ホテル・ニューハンプシャー〈下〉 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (412ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102273043

感想・レビュー・書評

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  • 現代アメリカってこんなに野卑で生々しかっただろうか。ゲイ、レズビアン、目や耳の不自由な障碍者、テロリスト、売春婦、レイプ、セックス、近親相姦、暴力、糞尿、強烈な体臭などありとあらゆる人間の生の生態が詰め込まれている。なかなか読み切るのがしんどい一冊。

  • ウィーンにやってきたベリー一家、すでにメンバーは父、フランク、フラニー、ジョン、リリーの5人だけになってしまった・・・。フロイトが手紙に書いていた利口な熊の正体はなんと着ぐるみ。熊の中の人スージー、ホテルに住む売春婦たちと過激派の活動家たちが、一家の新たな同居人=友人となる。ジョンの言う「第二次ホテルニューハンプシャー」。しかし過激派のオペラ座爆破計画に巻き込まれ、思いがけない大事件となってこのウィーン時代は幕を閉じる。ウィーンに来てからボブ・コーチの代わりにおじいちゃんの位置にいたフロイトの最期はさすがに泣けた。

    リリーが作家として成功し、ふたたびアメリカに戻ってきた一家、しかしここへきてなんと、今までくすぶっていたフラニーとジョン姉弟の関係性に異変が。基本的に近親相姦ものってとても苦手なのだけれど、この二人にはなぜか全く嫌悪感を感じなかった。たぶんなしくずしに肉体関係を結んでしまうような頽廃的で後ろめたい感じではなく、彼らがとても前向きにその問題を解決しようと真摯に取り組んでいるからだ。彼らは自分たち自身であっというまにケリをつける。潔い。

    そしてかつてフラニーをレイプしたチッパー・ダヴとの再会。フラニーほどタフな女の子でも、それをまだ克服することはできていない。スージーや同じ被害にあった女性たちの協力を得て、兄弟姉妹たちが一致団結して復讐を企てるくだりはある種痛快だった。

    解説で翻訳者が「アーヴィング氏は弱者に加えられる社会の暴力に我慢がならない」と書いていたけれど、なるほど、と思った。あらゆる差別に、作者はノーと唱える。一家が家族同然に暮らしたフロイトはユダヤ人だし、フラニーをレイプから救ったジュニア・ジョーンズは黒人だし、フランクは同性愛者、リリーは小人病、スージーは容姿コンプレックス、だけどベリー一家は誰のこともそんな理由で差別したりはしない。大切なのは、そんなことは彼らの人格に関係ないということ、彼らを愛する妨げにはならないということ。

    ようやくほとんどのことが解決したと思った矢先、リリーだけが「開いた窓の前で立ち止まって」しまったのは悲しかった。それでも読み終える頃には登場人物の全員が愛おしくてたまらなくなっていて、まるで自分も家族の一員のような気持ちになっている。なるほど、名作。

  • いい話だった。

  • いろいろな事件、出来事が起こる中で一番興味を惹かれたのは「大きくなる」というテーマ。その最も象徴的な存在がリリーで、彼女は「大きくなろうとして」「開いた窓の前で立ち止まって」しまい、結果大きくなれなかった。もちろん大きくなるというのは物質的な意味ではなく誰でも抱えている問題で、父さん、フランク、フラニー、ジョン、スージー、みんなそれぞれに悩まされている。大きくなるってどういうことなんだろう?もしずっと大きくなれないままだったら?そんな考えに取り憑かれて立ち止まってしまったのがリリー。そのほかのみんなは不安は抱えつつも誰かや何かの助けを借りながら少しずつ乗り越えていく。つまりはありきたりな言い方になるけど、一人では大きくなれないということ。物語中盤でジョンが自分は一生子供時代から抜け出せず、世界に対して責任を取れる大人にはなれないと自覚している描写が出てくるが、それでも彼は成長していく。その姿に少し勇気付けられた。
    「ガープの世界」のガープは最期までこどものままだったという印象だったけど、ジョンやフラニーたちが「大きくなった」という点でこちらの方が読後感がよい。この世の中ではアイオワ・ボブみたいな存在が必要とされているのかも。

  • 直前に阿部和重の対談集を読み、「小説の中のリアリティ」とか言っていたのが頭に残っていた。ホテル・ニューハンプシャーは荒唐無稽な人々や出来事で埋め尽くされているが、これがリアリティの欠如という事でつまらなくなるなんてことはあり得ない。小説の中でのみ通用するリアリティがやっぱりあるんだな、と思った。

    何度も起こる悲劇の中で絶望しきってしまう事のない主人公たちと「開いた窓の前で立ち止まってはいけない」を胸に、明日も会社に行こう。

  • 「克服」(処理)の物語。みんながみんな勝てるわけではないけれど。
    そしてそのそばにはそれぞれの「熊」がいる。熊に負けてしまうこともあるけれど。

    アメリカの小説を読むと、中身のわりに「静かさ」をいつも感じる。ヘミングウェイも、フィッツジェラルドも。

    また、いつか読みたい。

  • 上巻はいまひとつ入り込めませんでしたが、下巻ラストへ向かうにつれ次第にひき込まれていきました。結末にも満足。

  • (リリース:多摩やさん)

  • 内容(「BOOK」データベースより)
    1939年夏の魔法の一日、ウィン・ベリーは海辺のホテルでメアリー・ベイツと出会い、芸人のフロイトから一頭の熊を買う。こうして、ベリー家の歴史が始まった。ホモのフランク、小人症のリリー、難聴のエッグ、たがいに愛し合うフラニーとジョン、老犬のソロー。それぞれに傷を負った家族は、父親の夢をかなえるため、ホテル・ニューハンプシャーを開業する―現代アメリカ文学の金字塔。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    現代小説からちょっと離れて文学探索をしてみました。

    なんだか不思議な感じもする作品ですね...
    「文学」と書いたけれど、まぁそういうほど重たい作品ではなく。
    作者としてはきっと気軽な読み物として扱ってほしそうな。

    小人症の妹やゲイの兄や難聴の弟。
    レイプ。近親相姦。
    革命家。

    限りなく重たいテーマや人物を扱いながらも、
    そこに固執せず違う読み方をしてもらいたがっていると言うか...

    私はこの方の作品をあまり読んだことがないのですが、
    他にもたくさんの名作を書かれているんですね!
    そう言えば「サイダーハウス・ルールも積ん読になってるな~、自分(汗)。

    そしてこの作品で大きな影響を与えているのが...

    熊。

    熊ですよ。熊さん。
    この辺がアメリカ的ですよねぇ。
    日本ではまず考えられない。

    サーカスの熊さんがペットなんです。
    そしてこの熊さんが、父と母を結びつけ、
    家族を結びつけ、誤射で死んでしまうんですが
    その後も家族に影響を与え続けます。
    (違う熊も出てきます)

    そして「ソロー(悲しみ)」と言う名前の犬。
    これも年老いて安楽死させられるのですが、
    (ホテルの経営に影響もあって)
    ゲイの兄によってはく製として蘇ります。

    でもこの悲しみの犬は、彼らの悲しみを
    時に代弁するかのように常に物語に顔を出し、
    登場人物の心(特に主人公である二男)に存在し、
    物語の根底を緩やかに漂い続けます。

    夢見がちな父親の行動に家族が振り回される...みたいな
    ストーリーは割とありがちかな、とも思うのですが
    ただ振り回されるだけでないユニークな家族たちが
    この不思議な世界を彩ってます。

    下ネタやいわゆるフォーレターワードが多いのも
    アメリカ文学っぽい気もする(・∀・)

    そう言う言葉である意味自分を飾ってるんですよね。
    村上春樹が性交を(と言う言葉を)書きたがるみたいに?(違

    ま、ともかくホテルは意外な方向へ行き、
    ウィーンへも展開されていきます!

    ウィーンは良かったなぁ。
    うらぶれたウィーンがあるってだけでもなんかちょっと安心した(笑

    で、ホテルや熊や犬やいろんな要素はありながらも、
    基本的にこの小説は主人公とその姉を中心にした青春物語だと私は思ってます。

    家族が団結して、姉の心を救おうとするシーンなんかいいですよね。
    コンプレックスを持った人も、うまく生きていけないと悩む人も、
    絶対に必要とされる場面があるって言う。

    重いシーンもあるけれど、
    最後には救いがある。

    読み返すにはちょっとつらいけど
    お気に入りのシーンたちは
    またいつか再会したいと思える作品でした。

  • 漂い続ける悲しみ(ソロー)を受け入れてた時、家族の美しさが一層心に広がった。感動しました

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