。

    酒を密造販売するグッドウィンとアル中で由緒ある出自のスティブンス,内縁の妻で彼の子供を生んだルービーと判事を父に持ち淫乱に落ちたテンプル。法や罪に問われる土俵が同じでも行く末は全然違う。実際に殺人を犯したポパイは原罪ではないことで死刑になり,正義の人ベンボウは孤軍奮闘した果てに敗残者になる。禁酒法時代の米国南部の町で法とか宗教とか恣意的に設定された基準を更に恣意的に運用して人間の運命が決まる。戦争をラブストーリーの舞台に変えるヘミングウェイのおかげで米文学を誤解していた。同時代にフォークナーがいたんだ。

    性的不能者ポパイがテンプルに何をしたのか。連れ去られたテンプルをベンボウがようやく見つけて,グッドウィンがトミー殺しの真犯人でないと証言して彼を死刑にしないで欲しい,そう懇願するが叶なわず独白する。「古来変わらぬ悲劇の世の中から腫瘍を除去し焼却するといい。安穏に寝ている自分,悪や不正や涙から逃れた自分には憤怒も絶望も薄れて虚ろな眼球が残るだけ。」合法的社会で無秩序に生き延びる人と非合法社会で秩序だって生きる人の衝突によって後者のみが誅滅される。今まで避けてきた米文学を掘っていてドデカイ鉱脈を見つけた。

  • 含みをもたせる表現によって読者の想像力を掻き立てるので、よりいっそう主人公ポパイの残虐性とこころの空虚さが感じられた。現代社会の犯罪を先取りしているような筋立てであった。性犯罪の多くは、加害者になんらかの精神の異常が認められるのではないのか。そしてそれを未然に防止することが難しいだけに、不安と恐怖がまとわりつくのではないのか。

  • 「自分として想像しうる最も恐ろしい物語」とフォークナーが語るように、個々の出来事が凄まじい。
    しかし、その出来事だけが目立つのではなく、物語に組み込まれているという点もまた面白い。

著者プロフィール

一八九七年アメリカ合衆国ミシシッピー州生まれ。第一次大戦で英国空軍に参加し、除隊後ミシシッピー大学に入学するが退学。職業を転々とする。地方紙への寄稿から小説を書きはじめ、『響きと怒り』(一九二九年)以降、『サンクチュアリ』『八月の光』などの問題作を発表。米国を代表する作家の一人となる。五〇年にノーベル文学賞を受賞。一九六二年死去。

「2022年 『エミリーに薔薇を』 で使われていた紹介文から引用しています。」

フォークナーの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×