愚者の街(上) (新潮文庫 ト 25-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102403112

作品紹介・あらすじ

「街をひとつ腐らせてほしい」諜報員としての任務の過程で何者かの策略により投獄され失職したダイに持ち込まれたのは、不正と暴力で腐敗した街の再生計画。1937年の上海爆撃で父親を失うも、娼館のロシア人女性に拾われ生きのびてきた。度重なる不運から心に虚無を抱えるダイは、この無謀な計略に身を投じる――。二度のMWA賞に輝く犯罪小説の巨匠が描く、暴力と騙りの重厚なる狂騒曲。

感想・レビュー・書評

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  • 鬼シブで骨太のクライムミステリー。登場人物は悪党だらけで嘘と暴力がてんこ盛り! #愚者の街

    ■あらすじ
    1970年代、アメリカのスパイ組織に所属していた主人公は、失敗により解雇されてしまった。その後、彼の手腕を知っていた若き男性から、腐敗していた街をさらに陥れるように依頼を受ける。高報酬だったが期間は短く、さらに敵対組織からも二重スパイの打診をされてしまい…
    身勝手な街の官僚や警察、悪人たちの狭間で、彼は生き残ることができるのか。

    ■きっと読みたくなるレビュー
    鬼シブ。昔の骨太海外ドラマを観ているようです。このカッコよさは、おっさんには堪えられない。

    派手なアクションシーンはなく、次々ストーリーが展開するわけでもなく、感情描写も魂の叫び声といった表現も少ない。人間と人間が悪だくみを策略し、複雑な関係性を静かに描いてゆくのです。

    上巻では主人公の壮絶な背景が語られ、下巻で街の腐敗に切り込んでいく。まずは過去現在の入り組んでストーリーが展開するのですが、主人公の魂が煮えたぎってくる感情がヒタヒタと押し寄せてきますよ。

    〇セリフ回しの妙
    目的は〇〇で理由は××だ、〇×を殺ってくれ。などどいった短絡的なセリフ回しはほとんどない。やり取りしようとしている内容は理解できるんですが、はっきりとした判断が提示されることは少なく、むしろ当初の話からはズレたところ帰結して会話が終わる。二重三重のスパイものだからこそ、独特の人間関係と会話が繰り広げられるのですが、雰囲気抜群で超絶シブいんですよね。

    〇主人公が育ってきた環境
    世界中どこでも不遇の時代というのはあって、その中でもさらに恵まれない環境で生活しなければならない子どもたちがいる。そんな彼らを豊かな大人たちは見向きもせず、実際に手を差し伸べてくれる大人たちは、同じように恵まれない環境の人たちばかり。

    そんな子どもたちが大人と対等に勝負していかなければ生き抜けない世界が、どんなに辛いことなのか。子どもたちは未来であり、希望であるべきですよね。

    〇波乱万丈な人生
    おそらく圧倒的な不幸な出来事を目の当たりにしてしまうと、人が精神が崩壊してしまうのでしょう。善悪や損得勘定など、当たり前の判断では生きられなくなる。主人公の育ってきた人生、そして上巻最後の出来事があまりに恐ろしく、恐怖に慄きました。

    続きは下巻にて
    https://booklog.jp/users/autumn522aki/archives/1/4102403124

    • 月詠さん
      今年のハヤカワミステリが読みたい!大賞に選ばれましたね⊂(^・^)⊃
      さすが、お目が高い!
      今年のハヤカワミステリが読みたい!大賞に選ばれましたね⊂(^・^)⊃
      さすが、お目が高い!
      2023/12/19
    • autumn522akiさん
      月詠さん、おはようございます。
      派手な展開は少な目ですが、じっと静かで粘り気のあるいい作品でした。
      鬼シブのキャラに憧れちゃいます。
      ...
      月詠さん、おはようございます。
      派手な展開は少な目ですが、じっと静かで粘り気のあるいい作品でした。
      鬼シブのキャラに憧れちゃいます。

      もともと評判いいのは知ってたのですが、実はハヤカワランキングが発表されるタイミングでは読めてなかったんですよ。あはは
      2023/12/20
  • ハヤカワミステリマガジンの2023年ベスト1の作品。
    例によって予約なし、延長可。悲しい。

    幼い頃に身寄りのない身となり、父母代わりの人々に生きていく為のイロハを叩き込まれ、紆余曲折の末、抜け目ない諜報員として暗躍するルシファー・ダイ。
    孤高の男が無敵モードで腐にまみれた世を渡って行く様が、トレヴェニアン『シブミ』、ドン・ウィンズロウ『ストリート・キッズ』を彷彿とさせる。

    上巻はダイの現況(部下の失策により、組織を離れることになった経緯)と生い立ち、そして”ヴィクター・オーカット”一味と彼が指揮するスワンカートンという街を腐らせる任務との出会い。

    ここからどんな展開となっていくのか。
    巨匠ロストマ初読みだけど、ハードボイルド好きにはダイのふてぶてしさとオーカットのちょい青臭いながらも頭が抜群に切れる感じが堪らない。

    下巻につづく。

  • まだ下巻も読まないとわからないが
    帯に「頭脳戦」と書かれていたので
    そっちを期待したけど上巻はそんな展開は
    ほとんどなくて、主人公の過去と現在が
    ゆったりと交互に語られる感じ…
    なんとも言えない。

  • 主人公ダイの生い立ちが時を前後しち描かれていて読み難い出だしだった。が、皆さんの感想に押されて下巻に期待したい。

  • 感想は下巻で。

  • 生まれ落ちたときに母を亡くし、その後は父と二人で上海に渡ったダイ。南京路で爆撃に遭い、気づくと手をつないでいた父親は腕だけになっていた……。娼館のロシア人女性に拾われ、娼婦たちから様々な言葉や文化を学びながら生きのびて成人したダイは、やがて「セクション2」と呼ばれる米国秘密情報部でエージェントとしての活動に従事する。だが、何者かに陥れられて投獄され、情報部からも解雇。彼の出獄を待っていたのは、腐敗した南部の小さな街をさらに腐敗させ再興させるという突拍子もない仕事だった――。

    ダイの過去の描写が実に読ませる。過去と現在が一つにまとまり、下巻に続くのだろう。

  •  ロス・トーマス新訳! そう聞いただけで小躍りしたくなるほど嬉しい。ロス・トーマスは、実はぼくのミステリー読書史の中では間違いなく五指に入る作家である。しかしもう長いこと新訳を読む機会がなく、歴史の一部として化石化してしまった名前でもあった。最近、新潮文庫での旧作をサルベージして邦訳してくれる<海外名作発掘>シリーズを有難く読ませて頂いているのだが、まさかロス・トーマスを、それも初期時代の大作を読めるとは予想だにしていなかった。

     生きててよかった! そう思えるようなあの懐かしきロス・トマ節が、活字となってページに並んでいる。ぼくの手の中で。それだけでもう十分である。歓びの時間をぼくは確実に与えられている。なので時間をかけてゆっくり読む。先に進めるのがもったいないくらいだった。あのロストマ文体が活き活きとした個性的な人間たちを浮き彫りにしてゆく。登場人物たちの絶妙過ぎる会話。心臓が高鳴る。

     中国? 日本? 主人公の名はルシファー・C・ダイ。何という破天荒な名前だろうか。それにもわけがある。凄まじい運命に象られた過去の描写と、現在の彼が請け負う任務とが、時代の枠を往来しつつ目の前に現れる。ロストマ版ストロボによる、まるでイルージョンの如き作品世界にのめり込んでゆく自分がいる。まさにロス・トーマスを読むという、個性的で印象深い時間を今、ぼくは何十年ぶりに体験している。そう思っただけで血が沸騰する。興奮のさなかにぼくはいる。

     ルシファー・C・ダイ。繰り返すが、何という名前であろうか? 悪魔と死? しかしそれが似つかわしい人生を主人公は振り返る。さらに物語はダイの目線で現在をも語ってゆく。ダイは、不可能とも思われる任務を負うのだ。腐敗した町の真実を泥の底から一つ残らず浚い出して、金や血の亡者どもを一掃すること。すなわち街をひとつ滅ぼすこと。魑魅魍魎のような権力者と、形骸化した警察組織によって腐敗した街を。金と支配と警察による圧力と暴力とを。滅ぼすこと。まさにタイトルの『愚者の街』が、当たり前のように生き残っている南部の田舎町を。

     スケールの大きなプロットもたまらないが、何よりもロス・トーマスの語り(即ちルシファー・C・ダイという主人公による騙り)が凄い。一人称でありながら、冷たく突き放したような文体。皮肉でブラックでユーモアに満ちたセリフの応酬。語られぬ言葉と語られる言葉とのバランスが紡ぎ出す小説世界のイリュージョン。他のどんな作家にも書けないであろう圧倒的な作家による策略が全編の行間に満ちており、脇役たちの圧倒的個性が、さらにダイを取り巻く世界を罪深く掻きまわす。

     どの人物も安定の上に居座ることがなく、運命の歯車の異様な軋に圧倒され、思わぬかたちの滅びへと全体が引きずり込まれてゆく。人間という不可知な構成物による、あまりに奇妙で不可思議、かつ不確かな悪夢生成装置。それが本書だ。ロストマの力学だ。作家の黒い哄笑なのである。

     極めて独自な読書体験をこの作品、この本作で、是非味わって頂きたい。新たにこの作家の作品を読みたくなった方にとっては、不幸ながら既存の作品は極めて手に入り難いと思う。本作がロス・トーマス諸作の再版の機会の一助となることを心底願いたい。

  • 仕事中のミスで諜報機関“セクション2”をクビになったルシファー・C・ダイが、謎の男ヴィクター・オーカットに勧誘され、街をひとつ「腐らせる」計画に身を投じる物語。

    上巻は、おおよそ3つの時代(「現在」「幼少期」「“セクション2”時代」。終盤付近でところどころが緩やかに合流する)に分かれて、主人公ダイの半生を中心に描かれている。正直どの時代も明るくない。

    ダイの一人称視点の物語で、「幼少期」と「“セクション2”時代」は現在のダイが回想しているように書かれており、凄惨なシーンほどどこか淡々としていて、それが現在のダイのあり方を表しているように感じた。逆に年上の友人であるモールスデインとの下品だったり打算的なやり取りは面白みや温かみがあって、この思い出が彼を支えていることを感じる。

  • あんたにやってもらいたいのは、街をひとつ腐らせることだ―。ダシール・ハメットの「血の収穫」を連想する粗筋に、コンチネンタル・オプやサム・スペードの影を感じさせるタフガイを主役に据え置いたハードボイルド・コンゲーム小説。物語は主人公・ダイが街の再生計画に加担する現代編と、彼の半生を描く過去編が交互に挿入される構成。語り口調は実に軽快だが、ダイの生い立ちは正に波瀾万丈。上巻の現代パートはスローな進行だが、過去編はダイの身を襲った壮絶な悲劇で幕を引き、彼の人物造詣がより一層立体感を増す。現代編本格始動の下巻へ。

  • CL 2024.2.23-2024.2.25
    現在と、ダイが生まれてからの半生記と、前職の諜報機関での活動が交互に語られていく。
    もちろん一番面白いのはダイの半生記。アメリカで生まれ、上海に渡り、親が死に、娼館で育つ。大戦中にアメリカへ帰国、いつしか諜報機関へと誘われる。そして悲劇が起こり。
    これだけでひとつの物語なんだけど、愚者の街は下巻で。その前にダイのことが十分にわかるようになっている。

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ロス・トーマスの作品

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