近親殺人: そばにいたから

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 52
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103054580

作品紹介・あらすじ

大切なはずの身内を手にかける──その時、家族に何が起こっていたのか。「まじ消えてほしいわ」とLINEで罵り、同居していた病弱の母親を放置し餓死させた姉妹、首を絞め殺した引きこもりの息子の死に顔を30分もの間見つめていた父親、幼いきょうだいを手にかけた母親を持つ娘の、加害者家族としての慟哭……人はなぜ家族を殺してしまうのか。7つの事件が問いかける、けっして他人事ではない真実。

感想・レビュー・書評

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  • 家族間で起きた七つの事件。

    すべてが、どうしようもなくぎりぎりの精神の中で起きたことだろう。

    家族だからこそ、誰に助けて貰うわけにもいかず、なんとかしよう、なんとかしなければ…と踠きながらなす術もなく事件が起きた。そのように思う。

    ①介護放棄
    ②引きこもり
    ③貧困心中
    ④家族と精神疾患
    ⑤老老介護殺人
    ⑥虐待殺人
    ⑦加害者家族

    どうすれば事件は防げだのだろうか。

    核家族化が進む中、家庭内暴力や児童虐待が起きやすい状況なのだろう。
    そして、経済的な理由や精神疾患もある。

    福祉サービスがどこまで手を貸してくれるのか…誰に相談すれば良いのかも実際にはわからない。

    考えるべきことが多い内容だった。

  • 「家族」
    この言葉に人々はどんなイメージを抱くのだろう。
    テレビやメディアを通じて、「ふるさと」「帰るべきところ」という漠然としていても温かみに満ちて柔和な手触りを想像するのではないだろうか。

    お盆や年末年始の帰省シーズンには毎年恒例テレビの定時のニュース1時間おきに、混雑する高速道路や新幹線、飛行機の光景を目にする。皆家に帰るんだ…。
    だから「家族や実家は温かく帰りたくなるところ」と私は30代まで思っていた。

    帰りたくない私がいけないんだと。

    しかし家族は家族だから難しい。

    他人であれば縁遠くなったところでそれはそれ。しかし血の繋がりは社会の最小単位であり、「家族のことは家族で」という社会の暗黙の了解のもと、解決が難しいどころか、問題が深刻になる危険性もある。

    そんな家族ゆえの難しさ、もっと辛辣に言えば惨さ、絶望を見た1冊。

    エリート官僚で次官まで上り詰めた人物が自分の息子に手をかけた事件は記憶に新しい。
    彼の知的資源、情報力、経済力等をもってしても追い詰められた結果の事件という冒頭の筆者の言葉が重い。

    日々滝のように流れる情報の渦は1つ1つの事象・事件をあっという間に過去のものにしてしまうが、筆者石井光太さんが実際に裁判に足を運び、忘れ去られる事件の経緯や背景を丁寧に掘り起こした1冊。

    事件7件に関して地名や人名を伏せながら、事実にできる限り忠実に再現されている。

    親のネグレクトやマルトリートメント(不適切な養育)によって情緒や人間関係が適切に育まれなかったがゆえの介護放棄。

    精神疾患による引きこもりの先の家庭内暴力の果て、父親による息子殺害。

    夫からの愛情を独占したくて、実の子どもをマンションから投下する殺人事件。

    どれもこれも胸が塞ぐが、同時に普段私の胸の中に沈めて蓋をしている出来事がフラッシュバックして呼吸が浅くなる。頭の中がぐるぐるする。
    私ももし実家の家族とのつながりを保ったままでいたら、加害者にも被害者にもなっていたのではないかと。

    いずれの事件に関しても背景には精神疾患や発達やパーソナリティの問題があることが薄っすらわかる。虐待、ネグレクト、依存、ヤングケアラー等々種々の問題が複雑に絡み合っている。

    愛したいのに愛し方がわからない。
    愛されたいのに相手を支配しかできない。
    自分に助けが必要である状態に気が付かない。
    どこに助けを求めていいのか、社会的な知識に乏しい。
    日常生活の送り方や金銭の安全な使い方に無知。

    こうした生きづらさは家族外の適切な人、機関とつながることを難しくさせ、結果本人は憤りや怒りの壁を積み上げ、身近な家族への暴言・暴力、支配が起こり、最後は家族を服従させてしまうことがある。

    社会は「弱者は弱くて可哀想な人」という前提に盲目だが、こうしたケースでは易怒性が高く、感情のコントロールが難しく、攻撃的であることも多い。
    私の実家の母ときょうだいもそうだから。

    文中に度々出てきた「死んでやる」「殺してやる」は相手を支配する言葉だ。
    だから私に従えと。言われた方はどんどん追い込まれ、視野狭窄になり、選択肢を失う。

    どの事件でも本人を病院に通わせ、投薬治療を受け、時には措置入院すら施す。
    福祉ともつながっても、どうにもこうにも解決しないこともある。

    私はサバイバーズギルティとともに生きながらえながら、でも加害者にも被害者にもならずに済んだことと、子どもたちへの連鎖を止めて、独り立ちしていってくれたことを大切にしたい。でも未だ完全な解決などないし、いずれまたという恐怖は消えない日常。

    家族はよいものという呪文に苦しんでいる人は一読の価値がある作品だと思う。

  • 毎日のように、家族内の殺人が報じられている。
    他人ごとではない、といつも思う。
    本作の中の事例も、どうすれば被害が防げたのか、簡単には答えは出ない。
    精神疾患が絡んでいるケースがほとんどで、病院や警察といった公的機関とのスムーズな連携がもっとあれば、という気もするが、周囲にSOSをうまく求められず、抱え込んでしまう人たちの気持ちもわかるのだ。
    つらい状況にある人は、ぜひ周りにSOSを発してほしい。
    でも、いざ自分がそうなったら、やはりできるかわからない。

  • 日本で殺人事件数は年々減ってきていますが
    親族間殺人は減っていないので
    全体に占める割合が増えているという結果になっています。

    著者はここで実際に起こった7つの事件を紹介。
    人はどんな理由から家族を殺すのか。
    事件が起こる家庭と、そうでない家庭とでは何が違うのか。
    この問いに関する答えを、読者に見つけてほしいといいます。

    私が思ったのは、被害者加害者のどちらか、あるいは両方に、精神的な病をかかえている人がいるということ。

    こういうとき人は「精神科に行くのがよい」といいます。
    テレフォン人生相談の高橋龍太郎先生(私この人好き)もそうおっしゃいます。

    でも本当に精神科心療内科にいけば治るのでしょうか?

    私は長年付き添いをしていました。
    先生は話を聞いて薬を処方するだけでした。
    けっきょく完治することなく通院を終了しました。
    でもその後、たぶん本人のかかえている問題が解決して
    元気になったのだと思います。

    だから問題ない時からメンタルヘルスの情報を
    テレビ本ネットなどから得ておくこと。
    風邪と同じように、予防し軽いうちに治すこと。
    重くなったら医者だけでなくカウンセリングも選択肢にいれるといい。

    ただ、これらはあくまで幸せな家庭に起こった事件のこと。
    幼いころから虐待されている子供たちについては
    ものすごく心痛みますが、予防の手段は思いつきません。

    余談ですが、著者石井光太さんとは今回初めて関わったと思っていました。
    でも3年前、芥川賞候補作盗用事件があったとき
    問題の作品を読んだのですが
    その時盗用されたのが石井さんの作品であったことがわかりました。
    初対面ではありませんでした。

  • 家族間で起きた7つの殺人事件
    決して他人事ではない。

  • 血縁だからこそ逃げ出せない重荷。責任感の強さから発露する殺意。これこそ本当にやっり切れない本です。逃げてほっぽっておくなり、警察沙汰にして逮捕して貰うなりすれば最悪の事態が避けられた事態も、自分が何とかしなければと思う心が、全てを追い込みそして崩壊してしまう。そんな話ばかりです。
    誰もが遭遇する可能性のある状況であるのが本当に怖いです。自分の家族は大丈夫だと思っても、その配偶者だったりもあり得るし、老老介護に至っては数多く当てはまる人もいるでしょう。
    コロナで人と人との距離が離れたけれど、家族の距離は物理的に近くなり、ある瞬間にいらだちに変わる瞬間が有ると思います。近親だからこその危機もあるのだなあと恐ろしくなりました。

    • ikkeiさん
      読んでみようと思います。石井さん暗いけど好きなんですよね。
      読んでみようと思います。石井さん暗いけど好きなんですよね。
      2022/02/09
    • ありんこゆういちさん
      ありがとうございます。石井さんは暗いけれどその先に光が見える書き方をする方なので、沈み込むようにはならずに済むのが好きです。是非!
      ありがとうございます。石井さんは暗いけれどその先に光が見える書き方をする方なので、沈み込むようにはならずに済むのが好きです。是非!
      2022/02/10
  • しっかりとした文章で読みやすかった。内容は、とても重く、職業柄 身近な感じがして、時折 本を閉じ 深呼吸をする必要があった。読みながらたくさんのことを考えた。

  • 家族の内の誰かが家族を殺してしまう。
    そんな、実際に起きた7つの事件を紹介した本。

    書かれているのは、
    母親の介護を放棄、餓死させた姉妹。
    引きこもりで暴力的な息子を殺めた父親。
    貧しさから母親と無理心中をはかった男性。
    精神疾患を患う姉を殺した妹。
    夫の介護に疲れたうつ病の妻。
    我が子を転落死させた万引き癖のある母親。
    父が違う妹弟を殺した実母に苦しむ女性。
    こんな人々について。

    薄い本に7つの事件が紹介されているため、一つ一つについてはそれほど深くは書かれていない。
    その概要のようにさらっと書かれているのを読んでいるだけで苦しくなった。
    身につまされるし、人ごとでないと思う。

    7つの事件を読んでいて思ったのは、精神疾患を患った人がどの話にも登場する事で、そういう人が一人いるだけで家族は崩壊するという事。
    私は自分自身が人づきあいが下手で、社会的に認められている人でも性格に癖がある人にはすぐに振り回される。
    見た目、普通の人でもそうなのに、精神疾患を患っている人に対応などできないと思う。
    それはいくら社交的な人でもそうだろうし、そういう人が家族にいたら専門家に任せるというの事が必要だと思った。
    ただ、この本に描かれた家族は、警察に相談したり病院に行ったりと、考えられる事をしていてもこうなった、という例もある。
    そこで見えるのは精神を患っている側の血縁者に対する甘えと振り回される家族の自分たちで何とかしようという姿勢。
    精神病の人にそれは厳しい見方だろうけど、見ていて甘える土壌が無くて他人相手だとどうだろう?と思う例もあった。
    どこまでも私を切り捨てる事は出来ないだろう、私は苦しいんだから血がつながっていたら何かしてくれるのは当たり前だという意識がどこかで働いてるように感じた。
    何が正解なのか全く分からないまま、自分ならどうするのか答も出ないまま読み終えた。
    救いようのない気持ちになると同時に、なるべく長く健やかでいたいと思った。

  • 同居していた三十路の娘二人に介護放棄されて餓死した母親の話が凄まじい。
    娘たちに必死で食べ物を買ってきてくれと懇願するLINEの記録が生々しい。
    それまでの恨みがじわじわと募ってきて母親を疎ましく思い、姉妹で悪口をいううちに嫌悪が募っていく様。娘が二人いるからこそ虐待がエスカレートしてしまったのだろうし、自分が世話をしなくてももう片方が多少してくれているだろうといった気持ちもあったかも知れない。

    引きこもりの息子のDVから家族を守るため自分が犠牲になろうとした老父。
    育児ストレスから完全に壊れてしまった姉の暴力と暴言に追い詰められた妹。
    元看護士ゆえに高次機能障害の夫の介護に誰の手も借りられなかった妻。
    自分の生んだ息子を愛せず夫の愛情を奪うライバルだと嫉妬して殺した母。
    自分を捨てた母が父親違いの弟妹を殺し刑に服したのちも反省していないことに絶望した娘。
    精神に障碍のある親族に振り回され通弊していった挙句におこった悲劇の数々。
    近親だからこそ逃げられず一線を越えることになってしまった人々。
    小説以上に恐ろしい現実が切り取られている。


  • 7つの事件
    最後に作者の解説あり
    オススメ度として☆5つ

    どうにかならなかったのか
    どうすることもできなかったのか
    題名通り
    近親で起きてしまった殺人
    理由は「そばにいたから」

    どれも悲惨で読むのがツラい事件 

    解説にある
    〝これらの事件は 
    日本が抱える社会課題の写し鏡
    今以上に深刻化していく
    コロナ感染拡大で未来の問題が5〜10年分が
    前倒ししたと言われている”
    これも衝撃

    こんな社会で100年も寿命があるなんて時代
    どうしたらいいか

    また解説をじっくり読んでみる
    〝魔法のような解決手段はないが‥
    今こそ一人ひとりがこういう事件をきっかけに問題を見つめ考えていくこと”とある

    オススメ度☆5つです



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著者プロフィール

1977(昭和52)年、東京生れ。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。ノンフィクション作品に『物乞う仏陀』『神の棄てた裸体』『絶対貧困』『遺体』『浮浪児1945-』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『こどもホスピスの奇跡』など多数。また、小説や児童書も手掛けている。

「2022年 『ルポ 自助2020-』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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