ドクトル・ジバゴ 下巻 (新潮文庫 ハ 15-2)

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  • Amazon.co.jp ・本 (553ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102284025

作品紹介・あらすじ

革命後の混乱を避け、ワルイキノへ逃れたジバゴ医師はラーラと宿命的な再会を果たす。身も心もラーラにのめり込んでいくジバゴだが、運命は二人を遠ざけていく。やがて全てに失望したジバゴはモスクワに隠棲し、を残して狂気の内に死をを迎える。美しいラブ・ストーリーに様々なシンボルをちりばめ、普遍的な倫理と思想を織り込んだ20世紀最大の大河ロマン。

感想・レビュー・書評

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  • 「ドクトル・ジバゴ」(上・下)。パステルナーク著、江川卓訳。新潮文庫。初出は1957年にイタリア語版だそう。この本は1980年の出版だそうです。
    以前から気になっていたのですが、「あの本は読まれているか」という海外小説本が2020年に日本でも新刊として出て、ともあれそのタイトルになっている「あの本」というのが「ドクトル・ジバゴ」であると。「あの本は読まれているか」を読んでみたいな、という気持ちから、
    1「ドクトル・ジバゴ」を読もう。
    2となるとロシア革命についてちょっと読んでおこう
    3となるとマルクスについてもちょっと読んでおこう
    4となるとロシア革命の「事後」であるスターリンや第二次大戦についても
    5となると社会主義の成り行きのひとつとしてベトナム戦争も
    というような連鎖で、肝心の「ドクトル・ジバゴ」に至るまでになぜだか第2次大戦やらマルクスやらベトナムやらスターリンやらについての本をいくつか読みました。

    (阿保な気もしますが、それはそれで今年の大きな読書の快楽でした)
    で、肝心のジバゴを読み始めましたが、落ち着かない日々に突入してしまったので、断続的に恐らく2か月くらいに渡って読んでしまいました。
    集中して読めたらまた違ったかも知れません。だけれども大変に面白かった。

    お話は「ジバゴ」という名前の医師のほぼ生涯の物語で、大抵の紹介にあるように「ロシア革命に翻弄されたジバゴの物語」です。
    パステルナークさんが1890-1960の生涯なんですが、作中のジバゴさんは恐らく1890-1930くらいの人生かと思われます。40歳前後?くらいで亡くなっているので。

    ロシア革命が(色々解釈がありますが)1917年です。
    金持ちの息子だったジバゴは革命に巻き込まれ、大まか言うと悲惨な落剝と流転の人生を送ります。
    そしてもともと落剝したブルジョアの娘(だったかな?)のラーラという(多分ジバゴよりやや年下か)の女性と少年期から時折運命がすれ違い、お互いに結婚するんだけどそのお互いの結婚生活は革命の大混乱のなかで無茶苦茶になって伴侶と暮らせない歳月を過ごし。ジバゴとラーラは途中で数奇にまた出会い、愛し合い、別れてしまいます。

    (色々ジバゴを読むまでにいっぱい本を読んだのですが)結局は、
    ●ジバゴとラーラという「運命の恋人」の結ばれないけれど、どこか物凄く深い魂の愛情の物語。
    ●大混乱のロシア革命期の無茶苦茶な社会のありようの物語。
    ●その2軸に幾多も交錯する群像劇、人間模様

    という3点で、中盤から後半にかけてどこかしらか不思議な爆発力で読ませる圧倒的な大河ロマン、大河小説。素晴らしい。



    なんですが、一風変わった小説で、普通で言うと「読みづらい小説」でした。(僕にとっては)
    恐らくは自分の感じたことを整理すると。
    1・小説なんだけど、ほとんど詩。小説としては「えっ?」という省略や不説明がけっこうあった気がする。
    2・ロシア文学の大河ロマンにありがちですが、人名と愛称が煩雑で、久しぶりに出てきた人がもう訳が分からない(ここで僕はもう気にせず読み進みました)。
    3・革命が起こるまでは、正直言って事件性にやや乏しく、現代エンタメ的に言うとそんなにわくわくはしない。
    4・心情描写、そして議論の箇所がけっこうありますが、正直よくわからないところも多々(気にせず飛ばし読み)。
    5・最終的にキリスト教に依拠する哲学的な言葉も多く出てきて、よくわからない(気にせず飛ばし読み)
    ということになるかと思います。
    それでもなおかつ、「戦争と平和」や「カラマーゾフの兄弟」に並ぶくらい、なかなかに心ふるえる迫力の感動でした。
    多分どうしてかというと、上記の1が関係していて、ジバゴの心理描写とくにラーラとの救いの時間などでの心情描写が、唐突に物凄い熱量で、力任せにガブリよられる相撲のように、これはもう感動せざるを得ない。いやすごい筆力です。
    (言うたら「W不倫の恋愛物語」なんですけどね)
    全般としては、パステルナークさんがどう思うか分かりませんが、各所で簡潔に言われるように、「悲惨な政治的な時代の中でも愛は死なない」みたいな人間賛歌です。そのある種の歌声とでもいうべき響きは、これはすごいですね。脱帽でした。感涙。良い読書でした。



    この本は、恐らく数年か、もっと長い時間をかけて書かれたと思うんですが、どこかに連載とかではなく書きおろされたようですね。なにしろ1950年代ですから、スターリンの戦後粛清の時代です。そしてこの小説は、一面「ロシア革命って一種、なんて悲惨でひどい時代だったんだ」みたいな話なんです。マルクス主義、レーニン主義みたいな一種の神秘主義の名のもとにインフラは破壊停止、そして誰かの一言で誰でも捕まって殺されてしまう。(もちろんその前に白軍との戦い、第1次世界大戦という“戦争の時代”があるわけですし)
    そんな中でインテリとして自由に人間的に生きようとする主人公の運命ですから。

    で、ロシアの出版社に断られたんです。作者は詩人・翻訳家として有名だったんですけれど。
    何がどうあったのか詳しく知りませんが、イタリアに原稿が渡り、イタリア語でまず世に出ました。瞬く間に世界各地で翻訳され話題になった。そしてノーベル文学賞をパステルナークさんが受賞することに。ところが当時のソヴィエト政府としては「けしからん本」な訳です。ロシアでは発禁なんです。国家政府を挙げて、ソヴィエトで暮らしているパステルナークさんに批判中傷が行われて、パステルナークさんは受賞を辞退(なんだけど強引に授与したようですね)。そして不遇のままパステルナークさんは死去します。
    ロシアで解禁になったのはゴルバチョフの季節、1988年頃だったそうです(とても読まれたそうです)。なんだか主人公のジバゴそのものというか、この小説の物語そのものを現実がなぞったような気がする逸話です。



    文庫版の解説で江川卓さんが書いていますが、物凄い偶然が何度も物語に現れます。それ自体が詩的だなあと思うし、僕は小説として全く気にならずに大変に面白く読みましたが。
    そんな展開の中の名場面(?)としては。

    ジバゴが妻子とのささやかな幸せの暮らしを奪われ、強制的に軍隊に医師として従軍させられます。どうやらシベリア地方のことらしいですが(ちょっと有名な白軍コルチャック将軍との戦いのようですね)。
    その軍隊での憂鬱で悲惨の暮らし。そしてそこからの脱走。
    その果てにラーラと邂逅するあたりのくだりは、特に胸に迫るものがありました。「あー、良かったなあジバゴさん」とひとしおでした。

  • 『ところが、この穏和で、罪のない、ゆったりとした生活の流れが、一転、血と号泣のただなかに叩きこまれて、だれもがひとしなみの狂気と兇暴にとりつかれたように、時々刻々、休む間もない殺戮がくり返され、それが法にかなった行為、讃美の対象になってしまったの。』

    『そのとき、ロシヤの大地にいつわりがやってきたんだわ。いちばんの不幸、未来の悪の根元になったのは、個人の意見というものの価値を信じなくなってしまったことね。 …いまは…一律に押しつけられる借りものの考え方で生きていかなくちゃいけない、なんていう思い込みがひろまった。…』

    この作品はロシア革命の黎明期からその内乱や第一次世界大戦を経たロシアがまさに全土あげて動乱にあった時代が舞台。自分を押し殺しての迎合が賢い生き方となり、自己表現が他人からの疎外はおろか、死に直結していた。
    こんな閉塞状況で、ただ一人でも、自分の心情を理解する人が現れたら…。

    ジバゴはラーラに出会い、人生とは詩のようなものであるべきで、詩には迎合や自己否定なんか必要なく、(自分の意のままにならない運命の翻弄や、禁じられた愛への傾倒はあっても、)まさに詩のように表現力をもって生きるべき、との考えを貫こうとした。そのジバゴ(=作者)の詩に対する一貫性が、読者の心をつかみ離さない。

    一方、ラーラの感情の激しさやその悲しみが深いほど、寡黙で冷静なジバゴの心に写り、炎が燃え上がるようにパステルナークの筆が走るところは、圧巻である。
    時代の熱さとは違った、二人の心の熱さがページからわき上がるようである。
    (2007/10/5)

  • なんだか凄い。

  • 日本に本当に四季があって良かった、と思うのはいろいろな国の文学について、気候を擬似体験しながら読むことができると思うからだ。
    特に年末年始はロシアに限る。荒ぶるロシア革命を背景に叶わぬ恋がかすかな熱を帯びる時、寂びに満ちた庵に指された牡丹の蕾を思う。

    ロシア革命の描写を緻密に描く上巻に対し、一時期、ソ連で発禁をくらったことによる希少性もさることながら、衝撃的な展開と、柔和にして鋭利な精神世界の表現に対し相当なプレミアがついたという下巻は、まさに名著。

    激しいブラストビートのさなか、台風の目の静けさへ奏でられるツインリードギターのごとき色彩を感じた表現を、以下感じるまま抜粋。

    ーーー

    奥さんどころの騒ぎじゃなかった。そんな時世じゃなかったのよ!世界のプロレタリアートとか、宇宙改造のことなら、話は話で、聞いてくれる。でも、奥さんだとかなんだとか、二本足の個人なんてものは、ばかばかしい、蚤やしらみにも劣る存在なのよ。

    とんでもごぜえません、閣下、大佐さま。インターナショナルだなどと滅相もない!みんな読み書きもろくにできねえ馬鹿者ぞろいでして、古い祈祷書もつっけえつぅけえのあんべえで。革命なんて、とんでもございません

    この豚野郎、何を夢中で読んでいやがる?

    どんな女性でも子供を産むときには、孤独のうちに見捨てられ、自分自身をしか恃めない独特の光彩に包まれる

    「われは、これ小市民」として、いまのわたしの理想は家庭の主婦、わたしの願いはー平穏な暮し、大碗にたっぷりのキャベツ汁

  • 非常に読みたい。優先度高い。

  • 若くて医者としても優秀で、そのうえ美術面にも優れた才能を有するジバゴ。
    十分に恵まれているといえるのに、そして関わった女の人3人ともが優れた人ばかりだというのに、それでも結局救われないまま、何も手にすることなく死んでいってしまいました…
    こういう没落していく話って、読んでいても「あーこのここの選択は違うかったな」と思える部分があるものですけど、ジバゴのこの凋落ぶりは本人の意思とは全く関係なく、まさに時代の流れとしか言えなくて、残酷なことこの上ないです。
    ラーラに会ったことが一番の原因と言えなくもないんだけど…もうーとにかくやりきれない(>_<)。

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