ローマ人の物語 (2) ハンニバル戦記

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (390ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103096115

作品紹介・あらすじ

カルタゴ国滅亡という結果に終るポエニ戦役。興隆の途にあるローマ人は、はじめて直面した大危機を"ハンニバル戦争"と呼び、畏れつつ耐えた。戦場で成熟したカルタゴ稀代の名将ハンニバルに対して、ローマ人は若き才能スキピオとローマ・システムを以て抗し、勝った-。歴史はプロセスにあり、という視点から余すところなく、しかし情緒を排して活写される敗者と勝者の命運。

感想・レビュー・書評

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  • ローマ人の物語、第2巻はハンニバルの物語から。

     “プロセスとしての歴史は、何よりもまず愉しむものである”

    塩野さんの、歴史に対する一つのスタンスが見て取れます。
    そして、大学で歴史を学んだ一人としても、肚落ちするものです。

    私の学生当時、物語として歴史を紡いでいくことは、
    司馬史学なんて揶揄も込められの扱いが主流でした。

    最近の動向はわかりませんが、広く社会に還元していくのであれば、
    人が生きていくための道標となるのであれば、一つの在り様としては、とも思います。

     “現代の研究者でも、古代=奴隷制社会=搾取、ゆえに悪、と断定して疑わない幸福な人”

    ここ最近ではあれば、行き過ぎたポリティカル・コレクトレス、との言葉が合致するでしょうか、
    個人的には、機会の均等ではなく、結果の均等を強奪しようとしているようにしか、見えませんが。

    その上で、共和制から帝国制への萌芽、端緒を見て取ることができると、
    このハンニバルとの戦いの過程から見出しているようにも、感じます。

     “人間も、そしてその人間の所産であるシステムも、時代の求めに応じて
      変化する必要があることを訴えつづけたマキアヴェッリに賛成なのだ”

    さて、そんな歴史を愉しむための素材となるのは、
    紀元前264年から133年に渡る約130年間との、なかなかに長い年月、

    ポエニ戦役から、マケドニア、そしてカルタゴ滅亡までの事象、
    このうち主軸となるのはやはり、三度に渡った「ポエニ戦役」でしょうか。

    ローマ人にとってはポエニ戦役を中心とした対外戦争の時代、であったのでしょう。

    主役を担うのは、副題にもなっているカルタゴの将・ハンニバル、
    それに対するはスキピオ(アフリカヌス)、そんな二人の宿命的な生き様です。

     “アレクサンダー大王の最も優秀な弟子がハンニバルであるとすれば、
      そのハンニバルの最も優れた弟子は、このスキピオではないか”

    といっても、ハンニバルとスキピオには1世代ほどの開きがあり、
    スキピオの父がハンニバルに敗れた際、スキピオ自身はひよっ子でした。

    その後、ハンニバルは10年以上もローマ勢力圏内を、数万の兵を率いて戦い続け、
    その戦役の規模も20年単位とのスパンでもあるので、なかなかに壮大ですが、、

     “優れたリーダーとは、優秀な才能によって人々を率いていくだけの人間ではない。
      率いられていく人々に、自分たちがいなくては、と思わせることに成功した人々でもある。”

    史実としては、カンネの会戦でのハンニバルの圧倒的な勝利、
    ザマの会戦でのスキピオのリベンジ、が有名とは思いますが、

    ポエニ戦役は3度にわたり、幾度かの休戦期を挟みながらも、
    当然それ以外の小競り合いも含めての戦闘はあったわけで、

    その過程で「国家としての結果」を担保していくには、、
    旧来の方式にとらわれず、敵からすらも学んで刷新していく、

    これもまた、寛容の在り様の一つでしょうか。

    それにしても、将官クラスの人材の、カルタゴというかハンニバル側と、
    ローマ側での人材の差が、いかんとも、、ローマ側は枯渇しませんね、本当に。

    ローマ元老院のハンニバルをイタリア内に孤立させるとの戦略もあったのでしょうが、
    この、人材輩出システムは、やはりローマに国家としての軸、国体がしっかりしていたからでしょうか。

     “共和制ローマの魂(スピリット)は、この重装歩兵に体現されていた”

    そういえば日本について、

     “われらが日本の特色が和の精神であるとすれば、それを国際化時代では通用しないとして
      全面的にしりぞけたりすれば、日本は日本でなくなる”

    と述べられているのも、なかなかに興味深いです、塩野さん。

     “真に優秀な弟子ならば、師のやり方の全面的な模倣では終らない。”

    長年に渡り、ハンニバルに苦杯をなめ続けたローマですが、
    その敵からすら学ぶとのことの積み重ねから、ザマにつながります

    とはいえ、ポエニ戦役が終わった時点では、カルタゴやマケドニアに滅亡の気配はなく
    どちらかというと、ハンニバル、スキピオが表舞台から退いてから、その色が強まります。

     “歴史を後世から眺めるやり方をとる人の犯しがちな誤りは、
      歴史現象というものは、その発端から終結に向かって実に整然と、
      つまりは必然的な勢いで進行したと考えがちな点”

    結果から今の価値観で訴求すると、いかにも、カルタゴやマケドニアの滅亡ありきで、
    「覇権的な帝国主義」への道筋をつけるための動きであった、、ともなりますが、

    その時代の動きの中に入ると、意外とそうでもなさそうで、特に、、

     “カルタゴの滅亡は、二重にも三重にも重なり合って起ってしまった、
      不幸な偶然がもたらした結果であった”

    なんてカルタゴの滅亡を位置付けている一方で、
    マケドニアやギリシャのそれについては、、

     “何ごとにおいてもおだやかなやり方は、
      相手もそれに同意でないと成立しえないという欠点をもつ”

     “ローマ人に、寛容主義の限界を悟らせた。”

    なんて風に評価しているように、複層的な要素が交わりあっての、
    それぞれの理由に基づいて、国家滅亡との結果につながっていたのか、とも。

    とはいえ、結果としては、

     “(カルタゴ、スペイン、ギリシャの属州化で)地中海は、ローマ人にとって、
      「われらが海(マーレ・ノストゥルム)」となったのだ”

    との派遣を成立したからこそ、

     “ローマ人の地中海制覇は、カルタゴの滅亡までふくめて、
      「ハンニバル戦争」の余波なのであった”

    なんて風にも言いまわせるのでしょうけど、、学界では余波なんて許されないでしょうねぇ。

    歴史とは事実を積み重ねただけでは意味がない、とあらためて思います。
    数多ある事実に対して、自分の言葉で理解して、どう真実として昇華していくのか、

    そして、それをどう伝えていくのか、また、伝えていくのには、
    ただ無味乾燥な事実を並べるよりは、血沸き肉躍る方が記憶にも残るでしょう。

    かといって、何もそれを頭から無批判に信じる必要はない、伝えられる内容に、
    自分の言葉で批判を加えていくことが、学問としての第一歩でしょうから。

    なんてのは、歴史学であればこそ、一番最初に叩き込まれる基本姿勢とは思うのですが、、
    どうやら、ここ最近の、息子たちの世代の歴史教科書などを見ると、怪しさがぶり返してますかね。

    最後にやや耳に痛く残ったのは、以下のフレーズ。

     “血も流さずにいて、何を言いたい!”

    日本にしてみれば、湾岸戦争時のトラウマも記憶に新しいところ。

    さて、われらが日本にとっての「日本らしさ」、いわゆる国体とは、と、
    あらためて考えていきたいですね、そして自分の子供たちに伝えていきたいところです。

  • 1巻よりもとーっても読みやすくて面白かった。
    キングダム、ローマ版。笑
    頭の中で自作のアニメーション流れてた。

    話の本筋では無いけど、歴史を振り返っていく中で先人に学ぶこととか大切な考え方に気づくこととかあって、
    ところどころ、わあ、この考え方すごい分かる、って記述があったから引用する。

    286ページ
    ⭐︎優れたリーダーとは、優秀な才能によって人々を率いていくだけの人間ではない。率いられていく人々に、自分たちがいなくては、と思わせることに成功した人でもある。持続する人間関係は、必ず相互関係である。
    一方的関係では、持続は望めない。

    参考文献
    ⭐︎ 人間の性格は、容説より以上に彼や彼女の書き言う言葉にあらわれる(プルタルコス)ということを。

    すごく面白かった、本当に。

  • ハンニバルかっこよすぎるううう!史実だから結末は分かってるのに、なんでこんなにハラハラするんだろう。この戦いを見届けるまでは絶対寝ないぞ!っていう気持ちになる。久しぶりの一気読み。ハンニバルとスキピオの師弟対決、めちゃくちゃ面白かったです。10個くらい星をつけたい。

    スキピオが大好きだったので、晩年は切なかった…カトーなんかとのケンカに何故負けたし…!

  • 地理に疎いのもあり、地図を何度も見ながら読み進めていったので、はじめは読む速度も遅かった。
    日本のような島国と、地続きの国がある国とでは、考え方も大きく異なるはずだと強く実感した。
    学んだ世界史って何だったのか?と思うほど、紀元前の人々の生きる姿、試行錯誤する姿、歴史って何て面白いんだろうと思った。
    紀元前の人が話したことが文章として残っているのもすごい。お陰で生き生きとした人物像を思い浮かべながら読めた。ハンニバル、スキピオ、他の人物たち、それぞれの言動、
    塩野さんの引っ掛かるところ、それについて資料等をもとに考えられた箇所も興味深く読んだ。

  • 象を伴うアルプス越えからイタリア各地での戦、そして最後はザマでの会戦、地中海世界の覇権をかけたローマとカルタゴの戦いだ。役者は二人ハンニバルとスキピオ、この年齢も性格も著しく異なる二人の天才のぶつかり合いは非常に魅力的だ。紀元前の話しとはとても思えないレアリティがあった。

  • 題材が良いのもあるだろうが、とんでもなく面白い。史実に忠実で、なおかつ兵士の数や年月などの数字の情報が決して少なくないのに、ハンニバルやスキピオなどの名将達の息遣いまで聞こえてきそうな、臨場感のある文章に引き込まれた。

  • ローマ人の物語第ニ作。紀元前264年のポエニ戦役の始まりから、紀元前146年のカルタゴ滅亡まで、歴史舞台を眺めるがごとく再現されている。
    ポエニ戦役とは、フェニキア人の植民都市カルタゴとの戦いであり、三次にわたって繰り広げられた。第一次のシチリア島を巡る戦いで、ローマは海戦を経験し、シチリア島全島とその周囲の領海権を獲得する。第二次はカルタゴの勇将ハンニバルがスペイン経由でアルプスを超えてローマに侵攻、ローマを追い詰める。ローマはスキピオの登場によって劣勢を跳ね返し、カルタゴ本土まで押し返す。この勝利により、カルタゴの戦力を大幅に削ぐが、この後、カルタゴは不幸な出来事により、意図に反した経緯で自滅する。
    ローマとカルタゴでは戦いの指導者に対する扱いが真逆である。ローマでは敗将になっても学んだことがあるだろう、ということを重視し、再登板の機会が与えられるのに対し、カルタゴでは敗将には死が待っている。現代でも考慮すべき考え方があると言える。

  • 面白かった!いつの時代でも、天才って現れるんだなあ。

  • 起伏があまりない語り口調により、歴史を語る上で重要と思う客観性を感じることができる一方で、塩野七生の主張が適切に散りばめられている。
    本巻では、ハンニバルと、その弟子と評しているスキピオとの対決が見どころ。また、巻中2度も記されている、ロードス島で交わされたというハンニバルとスキピオの会話も面白い。

  • 対ハンニバル戦。アツい。

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