- Amazon.co.jp ・本 (119ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103353126
感想・レビュー・書評
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短編だから良かった。タイトルに期待して読んだけれど、長編だったらすごい時間の無駄だったし苦痛だったと思う。
この小説がすごい高い評価を得た作品だなんて…すんません詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
記憶というものの曖昧さをとことん追求した小説。昔のことやら何やらを思い出すときのあの何とも言えないぼやけた感じ、どことなく手探りの感じが、本当にうまく文章で表現されていると思った。
思い出す、という行為を扱う以上、時系列が現在へ過去へ行ったり来たりするのだけれど、そういう実験小説にありがちな読み辛さはあまりなかったように思う。所々のエピソード(ジミヘンに憧れた主人公がとにかくギターを燃やしまくるとか!)が妙に人間臭くて笑えるからかな。
過去から跳ね返ってくるのは、私がつくった過去ばかりで、そこにあったはずの私の知らないものたちは、過去に埋もれたままこちらに姿を見せない。思い出されるのは知っていることばかりで、思い出せば出すほど、記憶は硬く小さくなっていく。(109ページ)
エピソードの合間、要所要所でこういう記憶の性質を語るような文章が挟まれる度、はっとさせられた。謎のウクレレ男が現れて、雨だというのに焚火をするのだと言う、狐につままれたようなラストも最高。
芥川賞の選考会でも推す声があったらしく、受賞を逃したことが悔まれる。宮本輝は選評で、作中のバイク事故について「過去への追憶ではなく、現在に起こるなにかによって書いて欲しかった。(…)追憶でつないだことで凡庸になった気がして推せなかった。」と書いていたけれども、追憶でつなぐという業こそが素晴らしいんじゃないか、と思った。