愚者の街(下) (新潮文庫 ト 25-2)

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感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102403129

作品紹介・あらすじ

元悪徳警官、元娼婦に、元秘密諜報員。街を丸ごと腐らせる計画を託されたダイたちは、賭博や買春を黙認し賄賂を受け取る警察や風紀犯罪取締班の不正を訴え、スワンカートンの要人たちを次々に排斥していく。弱体化した街には各地のマフィアが群がり、かくして悪党どもの凄惨な共食いがはじまる――。予測不能な展開に一癖も二癖もある輩たち。濃密なる‶悪の神話〟も、ついにクライマックス!

感想・レビュー・書評

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  • 人を嵌める、追い込んでいく謀略に慄く。腐った街の乗っ取り計画は、思いがけない展開に… #愚者の街

    上巻からのレビューはこちらから
    https://booklog.jp/users/autumn522aki/archives/1/4102403116

    下巻ではいよいよ愚者の街を舞台に、乗っ取り作戦が動き出します。胃の底からさし迫る感覚は、他の作品では味わえない魅力ですよ!

    〇登場人物
    本作もちろん誰しもが個性的で魅力的に描かれていて、もう変な奴ばっかり。イチ推しはオーカットで、冷酷でイっちゃってる価値観が普通に怖かった… 絶対に敵にまわしたくない人物でしたね。

    〇ラブロマンス
    緊張で張り詰めた世界の中で、艶っぽく描かれる場面がかなり官能的。ひと昔前のアメリカ映画に必ずあるようなラブシーンで、ちょっとドキドキしちゃいました。

    〇策略
    まさに頭脳戦、狐と狸の化かし合い。いかに人を嵌めるか、追い込んでいくかの謀略がエグすぎる。ただ相変わらずやったやれらたの展開に派手な表現はなく、しかし憎しみの匂いは感じ取れる。特に後半からの展開は想像できず、一気に面白味が増してくるんです。ラストの謀略は清々しいほど知略に長け、達成感が押し寄せてきました。

    〇愚者たち
    目の前のお金や権力につられる愚か者たち。強欲なものほど叫び声だけは大きい。知性が少ない生物の運命は、見てるだけで悲しくなってきますね。ただ本作中で唯一人間臭さを感じられる、身近な人たちでもあるのです。彼らが自制した生活できなかった背景も不幸だと思いました。

    ■ぜっさん推しポイント
    経験と知識を活用しながら多くの苦難を乗り越え、そして様々な職業や立場で敵を扇動していく。確かに端から見るとカッコイイ生き様かもしれないが、果たしてこの人生は楽しいのでしょうか。人間がなにかを放棄して闇の底に落ちていくようで、ブルーな気分になってしまいました。

    さて本作、犯罪小説の巨匠の名作とのこと。掘り起こして翻訳いただいた訳者に感謝しなければいけませんね。堪能させていただきましたが、正直なところ、まだ本作の良さをしっかり理解できていないような気がします。もっといっぱい作品を読んで、もう一度読み直したいと思いました。ありがとうございました。

    • yoshi1004さん
      こんにちは♪上巻が緩くて、なかなかページが進まなかったのですが、内心は「このミス」でも「ハヤカワ」でも選ばれてるからきっと面白くなるのでは?...
      こんにちは♪上巻が緩くて、なかなかページが進まなかったのですが、内心は「このミス」でも「ハヤカワ」でも選ばれてるからきっと面白くなるのでは?と思った時に貴方様の、きっと読みたくなるレビューを読み無事完読に至りました^_^
      めちゃ嬉しいです。一言感謝を‼️
      2024/01/17
    • autumn522akiさん
      yoshiさん、こんばんわです。
      あら嬉しいっ ありがとうございます。そして無事完読おめでとう~

      確かに本書は派手な展開も少なく、読...
      yoshiさん、こんばんわです。
      あら嬉しいっ ありがとうございます。そして無事完読おめでとう~

      確かに本書は派手な展開も少なく、読む力が要りますよね。
      ぜひ読了の喜びをかみしめてください^^
      2024/01/17
  • 「街を腐らせる」の具体性が見えない中盤は正直何の話?だったし、「狐と狸の化かし合い」と称されるスパイ合戦はちょっと頭のこんがらがる話だったが、ダイが次第にスワンカートンの街を手中にしていく過程に段々とボルテージが上がってきて後半は夢中。

    オーカットの腹心であり、元汚職警察官のネセサリーとダイのコンビがどんどんと息が合ってきて、憎らしいくらいに出逢う輩、出逢う輩を手玉に取っていく感じが面白い。

    スパイものはあまり好きな部類ではないのだが、ダイのあまりの冷酷非道、泰然自若ぶりに敵方が発した、
    「こいつは負犬だが、はなから勝つことを期待してない。勝ちたいと思ってる負け犬が相手なら何も心配ない。それは必ずこっちの有利に働く。だがこっちのルールに従って、自分が勝とうが負けようが引き分けようがどうでもいい負け犬が相手だと、優位には立てない。こいつは本当のところ、自分が何をやるかもどうでもいいんだ。」
    というダイの心理分析に痺れた。

    めちゃくちゃドライで、何をも恐れないダイの行動原理を「どうでもいい」と思っていることに説明をつけるなんて。
    ここで、やや冗長だった上巻の語りが活きてきて、ダイの歩んで来た道のりであればと納得の人物造形。

    必然かつ苦手なアクションでの結末であるが、これは最後まで楽しめた。
    ただ、これが1位かぁ。
    好きな人は好きだと思うけど、1位かと思って読んだ人には肩透かしを食らうかも。

  • 読んでいて心の動く場面は何度かあった。
    乾いた文が暴力の世界を描いているのは伝わってきた。

    そこまでで、他のファンの方々の感想のように絶賛するほど楽しめたかというとそうでもなく
    解説を読んで、わかりやすい読書をしている人にはこの本の面白さは理解できない。と言った感じのことが書かれてたので、その通りなのかもしれません。途中で解説を読んだため、そこから先がどうにも意識してしまい…

    「ギャンブラーが多すぎる」を読み終えた時感じたことなんですが、ハードボイルドやその系統の話には、読む時点の自分自身に多少世界観に酔える余裕がないと駄目そうです。

  • 後半のスピード感がたまらなかった。街を腐らせると言うのが具体的に分かり難かったが、悪人が気持ち良い程に悪に振り切っててそこを主人公が知略で攻め込むのが面白かった。始めの解説に原寮氏の名前を見つけて胸が熱くなった。

  • ロス・トーマスの作品。新潮文庫の海外名作発掘シリーズ。

    二重スパイ候補を死なせてしまい、諜報機関をクビになった主人公ダイ。そのダイに、若き天才、元警察署長、元娼館の主の3人が、南海岸の街を2ヶ月で腐らせて欲しいと依頼する。

    先が読めない、重厚な名作。
    登場人物、ストーリー展開、そして何よりどことなくオシャレな会話。一つ一つが魅力的。
    上巻は主人公ダイが街に来るまでの経緯が、まさかの幼少期から遡って語られる。実際に街を舞台として話が進むのは下巻から。
    人によっては話の進みが遅いと感じるかもしれないが、個人的には上巻のダイの過去話が非常に好きで。ある悲劇で終わるものの、ダイに関わる全ての人が良く。これが下巻にじわじわと効いてくる(下巻で十数年ぶりに再会する人との会話に、全て繋がってくる)。

    ロス・トーマスの作品はほとんど手に入らないので、ぜひ復刊してほしい。

  •  ロス・トーマス新訳! そう聞いただけで小躍りしたくなるほど嬉しい。ロス・トーマスは、実はぼくのミステリー読書史の中では間違いなく五指に入る作家である。しかしもう長いこと新訳を読む機会がなく、歴史の一部として化石化してしまった名前でもあった。最近、新潮文庫での旧作をサルベージして邦訳してくれる<海外名作発掘>シリーズを有難く読ませて頂いているのだが、まさかロス・トーマスを、それも初期時代の大作を読めるとは予想だにしていなかった。

     生きててよかった! そう思えるようなあの懐かしきロス・トマ節が、活字となってページに並んでいる。ぼくの手の中で。それだけでもう十分である。歓びの時間をぼくは確実に与えられている。なので時間をかけてゆっくり読む。先に進めるのがもったいないくらいだった。あのロストマ文体が活き活きとした個性的な人間たちを浮き彫りにしてゆく。登場人物たちの絶妙過ぎる会話。心臓が高鳴る。

     中国? 日本? 主人公の名はルシファー・C・ダイ。何という破天荒な名前だろうか。それにもわけがある。凄まじい運命に象られた過去の描写と、現在の彼が請け負う任務とが、時代の枠を往来しつつ目の前に現れる。ロストマ版ストロボによる、まるでイルージョンの如き作品世界にのめり込んでゆく自分がいる。まさにロス・トーマスを読むという、個性的で印象深い時間を今、ぼくは何十年ぶりに体験している。そう思っただけで血が沸騰する。興奮のさなかにぼくはいる。

     ルシファー・C・ダイ。繰り返すが、何という名前であろうか? 悪魔と死? しかしそれが似つかわしい人生を主人公は振り返る。さらに物語はダイの目線で現在をも語ってゆく。ダイは、不可能とも思われる任務を負うのだ。腐敗した町の真実を泥の底から一つ残らず浚い出して、金や血の亡者どもを一掃すること。すなわち街をひとつ滅ぼすこと。魑魅魍魎のような権力者と、形骸化した警察組織によって腐敗した街を。金と支配と警察による圧力と暴力とを。滅ぼすこと。まさにタイトルの『愚者の街』が、当たり前のように生き残っている南部の田舎町を。

     スケールの大きなプロットもたまらないが、何よりもロス・トーマスの語り(即ちルシファー・C・ダイという主人公による騙り)が凄い。一人称でありながら、冷たく突き放したような文体。皮肉でブラックでユーモアに満ちたセリフの応酬。語られぬ言葉と語られる言葉とのバランスが紡ぎ出す小説世界のイリュージョン。他のどんな作家にも書けないであろう圧倒的な作家による策略が全編の行間に満ちており、脇役たちの圧倒的個性が、さらにダイを取り巻く世界を罪深く掻きまわす。

     どの人物も安定の上に居座ることがなく、運命の歯車の異様な軋に圧倒され、思わぬかたちの滅びへと全体が引きずり込まれてゆく。人間という不可知な構成物による、あまりに奇妙で不可思議、かつ不確かな悪夢生成装置。それが本書だ。ロストマの力学だ。作家の黒い哄笑なのである。

     極めて独自な読書体験をこの作品、この本作で、是非味わって頂きたい。新たにこの作家の作品を読みたくなった方にとっては、不幸ながら既存の作品は極めて手に入り難いと思う。本作がロス・トーマス諸作の再版の機会の一助となることを心底願いたい。

  • 暴行され惨殺された妻、そして義父の死の苦い記憶を拭えないまま、天才的な頭脳の持ち主オーカットによる南部の小都市スワンカートン再生計画に加わったダイ。元市警察署長ホーマー、元娼婦のキャロルという奇妙な仲間との計画は、味方側の不正事実を洩らすことで敵側の信用を勝ち取って懐に入り込むというアクロバティカルなものだった。やがて不正や過去の罪をネタに警察署長、風紀犯罪取締班班長を次々と失脚させ、弱体化したスワンカートンの街には各地のマフィアの親玉たちが群がることに。かくして悪党どもの共食いがはじまり、その先にダイたちが描いていたものとは――?

    語りの上手さに尽きると思う。
    さらなる文庫化を熱望する。

  • 下巻は序盤に過去回想が少しだけ入り、あとは現在の街がひとつ「腐っていく」までが描かれる。
    「物事が良くなる前には今よりもっと悪くならなければならない」というヴィクター・オーカットの言葉通り、再興計画の前哨戦であり、主人公ダイがもう一度「生きる」ための物語になっていく。

    ダイ無双の下巻。読んでいて結構、へえ〜、となったのは、ダイに意外と人間味が残っている(あるいはより出てくるようになる)こと。人の死に動揺したり、二日酔いになったり、誰かを愛したり、連帯感を深めたり。終盤は驚きながらも爽快感のあるシーンが続き、読んでいて気持ちが良かった。

    これは「街を良くする」物語ではなく「悪くする」話なので、そんなに明るくはない。人もどんどん死ぬ。それでも面白く読めて良かったなと思った。訳も読みやすく、上下巻ともにそんなに分厚くないので、悪党が好きな人は頑張って全部読んでほしい。

  • 上巻のスローペースが嘘の様にハイペースな展開が続き、ダイ達の計画が大胆に実行へと映されていく。彼らの策略に嵌り、街の顔役が次々失脚する様子は痛快で頁を捲る手が逸るが、事があまりに上手く運び過ぎて奥行きに欠ける。ダイの敵役、ヴィッカーの出番がこうもないとは誰が予想しただろうか。作中におけるダイとスモールデインの絆は中々胸熱だが、彼が本当に【再生】したのかどうか読み取れぬまま読了。上巻で積み上げたディテールを活かし切れていない印象だが、リバイバル作品が年間ミステリランキング上位に食い込むのは興味深く、面白い。

  • セクション2と呼ばれるアメリカの秘密諜報員ダイは、香港に駐在していたがある作戦が失敗してクビになる。その直後に依頼された仕事は、ある街を腐らせること。依頼人のコンサルタントや彼の仲間と共に、街を支配する悪党たちをあらゆる汚い手段で陥れていく。その過程と並行して、波乱万丈な生い立ちや、クビの原因となった作戦の詳細等が語られて、とにかく面白い。場当たり的に勘が働き次々と悪どい事を思いつくダイだが、それを楽しむわけでもなく何らかの計画もなく、ただ目前の事に対応しているだけという感じ。ものすごくドライ。ダイたちの計画が当たって、悪党たちが互いに潰し合う場面は緊張感抜群でスリリング。昔読んだ「女刑事の死」を再読したくなった。

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